俺はお前を信じきれなかったのか。
お前がいたあの世界は最高だったかもしれない。別にお前が居なくなったから俺は紫咲シオンを好きになったわけではないことを分かってくれ。
俺はお前が大好きで、紫咲シオンも同じくらい好きになったんだ。
こんなわがままをどうか許してくれ。俺もまだこの世界に馴染んでいないだけなんだ。
もしかしたら、この世界でいつかまた会える日が来るかもしれない。
その時はよろしく頼む·····。
***
「シオン、起きてたのか?」
リヴィスがそう言うと、シオンが近付いてきた。
「リヴィス寝ながら泣いてたね」
「いやまぁそれはそうだろ……」
そんなことより何の話をしていたんだろうか?まさか俺の独り言を聞いてたりしないよな……、もし聞いていたらどうなるか……。
「悪夢でも見てたの?」
「少し昔のことを思い出しちゃっただけだ、気にするな」
ただ昔と言ってもこの世界の話ではない。 そもそも言えるはずもなく誤魔化すように適当にはぐらかす。
それにしてもさっきの夢は何だったんだ。ああ目覚めたら思い出せない、ならいいか……。早く準備しないとな。
「今日は電脳桜神社前の大通りまで行って、そのまま電脳桜神社に行くんだよな?」
「そうだよ」
二人は手際よく着替えると部屋を出た。
この宿から電脳桜神社前の大通りまではそんなに距離は離れていない。
大体五分あれば着くだろうと思っていると、シオンが話しかけてきた。
「ねぇーあれ見てー」
歩きながらも周りを見回してみるが何一つとして代わり映えのない建物だらけだ。
そんな中歩いているうちに何かを見つけたようで立ち止まった。そこを見てみるとそこには看板があったのだが、なんて書いてあるか読めなかったのだ。
「シオン、なんて書いてあるんだ?」
「ふっふ〜!リヴィス読めないのw」
……ムカつく顔しやがって。こうなったら意地悪をしてやる! リヴィリスはニヤけを抑えつつ聞き返した。そしてわざともう一度聞いてみた。するとシオンは明らかに動揺した表情を見せ始めたのだ。
「へぇ~聞こえないぞ!」
こう言われると思っていなかったであろうシオンの顔は次第に赤くなっていった。それを見た途端急に申し訳なくなってきたためこれ以上いじるのをやめることにした。
「すまん、教えてください」
「この先、桜大通り祭開催中って書いてあるよ」
「おおそうなのか!」
お祭りと言う言葉を聞いただけでテンションが上がるのは男の性なのかなんなのか分からないところだが今は素直に感謝したい気分である。
祭りと言えば食べ物屋台やゲームセンターなど色々楽しめるものばかりなのだから当然といえばそうである。
そこから歩く速度が上がり、気が付けば走っていた。
「リヴィス速いッ!」
いつの間にか距離ができてしまっていたようだがお構いなくだ。走って追いつけば良いだけ。そこでシオンの声を聞き振り向くと、息を切らせつつも頑張っている姿が目に入った。
「大丈夫か!?」
心配になり声を掛けるが返事がない、ただ呼吸を整えようと必死になっているだけのようであった。
「おいっ!シオン平気か?」
「うぅ……、なんとか」
「無理そうならいってくれれば良かったものを……」
「だってリヴィス一人で行っちゃったじゃん……」
そんなこと言われても知らないわけだからしょうがないことだよと言いたかったが、流石に今の一言でその気持ちが吹っ飛んだことは内緒にしておこう。
「やっと着いた〜」
はぐれないようにと手を繋ぎ二人で並んで歩いていたが、目的地に着いたことにより繋いだ手が離された瞬間を逃さず今度はこちらから手を握ってやった。するとすぐに握り返され指も絡め取られてしまった。恋人つなぎと呼ばれるものである……。
「あっ、ごめん……。嫌?」
「いやすまない、嬉しくてつい……」
(俺は何言ってんだろう……。恥ずかしすぎる)
***
電脳桜神社前の大通りは名前の通り、道なりに物凄い沢山の桜の木があり今年も見頃を迎えていた。
二人共しばらく眺めていたが、そんな暇はなかったと思い出し辺りをよく見てみることにした。まず最初に目に付いたのは大きなテントだったのだが、中には人が一人しか居らずどうやら休憩所として使われているらしい。他にも見たことのないような機械が大量に置いてあり、何に使うのか全く検討がつかないものであった。
「シオンりんご飴食べたいなー」
「分かった買ってくる」
近くにあった為すぐ買いに行ったが、結構列が出来ていたため思ったよりも時間がかかってしまった。
「すまん……、待たせたな……」
「おっそーい!待ちすぎて溶けちゃうかと思ったんだぞ〜?」
そんなことを言いながら、先程買った棒メロンを食べていたのであまり待っていなかったことはすぐに察しがついた。そんなことよりなんだか違和感がある……どこだろう?あぁ髪飾り付けてたんだな。そして服装もいつの間にか浴衣に着替えている。
「シオン、それ似合ってるぞ」
褒められたことが余程嬉しいらしく笑顔を見せていたが、照れ隠しだろうか食べるペースが上がったように見えた。
「ありがとう。リヴィス、早く食べないと無くなちゃうよ?」
「そうだな、じゃあお腹いっぱいにならない程度にいただくわ」
それから少しの間、黙々とお互い目の前にある食べ物に夢中になっていた。
リンゴ飴は美味しかったが、緊張で味覚が無いためイマイチどんな風に楽しめばいいのか分からなかった。
「なんかこういうのって初めてかも」
唐突にシオンがそう呟いたため何かあるのかと期待してしまう。しかし、特に何か特別なイベントが開催されるわけではない。だが周りを見てみるとみんな和服を着ており、とてもお祭りといった雰囲気があった。それにしても、人が多くなってきている。一体どこにこれ程の数の人間がいたんだと思うくらいだ。
「シオン、何か困っていることはないか?」
「んっ?ないよ?どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、なんでもない」
ただ心配になっただけなのだが、何故か胸騒ぎがする。これは気のせいだと自分に思い込ませようとする。でもやっぱり不安は拭いきれなかった。シオンの手を握る力が強くなっていたことに気付かなかった。
「電脳桜神社はずっと真っ直ぐ行けば着くみたいだな」
「うん」
シオンはあまり元気がなく上の空と言った感じである。
さっきから何を考えているのかさっぱりわからないのだ。
いつもならうるさいほど色々聞いてくるはずなのに、今日に限っては会話が少ないのである。
「ねぇリヴィリス」
「どうした?」
ようやく話してくれたのだがその声はとても弱々しくどこか寂しげである。
「手握っても良いかな?」
「別に構わないけど……」
シオンから頼まれるとは珍しいことだ。普段甘えることがない分素直に喜べない自分がいるが今はそんなこと考えている場合ではない。
シオンの手を握り返すとぎゅっと強く力を入れられた。
「痛いんだが……。もう少し緩めてくれないか」
「ごめんw」
「全然笑えない冗談言わんでくれ……」
一瞬だけ見せた顔はすぐに暗く悲しく見えた顔に戻り俯き気味である。やはりおかしい。
シオンが何を考えていて何故こんなにも落ち込んでいるのか分からない。
しかし、今は電脳桜神社に急ぐしかないであろう。
しばらく歩いて行くと、大きな鳥居が目に入った。どう見ても普通より大きいそれは恐らく特別製なのだろうと推測できるほどのものだった。
「おいおい、この階段何段あるんだ?」
「ジャンケンしながら行く?」
「バカ言うんじゃねー!」
と言いつつ負けてしまったのだが、まぁ結果は言わないでおこう。
十分くらい登っているが流石に疲れて来た……。もう限界だと思い休憩することに決めようと思ったが、ふとシオンの方を見てみると何食わぬ顔をして登っていたのであった……。
「ちょっとは手加減してくれてもいいじゃないか……」
「ごめんごめん、楽しくてついついテンション上がっちゃったんだよね〜」
なんて嘘丸出しの笑顔を見せられてもなんも嬉しくはない。
「おっ、やっと頂上が見えてきたな」
長い長い道のりを乗り切り遂に到着したのだが……、そこには予想外の景色が広がっていた。綺麗な桜の木々に囲まれたその場所はまるで桜の森の中のようで幻想的な風景が広がっている。
あまりの美しさに見惚れていると後ろからも物音が聞こえた気がしたが、そちらに目を向けてみると……
またもやその光景が視界に入るなり言葉を失ってしまった。
そこにいた少女はこの世のものとは思えない美し過ぎる容姿をしており、腰にまで伸びた赤色の髪が風によって舞い踊るように靡いている様はまさに神秘的である。
そんなことを考えながらも、自然と見蕩れてしまっている自分がいることを自覚すると慌てて視線を移した。
(やばいぞ……、完全に見つめてしまっていた)
「やはり、電脳桜神社はみこちか」
俺の声に反応したみこちと呼ばれた人物はこちらを振り向くと、満面の笑みを浮かべ話しかけられた。
その時だった……、突然強風が吹き荒び思わず倒れそうになった。
咄嵯に身体を支えようとしたところまでは覚えているんだが……、その後の記憶が全く無い。
***
目が覚めた。ここはどこだろう?と思ったが、どうやら電脳桜神社の中であることは間違いないだろう。周りには誰も居なく、静まり返っており人の気配を感じ取ることは出来なかった。
「にゃっはろー」
背後からいきなり声を掛けられ振り向いたところ、先程の少女の姿が目に映る。
どう反応すれば良いのか分からず黙り込んでしまうと、彼女は不思議そうな表情で覗き込んできた。
「にぇ?」
変な声を出しながら首を傾げる様子に、少しだけ可愛いと思ってしまいドキッとしてしまった。
しかし、すぐに我に帰ると、俺は一体何をしているんだろうと自己嫌悪に陥った。
とりあえず、目の前にいる彼女に事情を聞くことにした。
「えっと君は一体誰なんだ?それにさっきのあれは何なんだ?」
質問攻めをしているにも関わらず、嫌がらず答えてくれた。
「にゃっはろー、エリート巫女のさくらみこだにぇ」
さくらみこはそう名乗ると、続けて説明してくれた。
まず、あの時起こったことについてだが、簡単にまとめるとこういうことらしい。
強風に煽られて倒れたところを受け止めようと近寄ったのは良かったものの、間に合わずにそのまま倒れてしまい頭を強く打ってしまった。
そして、みこちは気絶した俺の看病をしていたということらしい。
それを聞いて申し訳ないことをしたと思い謝ろうとしたのだが、それよりも先に彼女が口を開いた。
「なんでここに来たにぇ?」
「え?」
「ここには来るなって言われているはずにぇ」
「俺はそんな情報聞いたことないが?」
そんな話初耳である。そもそもこの神社について調べたことも一度もない。
すると、途端に[[rb:彼女 > みこち]]の顔が曇り始めてしまった。明らかに様子がおかしい。
何か不味いことを言ってしまったのだろうか……。
しばらく沈黙が続いた後、ようやく口を開いてくれたのだが、その内容は衝撃的なものであった……。
[[rb:彼女 > みこち]]の話を要約するならばこうである。
さくらみこは電脳桜神社を管理しており、電脳桜神社に来る者は例外無く監視されているとのこと。
その理由については教えてくれなかったが、恐らく神社の秘密に関わる事なのだろうと勝手に推測していた。
どうやらこの電脳桜神社の本堂に吊るされている大鈴がある。この大鈴を鳴らしながら願い事を心に込めると叶うらしい。
しかし、この神社では過去に願い事の代償として何人もの人々が行方不明になっているというのだ。
とはいえ行方不明になったことは知られることはなく、願いが叶うという噂を聞き付けた者が次々と訪れては消えていった。
その結果、いつしかこの場所には来てはならない場所として恐れられるようになったのだという。
しかし、神社を管理する者として放っておくことが出来ず、ずっと一人で見守っていたそうだ。
そこで気になったのが、何故そこまでして守ろうとするのかということだ。
「電脳桜神社はずっと一人で見守っているのか?」
「そうだにぇ·····」
「どうして……、こんな危険な場所にたった一人だけでいるんだ……?」
「それは……、言えないにぇ」
さくらみこは悲しそうな顔をしながら俯き、それ以上何も言わなかった。
これ以上は聞くべきではないのかもしれないと思ったが、どうしても聞きたいことがあったので思い切って聞いてみた。
「昔何かあったのか?」
その問い掛けに対して彼女は一瞬躊躇ったがゆっくりと語り始めた。
彼女の口から語られたのは、自身の過去であった。
昔、さくらみこには一緒に電脳桜神社を守っていたビジネスフレンドが居たらしい。
彼女はとても歌が上手いらしく、さくらみこが落ち込んでいる時はいつも歌で励ましてもらっていたという。
そんなある日のこと、彼女はさくらみこも知らなかった神社の秘密の部屋を見つけた。その部屋には物凄く大きな鈴が吊るされており、それ以外は何も無い部屋だったらしい。
彼女は興味本位でそれを鳴らすと、そのままどこかへと消えていってしまった。そしてその瞬間を見てしまったさくらみこは、この電脳桜神社の秘密の部屋に入らないように監視をすることにしたらしい。
「監視を始めたなら、他の人も食い止めることが出来たんじゃないか?」
「出来なかったんだにぇ……」
「どういう意味だ……?」
彼女は悔しそうな表情を浮かべながら言葉を続けた。
「二人目を食い止めようと監視をしてたのに、そのまま寝ちゃったにぇ」
「は·····?」
「それで目が覚めたらもう三人目が来た後で止められなくて、結局四人目の犠牲者が出てしまったにぇ」
「完全にPONじゃねぇか·····」
まさかの出来事に思わずツッコミを入れてしまうと、彼女は少しだけ恥ずかしそうに笑っていた。
「だから、みこはこの神社から出ることが出来ないんだにぇ」
彼女が見せた笑顔はとても眩しく、希望に満ちた表情をしていた。しかし、同時に無理をしているような感じがした。
「電脳桜神社はみこちにとって大切な場所ってことは分かる。だが、このままではキリがないな」
そう呟いた直後、さくらみこは突然泣き出してしまった。
理由を聞くと、自分のせいで沢山の人が犠牲になってしまったことに責任を感じているという。
確かに、神社に訪れる者が居る限り永遠に続くだろう。
しかし、俺はそんなことよりも目の前にいるみこちを放っておけなくなっていた。
「そういえば、シオンを見なかったか?」
「えっ?見てないにぇ」
「そっか」
俺はみこちに背を向けると、本殿の中へ入っていった。
「え、ちょっと待ってよ!」
みこちの声を無視して奥まで進むと、そこには太い紐を手に持っているシオンが居た。
「シオン·····!お前·····!」
俺が質問すると、彼は手に持っていた紐を見せてきた。よく見ると、それはただの縄ではなく、神社などで良く見かける注連縄と呼ばれるものであった。
リヴィスはシオンを止めようと声を掛けたが、既に遅かったようだ。
「チャリチャリチャリ!」
大鈴の大きな音が鳴り響くと同時に、辺り一面が真っ白な光に包まれた。
そして、視界が晴れるとそこにシオンの姿は見当たらなかった。
代わりに、先程までの弱々しい姿とは一変したみこちが立っていた。
その姿は巫女服のような衣装を着こなしておりまるで別人のようだったが、その顔立ちや声色は間違いなく[[rb:彼女 > みこち]]そのものだった。
「シオンを救いに行けないのか?」
「残念だけど行かせられないにぇ。それにあの[[rb:子 > シオンちゃん]]はもう戻って来れないかもしれないにぇ。でもみこはこの神社を守らないといけない。それがみこの使命なんだにぇ。だから、ごめんなさい……。みこは……、ここから動くことは出来ないの……」
彼女は悲しそうな顔をして俯いていた。
「この大鈴は願いを込めれば誰でも行けるんだよな?」
「うん……、そうだにぇ……」
「それなら、今すぐ行くぞ」
「…………はぁ!?」
さくらみこは素っ頓狂な声を上げると、信じられないという顔をしながらこちらを見つめていた。
「みこは……、みこはここから動けないし、誰も帰ってきたことはないのに·····?」
「ああ、知ってるさ」
「どうして……、どうして行くんだにぇ?」
「そりゃあ、シオンが好きだからだ」
そう言うと彼女は驚いたような表情をしていたが、すぐに納得してくれたのか小さく微笑んでいた。
「分かったにぇ」
「ありがとう、さくらみこ」
彼女の手を握り締めると、彼女は照れくさそうな顔をしながら笑っていた。
大鈴に触れるとみこが言っていた通り、目の前に光の扉が現れた。その先に何があるのかさっぱり分からないが、恐らく現実世界ではないことは確かである。覚悟を決めて飛び込むしかないだろう。俺は意を決してドアノブを握ると勢いに任せて開いた。
そのまま中に入ると、そこは不思議な空間に包まれていた。