転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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09 何度目だMIA

 さて──シオ様を極東に連れ込むにあたって、いくつか問題が存在する。

 シオ様はまっこと尊いアラガミである。

 

 アラガミなのである。

 

 なので当然、フェンリルのヘリで一緒にゴー! とはいけず、なんなら支部内に入ったらアラガミの偏食場が検知されて大騒ぎになる。

 

「徒歩で海を渡るか……?」

 

 海の向こうを眺めながらそう考えたが、流石に無謀が過ぎる。

 というか。

 

「シオ様シオ様、貴方どうやって海を渡って来たの?」

 

 赤いカリギュラを召し上がっていた彼女に声をかけると、コテン、と首を傾げられる。

 

「オヨイダ」

 

「泳いじゃったかぁ……」

 

 なんという正攻法。これに勝るものなし。

 まぁ……いっそ海にいてくれれば、終末捕食も一年ぐらい延長できそうなものだが。

 ……いや、ていうかエイジスにいる「ノヴァ」が特異点を呼び出してたっけか。じゃあ無理じゃん。

 

「シオ様ー。誰にもバレずに隠れて移動できる手段、なんかないかなぁ」

 

 ダメ元で意見を求めてみるなどする。

 このシオ様、原作のようにとても学習能力が高い。二年前に会った時よりも、というかもう原作終盤時点に近い知能を獲得してるんじゃないかと思う。

 

 人としての感情──その到達点は、まだ、流石に人との交流が少なすぎるから、当分先ではあるだろうが。

 

「あるぞー?」

 

「へぇ、それはどんな……えっあるの!? どんな!?」

 

 カリギュラの鱗をくわえながら、シオ様がこちらへやってくる。ちょいちょいと何やら担いでいた神機を下ろすような手振りをされて、神機さんを持ち直す。

 

「これ。ばくっとできるぞ?」

 

「?」

 

 捕食フォームを起動してみる。破裂するように神機さんの口が開き、そのまま、

 

「えっ」

 

 ばっくんちょ!

 シオ様が 神機さんに 食べられてしまった !

 

「ギャ────ッ!?!?」

 

 ちょっ、ちょっと神機サン!? 神機サンちょっとそれはマズイですよ! 何がマズイかっていうと何だ色々とマズイんすよ訳も語彙に吹っ飛ぶくらいヤバイよ!! シオ様ぁ──!?

 

「ヘーキだぞ?」

 

「うおっ」

 

 ぎぎ、と神機さんの口が中から開けられる。

 シオ様は……無事のようだ。傷一つない。ごくん、とカリギュラの鱗を飲み込んでいる。

 

「これ、()()()()()()からな。たべられないぞー」

 

「……あー、偏食……」

 

 それで事態を把握した。なるほど、流石はシオ様だ。私たち人間には考えもつかないことを平然とやってのけてしまうぜ!

 でもびっくりするから、今度からはもう少し具体的に言ってくれよな!?

 

「あぅっ」

 

 ──そこで、ペッと神機さんがシオ様を吐き出した。

 様々なあらゆるアラガミを狩り、喰ってきたこの神機さんが、だ。

 

「うー。シオ、おいしくないのかー?」

 

「うん、食べられちゃダメだからね、シオ様?」

 

 そんなワケで、シオ様の密入国問題はなんとかなりそうだった。

 

   ▼

 

 西暦2071年、2月。

 極東支部(アナグラ)、エントランスにて。

 

「──本日、欧州から極東に帰還予定だった幻代アキ中尉だが、乗っていた輸送機がウロヴォロスとの激突事故にあい、MIAになった。すでに捜索部隊が派遣されているが、捜索対象は海に墜落したとされ、生存は絶望的だろうとのことだ」

 

「「またか……」」

 

 リンドウとソーマの発した一声に、エントランス内の空気が静止する。

 

「え、あの……MIAって行方不明って意味っスよね? そんな頻繁に起こるような事なんすか!?」

 

 コウタ──黄色い帽子に茶髪、黄とオレンジ色の衣装が特徴的な少年の慌てた様子に、リンドウとソーマは顔を見合わせる。

 

「あいつが大分特殊なだけだ……もう十数回はMIAになって、そのたびに生還しているからな」

 

「しかし今度は海かぁ……グボロ・グボロでも調教して帰ってくるかもしれないな……」

 

「きょ、“極東の悪魔”ヤバ……なんか生きてる世界観、違くない?」

 

 あながち否定できないコウタの感想に、誰も反論できなかった。

 ただ一人を除いて。

 

「──けれど死んでしまったなら、『それまで』だったという事でしょう。だいたい、何度も行方不明になるような人が、これまで無事だったことが不思議です」

 

 口を挟んだのは、極東支部内では見慣れない美少女だった。

 白銀の髪に赤い帽子、チェック柄のミニスカートにサイズが合っていないらしいトップス、黒いロングブーツ。そのトップスに起きている問題を一切気にすることなく、彼女に言葉を返す者がいた。ユウである。

 

「久しぶりだね、アリ──」

 

「──フン」

 

 少女の視線が逸らされる。ユウは片手を挙げたまま停止した。

 その様を見たコウタが小声でユウに話しかける。

 

「(……あの子、ユウの幼馴染って話じゃなかったっけ……?)」

 

「(……そう、なんだけど……アリサ、機嫌悪いのかな……?)」

 

 アリサと呼ばれた少女は、ツーンとそっぽを向いたままだ。

 困惑する新兵たちを横に、ツバキが咳払いをする。

 

「紹介が遅れたが……今日からお前たちの仲間になる新型の適合者だ」

 

「……アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。本日一二〇〇付けで、ロシア支部から極東支部に転属する運びとなりました。よろしくお願いします」

 

「うん! これからよろしくね、アリ──」

 

「……」

 

「…………」

 

 両者沈黙。

 思わずコウタがソーマの方を見る。

 

「……なぁ俺、喧嘩別れしたカップルの様子を見てる気分になるんだけど……どうしたらいい?」

 

「知るか」

 

「彼女は実戦経験こそ少ないが、演習では抜群の成績を残している。お前たちも獲物を取られないよう精進するんだな。ではアリサは以後、リンドウについて行動するように」

 

「了解しました」

 

 ──二人目の新型ゴッドイーター。

 極東の時間は、悪魔が居ぬ間にも進んでいく。

 

   ▼

 

「──お。今日は新型二人とお仕事、か……」

 

 贖罪の街の待機所に着いたリンドウは、そこにいた若者二人の非常に気まずそうな雰囲気を察知した。

 幼馴染らしいユウと一向に視線を合わせないようにするアリサ。

 それに遂に心が折れかかってきたのか、隅っこで体育座りをしている期待の討伐狂。

 

「あー、まあ、足を引っ張らないよう頑張るんで、よろしく、な……?」

 

「旧型は、旧型なりの仕事をしていただければいいと思います」

 

「ん、まぁ期待に沿えるよう努力しよう。で──ユウ?」

 

「はい……任務ですね。大丈夫です、ミッション中は私情を挟まないので……」

 

 神機を持って立ち上がったユウがアリサを見る。一向に彼らの視線は合わないままだった。

 

(……ま、ユウのことだから、問題はないと思うが……)

 

 この落ち込みようをスルーできるほど堅物な上官であるつもりはない。

 リンドウはユウに手招きして、場所を変えようと歩き出す。

 

「ユウ、ちょっと来い」

 

「……? あの、私は……」

 

「あー、アリサはそこで待機。そうだな、動物に似た雲を探しなさい」

 

「な、なんで私がそんなこと……」

 

「これは命令だ。それまでここを動くなよ、そのあとこっちに合流してくれ。いいな」

 

 半ば強引にユウを連れていく。

 取り残されたアリサが追いかけてこないことを確認し、離れたところでリンドウはユウに切り出した。

 

「お前の幼馴染ちゃんな。どうもここに来る前、辛い事態に出くわしちまったらしい」

 

「アリサが……!?」

 

 リンドウは思い出す──ここへ来る前、ツバキから伝えられていた情報を。

 

「あの子の親御さんはロシア支部の居住区に住んでるってこと、知ってるか?」

 

「あ、はい……おじさんもおばさんも、昔から僕にも良くしてくれて……」

 

「数か月前、その二人が住んでいるところがアラガミに襲われたって話だ」

 

「……ッ!! 二人は!?」

 

「そこはどうにか通りがかりのゴッドイーターが駆けつけてくれたおかげで、一命こそ取り留めたらしい。が、まだ二人とも意識不明の重体みたいでな……」

 

「そんな……」

 

「それに、その支部でアリサと仲が良かったっていうチームメイトも、アリサのご両親を守るために戦って、おんなじような状態だったらしい。そっちはゴッドイーターだから、もう回復はしたようだが……まぁ、一度に大切な相手を一気に失いかけて、あいつはここにいるってことだ」

 

 立ち止まる。ユウの目を見て、リンドウは念を押すように言った。

 

「つまり……たぶんだが、今のあいつはお前を失うことも恐れてる……って感じじゃないか? 失いたくないから冷たくあたる……なんて、この界隈じゃそんなに珍しくない光景だ」

 

「……じゃあ、僕はしっかりしてないと、ですね。大丈夫です、死ぬような無茶はしません!」

 

「────言ったな?」

 

「えっ」

 

 きらーん、とリンドウは目つきを鋭くし、ポケットに隠し持っていた録音レコーダーを取り出す。

 

『大丈夫です、死ぬような無茶はしません!』

 

 スイッチを押すと、先ほどユウが言った台詞が繰り返される。

 

「──言質はとった。いいかユウ。お前は二度と──そう、せめて少尉階級になるまでは! 『連続出撃』『素材周回』──これらに関する作戦行動の一切を禁ずるッッ! これは上官命令だ────ッ!!」

 

「なっ──!? リンドウさん、な、なぜそんなことをッ!?」

 

「アナグラの平穏を少しでも長く保つためだよッ……! つか、そのうち本家本元の『悪魔』様がやってくるんだ、それまでその恐ろしいまでの労働衝動は封印しろッ! 今は大切な彼女を第一に考えなさーい!!」

 

「ぐわー! 正論すぎて小官、何も言い返せません!! ご命令、甘んじて受け入れます……!」

 

 リンドウはガッツポーズした。

 ──勝った。まだ任務も始まっていないが、勝った。

 

 この後、ミッションを完了してアナグラに戻ったリンドウは、事の顛末を同僚たちに伝え回ると、しばし英雄とたたえられ、配給ビールの供え物が献上され続けたという────

 

   ▼

 

 ノイズ混じりに、その報告音声はサカキ博士のラボラトリに響いている。

 

『こちら捜索隊……ザザ……捜索目標と思しき輸送機を発見……ザザ……しました……近くにはウロヴォロスらしきアラガミの残骸……いや、ウロヴォロスに酷似した巨大アラガミの残骸を確認しています……アレは……女神像? ザザッ……捜索対象の生体反応(バイタルサイン)、ビーコン、神機、どれも確認できません……捜索を……続けます』

 

 悪魔の姿は未だ極東に無く。

 蒼穹に月が現れる日は、刻一刻と迫っていた。

 




アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(15)
 お労しい事件が一気にぶつかってきた結果。威力は最大だ!
 つまりどういうこと? ハイ、限りなく近い原作ルートです。
 リンドウ、果たしてMIA芸人にならずに生還できるのか……?

雨宮リンドウ(26)
 今回のMVP。これが英雄の条件だ。しかしアリサに重要な台詞を言い忘れている人。
 公式アラガミキラーを「ヒロインフラグ優先しろ」で封印した。さて、封印解除の時の反動はいかにして彼を襲うのか? こうご期待! その前に蒼穹の月がくるっぽいですが……
 悪魔のMIA化はどうせフリだと信じている。

サカキ博士(47)
 台詞なし。出番なし。ただし悪魔がMIAになるたび一番心配してるのはこの人だと思う。


 いつも読んでいただきありがとうございます! MIAはもはやログインボーナス感覚。
 ちなみに今回のアリサの経緯には、「アリサ・イン・アンダーワールド(小説)」を参考にしています。
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