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「じゃあさ、シオンの家に帰ろっか!」
「あ、あぁ、はい。分かりました」
「あははっ、もっと気軽に接してくれていいんだって」
俺は緊張しながらもシオンちゃんの家へと向かっていった。そしてその道中で俺達は世間話をしながら歩いていたのだが……。
「…………」
(うわー……気まずいな)
そう思いながらチラリと横を見ると、そこには無言の彼女の姿があったのだ。
(やばいなこれどうしようか?)
ただでさえ人見知りなのに、こんなに可愛いシオンちゃんと一緒に歩くなんて無理だ!それになんかいい匂いもするし落ち着かない……。
「シオンさんの家はどんな感じの家なんですか?」
「え?シオンの家?普通だよ〜、ただちょっとだけ広いかな〜。あくあちゃんもいるし」
(……ん!?今聞き捨てならない単語が聞こえたような気がしたんだが!?まさかとは思うが、シオンちゃんとあくたんって同棲してるのかよ! ガチのあくシオてぇてぇ過ぎるじゃないかよ!)そんなことを考えているうちにいつの間にか家に到着していたようで、玄関の前に立っていた。
「はい到着〜」
「おぉ……これがシオンさんのお宅ですか……」
「ふふん。驚いた?w」
確かにかなり大きい一軒家で少しびっくりしてしまった。まぁでもこのくらいならまだ許容範囲だろう。しかし問題はこの後だった。
ガチャッという音と共に家の扉が開かれていく。するとそこから現れた人物を見て思わず声が出てしまった。
「あっ……」
「シオンちゃんおかえり!」
そこに居たのは紛れもなくホロライブ二期生の湊あくあであったからだ。
しかも何故かエプロン姿で出迎えてくれたではないか。これは完全にメイド服よりも破壊力があり過ぎている。
おまけに自分との身長差もあってか、余計に可愛く見えてしまうから困ったものだ。
「あくあちゃんただいまー」
「シオンちゃん、ご飯にする?お風呂にする?それともあてぃし?」
「あくあちゃん何言ってるのw」
ツッコミを入れると同時に笑いが起きてしまい、先程までの緊張感が一気に吹き飛んでしまったようだ。
(なんだこの状況……、あくシオ最高すぎる)
とりあえず俺は二人のやり取りを見ながら、突っ立っているしかなかった。
「スゥー……。シオンちゃん、そっちの人は?」
——通りふざけ終わった後、急に真面目な雰囲気になったせいなのか、あくあちゃんの目つきが変わったように見えた。
「この人はさっき、ドラゴンとの戦いで偶然出会ったんだ」
「へぇー……」
「それでね、色々あって一緒に行動することになったんだよ」
「ほぅ……」
何か言いたいことがあるようにこちらを見つめてくるあくあに、俺は何も言うことができなかった。それはきっとあくあも同じ気持ちなんじゃないかと思うほどに。
「あくあちゃん、まずは自己紹介しなよ」
「うん、分かった」
そういうと彼女は深呼吸をして、真剣そうな表情を浮かべてから口を開いた。
「皆さんどうもこんあくあ~!スーパーアイドルゲーマー猫耳メイドの湊あくあで~す!」
(やっぱりポンコツメイドだわ)
俺は心の中でそう思ったが、あえて口に出すことはなかった。
こうして俺達三人は無事に顔合わせを終えることができたわけだが、ここからが本番といっても過言ではない。
何故ならばこれから、俺の新たな人生が始まるのだから……。
「俺はリヴィス。よろしく頼む」
「スゥー……」
そういって握手をしようと手を差し出したが、無視されてしまった。
(これ絶対嫌われてるじゃん)
「あくあちゃん、はいこれお土産」
シオンは手に持っていた袋をあくあの目の前に差し出してきた。
おそらく中身はお菓子とかが入っているのだろうか、こっちにまで甘い香りが漂ってくる。
それを察したのか、あくあは目を輝かせながら嬉しそうな顔をしていた。
「あてぃしにくれるの……?」
「もちろん」
「シオンちゃんあてぃしのこと好きすぎ」
そういった瞬間、二人はお互いに見合って笑っていたのだ。
俺はそんな二人の様子を眺めていることしかできなかったが、こんなにも楽しそうにしている姿を見ているだけで俺まで幸せな気分になれた。
それから俺は、あくたんとシオンちゃんと一緒に食卓を囲むことになった。
テーブルの上に並べられているのは、とても美味しそうな料理の数々だが……。
「あてぃし、シオンちゃんが頑張っていると思って頑張っちゃった」
「ありがとうあくあちゃん。じゃあ早速食べようか!」
(んん、待てよ。あくたんって確か料理が……、いや考えないようにしよう)
そう思いながら出された食事に手をつけることにした。
まず最初に目に入ったものは、オムライスのようなものだ。見た目はとても綺麗に作られているのだが、味に関しては正直分からない。
というのも今まで食べたことないような味なのだ。
(うっ……これはなかなかだな。でもせっかく作ってくれたんだし、残すのも失礼だよな)
そんなことを考えていると、あくたんが心配そうな様子で話しかけてきたが、俺はその返事をすることはできなかった。見た目はアレだったが、実際に食べると意外とおいしい。
卵のふっくら感といい、ケチャップの量など、かなり完成度が高いものだった。
しかし、やはりどこか違和感を感じてしまう。
そんなことを考えているうちに完食してしまった。するとあくあは笑顔になりシオンは満足げに微笑んでいた。
「美味しかった。けど、シャキシャキした食感があったんだけど」
するとあくあは、少し申し訳なさそうな表情をしながら答えてくれた。
「スゥー……。もしかしてタマネギ生だった……?」
「あぁ……、なるほど」
確かに言われてみると、確かに野菜独特の風味を感じた気がする。それにしてもまさかあくあちゃんに苦手なものがあるとは思わなかった。
「ごめんね。次はちゃんと気を付けるから」
「いや、大丈夫。むしろ貴重な体験ができたから」
「あくあちゃん気にしなくていいから」
「うん……」
あくあは本当に落ち込んでしまったようで、元気がないように見える。
(こういう時は、何か別の話題を出してあげるのが一番かな?)
俺はそう考えたが残念なことに何も浮かんで来なかった。するとシオンが突然話し始めた。
「そうだ!あくあちゃんシオンの部屋に来てくれない?」
「えぇ!?なんで?」
「ちょっとね」
そういうと、シオンはあくあを連れて部屋を出て行ってしまった。
(一体何するつもりなんだ……?まぁいいか)
と言いつつ、俺はドアに耳をくっつけて盗み聞きをしていた。我ながら悪い奴だと思う。
案外聞こえてくるもので、会話の内容を聞き取ることができた。
「シオンちゃん、本当はリヴィスのことどう思ってるの?」
おい待てあくあ。なんてことを言い始めるんだ……。
今すぐに止めたかったが、ここから動くことができなかった。
そしてあくあはこう続けた。
———私は、シオンちゃんが好きだからさ。
あぁ、そういうことだったのか。全て理解できたと同時に胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。
「あくあちゃん、シオンのこと好きすぎ」
「うん……、ってそれあてぃしのセリフなんだけど!」
二人の声が聞こえる度に、どんどん心が蝕まれていく感覚に襲われた。
「シオンちゃんさ、あてぃしと初めて会った時、どんなこと思った?」
唐突すぎる質問ではあったが、きっとこの流れでは不自然では無い。だからこそ俺は黙って聞くしかなかった。
「絶対に仲良くなれると思わなかった」
「なんでそんな事言うのー!」
あくあは声が少し震えて泣き出してしまったみたいが、シオンは言葉を続けた。
「でもね、今一番仲いいかも」
「あれ……? え!? シオンちゃんもう一回言って?」
「今一番仲いいよ」
そういわれるとあくあはとても喜んでいるようであった。
それを聞いていた俺はというと……。
―——ズキッ。心に深い傷を負っていたのだ。リアルてぇてぇを目の前で体験してしまい、こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことで戸惑っていたのだ。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってね」
「うん、うん」
「ちょっと、ちょっと待ってね」
「うん、ゆっくり深呼吸して落ち着いて。って何してるの?」
そう言われるとあくあは大きく息をして心を静めた。
それから数秒後、再び口を開いた。
「もう一回言って?」
「だから一番仲いいって」
「あてぃしのこと好き?」
その言葉を言った瞬間に、あくあの心臓が飛び跳ねるような音がこちらまで届いてきた。
「ちょっと」
「ちょっとって何?」
「多少」
「多少って何?」
あくあと喋っている時のシオンは、どこか楽しげに感じた。
「多少好き」
「スゥー…………」
「やっぱりあくあちゃん照れちゃったじゃんかー!」
「今の言い方が悪いでしょ!」
「だってなんか聞いてみたくなるんだもん」
「もうっ……」
こうして二人は部屋に戻って来た。俺は平然を取り繕いながら待っていたかのように装うことにした。
***
「二人とも長かったね」
「んん……。別になんでもないからね」
何故かあくあの顔は赤くなっていた。しかしシオンは普段通りである。先程のこともあり若干不安だったが、今は気になっていることがあったので訊いてみることにした。
「それよりさっきは何の話をしていたの?」
俺がその疑問を投げかけると、シオンは少し動揺した様子を見せたがすぐいつも通りに答えた。
「あくシオは無いよ」
「無いです」
「うん。無い無い」
「あたし達はビジネスなんで」
その言葉を聞いて、少し安心した。
「うん、そうそう。アハハハハw」
「アハハハハw」
「来な!シオン」
「アハハハハw」
そんなやりとりをしていると、シオンは突然あくあを押し倒した。そしてそのまま抱き着いた。
――チュッ。
俺は一瞬の出来事だったので呆然としてしまった。
あくあも同じような反応だったらしく固まってしまっていた。しかし、シオンは構わずに再び顔を近づけてもう一度キスをした。
今度はもっと長く、深くだ。
シオンは満足そうな表情を浮かべた後、すぐに離れた。
「いつも、うーん。ありがとね。いろいろ」
「言ってくれたね……、シオンちゃん」
「話してくれたりしてw」
「シオンちゃんどうしたの?」
「ありがとうございます。いやー、本当に助かってます。心の支えです」
シオンは笑顔で応えていたが、俺は気が気ではなかった。シオンがなぜこのような行動をとったのか、予想すらできなかった。
「あてぃしが心の支えなの?シオンちゃん」
「アハハハハw、よろしくほんとに」
「シオンちゃん、あてぃしと早く喋りたくて早く帰ってきたんでしょ?」
あくあがそう言うと、シオンはハッとしたような顔つきになった。
「本当にそうそう、もう喋りたくて仕方なかっ……、あうん。あー」
「シオンちゃん?」
「これからもよろしく」
「大好き、シオンちゃん」
この瞬間、シオンとあくあの間にさらに固い信頼関係が生まれたと感じたのであった。
「なぁシオン、これからどうするんだ?」
リヴィスがシオンに問い掛けると、
シオンは不思議そうに見つめながらこう言った。
「リヴィスと旅したいなーってw」
「あー……、うん」
(シオンちゃん、これ絶対あてぃしのこと邪魔してるよね……?)
「だめ?」
こう言われてしまうと言い返すことが出来ない。
「分かった」
俺は即答でシオンと旅に出るのを選んだ。シオンは嬉しさのあまりなのか、あくあと手を握っている。するとあくあはこちらに視線を送ってきた。きっと助けを求めているんだろう。だが、俺は見て見ぬふりをするしかなかった。なぜなら、心の中で応援しているからだ。
「シオンちゃん、また行っちゃうの?」
「うん、でも大丈夫。手紙でも送るから」
「そっか。じゃあね」
そう言って手を離すと、あくあは小さく呟いた。
「シオンちゃん、頑張ってね」
シオンには聞こえていなかったようで首を傾げていた。
その後、準備を済ませて俺とシオンは家を後にしたのであった。
***
「シオン、行き先は決まってるのか?」
俺達が歩いている道中で目的地について訊いてみた。
何の目的も無く旅立つよりいいだろうと考えたのだ。
それに、シオンとは一度一緒に居たのでどこに行きたいと言われるかも少しだけ楽しみでもあったのだ。
しかし、その期待は裏切られた。
シオンは何も言わずにただ微笑んでいただけだった。
「無計画に動くのはやめないか?」
「えー、だってどこ行くとか決めない方がワクワクしない?」
それは分からないでもないのだが、今の現状ではリスクの方が大きいと思う。
「シオンが行ってみたい場所とかないのか?」
「当てもなく知らない土地を歩くっていうだけで楽しいじゃん」
「まぁ……」
「だから行こうよ~」
「俺は目的がある方がいいかな……」
正直不安なのでこのまま付いていくことは避けたかった。
しかし、シオンはそれを察していたようだ。
「ねぇ」
「ん?」
急に立ち止まったかと思ったら、俺の顔を見てきた。
「本当は付いてきて欲しい場所があるんだけど。ダメ?」
上目遣いでそんなことを言われた。
そんな表情で頼まれると断れないじゃないか……。
「いや、全然良いけど」
「やった!」
「ただし、危険なことには巻き込まないでくれよ」
「大丈夫w」
俺の言葉を聞いて安心したのか、再び歩き始めた。それからは会話も少なく、お互いどこか緊張しながら歩いていった。
「ちなみに何処に向かっているんだ?」
沈黙に耐えきれず質問してみるが、返事は返ってこない。それでも俺は足を止める訳にもいかないので再び黙って歩いた。
「リヴィスは、どんな願いでも叶うと言われている神社のこと知ってる?」
「神社……?」
「うん!そこに今向かってるところなんだよねw」
何故だろうか、嫌な予感しかしなかった。
「そこに行く目的は?」
「特に無い」
(やっぱり……)
内心ため息をつくと共に、シオンが何か企んでいるのではないかという疑念が生じた。
(神社ってことは、もしかして……)
「シオン、もしかして“電脳桜神社“に向かっているのか?」
そう言うと、シオンは一瞬立ち止まり、そしてゆっくりと振り返った。その時に見えた表情を見て、背筋に冷たいものが走った。そして、今まで見たことのないような表情をしていた。普段の笑顔ではなく、恐ろしい笑みだ。思わず一歩後ずさってしまった。
「知ってたの?」
「ああ」
「ふーん」
いつもの明るい声とは違う、低い声で話し始めたのだった。
「俺も気になっていた場所だからな」
「へぇー。気になるんだーw」
「それで、どうしてその場所に?」
「知りたい?教えてあげようか?w」
まるで小馬鹿にしているような態度を取るのが気に食わなかったが、今は我慢するしかない。そう思い、俺は言葉を返した。
「無理には言わないが……」
すると突然、シオンが顔を近づけてきて耳元で囁いた。
それはとても甘く、優しい響きだった。
———シオンさ、叶えたい約束があるんだ。
こうして、俺たちは電脳桜神社がある街に向かうことになった。