エウスは、劇場の人形は、突きつけた指で自分の頭を撃ち抜いて、
「え?」
違う、なんだろこれ?
想起? 魔法、魔術、発動した、それ、
メートにではなく、自分自身に。
「さあ、開幕だ、」
悲鳴、怒号、————それすら、懐かしい。
遠い、遠い、全てが、消えて、
痛みも、苦しみも、悲しみすら!
その全ては、きっと、少女にとって、必要なものだったんだ。
「——なに、これ、」
視線、声、匂い、味、振動、
気持ち悪い、慣れ親しんだ、わたしの、
違う!? 何だこれ、こんなの、わたしは、体験したことのない、
「っぅ、また記憶? こんなの、」
手足が冷え込む、視界が夜になる、音が止んでいく、
違う、感覚がない、その全てが、まるで無くしてしまったかのように、
「拒絶、いや、ちゃんとできてる。なのに何これ、どこから、だれ、」
わからない、わからない、知らないそこ、
何これ、こんなの、魔法ですらない?
「——まさかっ、」
「おや、ふふふ。アナタには、観客の適性が高いようですね?」
メートのこと、逆に利用された?
ぐっ、感情が逆流する、まずい、これ、
わざわざ作った? こんなにも、精密に?
違う、なるほど、ああそうなのかな?
「あなた、メートっ、」
「しかし、まだまだ終わりませんよ? こんなものでは、満足していただけないでしょうから、」
視線、気持ち悪い、音、匂い、
いくつものソレが、近い、男の、たっている、
横に、あ? 誰? どこから、いや違う、
これも幻想、こんなにもはっきり、わたしが魔法にかかってるわけじゃないのに、?
「それでは第二幕、参加型の舞踏会へようこそ。踊り子の方々には、ぜひ手を触れあってください、」
手を伸ばされる、何もないはずの空間。
咄嗟に避ける、確かに感じる風圧、匂い、気持ち悪いキモチワルイ、
うそ、これ全部、ほんもの?
何人もの、何十人もの、顔の見えないニンゲンの群れ、
違う、そんなわけ、第一こんなもの一つしか置けないような狭い小部屋に、こんな人数入りきれるわけっ、
あれ? この部屋、こんなに狭かったっけ?
——————おやおや、そんなにも体感してくれて。演出家冥利に尽きますねえ、
狭い、暗い、汚い、
あれだけたくさんいたはずの人も、気づけば何も全部いなくなって、残ったのは、
手足の感覚がない、視界がない、音が聞こえない。
何もない、
完全なる、きょ、
「——————『虚構!』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おや?」
「はぁ、はぁ、はぁ〜。・・・・・・うん、すごかったねー、」
危なかった、もう少し判断が遅れてたら、飲み込まれてたかもだよー、
何だろうねあれ、思い描いたことを実現する魔法? いやそんなものですら、収まらない??
で、も。魔法である事には、変わりないよね〜!
「・・・・・・わぁ、ここまで。・・・・・・・・・・・・ふふ、これはまた、素晴らしいものを見せてくれたと喜ぶべきか、無粋なことをしてくれたと怒るべきか、」
「失敗しちゃったなら、悲しむといいよ〜、」
「アハハッ。それもまた、醍醐味ですね、」
改めて、変わっていない部屋。
そうだ、全ては幻想、結局のところまだ、わたしには傷一つついていない、
ごめんね〜、楽しかったというには、少し悪趣味すぎるよ。
「・・・・・・・・・・・・それはそれは、参考にいたすとしましょう」
「ね、そうしてよね、次があったら、」
「ええ。この身は永遠の劇場。なのでまだまだ、ミセたりません」
ムチを構える。
狙うは首、あそこが、一番すっきり終われるから、
それじゃあ、さよなら。
「・・・・・・終わりませんよ。まだ、彼のことすら、見せていないのに、」
腕を構えた、
また親指と人差し指を伸ばした、何かを握り込むようなよく分からない動き・・・・・・?
あれ? なにか、持って、
——————————パンッ、
——銃声、
生きていた時はついぞ、画面の向こうでしか聞かなかったそれが、確かに響く。
「なっ、今のって、」
「ふむ、流石にまずいかもしれんの。貴様、絶対に我のそばから離れるなよ、」
それはもちろん、というかこのドラゴン様、もしかして撃たれた後の銃弾止められちゃうのだろうか。
これが夢の竜娘か、流石すぎる。
————ちっ、まだ町内だぞ。誰だ、先走ったのはっ、
町の中央へ走っていくマキナが、焦った声を出している、
というか待って、速い、全然追いつけない、流石は車輪の足。
まだ声が聞こえる距離だけど、もう姿が見えないんだが、ん? 視力悪いせいかな?
「はぁ、はぁ、ちょっ、遠い、」
「・・・・・・というか、おっそいのー。もうちょっと、早く走れんのか?」
「うわぁ、全然息きれてない」
「いや、セシィでもこの程度・・・・・・、」
うぐぅ、呆れられた目、
どうにも、この体が効率のいい動き方を覚えてはいるようだが、それでも限界がある。
半分の力すら出せてないだろうな。まあ不当な所持者としては、妥当なものだろうけど、
————パンッ、パンッ、パンッ、
「ぎゃーっ、銃声!? どこから、あっちからか?!?!」
「むっ、あれか、」
そこにあったのは、騒劇。
急に起きた騒乱に、混乱し、興奮し、恐怖し、狂気するその様。
何か目に見えない力によって引きまわされる感情の渦は、民たちの暴動という形になって、異物の排除へと弾をこめる。
人の集まる、その中心、
見慣れぬ明らかな異形が、弾圧を持って、囲まれていた。
「・・・・・・っ、お前、どいうこと「壁が急に崩壊って、なん「あれは、あの魔力、もしかし「こんなの、聞いてな「おい、いったいどうし「何か知ってんだろ、まさかねが「ぎゃーっ、世界の終わりだーっ「あれほどの壁を壊す魔法、あいつらまさか本「くそっ、準備だ、あれをだぜ、目にもの「か、勝てるわけがない、どうすれ「ひーっ、近づくなーっ!?!?」あ、おい!?」
——————パンッ。
場を支配する透明な狂気は、具体的な形をともなって、放出される。
引き金一つ、なによりも軽い簡単な動作で、アカイ火が広がっていく、
その凶器は、未だ定まってもいないのに、早く真っ直ぐにその中心にいた小さな体へと、
——————カンッ、
「・・・・・・っ、待て、落ち着け、ジブンは、まだ、」
綺麗なボディに、傷がつく。
金属製じゃなかったら、どうなっていたか想像もしたくない。
囲まれているのは、どうやら他の人とは見た目の違う、科学の子だ、
「——っ、まずい、撃たれてる!? 早く助けないと、」
「ちっ、しゃーないのー、」
銃弾、何よりも早い、人を殺す脅威、
——だった、はず。少なくとも、別の世界では。
瞬間、風、爆速、なのに優しい。
明らかに銃弾より速く発射され、なのに隣にいた誰かにはそよ風程度で、瞬きの間もなく、
「————よっと、じゃ、」
「えぇぇ」
「・・・・・・なっ、これ、まじか、ええ??」
隣に、いつもの定位置だと言わんばかりに、ドラゴンちゃんが着地して、
で、なんか、目の前にあったはずの人だかりが、全て残らず倒れていた。
「うわぁ、凄すぎだろぉ、」
「・・・・・・しかも、全員、後遺症のないよう、最低限で、止めていた、」
「え、見えたの? すごっ、」
「ふふんっ、そうだろ? ・・・・・・って、何だこれ、」
思わず、小さなボディに駆け寄って、無事を確認して、
うん。大丈夫そうだな、しかしあれが見えたとは、なかなかやりおる——、
「さて、静かになったの。それじゃあ次は、」
——ギョロっ、
縦に割れた力強い目が、獲物を見定め、
「「ひぃっ!?」」
「・・・・・・・・・・・・なにやってるんじゃ?」
「「・・・・・・あ、いや、なんでもない、」」
二人同時に見られた、いや別に、ビビって距離取ったとかじゃないですよ!?
ほ、ほら証拠に、俺はマキナよりも前にいますし!!?
「・・・・・・・・・・・・で、なんだ、オマエら。何しに来た、」
「あ、いや、おれ——、自分たちは、まあ。とりあえず、原因解明しないと隠れてても安全じゃないかもって、」
「・・・・・・まっ、引き篭もるのは、もう飽き飽きじゃからの。」
俺は、またさっさと籠って、いや消えなきゃだけどな。
ともかく、こんな危険な状態なら、やっぱり一刻も早く解決しないと、
「・・・・・・ん? それより、なんだそれ、頭の、」
「じゃ? 我のこと?」
「んん? あ、本当だ、なんか出てる、」
あれは、王冠?
へー、目立つとつくんだ、面白いなーって、
んんん? なんか数字ついてるけど、もしかしてこれキルカウント、ですか??
「————なっ、これ、もしかして「みたぞ、今あいつが、なにかして、「急に人が倒れた、中心にいたのは、何だあれ「いや、だが何かついてるのは、向こうの「全員、ここに攻めてきた向こうの仲間だってこと「どうする気なんだ、ま「にっ、逃げろ! ここに来たらやられ「くそっ、またあいつらに好き勝手されてたまる「これもまさか、よて「撃て、撃て!? 近づかれるま「どうする気なんだ、早すぎる。これでは、勝ち目が「うわーーーーっ!?!?」
声が、濁流となる。
やばっ、うるさい、キモチワルッ、
・・・・・・いや、満員電車の方がきついな、大丈夫か。
しかし、これは、不味いんじゃないか?
「——ふむ。めんどうじゃか、あれもまとめて、」
「————っ、待て、キリがない、逃げるぞ、」
「逃げるって言っても、どこにだ?」
「・・・・・・・・・・・・向こう、だ。まだ、人数が少ない分、マシなはず。・・・・・・それに、目立つのは、オマエも本意じゃない、だろ?」
うーん、まあ賛成か?
元よりそっちに向かう予定ではあったし、あんまりレコウさんに頼り切りも良くない。
だって俺とは赤の他人だしな、守ってもらう身として既にわがままも聞いてもらってるんだ、余計な負担はかけたくない。
いや、下手に縛らず、全部倒して行く方が、あの竜にとっては楽なのかもしれないけど。
でもそんな事したら、周りからなんて思われるか。今でさえ、なんか目立つもんつけられてるのに、
俺のために、そんな跡に残る事するわけにはいかない。
俺は、さっさと、消えるべきなんだから。
終わりの時は、記憶にない。
多分きっと、これはただの残滓だから。
明確な、意志も持たない、電気信号。
それでもああ、望むのならば、
あの子たちに、少しでも、素敵な夢を——、