エアホッケーで衝撃の結末を迎えた俺と真昼はボウリング場へと来ていた。
「シューズは借りた方がいい。俺も借りに行くから一緒に来い」
「…(コクリ)」
受付でシューズを貸してもらいそれに履き替える。このシューズだと床で滑る事を防げるので事故などは起きないはずだ。多分。
「履き替えたら何か買いに行くか。2ゲームするから何かあった方がいいだろ」
「…(コクリ)」
俺は真昼が靴を履き替えたことを確認すると購買に向かって歩き出した。現在の時刻は12時を過ぎたところ、午前中は大抵運動をしていたのでかなり腹が減っている。何かつまめるものも買った方がいいだろう。
「そういや、お前ボーリングやったことあんの?…──やっぱ言わなくていいわ」
「…『勝手に自己完結しないでくれません?』」
「じゃあやったことあんの?」
「………『無いです、けど』」
「やっぱりな」
俺はカラカラと笑う。真昼は俺に手のひらの上で弄ばれたことが癪に触ったのかむっとしている。それを見て俺はさらに笑ってしまった。
そんなこんなで購買で諸々買ったおれと真昼は投げる場所の後ろにある椅子にそれぞれ座った。
「まずは俺が投げるからそれで投げ方覚えろよ。隣のレーンを見てもいいが」
「…(コクリ)」
真昼が頷いたことを確認して俺は15ポンドのボーリング玉をピンへ向けて投げる。その玉はピンへと当たり、軽快な音を鳴らしながら全て倒れる。ストライクだ。
「ん。次、真昼な」
「……(コクリ)」
俺がそう言うと真昼は少し間を開けて頷く。
「…………!」
真昼によって投げられてボールは狙いを大きくずらしガーターの溝へと入り込む。真昼はどうしてかわからずに小首を傾げている。
「投げる時がおかしかったんだ」
「……?」
真昼の横へと移動した俺は真昼の肘を指差しながら口を開く。
「投げる時に曲がってたんだ。勢いをつけようとしたんだろうが、それは狙いがズレるし最悪肘を痛めるからやめとけ」
「……(コクリ)」
「肘を伸ばしてもう一度やってみろ、さっきの狙いは良かったぞ」
「…(コクリ)」
俺はそういった後に椅子まで戻って真昼を見守る。そして真昼はゆっくりとボールに勢いをつけて…
──パコンッ
スペア……とはならなかったものの8ピンを倒した。初めてにしたらなかなかいいんじゃ無いだろうか?
「お疲れ。初めてにしたらなかなかいいと思うぞ」
「…『ありがとうございます』」
「狙いも良い…1ゲーム終わるくらいにはコツを掴んでそうだな」
「……『そうですかね?』」
「…。一応言っておくが…運動神経が良く無いやつは勝負で俺を倒すことはできねえぞ」
「…『そうですか』」
俺はそう言うと立ち上がってボーリング玉を厳選する。そしてピンの真ん中を狙って投げ込んだ。
「…1ピン残ったか」
俺は残ったピンに向かって正確にボールを投げ込んだ。ボールが当たったピンはカコンという音を立てて倒れる。ストライクを取った時は一種の爽快感を感じるが残りのピンを正確に弾けた時のパズルの最後のピースがハマったような達成感がある。
「…『上手いですね…やったことがあるんですか?』」
「ん?…まあ連れてこられたことはあるな…」
「…?『お友達ですか?』」
「ダチっつうか舎弟?みたいな奴らだよ」
「……『そんな人が…』」
真昼がどこか感心したように…と言うよりも見たことない珍獣をみるような視線が俺に突き刺さる。そいつらは俺が昔ヤンチャしてた時に助けた事があったんだがそれ以来俺を兄貴やら兄者やらそんな風に呼んでくる奴らだ。
「ま、お前が関わることは無いだろ。忘れろ」
「…(コクン)」
「次はお前だろ早くやって来い」
「…(コクン)」
──初めてのストライク
「…スペアは結構取れてるんだがな?ストライクは出ないな」
「…『そうですね…何が悪いんでしょうか』」
「さあな…これに関してはコツを掴むしか無いんじゃないか」
「……『そうですね』」
…………………。
─パコンッ
「!」
「やったな。ストライクだ」
「………(スッ)」
「……ああ、よくやった」
─パンッ
──ゲームスコア
「……『もう少しでした…』」
「…初めてでここまで僅差にされた俺の気持ちを考えやがれ」
「…『今度は勝ちます』」
「お前、俺の話聞いてねえな」
「…『聞いてますよ…?』」
「…なんで俺がおかしいみたいになってんだ」
…………………………。
……………。
……。
「ふう…すまん。トイレ行ってくるわ」
「…『私はここで待ってます』」
「
「…(コクリ)」
俺は気持ち早歩きでお手洗いへと向かい、用を足した。手を洗ってハンカチで手を拭く。そのハンカチを手荒にポッケに入れて足早に真昼が待つ場所に戻った。
俺が戻るとそこには視認は出来ないが3人の男に囲まれている真昼がそこにいた。
「(遅かったか…!)」
俺は真昼がいるであろう場所に向かって走る。近くまで来ると真昼の腕を掴もうとしている男が見えた。
─ガシッ
「──その女に触んな」
「ハァ?」
俺は疑問の声を上げた男を掴んだ腕ごと肩を押し込んだ。
「うおっ」
「おい、真昼。大丈夫か?悪いなちっと遅くなった」
その男はよろけるものの転ばずになんとか踏ん張った。体感が強いな…武術でも習ってんのか?周りにいた2人の男はよろけた男を心配したのか近くへとよって行った。
「……(クイクイ)」
「ん?どうした?やっぱりなんかされたのか」
「……!(グイッ)」
「うお…!」
「…『あの人達は、私を助けてくれた人なんです!手を掴まれそうだったのは私を心配してくれたからです!』」
「……マジか」
「…『マジです』」
俺はそこでようやく誤解だったと言うことに気づいた。謝らなければ気まずさが残るだけなので一言でも謝ろうと俺はさっきの男たちに向き合った。
「あー悪い。誤解してたっぽいわ」
「あはは〜。いやいや全然大丈夫っすよ?俺らガラ悪いっすもんね…え?」
「あ?なんだ?」
「……兄貴!?」
「兄貴って…お前、優か」
篠田優。俺が昔ヤンチャしていた頃…ガラの悪い輩から助けたことがあってそれ以来なんだかんだで好かれている。
と言うことは…と俺は優を挟むようにして立つ男2人を見る。
「その2人は啓介と幸か」
「うっす。お久しぶりです」
「……(ペコ)」
「ってゆうか兄貴!2年も音信不通になったから心配してたんすよ!?」
「あー、まあ色々あったんだよ…(クイクイ)あ?どうした真昼」
「…『この人たちが龍也さんが言ってた舎弟の人ですか?』」
「あ?あー…まあ……ああ」
俺がそう言うと後ろから優が瞳を輝かせながら近づいてくる。
「兄貴…!俺たちのことを舎弟って…!」
「お前はなんで見えてんだよ…猿か…」
「視力検査は2.0でした!」
「聞いてねえよ…。ってお前らがいるってことはもう4時回ってんのか。悪いお前ら、俺らもう帰んねえと」
「え?ちょっと兄貴〜!」
俺は真昼の手を取って走り出す。ウチの学校の奴らに鉢合わせるのはまずい。真昼が学校をサボって遊んでいるなんて噂が広がったら迷惑が降りかかるのは真昼だ。
しばらく走って後ろから少し息が切れるような息遣いが聞こえた。いくら真昼が運動ができると言っても男の俺のペースに合わせろと言うのは少し無茶だったようだ。
「…すまん。大丈夫か?」
「……(コクリ)」
「もう少し進んだ先に喫茶店がある。そこで少し休むか」
「…(コクリ)」
数分歩いたところで俺と真昼は喫茶店についた。ここは俺がたまに仕事をする時に気分転換としてきたりすることが多く、重厚感のある内装のせいかダンディな男や貴婦人などの客層ほぼなので静かで全体的に落ち着ける場所だ。後コーヒーがうまい。
「すいません。奥の席空いてますか」
「少々お待ちください……はい。空いております」
「じゃあそこで良いですか」
「畏まりました」
俺と真昼は歩みを進める。この喫茶店の奥の席は構造上正面まで来ないと誰が座っているか確認できない。なので身を隠すならちょうど良い場所だ。
席についた真昼と俺はとりあえず注文しようとメニューを開いて内容を確認する。
「俺はブラックで…真昼は?」
「……(トン)」
「紅茶のストレートな…わかった」
この喫茶店は軽食も頼むことができるが、今食べてしまうと夕食の味が落ちるだろう。俺は店員を呼んで注文をしようとすると……。
「…天使様?」
髪をポニーテールにした店員は真昼を見てそう言った。おそらくだが真昼を見た瞬間このあだ名がすぐ出てくると言うことは俺たちと同じ高校の生徒だろう…。
まずいと思った俺は席を立ってその女性の正面に立つ。
「おい」
「は、はい?」
「コイツは俺が無理言って休ませた。だから学校の奴らにはこのことを言わないでやってくれないか」
「……筋肉すごい」
「おい。聞いてるのか?」
「え!?あ、うん!」
「頼むぞ…?…注文はブラックとストレートティー。以上で」
テンプレ通りに注文を繰り返したその店員は足早に厨房へと向かっていった。
「……はあ」
「…『別に誤魔化さなくても良かったんですよ?』」
「そう言うわけにはいかねえだろうが」
「……『さっき走ったのもそう言う…?』」
「…まあな。結局意味無かったが」
俺はぽりぽりと頭をかきながらため息を吐く。それを見て真昼は口元に手を添えてくすくすと笑う。
「……『いえ、お気遣いありがとうございます。後多分あの人なら大丈夫です』」
「…なんでそんなことわかんだよ」
「……『内緒、です』」
そうしているとさっきの店員が注文した品を持ってきた。
「天使様ってそんなふうに笑うんだ…」
「……やっぱりお前」
「いやいや違うよ!?ただ知ってる人の知らない一面を知れてラッキー?みたいな!」
「……」
「あはは…!ご、ごゆっくり〜」
取り繕うように笑いながらその店員は接客に戻って行った。
「……はあ。まあバレちまったもんは仕方ないか…」
「…(クスクス)『そうですね』」
「……笑ってるがお前の事だからな…」
「…『知ってますよ』」
俺はカップに口を付けてコーヒーを口に含む。引き立てのコーヒーの香りが鼻腔を抜ける。コーヒーには酸っぱいものと苦いものがあるがここのコーヒーは苦味が強いものだ。
「…今日はすまんかったな」
「…?『何がですか?』」
同じく紅茶を飲んでいた真昼はそう打ってスマホを見せてくる。
「本当なら、クレーンゲームとかもしようかと思ってたんだが…」
「……『それは少し残念ですけど、また今度行けば良いです』」
「…今度、か」
「…?」
「いや、なんでもない」
俺は真昼からの疑問を誤魔化しつつコーヒーを飲む。口に含んだコーヒーは最初に飲んだ時よりも苦かった気がした。
あの店員さんは一体何戸さんなんだ〜?
天使様8.5巻楽しみですか? 9/14発売予定。
-
楽しみ!!!
-
予約した!
-
そんなに…
-
9巻の方が見たかった!
-
そもそも単行本持ってない…
-
表紙の真昼可愛すぎだろ!