戦場ボイスロイド   作:うぇへ

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第2話

 

どんなに居心地が悪かろうと任務として課されているので持ち場には戻らなければならないわけで。

ため息を吐いちまう。先ほどの会話で地雷を踏んだことが見え隠れしていた事もあり、まだ日が浅い関係故にどうその後関われば良いかも分からない。

ともかく。現在の時間を浪費することにした。その辺の段差に腰掛けて、汚い空を見上げる。

先のことなんざ知らん。先の俺が考えるだろう。恨むなら以前の己を恨むのだな。わはは。

 

「おいおい。もう相方に嫌われたか?」

空を見ている視界に、銀色短髪の男が入ってくる。

レーションかじりながら、筋骨隆々なその男が声をかけてきた。

俺は少し嫌味に名前を呼んだ。

「…田中か」

「俺はノトホールだって言ってんだろ?」

「あだ名だろ」

そいつも暇してるのか隣に腰を下ろした。

「…そっちは?」

「俺の相棒。名前は…あー」

「あかり、紲星あかりです!」

そうだった。と声をこぼす田中、もといノトホール。

そこにあかりといったロイドか声を上げた。

「あの聞きたいんですけど、やっぱりノトホール二等兵は田中二等兵なんですよね!?」

「そうだよ?」

「やっぱり! なんで田中二等兵はノトホールと名乗って、そして部隊の皆さんからもそう呼ばれてるんですか!?」

いってないのかよ。伝えろよ。お前紛らわしいんだから。

そんな気持ちを込めて原因たるそいつを見るが、レーション口に入れながら俺を見てくる。仕方なし。

「そこは俺が説明しよう。どうせこいつ言ってくれないから相当混乱したろ」

それはもう! と体全体を使って苦労を示している。なんだか結月とは対照的だ。

「最初に言った通り、こいつのあだ名がノトホールってだけなんだけどな。それをなんで部隊の皆が許してるかというと」

話を聞くあかりは言葉の続きを待っているのか喉を鳴らす。表情がよく出てて話してて飽きないやつだ。俺のとこに来てくれ。

「名前が身体に負けているからだ」

「…名前が身体に負けている…?」

理解できない様子でそのまま復唱する。なんだか見ていてとても和む。こいつ相棒とか、良いなぁ田中。

「ほら、こいつムキムキだろ。んで髪も銀色だし、肌もどちらかというと黒に近いし。田中って感じしないだろ」

「そうでしょうか…?」

「なんて言えばいいかな。田中さーんって呼んでコレが来たら人違いです…ってならない? あと名前がしっくりこない」

「お前俺の名前にそんなこと思ってたのか」

うるせ。許せ。

「えっと、じゃあノトホールって名前の由来はなんなんですか!」

「こいつの目が節穴だから」

「おい。それは訓練生のときだろう。今は問題ない」

自身の黒歴史に入るからか会話を切ろうとしてくるノトホール。もとい田中。だが暇を持て余した俺が許すかな!?

「こいつ、銃火器の狙いは下手だわ近くにいる敵すら発見できないわあげく地図読めなかったし。クククッ! やっぱこの身体にマヌケなのは残念性能だよなぁッ」

「こいつ言いやがったな!」

ちょっとだけこずいてくる。まあ部隊の中じゃ結構擦られた話しだったりするが、俺は好きだ。バカみたいで。

「そうなると…【ふし穴、節穴】を示す【knowhole】が由来ということでしょうか」

ピンポーン。正解の音を鳴らしておく。やはり機械というか、知識の引き出しは人間よりも多いらしい。

小競り合いもそろそろに、田中は口を開く。

「まあ仕切り直そう。俺はノトホールもとい田中秀樹。お前のマスター?ってやつだ」

…やっぱりボイスロイドからはマスターと呼ばれるらしい。この呼び方は複数のマスターがその場にいる時に困るとは思わないのだろうか。

改めての自己紹介にあかりは嬉しそうに目を輝かせた。

「…はいっ! 私は紲星あかりと申します! ノトホール二等兵の補佐兼相棒、バディを務めさせていただきます! よろしくお願いします!」

固く握手する二人を見やる。わあ、お花が咲きそうな空間だね。

この空気に俺は要らなそうだ。…そろそろ退却しよう。朝倉起道はクールに去るぜ。

「あ、あの! 名前はなんで言うんですか!?」

「…朝倉起道…同じく二等兵だ」

そのあとあだ名じゃないか聞かれた。怒るぞあかり。

 

「…ただいま」

「…はい」

戻った先では綺麗に三角折りに座る結月が待っていた。手には雑誌を見ていて、その表情は雑誌を見ているとは思えないほどつまらなそうだ。

正直、先ほどの空間に戻りたい。ノトホールとあかりとずっと話をしていたい。なんだこの空間は。不機嫌か上機嫌かもわからない表情の奴と俺で何をすれば良いんだいったい。

「あー、そういやさ」

そうだ。ここは当たり前の質疑応答を繰り返すとしよう。話せば機嫌も良くなるさ。多分。当社比だが。

「結月は銃とか携帯しないのか? ここも一応は戦場だし、護身用があった方が良いんじゃ」

「…私たちは基本的にロボットです。ロボット三原則はご存知ですか?」

なにそれ知らん。そう伝えると息を吐いて説明が続く。聞いたままになるが、こういうことらしい。

 

第一原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」

第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」

第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」

という原則からなり、第一原則が最も優先される。

 

簡単に言え、俺は頭が足りないことには自信があるんだぞ。

自分なりに噛み砕くなら、ロボットは人間の命令に従うが人は殺さない、けど逃げるぞ。ということだろうか。

「まあそんなところです。そして今は私たちはその三原則のルールを緩くしてここにいます。そうじゃないと人間を傷つける行動は取れませんから」

「…ルール消した方が良くない?」

それに関しても答えが返ってくる。

「私たちのプログラムの根底にそのルールがあります。消すとなると大幅なプログラムの書き換え、というよりボイスロイドの機能全て失うことになるのでコスト的にもルールを緩くして送り出した方が楽なんですよ」

へ〜、と我ながら興味がほとほとなさそうな声が出てしまった。慌てて口をつぐんだが手遅れらしい。青筋浮かべながら結月は続ける。

「…まあ、どちらかと言えば兵隊の数を増やす目的としてコストをかけてもプログラムを書き換えた方が良いとも思います」

けど。と強く言葉を打つ。

「祖国は……そんな余裕もないのかもしれませんね」

——なんと言えばいいか。俺は言葉が出なかった。さらに重くなったように感じる空気から現実逃避するように、結月が背中を預けている壁と反対の壁に背を預ける。

塹壕から見る空は、落ちてきそうなくらい重そうな空だった。

 

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