「よし!今日も頑張ろうお姉さん!!」
そう意気揚々と入ってくるクソ、いやいい加減この子と言ってあげた方が良いのかもしれない、毎日毎日飽きもせずにこんな希望も未来もない病人の為にせっせと足を運んでくる変わり者なのだから
「はいはいでも今日もそんな大した距離歩けないと思うよ?」
そう、歩くことは出来る…でもその歩みは亀のように遅く…距離だってほぼ誤差のような物だ、自分の病室から出て少し歩いて廊下を歩いて…それで良くてふらついて転びそうになって、悪くて目眩で頭から倒れて打ち身
「大丈夫!僕がお姉さんの盾になればいい!そうすれば散歩できる!行こう」
そう言われてしまえばまぁ、仕方ないかと何とかして立ち上がり1歩1歩と鈍い1歩を踏み出し始める
「いいよ!良い感じ!歩ける!お姉さんなら歩ける!」
毎回私が歩き出すと凄い騒ぎで、ちょっとした病院名物みたいになってるらしい、大変に恥ずかしいからやめて欲しいッ!!
「うっぉぉ!?セーフ!?ぎ、ギリギリセーフ!!」
「あ、ありがと」
危なかった、今のは顔面コースだった…何とかこの子が受け止めてくれたから頭から落ちずに済んだけど…
「だ、大丈夫、ぜんっぜん余裕だからね僕!」
そんなプルプル震えながら言われてもね〜
思わず笑いが零れてしまう
全く…。
「ありがとね、助かったよ」
「えへへ〜よせやい!」
変な照れ隠し覚えちゃって、まぁ?こんなお姉さんの身体に密着できることなんてなかなか無いんだから今のうちに堪能しとけ〜
そうやって日々を過ごしていく、最初は全然歩けなかったけど、毎日毎日あの子は必ず現れて私に1歩踏み出させてくる
それが時に憎らしくて、1日でいいからサボらせて欲しい、諦めさせて欲しい
あと筋肉痛がキツイ時に立ち上がらせようとするのやめてね?本当に変な声出たから、
何爆笑してんのよ
強めにおでこを弾いておいた
「ふぅぅ…ふぅぅ…はぁ〜はぁ〜」
「お疲れ様!ハイ水!」
「ありがとぉ…」
何とか歩いてベンチまで来れた、なんだかんだ継続は力なりと言うらしい、最初は永遠とも言える距離に思えた中庭のベンチも、少しづつ距離を稼いで行ったおかげでそこまで遠いと感じなくなっていた
「おばあちゃんは毎回ここを通るんだよ〜お花とか木とかを見てぶつくさ文句言いながら歩いていくの」
「前から思ってたけどだいぶ強いよね君のおばあちゃん」
久しぶりの病室以外の景色に胸が少し踊る、なんてことの無い病院の中庭、観葉植物や木が植えられていて一面に広がる緑を眺める
深呼吸をしてみて、病室で吸う空気より美味しい感じがする
「はぁ〜なんだかんだ来ちゃったなぁ〜来れちゃったよ」
「お姉さんが頑張ったからね!その調子だよ!次はね!」
まったく…次はどんな無茶振りをされるんだろう?あれ?なにか視界がボヤけて―
あれぇ?もぉなんで倒れてるの?
あぁ――
倒れてるのは私だった
気が付いたら病室で眠っていた、
ぼんやりした目を開くとそこには心底安心したような顔の先生がいた
「せ…せんせ…私…」
「よかった…大丈夫。安心してくれ、ちょっと頑張りすぎちゃっただけだからさ?しばらく寝てればまた元気になるよ」
そっかぁ…頑張りすぎた…私はちょっと張り切ってしまったらしい、あの子に会ってから私は変だ、みんなに愛される健気で頑張る私だったはずなのに、いつの間にか誰にも愛されない私がたまに出てしまって…
そのまま健気に頑張るはずがあの子の前で悪態ついて、不満を口にして…
全然いい子の私じゃなかった…せんせ以外とまともに会話した――
だから嬉しくなってしまったんだろうと思う
「せんせ…あの子に…謝っておいて?あの子…多分こんな私でも心配してくれてると…思うから」
こんな言葉が自分の口から出るのに驚いてしまった
そういうとせんせはしばらく困ったように苦笑いして、なんだろう?そんな顔も素敵だけど…せんせが指さした先…そこには
「すぅ…すぅ……」
目元が真っ赤な状態でベットにしがみついたまま眠ってるあの子がいた
「看護師が何とかして引き離そうとしたんだけどな?どうしても離れなくて、君が起きるまで静かな声でずっと泣いてたよ、僕のせいだって」
ゆっくり手が伸びる、震える手を何とか動かして頭にポンと乗っける…
そんなわけない、君のおかげで頑張れたのになんで君のせいになるのかなぁ?
普段は女の子扱いしないくせにこういう時だけかっこいいナイトになっちゃうんだ?
「この子…いい子ですね」
「あぁ、この子のおばあちゃんが言ってたよ、こんな片田舎にわざわざ一緒についてくるぐらいのお人好しの大バカだってさ」
そう笑う先生
頭を撫でると安心した顔になって静かに寝息を立てるこの子の頭をただ無言で撫で続けた
しばらくの間あの子は来なかった
あれがトラウマになってしまったのかと思い、少しの寂しさを抱えていると
「やっほぉー!!」
テンション高めだった、全然違った、肌を小麦色に焼いて意気揚々と入ってきた、やっぱりクソガキだよこの子は
「随分真っ黒になってきたね?」
「夏休みで旅行に行ってきたんだよ〜!えっと海に動物園とかあとね?」
そう一気に捲し立てながら何かを取りだして見せてくる
それは…
女の人の水着姿だった
えろガキ
「あぁ、これは吾郎先生の分だった」
吾郎せんせ…へぇ〜子供に女の人の水着写真を撮ってきて貰ったりするんだ…へぇ〜後でちょっとお話しようね…吾郎せんせ♪
そう1人で心を決めているとカピパラ、ライオン、虎、カバなど様々な動物の写真が出てきた
「写真をげんぞう…?してもらってきたよ!これならお姉さんも動物見れる!」
「うん…わざわざ撮ってきてくれたの?ありがと」
「えっへへ〜ぁ、あとこれ」
そういうとゴソゴソとポケットを漁り缶バッチを渡してくる…よく見るとそれは
「アイ…アイだ…」
「お姉さんが好きって言ってたアイって人でしょ?ガチャガチャがあったから回したら当たったよ」
アイがデフォルメで可愛らしくプリントされていて、♡を浮かべている…
「ありがと…」
嬉しい…でも私はアイのライブを現地で見ることは出来ないんだろう…そう思うと少し寂しくなって
「いつかお姉さんも一緒に行こうね!東京行くとね、えーと…ほら!よくわかんないデケェカラフルな綿あめとか食べれるよ!」
でかい綿あめに顔から突撃するみたいにかぶりついてる写真が出てきて…
「ぷッっ…あっははは!!!」
「そ、そんな笑わないでよ!」
おかしいよ!はぁ〜この子は本当に、私の気持ちを下げたり上げたり吾郎せんせと同じ女たらしの雰囲気がビシビシ伝わってくる…
「それで?他にはどんな写真があるの?」
「えっとね!!」
そうやってこの子から話を聞いている時、私も一緒に同じ場所に行ったように感じてしまうから…私も案外単純だ
その後
「吾郎せんせ!こんにちは!」
「おお、こんにちは…だいぶ焼けたなぁ」
「これお土産です!」
「お?マジで?ありがと…ぉ…?」
受け取った物を受け取り中を確認すると水着姿の女性が映っている写真が何枚も出てくる
「ぇ…えっと…秋くん…これは一体…?」
「おばあちゃん言ってました、吾郎せんせは女好きだから女の人の写真が1番の土産になるって」
「ぁ…あの…あのなぁ?秋くん…」
何とか必死に弁解しようとするも
「あとこの写真見せたらお姉ちゃんが後でお話があるって!じゃあ!僕おばあちゃんの所行ってくるね!」
「ぁ…あぁ…うん…気をつけてね…お土産…ありがとう…」
元気に去っていく小さな後ろ姿を眺めて…
吾郎は初めて病室に入るのが怖いと感じた瞬間であった