弱虫うさぎは病室の中   作:妄言a〜

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馬鹿にしてたやつほど力が強い

 

「いつも寝てばっかでつまんなくないの?」

 

病室で何時も通りなんの希望もなく眠りにつこうとしては眠れずにただ時間だけがいたずらにすぎていた時、突然小さな幼い声が聞こえてゆっくりと起き上がり目を開ける

そこに居たのは小さい4〜5歳ぐらいの男の子、不思議そうな顔でこちらをじっと眺めて

無垢故の無遠慮な視線をぶつけてくる

 

「そんなことないよ、毎日とっても楽しい!」

 

もちろん嘘だ、毎日毎日変わり映えしない景色、日に日に動けなくなっていく身体、同世代の他の子にはキラキラした毎日が待っているのに自分にあるのはただ終わりに向かっていくだけの人生に楽しい…なんて言葉は簡単に口に出せる物ではない…けれど

普段の習慣によるもの、仮面を被って健気な自分を演じてしまう

 

「はぁ?嘘でしょ?こんなところにいて楽しいわけないじゃん!外で虫とったり鬼ごっこして遊んだりした方が面白いって!」

 

無遠慮に心の奥底の思いをまるで薄氷を踏み砕くように踏みつけにしてくる…いくら小さな子供相手とはいえドス黒い怒りが沸き起こって来ない訳もなく

 

「んふふ〜とっても楽しいよ?その秘密…知りたい?」

 

「べ、別に興味無いし!」

 

「えぇ〜?今なら特別に教えてあげるのになぁ?」

 

「ほんとぉ!?」

 

ほんとほんと、子供は無垢で無知で…自分もそれと同じぐらい何も分からない、何も見えない…そんな自分になりたいと思ってしまうほどの輝いた笑みでこちらに近づいてくる子供のおでこを

 

「いっだぁぁ!?!?」

 

デコピンで思い切り弾いてやった、その子は痛そうにしながら覚えてろ〜!!と三下みたいなセリフを吐いて逃げ去るように走り去ってしまった

 

「ふん!これが大人の力ってやつだよ」

 

「子供相手に何してんだ」

 

べしっと頭に軽いチョップを入れられる、あぁ…もうそんな時間か…この時間が唯一の楽しみと言えるほど貴方に会いたくて今日も待ってたんだよ?

 

「もぉ〜乙女の頭を叩くなんて酷いことするなぁ」

 

せんせ

 

 

次の日、起きても特にやることなんてなくて

私のもう1つの光を見るために準備する

 

今日は何を見ようかなぁ〜♪

 

いくら擦れてしまっていても憧れは止められなくて…何回も何回も、網膜に焼き付くほど見たはずなのに、見る前はいつもドキドキしちゃう

そうやって準備をしているとノックもなしに突然扉が開いて

 

「やい!暴力女!昨日の仕返しに来てやったぞ!」

 

また来た…昨日痛い目を見ておいてもう一度ここに来れたのは少し褒めてもいいかもしれないけど乙女の部屋にノックもなしに入ってくるクソガキだから結局マイナスに振り切れるけど

 

「何しに来たのあんた?私今これからすっごく忙しいんだけど?」

 

邪魔するなら帰りなさい、としっしと手で追い払う

 

「ふ〜んだ!僕知ってるから!どうせ歩けないんだろ!僕の所まで来れない、つまりお前は僕を攻撃することなんてできやしない!」

 

そう自信満々に言うクソガキ…人の弱い所をズケズケとなんの遠慮もないその言葉に普通だったら悲しんだり、ムカついたりするはずなのにどうしてか少し嬉しいような気がしてしまう

周りは私に対して気遣って気にかけて、なるべく怪我をしないように、壊れないように割れ物みたいに扱ってくるのに、このクソガキにはそんなのは一切なくて

それがなんだが少し心地いい

 

「別に攻撃したい訳じゃないし、君から攻撃されに来たんでしょ?」

 

「う、嘘つけ!お前がてれんてく…ら?を使って僕を引き寄せたんだろ!この卑怯者!」

 

小さいのに難しい言葉を知っている、意味を知ってて言ってるのかな?

 

「正々堂々?こ〜んなか弱い乙女に向かって何言ってるのかなぁ?」

 

「ふん!あんなすっごい…いやまぁ!全然痛くなかったけど、ちょっとは力があるのは認めてやるけど!全くか弱い…?乙女…って感じじゃなかったぞ!」

 

小さい子からしてみれば寝たきりの私の力も強く見えるのか…それを聞いてまたほんの少し嬉しくなるけど…乙女に向かってその言い草はどうかと思う

 

「ふ〜んそんなこと言っちゃうんだ?どうなっても知らないよ?」

 

デコピンの構えをとると最初はビクッとして少し体が震えたけれど、私がそっちにいけないのを思い出したのか

 

「ふ、ふん!僕からそっちに行かない限り来れないんだからその攻撃は当たらないってことだ!」

 

「えぇ?来てくれたらとっても美味しいものあげちゃうのに?」

 

「えぇ!?ほんと!?」

 

「ほんとほんと」

 

わぁ〜と顔を輝かせて近づいてくる、私にもこんな純粋無垢な頃があったのかなと思うと少し微笑ましい気持ちになって…

また本気で力を込めた指で小さくて可愛らしいおでこに当てる

 

「ギャァァ!?ぐ、ぐうぅぅ…」

 

やば…さ、流石にやりすぎた?

痛みのあまり大声を出しておでこに真っ赤な痕が付いて、プルプルと震えながら涙目でこっちをじっと見つめて来るからちょっと慌てて

 

「あ、え、えーとご、ごめんね?ほ、ほら、君は強いよ?強いから泣き止んで?ね?」

 

どうしたらいいか分からなくてとりあえず頭を撫でる

 

「ぅぅ…僕強い…?」

 

「強いよ?強くてかっこいい男の子は泣かないよね?」

 

「うん…泣かない…僕…強いもん…強いからおばあちゃんのこと守れるもん」

 

「そうだよ君はとっても強いからねぇ…きっと守れるよ」

 

それでもまだ涙は止まらないのか小さいひゃっくりのような音を立てて涙をポロポロ流して

 

「そ、そうだ!お姉さんがいい物を見せてあげるね!」

 

「いい物?なに?」

 

食いついた…よしよし…これはいい機会だ…そう思ってDVDを1枚入れる

この年頃から英才教育を施せば立派な信者になってくれるに違いない…私の…いや推しのための犠牲になってもらおう…

 

そしてテレビ画面いっぱいに現れる私の推し

 

あぁ…やっぱり輝いてる…私の一番星…アイ…

 

「わぁぁ…」

 

ちらっと横目で見るとどうやらお気に召したらしい、ふっふっ…これで君もドルオタ確定…アイの為に財布の紐を緩め続ける運命よ…

あぁ…それにしても本っ当にアイは可愛いなぁ…私も…いつか…

 

「凄かったでしょ?この子私の推しのアイってアイドルキラキラ輝く一番星なんだよ?」

 

「うん…凄かった…でも」

 

でも?まさかアイがお気に召さなかったとでも言うのかこのクソガキ?

はぁ〜ん?どれだけ目が肥えてるんだ?

その目は飾りかぁ?ビー玉でも詰まってるんじゃないの?

 

「このアイって人を見てた時のお姉さんの瞳がキラキラしてた」

 

「ぇ?」

 

「お星様みたいだった」

 

そうにっこり笑われる…はぁ〜最近の子供って英才教育でも受けてるの?こんな歯の浮ついたセリフを良くもまぁ簡単に口にできちゃうものだよ、残念だったねお姉さんもう心に決めた相手がいるから、

君がもう少し大きくなったら…大きくなったらかぁ…

 

「そういうのは好きな子に言ってあげた方が喜ぶよ?」

 

「好きな子…?おばあちゃん?」

 

ちょっと違うけどまぁ…いいかな

 

「そうそう」

 

そうやって話してると看護師さんが来て、

例のちびっこはまた来るからな!その時にせんせん…ふきょ…う?してやるぅ!

と去っていった

 

色々交じってるけどよくそんな難しい言葉覚えてるなぁと少し感心する

 

「とっても仲良しなんですね?」

 

「そんなことないですよ!私がちょっと珍しいだけって感じがしますし」

 

「あの子おばあちゃんのために毎日来てるんですよ?とっても家族思いで優しい子なんです」

 

へぇ〜…優しい子…いや、私の一番触れてほしくない所に思い切り土足で踏みつけて粉々にしてくるような人ですよ?看護婦さん、だいぶお子様フィルター越しに見ちゃってる

 

そんなふうに思っても…なぜかそこまで憎む気にも嫌いになる気にもならないのが不思議なんだよなぁ

 

それからよく分からないけど妙に懐かれてしまったのか

毎日毎日飽きもせずに勝負を仕掛けに来るようになった

 

「今日こそ負けないからな!」

 

「毎日負けてるのに来るなんて偉いね?」

 

「えぇ?そ、そうかなぁ?」

 

褒められると照れて、でも直ぐに顔をキッと引き絞ってこちらを睨みつけてくる…たぶん根は真面目でいい子なんだろうけど、私に対して苦手意識があるのか何なのかよく分からないけど妙に敵対されちゃってるんだよなぁ…

 

「そ、そんなことを言っても僕は騙されない!僕からいつも向かってるのは不公平だから!今度はお姉さんから来て!」

 

「えぇ〜」

 

本当にこの子は私のどうにもならない現実なんて全く分からないんだろうなぁ…

 

「私は身体が悪くてなかなか歩けないから無理だよ」

 

「そうなの?うちのおばあちゃんは周りにどんなにダメ!って言われても散歩してるよ?」

 

「君のおばあちゃんだいぶアグレッシブなんだねぇ」

 

「すっごい強い!、でも最近は僕と一緒に散歩行ってくれない…」

 

しょんぼりと悲しそうに、あぁ…この子は寂しいのかな?寂しくて1人で、でもおばあちゃんのことは心配で

家族に愛されてる子ってこういう子なのかな…

 

「わかったわかった、ちょっとやってみるから待っててね」

 

「ほんと!?」

 

そんな嬉しそうな顔をされちゃったらこっちも少し気合いが入っちゃうんだけどなぁ

気が重い、前に立ち上がろうとしたのは何時だったかな?

そう思いながらも何とか立ち上がろうとするけど、身体に力が入らない

いくら力を込めてもぐにゃっと身体が言うことを聞かない

 

「?何してるの?タコの真似?」

 

立ち上がろうとしてるんですけど!何このガキ!ちょっと可愛い所あるなと思わせておいてこの言い草!こっちは必死に立とうとしてるってのに!

 

「いま…ふぅぅ…立とうとしてる…んだよ!」

 

必死に力を込めるけど立ち上がれない…思った以上に身体が蝕まれてるみたいだ…

いや、日頃から何かと理由をつけて歩こうとしなかったからそのツケが回ってきたって所かな

 

「ごめんね?立てそうにないや」

 

「そっかぁ…」

 

しょんぼりした顔をされるとこっちが悪いことをしたみたいな気持ちになるからやめて欲しいなぁ…

 

「じゃあ!また明日ね!」

 

「え?」

 

「最初は誰だって上手くできないんだって!僕だって逆上がりできなくててつぼうにかおぶつけて鼻血出したり、頭地面にぶつけて痛いの何回もして!やっとできるようになったんだよ!だからお姉さんも何回もやればできるよ!」

 

キラキラした目でこっちを見ないでよ…そんな風に考えたことが無いわけじゃない…頑張れば、努力すれば、できないことをできるようにするために毎日頑張って…でも逆にだんだんできることは減って…

 

「う〜んそれは普通の人…だからだよ…」

 

「お姉さんはふつう…?じゃないの?」

 

「そうだよ?お姉さんは病気でね?身体が自分の言うことを聞いてくれないの」

 

「へぇ〜じゃあいっぱい努力しないとね!」

 

ッ!!

 

「どれだけ努力したってできないことはあるの!そうやって何も知らないくせに勝手なことばかり言わないで!」

 

ぁ…しまった…子供相手にムキになって…何言ってるんだろう…

 

「だって…お姉ちゃん普通じゃないもん!」

 

「………………」

 

「力強いもん!!」

 

「……………へ?」

 

何を言ってるんだろう…この子は…

 

「力強かったもん!僕の友達のみっくんよりい、いたいデコピンできたもん!そんな強くてキラキラしたお姉ちゃんならできるもん!」

 

歳を重ねれば自然と力は強くなるんだよ?私も同じ年齢になったら君の方がずっと強いんだよ?

それに私は年下の子相手に喧嘩したって勝てるわけもないんだよ?

そんなことも知らない子供…何も分からなくて世の中にはどうしようもないことがあってどうにもならないことなんて1つもないと思ってる子供のただの言葉…

それなのに…こんなに…心が奮い立つなんて…

 

「うん…ありがとう…君のおかげで私ちょっとやる気出てきたかも」

 

「ほんと?じゃあ毎日来るから!毎日やろ!それで約束!歩けるようになったら一緒に散歩しよ!えっとぉキャッチボールしてぇ!鬼ごっこにかくれんぼ!それから!!」

 

「う、うぅ〜ん…」

 

ぁ、子供特有の無限体力相手に余計なこと言っちゃったかも…

まぁそれでも…

 

この小さい小指の持ち主の期待に…ほんの少しだけ応えたいと思ってしまう私は、まだまだ子供なんだと思う

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