転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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06 周回は加速する

「ミ゛?」

 

 変な声を零して首を傾げる。

 目の前には机で指組みするヨハネスさん。溢れる黒幕オーラがいつ見ても隠し切れていない。

 

 ていうか何? 欧州……欧州!? 左遷ですの!?

 

「え、英語しゃべれない……」

 

「君は語学テストで充分な成績をとっていたはずだがね?」

 

 ワイのINTのバカァ!! 誤魔化しようがねぇ!

 

「いや。いやいや支部長。最近、極東地域でのアラガミの出現率上がってきてますよね? そこで私のようなー、あのー、上等戦力を引き離すのは危険なんじゃないかなーっと!」

 

「ごもっとも。確かに私とて、君のような最高戦力を余所へやるのは本意ではない。──実をいうと、フェンリル本部からの意向でね。P()7()3()()()()()()()()()()()()()()()を二人も抱える極東支部は、戦力を独占していると苦言が上がっている」

 

 …………。

 ……?

 なんか今、変な情報が入ってなかった? P73の適合者はソーマだけのはずでは──

 

「ああ、ペイラーはまだ何も伝えていなかったのか。君はね、幻代アキ。あの違法研究所で唯一生み出された、後天的な成功例なんだよ。成り立ちの方法は違うが、ソーマと同じようなものと言っていい」

 

「へー……」

 

 そうなの? そうなんだ。そうだったのかー!

 私ってP73メンバーの一人だったのか。道理で神機さんがよく動くわ、回復錠さんのお世話にもなったことないわ、毎日アラガミブラッドデーを愉しめているわ。

 

 ……。

 …………。

 ……よくよく考えなくとも、とっくにかなり人間超えした日常を送っているから、今更そんな事実があったとしても別にショックではねーな……?

 

 納得すらある。

 半アラガミ特有の飢え? とか、オナカスイター! みたいな飢餓感とか衝動もないし──あ。

 

(……)

 

 ──最初の出来事を思い出す。始まりの運命を思い出す。

 特異点・シオ。彼女に出会えた要因って、ああ、もしかしてそういう……ッ!?

 

「あまりショックを受けていないようだね。流石だ」

 

「人生の伏線回収ってこんな感じなんだなぁ、と。いや、それで色々納得しました。勝手に傷が治ったりするの、回復錠代が浮くから便利だと思ってましたけど、そういうカラクリだったんですねぇ」

 

「恐ろしくはないのか? 既にゴッドイーターであるとはいえ……自分がもうほとんど『人間ではない』という事実を」

 

「いや、特には。極論、アラガミ狩れるんなら別に人間ってことには拘りないですし」

 

「……」

 

 あー、でもアラガミになったら神機が使えなくなっちゃうか。そこはちょっとなー。アラガミ以外でアラガミを狩れる能力があるなら人間種族には執着ねぇや。

 

「──話を戻そう。欧州遠征の基本任務は、当該地域のアラガミの掃討と素材の回収。これは極東にいる時と何も変わらない。そしてもう一つ……欧州行きに当たって、君には『特務』……私直轄の極秘任務についてもらいたい」

 

 ウワーッ!?

 い、いつか来るかもしれないと身構えていたけど今!? いいんですか支部長殿、よく行方不明になる奴に頼んで!? 大陸で迷子になったらどうするんです!? MIA詐欺野郎だからいつか本気でMIAになったら誰にも探してもらえないんじゃないかって不安なんですけど!

 

「『エイジス計画』。これは極東支部沖合い、旧日本海溝付近に『楽園』たる人工島を建設する大事業だ。この計画自体は近々、公表しようと考えている。君にはその、巨大アラガミ装甲の建設に伴って必要となるアラガミのコアを回収してほしい」

 

 堂々と君にしか教えていない情報だよ感溢れてるけどこっちはそっちの最終目的も結果も全部知ってんだよな。居たたまれねぇ。これが転生者かよ。最低だぜ……!

 

「はあ。楽園、ですか」

 

「残存している人類を隔離するアーコロジー計画だ。永遠とは言えないが、これが成就すればより多くの人類を未来に繋げることができる」

 

 実際には地球リセットを裏で考えてるっていう寸法だけどネ。

 悲観的な志だけども、一貫してる辺り黒幕ポイント高いよねこの人。

 

「特務はその性質上、単独でこなしてもらうことになるが……君なら心配いらないだろう。無論、報酬は他の任務よりも破格のものだ。もしかすると、時にはアラガミ掃討以外のことも頼む可能性がある。具体的な内容は向こうに着き次第、追って連絡する。それから──」

 

 あ、来るぞ来るぞ。

 本命の話題が来るぞー。

 

「“特異点”──そう呼ばれる特別なアラガミがいる。これは『終末捕食』という地球を滅ぼす現象を引き起こす危険なアラガミだ。これを捜索し発見次第、速やかに討伐し、そのコアを必ず傷一つない状態で摘出して持ち帰ってほしい。これは、いかなる任務よりも優先される最重要項目だ」

 

 …………嘘は言ってねぇのがマジで凄いなこの人。

 「終末捕食」「危険なアラガミ」。これだけで“ああ、終末捕食ってのを避けるために探せってことね”と()()()()。話術~。そりゃ、あのリンドウさんも支部長の真意を見逃すわけだよ。

 

 誰が世界をいったん終わらせるために必要だと思うか。とんでもねぇよ。

 

「了解しました。もしも向こうでMIAになった時のために先に謝っておきますね」

 

「どんな過酷な環境でも君は生き延びるだろう。存分に暴れてきたまえ。期待しているよ」

 

   ▼

 

 要するに、まあアレだ。

 基本的には本部の連中がうるさいから媚び売るついでに貸しも作って、役立ってこいよー、って感じだろう。

 

 未来で終末捕食の観光地と化す極東も、結局はフェンリルの一支部に過ぎない。大人ってタイヘンだなー。

 

「──というワケでしばらく出張することになりました。私が狩る分のアラガミは残しておいてね」

 

 翌朝、エントランスでそう宣言すると、ざわっ……と空気が動揺した。

 

「遂に……」

 

「遂に来たか……この時が……」

 

「『悪魔』なしで俺たちにやれるのか……?」

 

「馬鹿野郎! 皆、この日のために努力してきたんじゃないか! アラガミの分布図や動きはなぜか凄く詳細に判明しているんだ! 組んだローテーションを試す時だ!!」

 

「そうだよな……そうだよな!」

 

「ヴァジュラは怒らせて閃光弾……ヴァジュラは怒らせて閃光弾……」

 

「結合崩壊の専用バレットデータがNORNに入ってるぞ! これすげー有用なんだよ、遠距離型の神機使いは使ってみてくれよな!」

 

 ──極東の神機使いはやっぱすげぇや。私一人いなくなったところで崩れるような面子ではない。流石は魔境育ちだよ。

 ポン、とそこで後ろからリンドウさんとソーマに肩を叩かれた。

 

「いい機会だ、ちゃーんと疲れを取って来いよ?」

 

「アラガミを狩り過ぎて他の支部に迷惑をかけるなよ」

 

「リンドウさん、私これから世界を駆けずりまわるんですけど。ソーマ、逆じゃね?」

 

 なんだかズレたエールだった。この二人、疲れているのだろうか?

 

「アキ」

 

 ポン、とツバキさんも正面からこっちの肩を叩く。

 

「──しばらく寂しくなるが……もうお前は私の妹のようなものだ。必ず生きて戻って来い」

 

「い、イエッサ」

 

 すごく真っ当な激励だった! こういうのは慣れてないので照れくさい! 素材とアラガミ周回の効率しか考えてない奴に家族系概念はよく効くんだぜツバキさん!

 

「やあやあ、ちょうどいいタイミングだったようだね」

 

「お、サカキ博士。……と、そっちは? そういや最近よく見かけるような……」

 

 サカキ博士ご登場。相変わらずのマッド開発者オーラだ。

 リンドウさんが視線を向けたのは、その隣にいた中学生くらいの灰色髪の少女だった。あ、もしやあの子は。

 

「く、楠リッカ、です。整備士です」

 

「まだ学生だが、とても筋のいい技術者でね。ここ最近、ちょっと私の仕事の助手をしてもらっていたんだよ」

 

 はえー! ロリリッカちゃん可愛EEEE!!

 本編中では見られない登場人物のロリショタ姿の観測ッ! これはもう転生者特典の一つといっていいのでは!?

 

(あっ)

 

 と、ひょこっと博士の影からレン様が顔を出す。にこにこしてこっちに手を振っている。

 幻覚続行中。ここで手を振り返したら狂人確定だろう。堪える。

 

「さてアキ君。極東支部に入隊してからというもの、君はいくつもの伝説を打ち立ててきたね。中でもウロヴォロスによって遭難しかけてオウガテイルに乗って帰って来たと聞いた時は流石に自分の正気を疑ったよ」

 

「そんなこともありましたねえ」

 

 だってまともに動く車なんて無かったのだ。だったらもうその辺にいた小型アラガミを物理で調教して、何回か乗り捨て殺しながら帰ってくる以外なくない?

 

「普段から散歩の調子でアラガミを殲滅している君だが……入隊当時から技術部には強い要望を出し続けていたね? 『もっとよりよい周回効率のための戦力強化を』と。そこで我々は、強化パーツや制御ユニットなど、様々なアプローチを試みたわけだが、どれも君を満足させるには至らなかった……」

 

「そ、そうっすね」

 

 しゃーないじゃないですか! 狩りゲーの基本は機能の解放だし! マジで剣と捕食(バースト)とアイテムだけで周回すんのはキツかったんだって!

 

「しかしッ! 君が日々多くの任務をこなし続け、潤沢となった技術部の予算と、私の設計案が遂に結晶化し!! 我がフェンリル極東技術部は、ある一つの境地へと達した!! ──リッカ君、例のものを」

 

「は、はい!」

 

「?」

 

 リッカちゃんが台車に乗せて持ってきてくれたのは、私の神機ケースだった。

 カチャッと蓋が開き、現れたのはやはり見慣れた我が相棒────ッん!?

 

「博士、まさか……」

 

「ふっふっふ、持ってみたまえ」

 

 言われるがまま、剣の柄を掴み、持ち上げる。

 天を突くように掲げると──

 

 ──刀身が縮み銃身(アサルト)の形態をとった。

 

 それは見間違うはずもなく、紛れもなく、夢にまで見た新型神機の挙動そのもの──!!

 

「博士ェ──!!」

 

「グワーッ私の全身の骨が結合崩壊するゥ──!!」

 

 思わず博士に熱い抱擁。ゴッドイーターの力加減でやってしまったので苦しむ博士を即座に放り捨て、手にした新たなウェポンを凝視する。

 

 銃である。念願の銃である。

 いやでも待って、今って西暦いくつ?

 少なくとも原作アリサが2070年入隊でその時に新型適合試験を受けていたとしても……アレっ? 今ってまだ2066年でわ────ッ!?

 

「は、は、博士。これは一体、どうやって……」

 

 新型神機──いずれそう呼ばれ本編で登場する最先端の神機は、通常、第一世代のゴッドイーターが再びその適合試験を受けて「更新」──適合する新型神機へと乗り換えなくてはまず扱えない。

 

 だがこの神機は間違いなく、これまで使ってきた神機さんそのもの。それに銃身を取り付けられた、なんかチョットかなり在り得ないオーパーツである……!!

 

 すると立ち上がって来た博士はクイッと眼鏡を押し上げて言った。

 

魔改造だよ

 

 すんげーこと言い出した。

 

「いやいや、冗談。冗談だよ。そもそもアキ君は既存のゴッドイーターたちと比べて色々特殊だ。あらゆる偏食因子を受け入れる……或いは、あらゆる偏食因子たちを『共生』させる体質ともいえるかもしれない」

 

「共生……」

 

「心当たりはあるだろう?」

 

 ある。あります。めっちゃあります。

 違法研究所の皆さーん!!

 そういやぁ、あの頃、バカスカ色んな注射を打ってくれていましたよねぇー!? もしかしてアレ色んな偏食因子だったんですかー! 人の心どこだ──!! このクズ──!!

 

「君の場合、むしろ神機側がアキ君に呼応して“成長”している傾向も見られるんだよ。改造が上手くいったのもこれが大きい。実質これは、現時点での『オリジナル神機』。いずれは『新型』と呼ばれる神機のプロトタイプという位置付けになるだろう」

 

 ひえー。

 なんかやっぱり物凄いオーパーツだぞぉ、コレ。

 

「そうなんですよねー。アキさんの神機はこう、食欲が旺盛というか。アラガミみたいに進化してる感じなんですよね。神機は使用者の影響を少なからず受けますし、こういう事もあるのかもですねー」

 

 とか、神機の精霊さんもなんか言っている。貴方が言うと謎の納得感あるの、なんだい?

 

「実際、私も自分の技術力に驚いているくらいだ……五年ぐらい先の技術を持ってきてしまったかのようだよ」

 

 ビクッ! 転生者ビクッ! そそそ、ソンナコトハー、ナイデスヨー?

 

「博士よぉ……あんたって人は……」

 

「なぜ……これから出張にいく奴に……そんな凶器を……」

 

「欧州は荒れそうだな…………」

 

 後ろで説明をご清聴していたリンドウさんたちから呆れたような声が上がる。

 それに、いやまぁ、とサカキ博士は頭をかいた。

 

「旅へ出る娘へのサプライズプレゼント的な? 言葉の綾だけどそういうのに近いかな? まぁ、アキ君には普段から様々なアラガミの素材を回収してもらっているし、技術者として当然のお返しではあるけどね」

 

「サカキパパ……」

 

「言葉の綾だからね? パパ呼びはちょっとねぇ!」

 

「俺からしたら結構親子してると思うけどなー、二人とも」

 

 やめてくれリンドウさん、今の私はマジでこの人を父親だったんじゃないかと錯覚しかねない。存在しない親子の記憶を捏造しそうになるからやめてくれ。

 

 しかし今は、素直にこの言葉を心の底からお返ししよう!!

 

「──ありがとう博士! これでもっとアラガミ周回するよ!!」

 

「うん、ゴッドイーターはそれでこそだ」

 

「さらっと俺たちの常識を書き換えるのはやめてくれないか……」

 

 ソーマがそんな苦言を呈する。ごめんて。

 

 

「──では行ってきたまえ、幻代アキ! 君の活躍を世界に知らしめてやるといい!!」

 

 

 そんな博士からの見送りの言葉を胸に。

 輸送機に乗り込んだ私は、この最前線から一時、離脱していった────

 

   ▼

 

 極東支部、支部長室の机の上には小型のモニターが置いてある。

 ヨハネス支部長はキーを操作し、そこに映っていた情報をこのように書き換えた。

 

 幻代アキ曹長、兵種を強襲兵から更新。

 専用特別兵種──殲滅兵に認定、と。

 




Q.なんでサクヤさんの出番ないのん?
A.ツバキとリンドウが大事な幼馴染を劇物に関わらせないよう全力で隠しているから。何度かすれ違ってはいるかもだけど関わる機会がなかったということで一つ。


ペイラー・榊(42)
 さらに神速! さらに連撃! 周回は加速する。の大戦犯。
 周回狂の恩恵をめちゃくちゃ受けている人。素材・資金・具体案という条件が揃ってしまったので、魔改造に踏み切れてしまった。もしかしたら初恋ジュースの開発も早まるかもしれない。
 ところでアキ君? 君、なんかチラッと一瞬虚空を見なかったかい?

楠リッカちゃん(13)
 この頃はまだ学生の身分ながら、2071年時点で「既に五年以上整備班のクルーとして活躍している」とGERで記述があったので出演。まだ2066年だから計算は合ってる……ハズ……

極東の神機使いたち
 「悪魔」を裏で尊敬しているが、「目を付けられると周回に連れ回されるぞ」というリンドウの厳格な忠告に従い、表立って交流しようとはしない。この暗黙のルールの甲斐あって、アキ側は極東人員が原作補正で勝手に成長しているだけと思っている。


 鬼に金棒という言葉はあるが悪魔の場合はなんなんだ? 早すぎるアラガミたちの終末が今、解き放たれる……!

 評価ありがとうございます! ここすきや感想も本作を書く上で大変参考になるので助かります。
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