ピピピピ…
アラームの高い電子音が狭い部屋に鳴り響く、重たい手を何とか持ち上げスマホのアラームを解除する。
布団の上で座って誰も居ない狭い部屋を見渡す、
一人暮らしもそろそろ慣れきたと思ったけれどふとした拍子に誰か居るんじゃないかと思ってしまうあたり、俺はまだまだホームシックになる時があるらしい。
不審者に刺されたあの日からざっと2年が過ぎようとしている、高校の卒業を病室で迎え、晴れて大学生になったは言いもののこんな身体で通える訳もなく、晴れ晴れしいスタートを切れたとは言えないが今の時代便利なもので割と成績のよかった俺は事情も事情なので大学側から取り計らってもらいパソコンを使っての遠隔授業でなんとか出席することで問題なく勉強出来ることに決まった。
問題なのはリハビリだった、これはもうめちゃくちゃにキツかった、まず身体が全くもって言うことを聞かない、手を動かす、足を交互に動かして廊下を進む、こんな単純な物ですら満足にこなすことが出来なかった、
キツいのなんのって話じゃないんだよなぁ…
自分のイメージした様に身体が動かないのはだいぶストレスで、以前のように動かず、ほんの少し動いただけで息切れをした時はもう諦めてやろうかと思った…けれど…それは許されなかった…
いや、許されていいはずがなかった、俺はまだ何も知らないクソガキとはいえ、あの人に頑張れと…毎日コツコツ積み上げればきっとできると、暗闇から何も見えない状態でもコツコツ積み上げ続けて奇跡を起こしたあの人に対して申し訳が立たない、そう思って頑張ってみても結果はなかなかついてこないので、もういい加減諦めてしまいたいと思ったのだけれど…
リハビリ中の俺をあの子がじっと見つめていた、声は掛けてこなかった、ただじっと汗だくになってゆっくりゆっくりと芋虫のような速度でノロノロ進む俺を真剣な表情で星の瞳を持つあの子が見つめていた…
どうしてだか分からない、けど、あの瞳に見つめられたら、こう、なんて言うんだろう?
カッコ悪くいうと、かっこ悪いところを見せたくないと、このこの前でだけは嘆いたり文句を言ったりしてもいい、でも、でも…諦めることだけはダメだと何故かそう強く思った俺は毎日毎日リハビリの時間になると来るあの子の視線を背中に感じながら懸命に、引きずるように足を動かした。
そして、とりあえず杖があればリハビリ室以外でも行動できるようになるとあの子は嬉しそうにぴょんぴょんはね回って喜びを身体で表現してくれた、
喜びすぎだろ…なんて呆れたけれど、自分の努力が認められたようで嬉しかった。
正直疑問は尽きなかったなんでこの子は俺の前に居るんだ?もう縁は切ったはず、そう思ってあの子に質問したけれど何も言わないでただ、隣で俺がゆっくりと歩くのをサポート…と言うほどではなかったけれどじっと見つめながらたわいのない会話をするだけだった、
自分はなんでもないから大丈夫と突き放したはずなのに、目の前の子と一緒に歩いていてはダメなのに、ただ、この時間が心地のいいものだったのは確かだった。
退院する時あの子は泣きそうな顔で笑ってた、家族やマネージャーは見当たらなかったけれどその理由やわけは特に深く聞くことがなくて、これから先俺とこの子が深く関わっていくことはないと言う会話も特になくて、ただ話して、笑って、喧嘩して、そうやって、またなんてことない日に出会う様に日常を過ごして、でも、もう二度と会うことは無いと俺はそう思ってる。
けれど、年月が立ってあの子の退院する時のあの言葉だけは…今でも忘れられない
「いつか…私を見つけてね?」
どういう意味か分からないし、深く考えるつもりもない…ただ、
ただ…あの言葉を思い出すと暖かくて心地のいい布団から寒い部屋に飛び出してめんどくさい出かけるあれこれを済ませて今日も一日脳みそがパンクするほど知識を詰め込む場所に行くのが、自然と…頑張れるようになった