リフェクト・オルタナティブ   作:garosann

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第一章 魔界学園編
天高く、駆け回る化物


「魔界学校ってどれくらいで着くんだ?」

 ふと思った疑問をぶつけてみる。

 マリンは顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 どうやらシオンも同じように考えているらしい。

 あくあはというと、船にまだ慣れていないのか目を閉じている。

 どうやら、あくあは船の上があまり得意ではない様子。

 そんなことを思ってると、シオンが口を開く。

「着くまでめっちゃ暇なんですけどー」

「確かにそうだよな」

 しかし、退屈なのは俺も同じなので何も言い返せない。

 そこで俺はある提案をすることにする。

「じゃあさ·····」

「おっ、何か思いついた感じですか?」

「ああ。ていうか寒くないのか?」

「寒いですよ?だから早く言ってください」

「分かったよ」

「で、何をすればいいの?」

「簡単なことだ。みんなでカニ鍋パーティーだ!」

 俺の提案に対して、三人ともポカーンとしている。

 そして、最初にあくあが言葉を発する。

「いいじゃん。あてぃしカニ食べたい」

「え?あてぃしガニ?」

「おいシオン、変な勘違いするな」

 ツッコミを入れると、「ごめんなさい」と言って頭を下げる。

 そして、シオンはこちらを向きながら質問してくる。

「ところで、どうして急にそんなこと言い始めたわけ?今までこんなこと無かったよね?」

「実はな·······」

 俺はシオンたちに事情を説明することにした。

「こんだけ寒くなってきたならカニ鍋が食べたくなるだろ?」

「そっか。でも、別に隠すことじゃないと思うんだけどなぁ·····」

 そう言われるとそうなのだが、何故か恥ずかしい気持ちになる。

 そして、今度はあくあが話しかけてくる。

 その顔はニヤけており、何かを企んでいるような表情をしていた。

 そして、俺に向かってこう言った。

「あてぃしも手伝おうか? 」

 最初は意味がよく分からなかったが、すぐに理解した。

 要するに一緒に料理を作ろうということなのだ。だが、それはそれで困ったことがある。

 なぜなら·····、あくあは料理が苦手なのである。

 前に一度作ってもらったことがある。メインのオムライスはましだったが、食後のガトーショコラの時の味を思い出しただけで吐きそうになるほど酷いものだった。

 しかし、ここで断るのも可哀想だし、何より断った時の彼女の悲しげな雰囲気に耐えられなくなるかもしれないので、ここはあえて料理以外の準備をさせてあげるのが良いだろう。

「あくあ、シオンとコタツの準備お願い出来るか?」

「うん!任せて!」

 そう言うと、あくあはシオンを連れて部屋を出ていった。

 キッチンがある部屋からあくあが出ていくと、早速シオンがふざけて喋っている。その口調からは楽しそうとしか思えない。

 そして、予想通りの言葉を発してきた。

 それはシオンがあくあの真似をして語尾に"あてぃし"を付けて話していたのだ。

 これには流石に慣れておらず、思わず吹き出してしまう。

 すると、さらにシオンはあくあの物真似を続ける。

「みなさんどうもー、あてぃしガニー!」

「スゥ·····www」

「あくあちゃんー?笑ってるのかなー?」

「フッw」

「あー!また笑ったー!あてぃしガニ!あてぃしガニ!あてぃしガニ!」

 シオンは笑いを堪えているあくあを見て、何度も繰り返して言ってくる。

 それが余計面白かったので、ついに我慢の限界に達してしまった。

 すると、それを見たシオンは嬉しかったのか、あくあのモノマネをまだまだ続けていく。

 このやり取りを見ていたリヴィスは呆れたようにため息をついていた。

 それから数分後、あくあとシオンが部屋に戻ってきた。

「リヴィスーコタツの準備出来たよ」

「ありがと。お礼として今度、なんか奢ってやるよ」

「ほんと!?やったー!」

 喜ぶシオンの頭を撫でてあげてると、ふとあくあが視界に入った。

 あくあはというと、部屋の隅っこで体育座りをしながらこちらの様子を伺っていた。

 まるで捨てられた子犬のような目をしており、とても可愛らしいと思った。

 そこで俺はある提案をすることにする。

 ちなみに提案内容は、あくあにカニ鍋を作らせることだったりする。

 理由は簡単。もし失敗しても、俺がフォローしてやればいいからだ。

 それにシオンも居ることだし、なんとかなるだろうと俺は思った。

 しかし、そんなことを知らないあくあはとても不安げな顔をしている。

「あくあ、シオンと一緒にカニ鍋作っててもらえるか?具材はここに全部準備してあるから」

「う、うん····。分かった」

「大丈夫だって。シオンがいるんだしさ」

「そうだね。ありがとう、シオンちゃん」

 そう言って二人はカニ鍋を作り始める。

 それを見届けた後、俺達は少しだけ仮眠を取ることにした。

 

 ***

 

「――起きてください」

 誰かの声が聞こえたので目を開けると、目の前には二人が立っていた。

 寝ぼけ眼のまま体を起こすと、そこには美味しそうな匂いが立ち込めており、同時に腹の虫が鳴る。

 その音を聞いたシオンはクスっと笑うと、カニの入った鍋を持ってくる。

「おっ、出来たんですかー?」

「あぁ、あくシオ特製のカニ鍋だ」

「へぇ·····めっちゃうまそうじゃん」

「だろ?じゃあ食べようぜ」

「「「いただきま~す」」」

 四人揃って手を合わせてそう言うと、それぞれカニ鍋を食べ始めた。

「んっ·····、うめえ」

「おいひい·····」

「うん、うまいな」

 三人共、その味に大満足な様子である。特にあくあは凄く幸せそうな表情をしていた。

「船長、どこに行ってたの?」

「魔界学校への道のりをずっと確認してた」

「そっか。でも、なんで急に?」

 あくあがマリンに聞くと、こっちに話し掛けてきた。

「リヴィスさんは空に現れる怪物をご存知です?」

「そんな奴がいるのか?」

「はい。なんでもそれはごく限られた人にしか見えないらしく、見たら死ぬとか言われていますけど、実際はただの言い伝えでしかないんですよねぇ。だから安心してください」

 そう言われるも、やはり怖いものは怖かった。

 しかし、それを聞いてシオンがこんなことを言い出した。

 彼女はこう見えて意外と肝が据わっている方なので、こういう状況では頼りになる存在なのだ。

「あてぃしも見てみたいなぁ。その"バケモノ"ってヤツ」

「お前·····マジで言ってるのかよ」

「うん!あてぃし達なら倒せるかもしれないし」

「確かにな。シオンはどう思う?」

「シオンもあくあちゃんの意見に賛成かな。あてぃし達が居ればきっと勝てると思うし、何より面白そうだし!」

「ははッ、シオンもあくあと同じ考えなんだ。よし、俺も乗った!」

「おぉ!さすがリヴィスさん!」

 こうして俺達の当面の目的は決まった。

 まずはその"バケモノ"を見付けることが先決であり、その後どうするかはその時の状況次第で決めていくこととした。

「とりあえず、しばらくは何も無いので今日は早く休んでくださいね」

「はいはーい!あてぃしはもう寝るから」

「シオンも一緒に寝る」

「あっ、シオンずるいぞ!」

 こうなったシオンはなかなか止まらないということをあくあは知っているはずなのに、何故かシオンを置いて先に部屋から出ていった。

「あくあちゃん待ってw」

「シオンちゃん来ないでw」

「ほれみろw」

 笑いながら追いかけていくシオンを見て、俺は思わず笑ってしまった。

 そしてあくあの気持ちが何となく理解出来て嬉しかった。

「本当に仲が良いですね」

「はい。自慢のあくシオですよ」

「妹想いの良い兄貴みたいじゃないですか。船長も羨ましい限りです」

 それから少しの間、彼女と他愛のない会話をしてから眠りについた。

 

 ***

 

 眠りについてから約三時間後の深夜二時、俺は思わぬ寒気で目が覚め、トイレへと向かった。

 用を終えてリビングへ戻ると電気が消えており真っ暗だったが、奥の方にあるキッチンだけが微かに明るいことに気づく。

 まさか·····、と思いつつ覗いてみると、そこにはあくあが一人立っていた。

 何か作業をしているようで、俺は邪魔しないように物陰に隠れていた。

 すると彼女の口から、こんな言葉が漏れ出してきた。

 

 ―――あたしは、みんなとは違うから。

 

 あくあはそう呟くとそのまま寝室へと戻っていった。その背中はどこか寂しげで、悲しそうな感じがした。

 しかし、今の俺には彼女にかける言葉を持ち合わせておらず何も出来なかった。

 だが、一つだけ分かったことがある。

 それは彼女が、皆の為に頑張っているということ。

 だからこそ、その頑張りに応えたいと思った。

 

―――あくあ、一人で抱え込むなよ。

 

 ***

 

 あくあとシオン、マリンが寝静まった後、俺は外へ出た。

 外に出ると冷たい風が頬を撫で、ぶるっと体が震える。空には雲が多く、星はあまり見えなかった。

「この世界の季節は今冬なのか?」

 そんなことを考えながら、魔界学校への道のりを確認しようと置いてあったの地図を開く。

 しかし、そこで信じられないことが起きた。

 なんと、地図には何も記されていなかったのだ。

「マリンは何でこれをじっと見てたんだ·····?」

 そう思いながらも、とにかく今は進むしかなかった。

 とりあえず物凄く寒いため、部屋へと戻ろうとした時だった。

 背後から何かの気配を感じ、咄嵯に身を屈める。

 リヴィスは目を凝らし、じーっと空を観察していると何かがあくあマリン号に近付いてきていることに気が付いた。

「あれは……、ドラゴンか!?いや·····」

 やがてその姿がはっきり見えるようになると、そこにいたのは大きな翼を持った竜のような生物。

 しかし竜にしては蛇のように体が長く、クネクネしている。だが竜のような翼も生えている。まるで爬虫類のようである。

 しかしそんな姿よりもリヴィスが驚いたのは、それがあまりにも綺麗だったということだろう。

 青白い体は透けるような鱗に覆われていてとても美しいのだが、目はとても大きくて赤く、宝石が埋め込まれたかのように輝いている。また尻尾は長く太い上に先端に行くほど鋭く尖っていて、頭の上には大きく立派な角があるという異質な姿をしていた。

「おいおい、まさかあれが化け物か!?」

 思わず口から出たその問いに答えてくれる人は誰もいないと思っていたその時、寝ていたあくあがいつの間にか傍にいた。

 彼女は眠そうに大きな欠伸をしながら、「船長とシオンちゃん呼んでくる!」

 と言って部屋に戻っていく。

 しばらくすると、眠そうなマリンとシオンがあくあに連れられてやってきた。

「マリン、あれが噂の化け物か?」

「多分そうだと思いますけど·····」

「ねぇ、リヴィスさん。あいつって強いのかなぁ」

「さっき見た限りだと、かなり強敵だと思う。でも俺達ならきっと倒せるはずだ」

「だよね!あてぃしもそう思う!」

「シオンも!」

 三人の意見が一致したところで早速攻撃に移ることにした。

 まず最初にシオンが魔法を唱え、闇魔法で生成した柱を飛ばす。しかし、それは簡単に避けられてしまう。

「アイツ避けるからウザイw」

「あくあ、お前って戦えるのか?」

「あくあちゃんポンコツメイドだから無理だよ」

 シオンの言葉を聞いて、あくあは落ち込んでしまった。

 しかし、すぐに立ち直って俺達にこう言った。

「――あてぃしだって出来るもん! 」そう言ってあくあは、両手を前に突き出して魔力を集め始めた。

 そして集めたそれを一気に放出する。

 するとあくあの手からは紫色の光線のようなものが出て、光が野菜のような物体へと変わっていく。

「なんで紫玉ねぎなんだ?」

「シオンも分からないw」

「うぅ、ごめんなさい·····」

 どうやら、あくあには戦闘センスは無いらしい。

「でも見てw」

 シオンが指差す方向を見ると、あくあが大量に放った紫玉ねぎの力で化け物の目元からは大量の涙のような液体が流れ出ていた。

「あくあって意外と役に立つかもな·····」

 それからしばらくの間、あくあと二人で協力して攻撃をし続けた結果段々と怯み始めたが、突然、その体が光り輝き始める。

 あまりの眩しさに耐えきれず目を瞑っていると、次第にその光の勢いは弱まっていく。

 恐る恐る瞼を開けるとそこには、もう一体の化け物が立っていた。

 その見た目は同じだったが先程までのとは違い、全身が真っ黒に染まっていた。

 さらに背中には大きな羽があり、そこから黒い粒子を放出している。

「何あれ·····?シオン怖いんだけど·····」

 シオンはあくあの後ろに隠れながらそう言う。

 確かにあんなものを見た後では怖がるのも仕方ないかもしれない。

「シオン、大丈夫か?」

「うん、何とかね~。それよりも早くどうにかしないと、みんな死んじゃうよ?」

「みんな!何かに掴まって!」

 突然マリンが大声を出して叫ぶと、俺たちはすぐに近くのものに捕まった。次の瞬間、化け物は口から巨大な炎を吐き出した。

 それはまるで全てを焼き尽くすかのような業火で、一瞬で辺りは火の海へと化した。

 しかし幸いにも距離があったため、なんとか助かったようだ。

 だが、このままここにいるといずれは焼け死んでしまうだろう。

「マリン、船は無事か?」

「えぇ、問題ありません。ですが、この船じゃ長くは持ちません」

「ひとまず、あの化け物二体を倒して早く行くしかないな」

 そう呟いて、俺は剣を構えた。

「マリンは船の舵を、あくあとシオンで最初の化け物を頼む。俺はもう一体を倒してくる」

「分かりました!」

「分かったー」

 二人が返事をした直後、俺達はそれぞれの相手に向かって走り出した。

 あくあは相変わらずのポンコツっぷりを発揮していたが、それでも一生懸命に戦おうとしているのがよく分かる。

 一方のシオンはと言うと、あくあがヘマをする度にフォローをしているので、なかなか良いコンビなんじゃないかと思う。

(流石あくシオだな。さてと、俺も頑張らなければいけないな)

 そんなことを考えながらも化け物の攻撃を避けつつ、隙を見て斬りかかる。

 しかし、その刃が届くことはなかった。

 化け物は自分の尻尾を鞭のように使い、それでリヴィスを吹き飛ばした。

 運良く船の壁に激突して助かったが、衝撃によって意識を失いかけギリギリのところで堪えた。

 だがその時にはもう、目の前に奴が迫っていた。

 咄嵯の判断で横に跳ぶと、間一髪の所で避けることができたのだが、今度は壁が破壊されてしまった。そしてそのまま、化け物との距離が縮まる。

 そして遂に、化け物の長い爪がリヴィスの胸を引き裂いた。

 リヴィスの服には血が滲んでいき、痛みのせいなのか呼吸も荒くなっていく。

 やがて立っているのもやっとという状態になり、その場に膝をついてしまう。

(異世界でこんな戦闘をしてみたいと何度も思っていたが、いざ体感するとめちゃくちゃ大変だなw)

「リヴィス―――!これ使って――!」

 遠くから聞こえてきたシオンの声に反応し、そちらの方を見るとシオンは黒魔法で生成した波の上に何かを乗せて飛ばしてきた。

 どうやら、シオンが大切に持っていた剣を投げてくれたらしい。

 それを受け取ると同時に魔力が体全身に入ってくるような感覚がした。

 そしてリヴィスは一気に駆け出して再び化け物に攻撃を仕掛けるが簡単に避けられてしまい、逆に反撃を受けそうになる。

 しかし、その攻撃を防いだのはあくあの紫玉ねぎだった。

 そのお陰で攻撃は当たらずに済んだものの、化け物が紫玉ねぎ弾を弾き飛ばし船が一部壊れてしまった。

「あくあお前·····」

「ごめんなさい·····」

「いや、いいんだよ。ありがとな」

「あてぃしだって·····役に立てるもん·····」

「あぁ、そうだな」

「だから·····あてぃしも一緒に戦う!」

「シオン、この剣はなんていう剣なんだ?」

 そう言って渡された綺麗な紫の刀身を持つ剣を手に取り、軽く振ってみる。

 すると、まるで自分の腕の一部になったかのように馴染む。

 それから何度か素振りを繰り返していると、ふとあることに気付いた。

 それは剣を振るたびに魔力のようなものが溢れ出ていることだ。

 試しにその力を少しだけ解放するイメージを浮かべると、一気に力が抜けていくのを感じた。

「その剣はシオンの家宝『4ねソード』w」

 シオンが笑いながら説明してくれたが、そのネーミングセンスはどうかと思った。

 しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。

 早速、化け物に向けて構える。

 先程までは余裕を持って避けていた化け物だったが、今では必死の形相になっている。

 恐らく、先程の一撃で警戒されたのだろう。

 だが、こちらとしては好都合である。

「マリン、船を頼む!」

「任せて!」

 そう言うと、すぐに船を動かし始める。

 それを確認してからリヴィスは化け物の懐に潜り込むと、思い切り地面を踏み込み跳躍した。

 その勢いのまま回転しながら斬撃を放つと、化け物は後ろに吹き飛んだ。

 しかし、まだ倒れていない。

 だが、確実にダメージは与えているはず。

「リヴィス―――!こっちは倒したー!」

「了解!あくあ、シオンナイスだ!あとは俺に任せろ!」

 シオンとハイタッチを交わしてから剣を構え直す。

 そしてもう一度踏み込んでいく。

 化け物もまた同じように飛びかかってきたが、今度はしっかりと回避することができた。

 そしてすれ違いざまに斬りつける。

 その傷跡は化け物にとっても大きなものになっており、悲鳴のような鳴き声を上げた。

 ただの人間が魔物に対してここまで圧倒できるとは誰も思わないだろう。

 リヴィスは今まで感じたことのないほどの興奮を覚えていた。

 それから更に加速して動き回ると、徐々に奴の反応が遅れてくるようになり、遂には攻撃をまともに喰らうようになった。

 そのチャンスを逃すまいと、次々と剣技を繰り出して攻め続ける。

「これで終わりだ!」

 最後の一撃を胴体に向かって放つと同時に、化け物は完全に崩れ落ちていった。

「やったのか?」

「リヴィスー!船出すよ――!」

「あ、うん。分かった」

 リヴィウスはシオンの声を聞き、慌てて船へと戻った。

「もうすぐで魔界に着くよー!」

「もうか?早かったな」

「ねぇ·····、後ろからまた何か来てる!」

 確かに後方から何やら足音が聞こえる気がするが、どうせ他の魔獣の類いだと思っていると、背後から凄まじい爆発音とともに船が揺れた。

 一体何が起きたんだと振り返ってみると、そこには黒鱗で覆われた翼竜が飛んでいた。

 よく見ると背中には巨大な鎌を背負っている。そしてその顔には禍々しい模様が浮かんでおり、その口には紅蓮の炎が灯っていた。

「マリン·····!これが全力なのか!?」

「これでも精一杯やってんだよ!」

「おい、やべぇぞ!このままじゃぶつかる!」

 遂に船の目の前にまで迫ってきており、急いで回避行動を取ろうとするとシオンの声が響いて止まった。

「待って!」

「なっ、お前正気か?」

 今なら直撃コースだし下手すれば死んでしまう可能性もあるというのに、どうしてこんな無茶なことをするのだろうか。

 だがシオンは真っ直ぐに見つめてきて真剣そのもので、覚悟を決めた目だった。

「シオン、何か策があるのか?」

「ある·····かもしれないw」

「はぁ·········」

(まったく、こいつは·····)

 だがこのクソガキがやると言うのならば仕方がない。

(それに、俺も見てみたいからな)

「船長は本気でこの船を飛ばして、シオンの最大魔力を奴にぶつける!」

「それでいこう」

「よし·····、行くよ!」

 シオンの言葉に合わせてマリンが大きく舵を切ると船は旋回していき、そのまま勢いを増していく。

「リヴィスもあくあちゃんもシオンに魔力供給してね」

「任せておけ。あくあもいいな?」

「あてぃしだって頑張らないと!」

 そして魔力を流し込んでいると急に速度が一気に増した。

 シオンの魔力量が上がっているのが分かる。

「行くよ!」

 それからさらにスピードを上げていく。流石にこれはマズイんじゃないかと思い始めるが、シオンの目はまだ諦めていないようだ。

 それを見たリヴィウスたちは絶対に止めないと決め、ただシオンを信じることにした。

 それから更に数秒が経過したとき、ようやく敵の姿が見えてきた。

 そして、魔力を貯め切ったシオンは高々と宣言する。

 

「「―――メイジ・オブ・ヴァイオレット!」」

 

 その瞬間、空全体に魔法陣が展開されていき膨大な光が放たれると、それは一直線となって向かっていき化け物に激突。

 轟音を鳴り響きながら化け物を消し飛ばすと、光はそのまま消え去っていった。

 その光景を見て全員が唖然としていると同時にマリンは大きく息をつく。

 ただシオンだけは満足そうな顔をしていた。だが突然力が抜けたように倒れた。

 そしてリヴィスはシオンを受け止めるように抱きしめてから、優しく声を掛ける。

「シオン、頑張ったな·····」

「えへ、ちょっと疲れちゃったかも·····。あとは任せたー!」

 そう言うとシオンは気絶してしまった。

 とりあえずシオンを抱き抱えたまま船室に戻るとベッドに寝かせてから、改めて化け物がいた場所を見る。

 そこには何も残っておらず、本当に倒したんだということを理解することができた。

 ただリヴィウスは少しだけ疑問に思うことがあった。

 あの化け物を倒すことはできた。しかし、何故あんな化け物が魔界から出てきたのかということだ。

 リヴィアスはそのことをシオンたちに話してみようと思ったのだが、今はそっとしておくことにした。

「着きましたー」

「ありがとう。ほら、シオン起きろ」

「んぅ~·····ふわぁ·····」

 眠たげな目を擦りながらも何とか起きたシオンを連れて外に出てみると、そこは魔界とは思えないほど平和な街が広がっていた。

「では、船長とあくたんは二人で長い長い旅に出るので、これでお別れです」

「そうなのか」

「うん!また会おうね!」

「もちろん!シオンたちも元気で!」

「シオンたちこそ!またどこかで!」

 二人は握手を交わして笑顔で別れた。

「じゃあ行ってきますー!」

「出航ー!」

 二人が手を振り返すと、船は再び動き出した。

 これからどこに向かうかは分からないが、きっと楽しい旅になるだろうと思っていると、不意にシオンが話しかけてくる。

「ねぇねぇ、リヴィス」

「なんだ?」

「シオンたち、本当に魔界学園に転入するの?」

 どうやら不安らしい。

 確かに魔界なんて物騒なところに行きたくない気持ちはよく分かる。

 だが、シオンの実力なら大丈夫だろうとリヴィウスが考えていると、シオンがこちらを見つめていることに気付いた。

「······」

「な、なんだよ?」

「いやぁ、なんかさっきのリヴィスカッコよかったなぁって思って」

「はぁ?何言ってんだよ?」

「だって、シオンのこと信じてくれてたじゃん。だから嬉しかったの!」

「なっ!?べ、別にそんなんじゃない!俺はお前の親友として当たり前のことをしただけだ!」

「またまたぁ!照れなくてもいいのにぃ」

(こいつ······)

 ニヤついているシオンの頭を軽く小突くと「痛いっ!」と言いつつも笑っているシオンを見て、リヴィウスも思わず微笑んでしまう。

「よし、今日は宿を借りて明日魔界学園に転入だな」

 シオンがコクリとうなずくと、リヴィスはシオンの腕を掴もうとするが、シオンはそれをかわす。

 すると今度は手を握ってきたため、仕方なく握り返すとそのまま歩き始めた。

 

(まぁ、たまにはこんな日も悪くないか)

 

こうして二人の新たな冒険が始まったのだった。

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