俺はベットの上で目を覚ます。心地良い気分で目が覚めた。久々に悪夢を見ずに目が覚めた。
ベットから起きあがろうとすると右腕に何かが乗っているのがわかった。しかも体の横に何か温かい物がある。見なくてもわかった。昨日抱いた女が腕を枕にして寝ているのだろう。スヤスヤという寝息が今も耳をくすぐっている。ついでに言えば腕がすごく痺れている。かなり鍛え込んでいると自負しているのだが血管を塞き止めるのを防ぐことはできないみたいだ。
俺はゆっくりと女の頭から腕を抜き取って一息つく。今何時かを確認しようとしたがスマホが近くにない。おそらくはリビングに脱ぎ捨てたブレザーの中だろう。
俺はクイーンサイズのベットから抜け出してリビングへ行こうとする…──
「……」
──前にその女にシーツを掛け直してから栗色の髪をすっと撫でる。スルスルと指の間を通る髪が心地良い。ついでに頬もフニッとしておいた。
久々に熟睡できたからか?なかなか気分がいい。
俺はそっと部屋を出た。
あの女の脱ぎ散らかした服(俺がやった)を一箇所に畳んでおき、俺は自分のブレザーから取り出したスマホで時間を確認する。
スマホの時刻表は7:28分を表していた。
今から学校に行っても遅刻コース確定だろう。
「……」
俺はスマホにとある電話番号を入力した。
俺はスマホをいじりながら鍋に入ったうどんをかき混ぜる。最近の冷凍うどんは安いのにとても美味いものに仕上がっている。下手な店で食うよりも美味しいと思うのは俺だけじゃないはず。
しばらくすると匂いを嗅ぎつけたのか眠れる腹すかしが目覚めたようだ。バタバタと暴れるような音が聞こえ、ガチャっと寝室のドアが開く。
「─が、学校!」
「おい…裸でうろつくな。襲われたいのか?服は机の上。学校は休みの連絡を入れた」
「………?……!?……っっ!!!」
一瞬状況が理解できないような表情でキョトンとし、次に自身の格好への驚愕、そして昨日のことを思い出しての多大な羞恥心といったところだろうか。コロコロと変わっていく表情は見ているだけで面白い。
バッと腕で大事なところを隠した女はそのまま動けずにいるようだ。俺はため息を吐いてソファにかけてあった掛け物をその女の肩にかける。
「さっさと着替えろ。後腹空いてるだろうからうどん食え。作った」
「あ………はい…。すいませんでした…学校に連絡を入れてもらって…」
こくんと頷いたその女はそそくさと寝室の中に入っていった。
「……(すいませんでした…か)」
茹で上がったうどんを卵で閉じて上からネギをかけるついでにスライスしたかまぼこを数枚入れておく。料理は見た目が大事というのは俺の女からの受け売りだ。
2人分の器にうどんを入れると丁度着替えが終わったであろう女が寝室から出てきた。
「着替え終わったなら手伝え」
「あ、はい」
俺はうどんが入った器をお膳に置いて台の上に置く。女がそれを机の上に広げている間に俺は飲み物と箸を出して机に持っていく。
うどんを並べた後に立ち尽くしていた女に座れと言って俺も席に着く。
「……食っていいぞ」
「あ、はい。……いただきます」
うどんを口に入れて顔を綻ばせている女を見て少し安心する。どうやら口にあったようだ。
所作が完璧だな…なんて考えながら俺もうどんを食べる。
女を抱いた次の日は大抵うどんだ。簡単に作れるし、食べやすいし疲れ切った体でもスルスル食べることができる。暑い夏場だと冷やしうどんやそうめんを食べたりする。
「……そう言えば、お前って処女だったんだな」
「─んぐ!?」
タイミングが悪かったのかその女は慌てて口を押さえている。そして次の瞬間には俺のことを睨みつける勢いで口を開いた。
「……私がそんなに遊んでいるようにでも見えましたか?誘われたらすぐに着いていくような尻軽だと?」
「…そこまでは言ってねえが。俺の部屋に来た時誰かの部屋と比べていたような感じがしたからな。もうすでに経験済みだと思ったんだ」
「…………」
あ?地雷でも踏んだか?
「そう言えばお前の所作って綺麗だな?」
「……」
地雷。
「髪とかもすげえ綺麗だし手入れ欠かしてないっていうのがよくわかった」
「……」
地雷。全部地雷じゃねえか。
……こうなったら最終手段だ。
「…抱き心地は今までで一番良かったぞ」
「……」
………。なんだと…!?俺が今までこの言葉を投げかけた女は大抵嬉しそうだったんだが…いまのこいつは完全に何言ってんだこいつ…みたいな視線だ……俺は一体何を間違ったんだ?
「……はあ」
その女はどこか呆れたようなため息を吐く。
「…これは私の問題なのであなたが気を使う必要はないです」
「は?使ってないが?」
俺はただ良い女とは楽しく喋りたいだけだ。こいつを気遣ってのことじゃない。
「……貴方って意外と気遣い出来ますよね…紳士とは言えませんが。行為中も嫌がる事はしなかったですし…いや、止めてと言ったのに止めてくれないこちはありましたが…」
「お前の抱き心地が良すぎるんだよ」
大きすぎるわけでも小さすぎるわけでもない完璧とも言えるほどに整ったプロポーションは腕の中で完璧に収まるというべきか…ともかいい相性が良すぎた。
「……そう言えば自己紹介してませんでしたよね」
「俺はお前のこと知ってるがな」
「でも名前は知りませんよね」
「……」
図星を突かれた俺にその女はジトっとした目を向けてくる。名前も知らない女を抱いたのか…とか思ってそうだ。
「はあ…私は椎名真昼です。呼び方は…好きにしてください」
「じゃあ真昼で」
「…いきなり名前呼びですか」
「一夜を共にしたんだからいきなりではなくないか?お前が嫌なら変えるが」
「いえ……好きにしてくださいと言ったのは私ですから。それで?貴方の名前はなんですか?私に言わせて貴方がしないなんてことありませんよね」
「いちいち毒を吐かないといけないのか?……龍也だ。苗字は嫌いだから名前で呼べ」
「じゃあ龍也さんで」
そういうと真昼は食事に戻った。特に何か話す気はないらしい。
「ん…。そういや、お前家に帰るのか?」
「………そうですね。これ以上貴方に迷惑をかけるわけにいきませんし」
「ふーん」
じゃあなんでそんな顔するんだよ。真昼のどこか悲しげな、何かを無理に飲み込もうとする苦しそうな顔を見て俺は内心そう思った。
「……ご馳走様でした。洗い物は私がしますから食器を持ってきてください」
「…おう」
真昼は手慣れた様子で食器を洗っていく。何年も前からやっているような手際の良さだ。
「…結構使われてますね」
「あ?何か言ったか」
「いえ…意外と使い込まれているんだな…と」
どうやら使い込まれている道具などを見てそう思ったようだ。
「料理ができねえとでも思ったのか?」
「……」
「無言は肯定と取るぞ」
「…別に、イメージと合わないとかそんなのじゃないです」
先程まで止まることなく動いていた手がぴたりと止まる。誤魔化すの下手か。
「誤魔化すの下手か。てかお前も噂のこと知っていたのか?」
「…クラスの人が話していたのを…少し」
龍也がいう噂というのはその彼自身の噂だ。といっても椎名真昼のようないい噂などではなくむしろ逆。悪い噂ばかりで構成されているものばかりだ。
曰く、親が犯罪者。
曰く、少年院には行ったことがある。
曰く、街でカツアゲをしていた。
曰く、声をかけると殴られる。
曰く、人を殺したことがある。etc…etc…。
……どれをとっても最悪の噂ばかり。
「…で?どう思ったんだ。軽蔑でもしたか?怖いとでも思ったか?」
気付けばそんなことを聞いていた。こんなことを聞くつもりはなかった。昨日限りの関係『じゃあな』とでもいえば全部元通りのもののはずだ。
だがほんの少し期待してしまうのは俺がコイツを気に入ってしまったからだろうか。
「そうですね…。特に何も」
「は?」
「なんですか、『は?』って。貴方が聞いてきたんですよね…」
「いや、予想外すぎる答えにビックリした」
それは本心だった。この街に住む奴は大抵俺の名前を聞いた瞬間に距離を取ろうとする。俺の機嫌を取るようにヘラヘラしながら。
それを『特に何も』の一言だけで飾る奴なんて今までいなかった。
「私は人を上部だけで見る人は苦手ですから。少なくとも私は貴方と噂の人が同一人物とは思えません」」
「………」
「?どうかしましたか」
「……今、無性にお前を抱きたくなった」
「えっ…私、今から帰る「帰りたくないならいいだろ別に」…あ、」
俺は真昼に近づいて腕を膝に通して持ち上げる。
「こ、これ以上迷惑をかけるわけには…!「それは体で返してもらう」かっ…」
「なんで顔を赤くする?」
変なところで
「…こんな極上の女を抱けるんだぞ?お前の本心くらい聞いてやるよ」
「─そうですか…」
「ん?……。ああ…もしかして表面上だけで俺が極上と言ったとでも思ってるのか?」
「…違います」
「へいへい。出会って少ししか経ってないが…少なくとも俺はお前の性格を気に入っているぜ。心と体を含めて極上ってな」
「…やっぱり、貴方は噂通りの人かもしれません…」
「言ってろ」
腕の中で少し困ったように笑う真昼。
──龍也の家の寝室には少し早い“夜”が訪れた。
美味い!美味い!
天使様8.5巻楽しみですか? 9/14発売予定。
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楽しみ!!!
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予約した!
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そんなに…
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9巻の方が見たかった!
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そもそも単行本持ってない…
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表紙の真昼可愛すぎだろ!