戦場ボイスロイド 作:うぇへ
ボイスロイド。
3,4年も以前の世では配信業やら営業のアシスタントとして名を広めた人型自立思考の機械。人と同じく考え動く命を持たないものだった。
よくわからない存在…それが俺の認識だった。だってここは。
戦場だから。
数年前、戦争は始まった。
原因なんぞ一般ピーポーは知ることはなく。その戦争は肥大化した国と国の争い。そりゃ長期戦になるのも仕方のないことだった。発達した技術と技術の殴り合い。莫大な金と金の溶かし合い。そして、人と人の殺し合い。
だが片方の国には機械人形、ボイスロイドが発達していた。人間と同じような身体を持つが人間ではなく、動力は飯ではなくコンパクトで低コストに済む電力。戦場に駆り出されるのも当然の話だった。
「本日より相棒兼補佐役になる結月ゆかりです。よろしくお願いします」
機械人形は戦場に出た。
だが、人間も。
「…よろしく」
ここは塹壕。土臭い溝の中。そこで出会った。
やる気の無いような声色での自己紹介を受けとり、一応自分も返しておく。
「俺は、朝倉起道。所属、第二十三部隊二等兵」
地面の溝の中壁に背を預けながら話す。自分で言っていてなんだが俺も面白みのない自己紹介だ。この空気…お前が悪いんだぞ? 結月さんとやら。
「キドウ? 変な名前ですね」
途端に失礼な奴だな。
見れば結月ゆかりと名乗るそれは機械とは思えない造形。人間と言われればそうと納得してしまうようなものだった。あと可愛い。綺麗。はい。
会話に花が咲くことなく、そこで途切れた。
上官が昨日言っていた。明日から機械人形が戦場に採用されると。そのとき一人一人に相棒として渡されると。
なかなか嬉しいことだったりするのかもしれない。仲間も嬉しそうな声を上げるやつも多かった。
人手が増えることについては、賛成だった。あと目の保養にもなる。もしかしたら『そういう目的』もあるのかもな。でも俺は昨日の上官に一つ物申したい。
コイツ、ちょっとだけ性格どうにかならない?
「ねえマスター? 私土臭いここは嫌なんですけど」
うるさい。
というか土臭いのが嫌なら地べたに寝転がるな。布は敷いてるらしいけどお前汚いぞ。あとマスターって呼ばれるのか俺。それマスターくんが複数人の時困らないか?
「銃の手入れしてるのは良いですけど暇なんですか? 暇ですよね」
「…塹壕戦は基本的に暇なもんだ。相手が攻めてこなきゃただ穴を広げるだけ」
へぇーと興味のなさそうな声が聞こえる。本当に興味がないのだろう。寝転がりながら雑誌をペラペラと読んでいた。
自分の生き死にに関係するので興味は持って欲しい。…生き死にに関係あるのは俺だけか。
銃の手入れをしつつ思う。他の配られたというボイスロイドはこんな生意気な奴らばかりなのだろうか。ちょっとだけ仲間が不安だ。
手入れを一段落つけて、汚い鈍色の空を見て仲間を想う。やっぱ不安だ。今日の夜は愚痴大会だな。
塹壕の上にかけられた木板からパラパラと埃が落ちてきた。
…振動?
塹壕の中、土が揺れる。吊り下げられている明かりが静かに振れていた。寝転がっているマヌケも気が付いたのかページを捲る手を止める。
そして爆音が響く。
「な、なんですか今の!」
音に反応して起き上がった。
今の音は着弾した音。連鎖的に聞こえないから爆撃ではない…。
「ど、どうしますかマスター!」
「報告して待機。命令が出るまでは警戒に徹する」
通信で報告後、塹壕から銃身を出しドットサイトで当たりを確認する。結月は双眼鏡で遠くを見ていた。
「…戦車?」
結月がつぶやく。
戦車なら塹壕で足を取られるか埋めてある対車両地雷でどうにかなるだろう。それよか戦車と一緒に進む人間の方が面倒だ。
暫くして、命令が伝えられる。殲滅。
「相手がたの兵士は何人くらいだ?」
「えっと、見える範囲では…十数人程度です」
ドットサイトからスコープに変更する。狙撃である程度数は減らそう。
「お前は射撃の結果報告」
「了解です」
溝の外の地面に伏して構える。
風、気圧、重力による落下、タイミング…狙撃時は普通これを考えなければならないがここは機械任せだ。そりゃ発達した文明があればそんなものもある。ピッと完了の音がしたらトリガーを引く。
「…ヒット」
報告どうも…。
ピッと補足した音のあとにトリガーに力を込める。消音器により小さくなった音が短く聞こえて。
「…ヒット」
淡々とした報告だけがしばらく続いた。
「…終わりだな」
目標は全て撃破。
時刻は晩飯時を示していた。
「ご飯、もらいに行きましょう」
頷き歩いて行くことにした。
俺はレーション。硬い栄養食品。結月はバッテリー。電力をもらっていた。小さい箱みたいなのがバッテリー。燃費良く行けば相当補給は不要になると言っていた。
もらいに行って分かったが他の奴らはボイスロイドとどうやら良い関係を立てている…と思えた。楽しそうに話をしていた。
ちらりと結月に目をやる。
…戦場だというのに、せっかく女の子がいる。話をしなきゃ勿体無いと言うもんだろ。
座り込みつまんなそうな目でバッテリーを見つめる結月に話しかけた。
「…それうまいか」
「…美味いわけないでしょ。ただまた動けるようになるだけですよ。そっちはまだ味があるだけマシってやつです」
言葉にいちいち棘のある言い方をする奴だ。
「…早く戦争が終われば良いな」
そうすりゃ美味いものが食える。こんな土臭いとこにいる必要もない。これに関しちゃ同意を得ることができると思ったが以外も返事は違かった。
結月は立つ。
「私は、戦争は終わらなくても良いと思います」
「…そりゃなんで」
バットコミュニケーションだったか。
「戻りたくないからです。ここで適当に終わった方がいい。そう思っただけです」
コイツもコイツなりの事情があるそうだ。戻りたくないと言うとそれはお前の元居たとこか。
「喋りすぎました。忘れてください」
俯いて、元いたところに戻っていく。また土臭いと文句言いながら寝転がるのか、はたまた別のことやるのか。
なんだかな。
面倒な奴が相棒らしいなと思いながらレーションをかじった。クソまずい。