転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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07 混迷を狩る者

 建物が燃え盛っている。

 闇夜の中で、ごうごうと火の手がまわり、激しさは増していく。

 

「あ、……ああ……ああ……! わ、私の、私の子供たちが──」

 

 その女性が現場に着いた時にはもう遅かった。

 炎は無慈悲にも、女性の悲痛な声に一切応じることなく、その建物を焼き続ける。

 

 ──児童養護施設、マグノリア=コンパス。

 

 それが燃えている建物の名称だった。それは今も啼く、この車椅子に座る女性が運営する施設であり、──その裏では、適合者でもない子供たちに偏食因子を投与する人体実験場だった。

 

「生き残っていた子供たちなら全員無事だよ? けどまあ、こういう印象深いモンは焼き捨てといた方がいいからね、今後のためにも」

 

「──ッ!」

 

 声のした方を振り返った時──女性の目が見開かれ、完全に停止する。

 その姿を見た瞬間、長らく女性の中で囁き続けていた声も一瞬だけ止んだほど。

 

 神機を担いでいるその人影は、自然に歩く動作で女性の元へ近づいてくる。

 そこでようやく女性は、己が死の淵に立っていることに気が付いた。即座に表情を切り替え、慈愛と悲しみに満ちた女の顔になる。

 

「貴方が──」

 

 口を開いた時、女性の胸元に血が滲んだ。

 発砲されたのだ。目の前の人物の神機を持っていない方の手には、消音器具のついた拳銃が握られていた。

 

「じゃあなラケル先輩、団らんはあの世でするんだな」

 

 容赦なく二度、三度と人体の致命的な部位を狙って発砲する。

 意識も何もかも途切れ、女性が動かなくなった後、殺害者は念入りにその完全な死亡を確認した。

 

 ──ラケル・クラウディウス、児童養護施設の火災に巻き込まれ死亡。

 表では、そういう事になった。

 

   ▼

 

 西暦2067年のあらすじ。

 この年、欧州へ行って特別に面白いことはなかった。

 

 特務で支部長を介して依頼人であるおじさん・クラウディウスさんの命のもと、ほぼ一年かけて偵察任務したり、偶にアラガミを狩ったり、クラウディウスさんの娘さんが運営してた裏で人体実験やってるヤベー児童養護施設を焼き討ちしたり、偶にアラガミを狩ったり、怖い車椅子お姉さんを始末しただけの年だった。

 

 ヨハネスさんは神機兵とかいう技術の責任者どころか本部にまで貸しを作れてウハウハだし、生き残った方のクラウディウスさんは養護施設の数百人以上の子供たちの面倒を一気に見ることになったりしてて大変そうだった。

 

 嫌だねぇ、人体実験ってのは……とこっちも内心シリアス気味だったのだが、児童養護施設と聞き、子供たちへの気遣いに可愛いウサギのキグルミをチョイスして着ていったので、たぶんその場のシリアス加減は微妙だったんじゃないかと思う。

 

 むしろホラー。

 

 燃え盛る児童養護施設を背景に、神機を担いだ(アラガミの)返り血で真っ赤なキグルミ。

 

 笑えないホラーになってしまったので生き残った子供たちに妙なトラウマが刻まれてないかどうかだけが心配だった。

 

 GE2、完ッ!!

 

   ▼

 

 西暦2068年のあらすじ!

 ドイツ支部で活きがいい新人が弟子入りしてきたので、訓練兵兼助手として連れ回すことにした。

 

 この年は、大型列車と街が融合したようなでっかい移動要塞でお世話になった。

 

 その名をフェンリル極致化技術開発局・独立機動支部フライア。

 

 そこの局長に頼まれて、ジュリウス君という期待の若者を弟子共々訓練することになった。

 なんでも本部は近々、フライアに属する「ブラッド」という新しい神機使いの部隊を設立しようと考えているらしい。

 

 一年前、とある児童養護施設からP66偏食因子の研究記録が見つかり、それに適合する子供を集めるんだそうだ。そこで既に適合していたジュリウス少年を、極東から出張していた熟練ゴッドイーターの私が教育してくれっていう上からのお達しだった。

 

 その養護施設を壊滅させた私がな……

 

 なんなら養護施設の管理者、ジュリウスの養母といっていい女性を始末した私がな……

 

 まったくフェンリル本部もヨハネス支部長も良い趣味してやがるぜぇー。私が転生者じゃなかったら罪悪感でヤバかったかもしれないなぁ! しかし車椅子お姉さんのヤバ度を知っているので、その辺、マジで後悔も反省も罪悪感もないが。

 

 同い年ということもあってか、いつかオウガテイルに食われそうな弟子は、ジュリウス君をライバルとして(一方的に)認めて仲良くやっていた。

 

 しかしその弟子はある日、オウガテイルの周回中……

 

   ▼

 

 ──西暦2069年。

 幻代アキが極東を離れて三年が過ぎた頃、極東支部には強烈すぎる新人がやってきていた。

 

「僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ──改め、マスク・ド・オウガだ!! この度、ドイツ支部から極東支部に華麗に転属することとなった、よろしく頼むよ?」

 

 それは金色のオウガテイルを模した被り物をまとい、ベストの上からオウガテイル風な毛皮を羽織った青年だった。

 自己紹介する彼を、リンドウとソーマは少し距離をとった場所から眺める。

 

「またクセの強すぎる奴が来たな……」

 

「アレがドイツのスタイルなのか……?」

 

 控えめにいってドン引きだった。コイツ、何かがハジけてやがる。

 

「向こうでは一年間、幻代教官に華麗な指導をしていただいてねッ! 凄まじいお人だった……毎日正気を保つために素材の名を唱え、中型や大型アラガミを見つければ嬉々として突っ込んでいく……そしてそこになぜか『ドロップ率が良くなる気がするから』と連れていかれる僕……オウガテイル百体周回という過酷すぎる試練を乗り越えた時、僕は悟ったのだよ。そう、この世全てのオウガテイルを狩り尽くし、妹に笑顔を届ける華麗なゴッドイーターになるべきだとねッ!!」

 

 人は周回の果てにここまでおかしくなれるものなのか。

 リンドウとソーマは揃って遠い目をし、海の向こうでアラガミのついでに色んなものを壊しているだろう悪魔に想いをはせた。

 

   ▼

 

 ──まあ、多くは語るまい。

 なんもやってないのになんか勝手に悟って勝手に弾けたのだ、ヤツは。

 

 私は絶対に悪くないと全力で主張しておく。

 

 そうして対オウガテイルキラーに進化した弟子、改め小鳥遊(タカナシ)エリック君は無事に極東入りした。つきまとわれてるらしいソーマからは恨みのメールが届いたが既読スルーした。

 

 そして私は今──

 

「アバドンだぁ────!!!!!!」

 

「ピギギャ────ッ!!」

 

 ──全速力で、動く宝箱を追いかけ回していた。

 

 アバドン! それは夢の化身! ドロップという可能性の権化!

 神機の捕食フォームをデフォルメしたかのような可愛い見た目のコイツは、アラガミにしてはとても珍しく、人間も神機使いも襲わないという特徴を持った希少種だ。

 

 何よりも特筆すべきなのは、倒すとレア素材をドロップすること。

 

 レ ア 素 材 を ド ロ ッ プ す る こ と。

 

 しかも確定。周回という呪いに苛まれている全ゴッドイーターの救世主だ。

 アバドンはそんな憐れな神機使いを救うために舞い降りた希望に違いない。絶対に。

 

 神機を銃身フォームにして引き金を引く。

 さぁ私に力を貸してくれ、サカキ博士──!!

 

「ピギギャッ!!」

 

 見事命中。いや、最初からろくにエイムなんて合わせていない。バレットを編集して、撃てば勝手に敵に当たるようにしているのだ。オートエイム要らずで実に便利。

 

 ばくんちょ。捕食フォームで素材をあらためる。

 Aチケットゲット。しかもゴールド。なんでアラガミからチケットが出るのかは考えないことにする。きっとこの世界では誰も考えてない。

 

「やはり銃……銃は全てを解決する……」

 

 新型プロトタイプ──こっちにいる間の神機さんのメンテは、“完全整備マニュアル本”というサカキ博士特製の怪しい本を元に、フェンリル本部からやってきた整備士さんがやってくれていた。

 

 今思えば、たぶん原作(史実)での新型神機開発者だったんじゃないかなあ、と思う。やたら飲み込み早かったし。なんか大興奮してたし。

 

「さて、ここどこだ」

 

 周りを見渡すも、乗って来た車両は影も形も見つからない。

 アバドンを見かけた瞬間、神機を持って全力で追いかけてきたのだ。他には何も見えていなかった。

 

 広がるは白い砂漠と青空のみ。

 アラガミ一匹さえいないこの場所だけ、別世界のようである。

 

「遂に自主MIAしてしまったか……」

 

 MIAカウント更新。もう何回MIAになってるか私は把握していない。軽く二桁いってるんじゃないかと思う。

 

「はぁ──ぁ、今日の収穫はシユウ堕天、ボルグ・カムラン、サリエル……あと適当に轢き殺したドレッドパイクとか、オウガテイル数匹……当たりはアバドン先輩だけかー」

 

 今日の回収素材を思い出す。その余りのアレさに失望する。

 ダメだ。やっぱ海外はダメだ。アラガミ側にやる気がなさすぎる。

 

 三日に一度、大型に出くわせれば幸運、中型を見かけたらまぁ良し、小型はなんか動くオブジェクト。それが欧州……いや、大陸のアラガミだった。

 

 しかし出張したての時はここまで酷くはなかった。初日でもプリティヴィ・マータと出くわせたし、ヴァジュラだって何体か狩った。中型だって、まあ、海に行けばグボロの集団を見つけることもあった。一度、黄金グボロの群れに出くわした時のあのテンションは今でも忘れられない。

 

「……いやオウガテイルを倒したら一端のゴッドイーター扱いされる大陸ならこんなもんか……まぁ、偶に秘境にスゴイ特異種が出てきたりもするし。ウン」

 

 そしてそういう突然変異も、より多くのオラクル細胞を求めて、極東へと向かい始める。

 

 結局のところ極東は、「アラガミが最後に行きつく場所」だ。そこで真なる弱肉強食の世界にさらされ、生き残ったものが接触禁忌という地位にまで登り詰め、素材に飢えた神機使いに狩られる……狩られたオラクル細胞は再び新たなアラガミとして誕生し、狩られ、世界は循環していく……

 

「誰かー、おらんのかーい」

 

 ──いるハズがない。フライアを発ってから数日、次の特務まで支部長には「特異点探し」を頼まれている。んで、ついでに強いアラガミや、レアなコアを回収できれば御の字、というやつだ。

 

 支部長、実は海外に特異点はいないンだ。

 灯台下暗し。まぁ、あのアラガミ動物園・極東のどこかにいる特異点を見つけ出すなど、それこそ砂の中から一粒の砂金を見つけるようなもの。というか、普通は姿形さえ分かってないもんね。

 

 だが──この唯一「自由」、といえる時間は貴重である。

 人知れず独自進化を遂げた、特異で強力なアラガミの討伐は、私にも都合がよかった。

 

 ある目的のために。

 

「──少女一人助けるくらい、別に罰なんか当てないよなぁ? 神様」

 

 掲げた神機さんのコア──CNSが鈍く光る。

 

 支部長は気付くはずがない。とっくに人類に絶望している奴が気付くはずがない。たとえ微かな期待と希望を抱いていても、彼の行動は変わらないし変えられない。

 あの人は大きすぎるスケールで人類と世界を救おうとしているが、私はそこまで広い視点で行動はできない。

 

 ただ恩を返すだけだ。それだけの話だ。

 

 

「カミサマ? って、ウマイのかー?」

 

 

 ──背後から聞こえた声にバッと振り向く。

 そこにはアバドンにかじりついている白い少女がいた。

 

「…………マジか……」

 

 思わずそんな声を漏らすことしかできない。

 西暦2069年。これが特異点・シオ様との再会だった。

 




車椅子の女性
 それもこれもクラウディウスパパが極東に偵察依頼を出したのが悪い。
 アキによって丸一年をかけて裏取り、強襲、殺害のコンボ。子供たちの間では血濡れのキグルミという都市伝説が囁かれているとかいないとか。
 最期の疑問は“キグルミの手でどうやって発砲を?”。それは公式にも作者にも分からない。
 さようならGE2……

小鳥遊エリック(15)
 小鳥遊はフォーゲルヴァイデの意味。なんかマスク・ド・オウガに転生した。
 オウガテイル相手になら負けなしという噂の神機使い。やたら上からの攻撃のカウンターに強い。そして連れていくとレアドロップ率が高くなるらしいと評判で、極東では引っ張りだこ。お前の明日はどっちだ。

ジュリウス・ヴィスコンティ(15)
 英才教育を受けてしまった子。実はエリックと同い年という事実。養母の真実は何も知らないが、アキが関係してるんじゃないかとは察しており、フライアを発つ前に質問した。
 シーンはあったけど、あんま関係してこないのでカット。
 “極東で会おう”。
 その別れ際にかけられた言葉を胸に今日も邁進する。

 周回殲滅部隊ブラッドなんて生まれてしまうかもしれない。アラガミの未来は真っ暗である。


 応援、本当にありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです!

 次回、極東に公式アラガミキラー降臨。始まるぜ……狩りの時間がな……!
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