ポケットを漁って硬い感触に指が触れる…それを取り出して見る度に思い出す…
思い出すというのは正確じゃない、正確には
脳裏に映像が流れる、それが嫌でポケットの奥にしまいこんで、それでも大切な物だから捨てれなくて、またポケットから取り出す度に思い出す
さりな姉さんが死んでから吾郎さんと少し話した…
何を話したか正直小さな頃の脳みそじゃ覚えてられなかったけれど漠然と医者になろうと思ったのはあの時が最初だったと思う、
医者になって僕のような思いをする人が少しでも減ってくれれば、なんて胸いっぱいに正しさを蓄えて夢を見つけた気でいた
その数年後に祖母が死んだ
元気で大雑把、口を開けば文句や怒鳴り声をあげてよく笑う人…60を超えてるとは思えないほど身体は逞しく毎日毎日見舞いに行くたびに
こんなところで油売ってる暇があるなら女でも引っ掛けてこい
なんてめちゃくちゃなことを言うぐらい元気な祖母が
少しづつ痩せて、身体の線が細くなり、食も喉を通らず声も小さく、小さく口を開けて隙間風が通るような声でしか喋れなくなってしまった
そんな祖母を見るのが辛くて、起きている時はなんとか元気に振舞って、そして祖母が眠りについたら起こさないようにそっと抜け出して病院を探検していた、色んな人が色んな何かを治すために入院したり診察しているのをみたり、お腹を膨らませた女性が嬉しそうにお腹を撫でたり、老人が看護師に連れられて歩いていくのを見るのがなんとなく好きだった
ある日いつも通り病室を抜け出して辺りを散策していたら変わった苗字の名前を見つけた、なんて読むのか分からなくて中をそっと見た時、僕は恋に落ちたんだと思う
思う…というのは気恥しさが半分と当時の記憶が少しボヤけてしまってるから…ということにしておいて欲しい
それからどうやって仲良くなろうかと思って、思いついたのは、待合室に来たり、看護師に連れられて歩いてくる時に話しかければ良いんじゃないかと思って1週間待った…
けどその人は病室を出なかった、1人で寂しいんじゃないのか、1人で暇そうに、退屈そうに…そして何よりも寂しそうにしていた、そんな考えが自分勝手に浮かんでしまい
顔が脳裏にチラついて祖母譲りの無鉄砲さで
ノックもせずに勇気を振り絞って病室に入った…
そこからはあまり思い出したくない…正直、全て覚えている…めちゃくちゃクソガキだった記憶が映像として浮かび上がってきてその度に布団に転がりながら顔を覆い隠したりしていた
あの時よく飽きもせずに毎日来られるねと言われたのを思い出すけれど、それはそうだろう…あの時初めて見た時からキラキラ輝いていた彼女が懸命に、必死に一歩一歩踏みしめて歩いて行く…好きな人のそんな頑張りを見るのが嫌な人間なんてこの世に居ないと今も思ってる
まぁ…その時は自覚が無かったからとりあえずこの人を元気づけてあげたいって、そう必死になってただけだけど…
祖母が死んで思い知ったのは2回目だ
世の中いくら努力してもどうにもならないことがあってそれはこの世界では何ら不思議なことでもなんでもない、ただ当たり前のようにそこら中に転がってるただの日常なのだと
正直そこで折れたかもしれない、でも他に目指す物もなくて惰性で勉強をしてそこそこ偏差値は上がっている
帰りに何気なく調べていたらネットニュースを見つけた
アイドルのアイ、体調不良で活動休止!?
という見出しを見つけた…
「あぁ…さりな姉さんが好きな人か」
アイドルの世界も大変らしい、まぁ…俺には関わりのない話だろうけど…
「はぁ〜今日も寒い…早く帰ろ」
あっちと違って白くない、ただどんよりとした空を見て…そのまま歩を進めた