「電脳桜神社がある街までどれくらいなんだ?」
歩きながらリヴィスはシオンに質問する。
シオンはその問いに対し、顎に手を当てて少し考えてから答える。
ちなみに今歩いているのは、森を抜けた先にある草原だ。
見渡す限り草花と青空しか見えない場所である。
その景色を見ながら歩く二人はとても楽しげであった。
「シオンも知らなーい」
「おいおい……」
そんな会話をしながら進む二人だが、ふとある事に気づく。
それは――
「ん? あれって人か?」
遠くの方に見える影を見つけたのだ。
しかし距離があるためよくわからない。
「ちょっと近づいてみるね!」
「あぁ……、気をつけろよ……、ってもう行っちまったか」
シオンは走り出してしまった為、声をかける暇もなく消えてしまう。
(まぁ大丈夫だろう)
そう思いつつも一応心配なので後を追うことにした。
「リヴィス見てw」
しばらく走ると追いついたのか、こちらに向かって手を振るシオンがいた。
そして彼女の指差す方を見るとそこには――、大量のウ〇チ型のモンスターらしきものが居た。
大きさは中型犬ほどだろうか。それが大量に居るのだ。
流石に気持ち悪い光景である。
それを見て思わず顔を歪めるリヴィスだったが、シオンは全く気にしていないようだ。
むしろ目を輝かせているようにすら見える。
(そうだった……。シオンちゃんウ〇チ好きだったわ)
「ねぇ! あの子達を捕まえよう!」
「えぇ……」
どうやら捕まえたいらしい。
確かに見た目は可愛くないこともないかもしれないが、だからと言ってわざわざ触りたくはない。
そもそもこんなものを持って帰れるわけがないからだ。
「自分は先行ってるからな」
「ね゛え゛え゛え゛え゛え゛! 」
「うっせぇ!」
泣き叫ぶシオンを置いて先に進もうとするリヴィスであったが、服を引っ張られ止められてしまった。
仕方なく振り返ると、涙目になったシオンがこちらを見つめていた。
「わかったわかった……。一匹だけだからな?」
「うん!」
嬉しそうな顔で返事をするシオン。
本当にこの子は表情豊かだと改めて思うリヴィスであった。
それから数分後、ようやく目的の場所へと到着した。
***
「すぐに電脳桜神社に行くのか?」
リヴィスがシオンに聞くと、シオンは首を横に振る。
どうやらまだ行くつもりは無いらしい。
理由は単純明快で、お腹が減ってきたからである。
あくあの朝ごはんを食べてから、既にかなりの時間が経っているため仕方ないだろう。
「んじゃ、どこか食堂でも探すか」
「シオンお寿司食べたい」
二人は早速近くの店を探すことにした。幸いにも近くに寿司屋らしき店があったため入ることにしたのだが……、ここで一つ問題があった。
それはお金が無いことである。
そんなことも考えずに、シオンは店の中へと入っていく。
「へい大将!今日やってる?」
「おう、やってるぜ嬢ちゃん」
店内にはカウンター席があり、そこで食べるスタイルになっている様だ。
シオンは迷わずそこに座ったので、隣に座ってメニューを見ることにする。
「へー結構種類あるんだな」
「そうだね〜」
「とりあえず俺はマグロにしとくかな」
「シオンはエビ!エビ!」
注文が決まったところで店員を呼び出すためのベルを鳴らす。
すると、奥の方から再び中年の男性が出てきた。
「はいよぉ〜ご注文は?」
「俺はマグロの大トロを」
「シオンはエビで!もうお腹空いた!」
二人がそれぞれ注文を終えると、男性は厨房の奥へと引っ込んでいった。
そして待つこと数秒、先程の男性が寿司一貫を乗せた木皿を手に戻ってきた。
「はいよ大トロと特選エビね。ゆっくりしてってくだせぇ」
そう言い残し、また奥に戻っていく男性。
その後姿を見送ったあと、二人はそれぞれ自分の目の前に置かれた寿司に手をつける。
「ん、美味いな」
「エビが!もうこのエビを食べるために生きてきたみたいなもんだから!」
「なんだそりゃ……」
ただのお寿司なのになんというテンションだろうと思うリヴィスだったが、楽しそうなので良しとした。
「うめぇ。美味しすぎる。幸せだよ」
シオンは口いっぱいに頬張りながら答えた。
その様子を見てつい微笑んでしまうリヴィアスはゆっくりと口に運んでゆく。
(なんか懐かしいな……)
昔の記憶を思い出しつつ、リヴィスは再び食事に戻る。
「こんなに美味しいものあったら、生きててよかったと思わない?」
「あぁ、確かに。自分もこれ食えただけで人生楽しいかもって思えるくらいうまかった」
「ね?最高でしょ?」
二人は笑顔のまま会話をしていた。先程まであんなに騒いでいたのにも関わらずである。それほどまでに楽しかったのだ。
「大将!エビもう一貫!」
「あいよっ」
その後も二人の談笑は続いた。
***
それから数時間が経過し、リヴィスとシオンは街中を歩いていた。
「さっきからずっと視線感じるな……」
「シオンたちも有名になったってことだよねw」
(そういうことでいいのか……?)
疑問に思いつつもこれ以上気にするだけ無駄かと考え直し、シオンと共に武器屋の中へと入ることに。
「ん、らっしゃぃ……、こいつァたまげた……。シオン様じゃねぇかい!そんな有名人が何でここに来てるんだよ!?」
リヴィスは店主の男の声を聞いて、やはり注目されるのだと確信する。
しかし、今はそれよりも聞きたいことがあった為スルーしておくことにする。
「実は剣を探しに来たんですけど……」
「あんたの剣ならそっちにあるぜ」
男は顎を使って店の一角を指す。そこには様々な種類の剣が並べられていた。
「リヴィスなに買うのー?」
「うーんどうするか……」
シオンがワクワクした様子で聞いてきたので悩む。
正直言ってどれでも変わらない気がするが、せっかくだから自分好みのものを買うべきだろう。
とは言うものの、何が良いものなのかがわからないためリヴィスは困ってしまった。
結局決めきれぬまま適当に見繕っているうちに、シオンはすでに購入を終えていたようだ。
少し離れたところでは、シオンが購入したであろうものを試着している。
あれは……、ゴシック・アンド・ロリータの服だろうか。とても似合っている。
しばらく眺めていると、どうやらこちらに気づいたようで手を振ってきた。
それに反応して振り返すと、満足そうな顔をしながらこちらに向かって走り出し抱きついてくるシオン。
それを受け止めると、そのまま顔を近づけてくる。
「どう?可愛い?」
「ああ、かわいいぞ」
そう答えるとさらに強く抱きしめられる。そして耳元で囁かれた言葉を聞いた時、不覚にもドキッとしてしまった。
「お世辞でも嬉しいよ。アハッw」
「…….お、おう」
気まずくなった空気を変えるため話題を探すが、見つからない。
「リヴィスは良い剣見つかった?」
「それが全然分からないんだよな」
「えー、そこは分かるって言わないとだめじゃない?」
ごもっともすぎて何も言えなかった。
「じゃあシオンが選んであげる」
「おお!まじか、助かる」
「任せて。これでもハバ卒だから」
そう言ったあと、目を閉じ集中し始めるシオン。一体何をするつもりなのだろうと考えていると、突然目の前に大きなウィンドウが表示された。
腕力:760
脚力:430
体力:6700
敏捷:420
器用:290
精神:???
「なんだこれ……?」
「これはリヴィスの各ステータス値だよ。もしかして知らないの?w」
「いやまあ知ってるっちゃあ知ってるんだが、こんな風に表示されるんだなって思って」
そう言いながら、リヴィスは自分の数値を見てみる。
「シオンから見て俺のステータスはどうなんだ?」
「んー、そうだね〜。全体的に高いし、特に体力と精神がバカみたいにすごいね」
「そうか……」
「まぁ、リヴィスが選んだ武器がどんなものかによるかな〜」
そう言われてしまうと、ますます選ぶのが怖くなってきた。
だが、いつまでも悩んでいるわけにはいかない。意を決してシオンに聞くことにした。
するとシオンは手に持っていた剣を指差す。
それは、刀身から柄まで全てが真っ黒に染まった一振りの剣だった。
その剣はまるで闇そのもののような存在感を放っている。
シオンはこの剣を手に取った瞬間、何かを感じたらしい。
(この剣……、なんかヤバイ)
直感的に危険だとリヴィスも感じたのだったが、ここで引き下がる訳に行かない。
なぜならこの剣こそが、自分の求めていたものだと確信したからだ。
しかし、いくらなんでもこんな危険なものに手を出すのは躊躇われる。
そこでリヴィスはシオンに問いかけてみた。
「この剣がオススメなのか?」
もしかしたら、
「うん、これが一番いいと思うよ」
と言ってくれるかもしれないという淡い期待を込めて。
(頼むから違うって言ってくれよ?)
「うーん、どうかなぁ……」
「やっぱりダメか……」
(そりゃ、あんな危なっかしいもん勧めないわな……)
心の中で笑いながらも、内心かなり落ち込んでいた。
そんな様子を見かねたのか、シオンが再び口を開く。
しかしその口から発せられた言葉は、リヴィスの予想とは違ったものだった。
シオンはリヴィスの肩に手を置き、真剣な眼差しで言う。
そしてこう告げるのであった。
——リヴィスなら大丈夫。
根拠はない。しかし、不思議と安心感があった。
「じゃあ、これに決定だな」
「おっけー!じゃあさっそく買ってくる!」
シオンが店主の元へ行き、会計をしている間リヴィスは剣を見つめていた。
「こいつはとんでもない代物かもしれねぇな……」
リヴィスが呟いた直後、突如として黒いオーラのようなものが溢れ出す。
「うぉ!?」
驚いて声を上げてしまったが、すぐに落ち着きを取り戻す。
どうやら、ただの演出でしかないようだ。
それからしばらくしてシオンが戻ってきた。シオンはこちらに気づくと、笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。
「リヴィスー、さっきから外が騒がしいね」
「確かに、何が起こってんだろうな」
シオンと話していたその時、突然大きな音が鳴り響いて建物が揺れ始めた。
「なになになになに?地震?」
「いや、これは多分誰かが戦っている音だと思う」
「へぇ、そうなんだ」
「とりあえず外に出よう」
「わかった」
二人は急いで店を出て音のする方へと向かう。するとそこには、既に大勢の人が集っていた。
人混みを押し分けて前に進むとそこには、一人の少女と男が立っていた。お互いに剣を向け合い、今にも戦いが始まりそうである。
リヴィスは二人の戦いを止めようと一歩踏み出した時、隣にいたシオンが立ち止まった。
どうした?と聞こうとする前に、リヴィスは気づいていた。
シオンの目線が少女へと向いていることに。
「レディーファイト!」
審判らしき人物がそう言うと同時に、二人の戦闘が始まった。
先に仕掛けたのは男の方で、勢いよく斬りかかる。
それを難なく受け止めると、今度は逆に切り返す。男は咄嵯に反応して受け止めるが、そのまま押し切られてしまい吹き飛ばされてしまう。
男はギリギリ立ち止まったみたいだが、その隙を狙って少女が追い詰めていく。
「ジャキンジャキンでござる!」
「ぐぅ……ッ!!」
男の方は防ぎきれなくなり、ついに膝をついてしまった。
それを見た観客たちは歓声を上げる。
「そこまで!勝者、風真いろは!」
(あれが……、あの子が……)
リヴィスがそう思った瞬間、シオンが走り出していた。
「おい待て!」
「シオンちょっと行ってくるね」
「あ、ああ……」
リヴィスはシオンを止めることができなかった。
シオンはあっという間に、先ほどまで二人が戦っていた場所まで辿り着くと、そこに倒れている男性に向かって話しかける。
「大丈夫ですか〜w」
「お、お前は……誰なんだ?」
男性は苦しそうにしながらも、なんとか言葉を紡いだ。
「通りすがりの魔法使いですw」
「そ、そうか……。助けてくれてありがとう。俺のことはもういい·····」
男性が言い終わるか終わらないかのうちに、シオンは魔法を発動させる。
「ヒール」
すると男性の傷がみるみるうちに治っていく。
「え……、なん……だこれ……?」
「これで大丈夫ですね〜」
「あ、あり……がとう……!俺は……、まだ……やれる……ぞ」
「無理しない方がいいですよ。それにあなたは十分強いと思いますし、多分w」
シオンがそういうと、男性は少し嬉しかったのか頬が緩んでいた。
そして立ち上がり、礼を言うとどこかに行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、シオンが呟く。
その頃、リヴィスもようやく追いついてシオンの隣に立つ。
「シオン……、一体何をしたんだ……?」
「んー?回復してあげただけだよー」
「そんなことできるのか……?」
「うん、まぁ……一応……」
「すげぇな……」
リヴィスは素直に感心してしまった。
しかしシオンはなぜか浮かない顔をしている。
「何か言いたいことあるなら言ってくれ」
リヴィスがシオンの目を真っ直ぐ見つめながら言った。
するとシオンは観念したかのように口を開く。
「リヴィス、あの子と戦って来てw」
「は?どういうことだ」
突然のことでリヴィスは困惑してしまうが、シオンが続けて話す。
「なんかさ、あの娘からすごい力を感じるんだよ。だからさ、お願い!」
両手を合わせて頼み込むシオン。
リヴィスはしばらく考えた後、決心したように答える。
「わかった。今回だけだからな」
「やったー!じゃあさっそく行ってらっしゃい!」
「おう」
リヴィはシオンに見送られながら、少女の元へと向かった。
***
「まだ対戦相手って募集してるか?」
リヴィスは少女に問いかける。
しかし少女はこちらに目を向けることなく、ただ一点を見つめていた。
リヴィスはもう一度声をかけようとすると、少女はこちらに気づいたようでこちらに顔を向けた。
「まだ募集してるでござるよ」
「それは良かった。ちなみに俺はリヴィスだ。よろしく頼む」
リヴィスが自己紹介を終えると、少女は名乗り始めた。
「ホロライブ6期生 holoXの用心棒、風真いろはでござる。のっと!ニンニン!いえす!ジャキンジャキン!でござる」
いろはと名乗る少女は、腰には刀を携えており、髪は綺麗なクリーム色をおり、目はぱっちりとしていて、肌の色は白く、とても可愛らしい容姿をしていた。
リヴィスは思わず息を呑む。
(やはり、風真可愛いすぎる……)
リヴィスは内なる感情を必死に抑え込み、平静を保つ。リヴィスは気を取り直し、本題に入る。
「いろは、今何連勝してるんだ?」
その質問に、いろはの顔が曇ったように見えた。その表情を見て、まずかったかなと思ったが、すぐに笑顔に戻り答えてくれた。
「299戦299連勝でござる」
「おぉ……、凄いな……」
「それほどでもないでござる」
「それで、俺が相手でもいいか……?」
「もちろんでござる。風真はいつでも準備万端でござる」
「そうか、ありがとう。それでは早速始めようか」
そう言って二人は距離を取る。
「レディーファイト!」
そして審判の合図とともに戦いが始まった。
先に仕掛けたのはいろはだった。
いろはは一瞬にしてリヴィスの目の前に現れる。
(速いッ!)
リヴィスは咄嵯の判断で後ろに下がる。すると先ほどまでいた場所に、無数の斬撃の跡が残る。
(なんて威力なんだ……。だが、この程度なら……)
リヴィスは反撃に出るため、魔法を発動する。
「ダークサンダー・スラッシュ!」
リヴィスの手のひらから放たれた黒電撃が、一直線に飛んでいく。しかし、それを難なく避けるいろは。そのまま一気に距離を詰めてくる。
今度はリヴィスが後ろに飛び退く。しかしそれでもなお、いろはは追いかけてきた。
「いろはの剣、なんて言う剣なんだ?」
リヴィスは走りながら、ふとした疑問を投げかける。すると、いろはは少し間を置いてから口を開いた。
「風真の剣は“チャキ丸“でござる」
「え?なんだって……?もう一回言ってくれ」
「だから、"ちゃきまる“ でござ……」
リヴィが聞き返した瞬間、リヴィスの頬の横ギリギリのところを何かが通過していった。そして背後の木に大きな傷跡が刻まれていることに気づく。
「危ないじゃないか!殺すつもりなのか!?」
「ちょっと力を込めすぎたでござる」
「おい……」
「冗談でござる」
「お前なぁ……」
そんな会話をしているうちに、リヴィといろはの距離は大きく開いていた。リヴィスは足を止め、いろはも立ち止まる。リヴィは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
すると、いろはが話しかけて来た。
「リヴィス殿は魔法を使うタイプなのでござるな」
「あ、あぁそうだが?」
「なら、魔法を使わせないようにするでござる」
「どういうことだ?」
「こうすることでござる」
いろはが言い終わると同時に、リヴィスの視界からいろはが消えた。
慌てて周りを見渡すリヴィスだったが、どこにいるのかわからない。
リヴィは警戒しながらゆっくりと歩き始める。
その時、リヴィの首元に冷たいものが当てられた。リヴィは冷や汗を流しながらも、冷静に対処しようとする。
「そこかっ!」
「残念、外れでござる」
「ならここだ!」
「ちょっと危なかったでござる」
それから二時間後・・・
「もう引き分けでいいんじゃないか?」
「しょうがないでござる」
「んじゃ、引き分けってことで」
風真いろはとの一騎打ちが始まってから二時間半後、結局引き分けで勝負がついたのであった。