「あの初老は総帥、ラプラスを助ければ何とかなるとしか言わなかった。つまりだな·····」
そこで言葉を区切り、ラプラスに視線を向ける。
「初老の言っていることが本当か、嘘かは吾輩にも分からない」
「そりゃあそうだよな·····」
ラプラスが肩をすくめながら呟くように言う。だが、俺は内心では少しだけ驚いていた。
まさか俺の考えと同じ考えを持っているとは思わなかったからだ。
「風真は準備出来たでござる」
「そうか。じゃあ行くぞ」
「了解!」
「出発でござる!」
全員の準備が完了したことを確認してから、俺たちは再び走り出した。目的地はもちろん·····、どこだ?とりあえず、ラプラスと初めて出会った場所に向かうことにした。
しばらく走っていると前方に大きな扉が見えてきたため、その部屋に駆け込むようにして入った。
そこは先程の部屋よりも広くなっており、奥には祭壇のようなものがあった。そして部屋の中央には巨大な魔法陣があり、それが青白く光っていた。
「あれは何なんだ?」
「おそらく転移魔法の類いでござる。しかし、これはかなり高度な術式なので風真でも無理かもしれないでごさる」
どうやらこの転移魔方陣はかなり複雑らしく、普通の人なら発動すら出来ないらしい。ただ一つ言えることは、これを起動出来るのはこの世界でただ一人しかいないということだった。
ちなみに何故分かるのかと言うと、前に一度似たようなものを見たことがあるから分かったのだ。
それはラノベとかでよく見る定番の設定だからである。
「じゃあ吾輩が試してみるわ」
「頼むぜ」
「ラプラス頑張れでござる」
全員が声援を送る中、ラプラスがゆっくりと歩いていく。そして祭壇の前に立つと目を閉じて深呼吸を始めた。すると突然、辺り一面が激しく揺れ始めた。まるで地震のように地面が大きく振動し始め·····たが、それもすぐに収まった。
「ラプラスじゃダメってことか」
「残念だけど仕方ないでござる」
「いや待ってくれ!吾輩今一瞬何か見えた気がするんだが!?もっかいやっていいかな!」
「別に構わないが、大丈夫なのか?」
「リヴィスも一緒に来て欲しい」
ラプラスの言葉を聞き、リヴィスとラプラスが歩き出し今度は祭壇の前に立つのではなく魔法陣の中心に立った。そのまま再び目を閉じると集中するように息を整えた。
「よし、やるぞ」
「いつでも良いぞ」
二人は同時に手を前に突き出すと呪文を唱え始める。
「"我は汝らを召喚する者なり" "契約に従い我が元へ馳せ参じろ"」
詠唱が終わると二人の足元にある魔法陣が強く輝きだし、やがて視界全体が真っ白に染まった。
それから数秒後のことだった。
ラプラスとリヴィスの立っている場所が動き出し、徐々に下へと移動し始めた。それに伴って景色が変化していき、気付けば目の前に大きな門が現れていた。
二人が門の前まで移動すると同時に門が開かれていく。完全に開ききると、そこには大勢の人が立っていた。
「ラプラス、この光景見たことないか?」
「ああ見覚えがある·····。確かここは王都だ」
「もうすぐラプラスが現れる頃じゃないか?」
「確かにそんな感じはするが·····、ん?なんか様子がおかしいな」
ラプラスと話している最中にふとあることに気付く。それは何故か人々が慌ただしく動いていたからだ。しかも武装している兵士のような人たちもいる。
そんなことを思っていると、空から例の如く一人の少女が舞い降りてきた。
「刮目せよ、吾輩の名はラプラス・ダークネスだ!貴様にも吾輩の力を見せてやろう。深淵より現れし英霊たちよ 黒き炎は我が腕に 漆黒なる闇は我が心にエデンの星は我が手中に、吾輩の名の下に今集え!アブソリュートダークネスインフィニティ!」
「ラプラスこんな事言ってたのか」
呆れた様子で言うと、隣にいたラプラスは顔を赤くしながら恥ずかしそうにしていた。
「リヴィス、隣に誰かいる」
「俺にはよく見えな·····、いや、ハッキリ見えた」
「あれは·····、絶対にシオンだ」
「吾輩には男にしか見えない」
俺の隣にいるラプラスは男にしか見えないらしい。だが、俺の目に見えるのは黒いローブを身に纏う女性は絶対にシオンだ。
その女性は俺を見ると優しく微笑みかけてくれた。俺はそれに答えるように小さく頭を下げてから、ラプラスの方を見る。
「ラプラス、初老は見えるか?」
「··········うん、見えた。リヴィスが言うシオンの隣に立ってる」
「そうか。なら間違いなさそうだな」
「リヴィス、どうやって初老の元に行く?」
そう聞かれたので少し考える。まず一番の問題として俺たちの姿が向こうから認識出来るかどうかだ。
もし仮に出来たとしても、俺たちの声が届くかどうかは分からない。
「この大勢に紛れて行けばバレないのではないか?」
「リヴィスがそう言うなら、吾輩はそうする」
「了解。少しずつ進んで行くぞ」
そして行動を開始した。
なるべく目立たないよう慎重に進みながら、なんとか人の群れから抜け出すことに成功した。
そのまま一気に駆け抜けようとした時だった。突然、何処から現れたのか知らない兵士が道を塞ぐようにして立ちはだかったのだ。
その男は腰に差している剣を抜き放ちこちらに向けてきた。
どうやら見逃してくれるつもりはないらしい。
「そこの男止まれ」
「悪いけど急いでるんだ」
「なら力づくで通るといい」
男が一歩踏み出すと、周りで見ていた群衆たちが一斉に騒ぎ出した。そして武器を構えて襲ってくる兵士たちを見てため息をつく。
「おやおや、お主らはリヴィスと·····」
「吾輩はラプラス・ダークネスだ」
「······」
「おい、なんで黙ってんだ」
ラプラスが名乗った瞬間、周りの空気が変わったような気がした。
そして何故か全員の動きが止まった。
まるで時間が停止したかのように。
「お主ら、時空を越えてきたのか?」
「まあそういうことになる」
「やはりのぅ·····」
「何がやっぱりなんだ」
「つまり、真相に気付いてしまった。そういうことじゃろ?」
恐らくこいつは全てを見通した上で話している。ならば、ここで誤魔化しても意味がない。
「ジジイ、お前は電脳桜神社の大鈴を利用しただろ?」
「ほう、そこまで分かってしまうとは。流石はリヴィスと言ったところかの」
「答えろ、あの神社は何のために存在する?何故、あんなにも厳重に守られていた?そもそも、どうして神隠しなんてものが存在する?全て説明しろ」
「ふむ、いいだろう。教えてやるわい」
「待ってくれ、吾輩を置いていくな!」
ラプラスが何か言っているが無視して会話を続ける。
この老人は信用ならない。
油断すれば何をされるかも分かったもんじゃないからだ。
だからこそ、警戒しておく必要がある。
「ワシがあの神社の大鈴を利用したのは、あの大鈴に強大な魔力が秘められておるのじゃ」
「だからそれがどういうことだ?まさか、あれを使って異世界に行けるとか言わないよな?」
「その通り。この世界とは異なる世界に行くことができるんじゃ」
その言葉に思わず絶句してしまう。
そんなことが可能なはずないからだ。
しかし、目の前にいるこの爺さんは本当に人間なのかと疑ってしまう。
それほどまでに規格外の存在なのだ。
そんなことを考えていた俺に対して、ラプラスは不思議そうな顔をしながら首を傾げてきた。
おそらくラプラスは俺が何を考えているか分かっていないはずだ。
「ワシは求願魔法を完成させ、あの大鈴と合体させたのじゃ」
「それは本当ですか!?」
「誰だ!」
突如、背後から声をかけられた。
振り返るとそこには見覚えのある女性が立っていた。
「あなたたちは·········」
「シオン、今までどこに行っていたんだ?」
「シオンはずっとここにいましたが·······。あっ!そういえば、さっきまで私の隣にいたはずの人が消えてるんですけど知りませんか!?」
シオンの言葉を聞いて俺はラプラスの方を見た。するとラプラスは俺の視線に気づいたのか慌てて顔を背けた。
「いや、知らないが?」
「それより、なぜシオンの名前を知っているの?」
「そりゃあ、ずっと一緒に居たからだろ·····?忘れてしまったのか?」
「いえ、シオンはあなたのことを全く存じ上げておりませんでしたが」
「なっ······?」
まさしく青天のへきれきだった。
シオンが俺たちのことを知らなかったという衝撃的な事実を突きつけられた俺は、しばらくの間呆然としていた。
だが、すぐに我を取り戻してラプラスの方を見る。
「ラプラス、お前の仕業か?」
「違う、吾輩は何もしていない」
「嘘をつくのならもっとマシなものにしなさい」
「吾輩は本当の事を言っただけだ」
「なら、誰がこんな真似をしたというのだ」
「吾輩は知らない」
「そうか」
「信じるのか?」
「ああ、もちろんだ。お前はこういう時に冗談を言う奴ではないからな」
その言葉を聞けて少し安心する。
もしこれで信じてもらえなかったらどうしようかと思っていた。
それからしばらく沈黙が続いた。
そして最初に口を開いたのはこの場で一番年長者である初老だった。
初老は顎髭をさすりながら、こちらを見つめてくる。
まるで値踏みするような目つきだ。
そしてニヤリと笑うとこう言ってきた。
「それで、お主らはここに何をしに来たのじゃ?」
「ジジイ、お前をこの場で消すために来た。それ以外の目的は無いな」
「ほう······面白いことを言うではないか小僧め」
「なら、試してみるんだな」
「いいだろう、ワシが直々に手を下してやるわい」
そしてリヴィスは剣を抜き放った。
それを見て、周りで見ていた群衆たちが騒ぎ出す。
「おい、あいつら戦うつもりらしいぞ」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「でも、面白そうだから見てみようぜ」
「それもそっか」
こうして、初老とリヴィスの決闘が始まった。
***
周りの反応など気にせず、二人は睨み合う。
一触即発の雰囲気の中、先に動いたのはリヴィスだ。
彼は手に持っていた剣を振りかざすと、地面に叩きつけた。その瞬間、地面が大きく揺れ動き始めた。
まるで地震のように激しく大地が震える。
「ほう、なかなかやりおるな」
「余裕ぶっている暇があると思っているのか?ジジイ」
リヴィアスはもう一度、今度は逆方向に振り下ろした。
すると、先程よりも大きな振動が起きて辺り一面に亀裂が走る。
しかし、それでもなお初老は涼しい顔を浮かべていた。
それと同時に彼の足元が光輝き始める。次の瞬間、巨大な爆発が起きた。
凄まじい爆風が吹き荒れる中、爆心地には無傷の初老の姿があった。
その光景に驚きながらも冷静に分析を行う。
(まさかとは思ったが、やはり魔法か)
恐らくあの老人は何らかの魔法を使っている。でなければ説明ができないほど強力な攻撃を受けて尚、ノーダメージなんてことはあり得ないからだ。
ただ気になる点がいくつかある。
まず、ジジイが使っているのは雷系統の魔法のはずだが炎のような色をしていた。次に威力もおかしい。
普通の魔法使いならばあそこまで大規模な破壊は起こせないはずだ。少なくとも俺が見た限りでは無理だと判断せざるを得ない。となると、あのジジイは何かしらの秘密を隠していることになる。
「考え事か?随分と余裕だな」
「悪いな、つい癖なんだ」
「ふんっ、まあいい。次はこっちの番じゃ」
そう言うと、初老は杖を掲げた。
すると空中に魔法陣のようなものが出現し、そこから火球が次々と飛び出してきた。
俺はそれを素早く避けていく。
しかし、火球は追尾機能でもあるかのようにしつこく追いかけてきた。
仕方なく俺は水属性の魔力を纏った剣を振るう。すると、火球は一瞬にして消滅した。
だが、その隙に距離を詰められていたようで目の前に初老が迫っていた。
初老はその見た目からは想像できないほどの速さで拳を放ってきた。
「くッ·····!」
なんとかギリギリのところでガードしたものの、かなりの衝撃が襲ってきて数メートル後ろに後退させられた。
「ほれ、まだまだ行くぞ」
そして休む間もなく次々と攻撃を繰り出してくる。
俺はそれらを全て捌ききるが、反撃するタイミングが全く掴めない。
「どうした?防ぐだけでは勝てんぞ?」
「うるさいなぁ、もう勝ったみたいな口調をしてんじゃねぇよ」
俺は足を踏み込み一気に間合いを詰めた。だが、それがいけなかったのか初老はニヤリと笑みを浮かべると、なんとこちらの攻撃を避けずに腕を差し出した。
「バカめ、そんなもの効かんわ」
「ちっ······」
案の定というべきか予想通りの結果になった。
いくら殴ってもまるで効果が無いようだ。
このままではキリがないと判断した俺は一旦距離を取った。「逃げても無駄だということが分かるまで頭は悪くないようじゃのう」
「黙ってろクソ爺。それより、一つ質問してもいいか?」
「なんじゃ、命乞いなら受け付けてやらんこともない」
「なぜ、お前はそれほどまでに強大な力を持っている?」
「ほう、なかなかいい着眼点を持っておるな。確かにこの力は異常じゃ」
「認めるのか?」
「当然じゃろう?今のお主を見てワシと同じぐらいの力があると考える方が馬鹿げておる」
つまり俺とこのジジイは同じ程度の強さということか。ということは今のこいつは本来の実力の半分も出していないということになる。
それを知った瞬間背筋に冷たいものが走ったような感覚を覚えた。そして無意識のうちに口角が吊り上がる。
「ふぅー·····いいぜ、面白くなってきたじゃないか」
どうしようもなく気分が高まってきてしまう。
まるで戦いが好きになってしまった獣みたいだ。自分を抑えられないほど興奮しているのが分かる。おそらく自分で思っている以上にストレスを感じていたのだろう。
「リヴィスよ、そろそろ終わらせようかのお」
「それはこっちのセリフだジジイ」
そして両者は同時に動き出す。
剣を構え一直線に向かってくる初老に対して、こちらも応戦する。
「アクアバレット!」
二つの水弾を同時に放ってくるが、最小限の動きで避ける。そのおかげで体勢が少し崩れた。そこを狙って鋭い蹴りが飛んで来る。咄嵯に剣で防御するが威力を殺しきれず後方へ吹き飛ばされた。そのままゴロンゴロンと転がっていく。
「さすがに硬いのう。なかなかダメージが通らなかったわい」
「チィッ、やってくれるじぇねえの」
痛む体に鞭を打ちながら何とか立ち上がる。そこで異変に気付いた。体が思うように動かないのだ。まるで鉛を背負っているかのような錯覚に陥ってしまうほどだった。
「気づいたかい?これは一種の呪縛のようなものだよ。動けば動くだけ体を蝕んでいくように出来ているのじゃ。ちなみに、解除方法はないからのう」
そう言って不敵に笑う初老の顔はどこか愉快そうだった。
その態度がさらに怒りを増大させていくが必死に理性を保つ。ここでキレたら終わりだと自分に言い聞かせて深呼吸をする。それから再び戦闘態勢に入った。
***
あれからどれくらい時間が経っただろうか。
俺達は未だに攻防を繰り広げていた。初老は終始笑顔だったが、俺は汗が止まらず表情も強張っていた。しかしそれも無理ないことだと思う。
なぜなら先程までの猛攻が可愛く思えるほどの攻撃を受け続けているからだ。それでもなんとか凌ぎ続けていたのだが、とうとう限界が来たらしく膝が崩れ落ちた。初老はその様子を見ても追撃を仕掛けてこなかった。
ただ呆れた顔を向けてきているだけだ。
「ここまでよく持った方かもしれんの。まあこれでやっと楽しめそうじゃ。感謝せねばならんのぉ」
何を言っているんだコイツは?と思いながらも息を整えつつ剣を構える。だが体は言うことを聞かずガクンガクンしていた。そんな状態を見兼ねてか初老はゆっくりと近づいてきた。
「リヴィス、終わりじゃ」
「まだ······終わって······ねぇ·····!」
初老の攻撃を避けることも出来ずただ無抵抗に攻撃を食らうことしか出来なかったが、最後の気力で反撃をした—―だが簡単に防がれてしまった。
そのせいでまた意識を失いそうになる。
俺は歯を食いしばりなんとか耐えようとするが、どうにもならなかった。すると、不意に初老の姿が消えた。と思った矢先には既に目の前に立っていた。
俺はもう終わったと確信して目を閉じた。
しかしいつまで経っても衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けるとそこには信じられないものがあった。初老の腕を一人の女性が握って止めたいた。
突然の出来事すぎて思考が全く追いつかなかった。
「危なかったにぇ」
「間に合ったでござる」
「みこち、それにいろはまで、なぜここに?」
リヴィスの質問に対し、二人はこちらを向いて微笑んできた。その瞳からは安堵の色が読み取れたので本当に助けてくれたことが分かった。
「みこはエリート巫女だから!」
「風真はラプラスを助けに来たでござる」
「いやどういうこと?まずどうやってここが分かったんだよ」
「みこ達の絆に不可能なんて無いにぇ!·····ってのは冗談だけど、実はみこのスキル【神眼】を使って調べたんだよね」
みこの発言に耳を疑った。今、何と言った? とはいえ、俺は自然と笑ってしまった。それを見た三人が驚いていたが、すぐに笑顔になった。
「みこち、お前のエリート巫女の力でシオンを元に戻せるか·····?」
「うん、もちろん出来るにぇ」
俺の問いに即答してくれたことが嬉しかった。正直なところみこちにはあまり期待していなかったが、やはり持つべきものは仲間なのだなと感じた。
あとはこのジジイを倒すだけだ。
「みんな行くぞ!今度こそジジイを倒すぞ!」
こうして、ようやく本当の意味での決戦が始まるのであった。