情報過多の荷物持ちさん、追放される   作:エム・エタール⁂

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106話

 

 あーあ、見つかってしまったか。

 キミにだけは、せっかく隠そうとしてたのにねえ、

 ん? いや、まあいいさ。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ、」

 

 エウスが彼女から手を離す。

 くるりと、まるで初めから対峙していたかのように向き直り、

 その剣を、改めて抜く、?!

 

 ————ま、こうなってしまったら、しょうがないね、

 

 これから何が起こるのか、わかりたくなくてもわかってしまう。

 観客たちに囲まれながら、その工程を、見守ることしか出来ない、

 

 わけがない。そんなこと、できるわけがないだろっっ!

 

「っ、な、やめ」

「——おい。落ち着け、じゃ、」

 

 止められる、なんで、

 彼女が周囲を見渡す、たくさんの人の目。

 

「・・・・・・やあみんな、彼女は、何に見えるかい?」

 

「え、なにって「なんだ、あれ「というか、どこから現れ「いや、あの入れ物、まさか「そうだ、中央、それしかないっ「でも、まさか、そんな!?」

 

「そう! なんと彼女こそは、この竜の中から現れた、」

 

「それが、本体、なの「そうだ、確かに、町中に急に竜なんて「聞いた事がある、なんでも高度な変身魔法を使えば、人が竜にもなると「確かそいつ向こう、あっちの町の方から「まさか向こうの奴ら、こんな物まで「っ、まだ動いてる!?」

 

「・・・・・・あー、うん。そうだね、」

 

 

 観客が、民衆が、人の意思が、一つに向かっていくのを感じる。

 それは、果たしていいことか、普通ならそうなのか。

 

 いや、だが、嘘だろ。

 なんで、お前ら、そんな、

 あんな、ボロボロな少女に、敵意を向けられるんだ!?

 

「やめろ! そん——「貴様が止めろ。周りをよく見ろ、じゃ、」

 

 っ、今度は確実に口を塞がれる。

 まだ、観客たちは状況を飲み込めず騒がしい、

 が、近くの人は、確実に、

 

 流れに逆らった、異物を感じ取った、

 その目を、こちらに向けている。

 

 

 怖い。

 ああ、これは、何度も感じたことがある。

 昔生きていた場所で、何か変えようと空回りして、失敗した時に周囲から向けられた、目。

 

 なんで、こんな、

 ああそうか、どこの世界に行っても、これは変わらないんだな。

 集団こそが正義で、外れた空気の読めない誰かは排除される、

 個が、それ以外に勝ることなんて、絶対にない。

 

「だ、けど、」

「ふん。貴様が騒いだところでなんになる、大人しく、」

「——ッッ、、」

 

 それ、でも、

 ああ、そうだ、こんな夢の世界でくらい、

 

 目の前に、この場の全員を倒せるドラゴン様だって存在するんだ、、

 

 少しくらい、夢を見たっていいんじゃないのか!?

 

 

「っ、こんな状態で、黙ってら——「セシィなら! そんな非合理的な事はせん。・・・・・・今できる事は、落ち着いて、最善を考えること、じゃ」

 

 最善。

 

 ああ、そうだ。

 

 そんなの、決まっている、

 

「お、おい、どうするんだあれ「どうするって、敵だろ「っ、魔法って事はもしかして、またあの竜になるんじゃないか「さっきのあの炎、エウスさんがいたからよかったが、そうじゃなかったら「ひっ、みんな死んでたっ。あいつを早く「そうだ、どうにかしないと「どうにかって?「そりゃ、」

 

 ————ころせ、

 

 ころせ、コロせっ、殺せ!!

 

 

 声が、徐々に、大きくなる。

 誰が発したかなんてわからない、聞こえた限りでは、最初に聞こえたのは戸惑い出てしまった小さな呟きだった。

 

 でもすぐに、連鎖して、広がって、初めの一人すら自分が発したとわからなくなるくらい、全体の意思となる。

 それ以外を唱えるの、考えることすら、一瞬のうちに普通から外れた異物とされる、

 もはや、これを覆す事は、不可能だ。

 

 いくつもの殺意に晒された、生身の少女は、

 ただじっと、潰れたはずの目でこの光景を見つめて、

 

 

 だから、そうだ、

 この状況で取るべき最善は、初めから、選ぶまでもない。

 

 

「・・・・・・ああ。これが結末、かい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」

「まあ、わかっていた事、だろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「悲しいね。しかしここには、全てを解決する、ご都合主義なカミ様なんて——、

 

 

 

「————っ、待て、じゃ!?!?」

 

 

 

 飛び降りる、見ているだけの観客から、その舞台の中心へと、

 合理性なんて知るもんか、いや、これがきっと最もいい選択肢だ、

 なんの力もなくたって、なんの覚悟もなくたって、ただ。

 

 あの子に、味方はいるよって、示すだけ。

 

 

「っ、誰だ「なにして、「エウス様の元に、抜け駆け!?「いや、おかしい「え、どこに立って「はぁ? なに考えて「うそだろ!?」

 

 

 もはや言葉は不要。

 ただのその身で持って、彼女の盾となる。

 これ以上、彼女を、マキナを、悪意ある視線に晒さないために、

 

 あの子に背を向けて、観客の方へ。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・まあ、これがきちんと捨ててもいい自分の体だったら、いう事ないんだけども、

 

「あー、もう、しょうがないのー!」

「ははは、すいません。でもほら、咄嗟だが、顔は隠した、」

「セシィはそっちの顔してる方が多いから、あんまり意味ないのじゃ!!」

 

 自然に隣に立ったレコウさんに、髪を上げられる。

 え、顔見られるのはまずいのでは、いやまあ色々と今更だけど。

 本当にすまんセシィちゃん、これが終わったら速やかに自殺するんで、堪忍してくれ、

 

「・・・・・・・・・・・・ぁ、なん、で、」

 

 あの子から、声が聞こえる、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」

 

 見ての通りだ、示したかった。

 この世界に、いやどこにだってきっと、

 群にも立ち向かえる個人の意思は、確かにあると。

 

「ん、というかあいつ「な、あれ、あの王冠!「あんなに多く、まさか「もしかして、ここを狙って「まずい、流石にエウスさんといえど、「キャーーッ、エウス様から離れて!「いかん、早く援護しなくては、みんな!!「おう! 力は有り余ってるぜ!!」

 

 集団に声が上がる。見ているだけの観客から、襲いかかる流れへと変化する。

 もはや、個人の意思など飲み込んだ、暴威。

 

「っ、」

「ふむ。やはりこうなってしまったか、の、」

「・・・・・・あれ、というかみんな見てるの、レコウさんの方、」

「ん? あ。。——じゃ、」

 

 いくつもの視線が殺到する、隣に。

 当然、先に立った俺にも警戒した視線を向けているが、

 

 民衆がこちらに向ける目は、もはや罪人を睨むそれだ。

 今すぐにでも、きっと一人でも始めれば、みな石を投げてくるだろう。

 ここには、諭してくれるカミなんて、いない、

 

「っ、どうする「早くしないと「今こそ成果を示す時だ、「『咲き誇る赤、燃える、「『響け壮音、轟く「『凍てつけ大地、切り裂く、

 

 いやそれどころか、カミに近い人がいても止められないかも。

 だってここにいるのは、わざわざ石なんて拾わなくとも、その意思を凶器に変換できちゃう人たちだった、

 

「・・・・・・あーあ、どうしよっか、」

 

 そして、後ろからも声がする。

 抜いた剣をフラフラと回す、劇場の主役。

 もしそっちからも何か来たら、いくらレコウさんといえどもどうしようもないかも、

 

 やばいっ、なにかっ、自分にできる事はないのか?!

 

「っ、ぐ、」

「・・・・・・ふむ、これは、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うおーーーっっ!! ——『整理!?』」

「えっ、」

 

 記憶を頼りに、力を込める。

 そう、確か、こうして、こうすると、

 

 パンッ!!

 

「うぐぅ!? なにを「な、いま、なにして「何だあれ、あんな魔術、見た事ないぞ「読めすらしない、恐ろしく、複雑な「だ、だが、一体どこを狙って「爆発? だが、大した威力では「そうだ、恐れるな、ただのはったり、」

 

「い、今のは、まさか、じゃ、」

「空間魔法とやらを暴走させた爆発だ。ワンチャンなんか、世界が吹っ飛ぶらしいぞ!?」

「きさまーーーーーー!? なにやっとるんじゃーーーーーー!?!?!?」

 

 おお、いい反応だ。

 おかげで、みんないい具合に怯んでくれている。

 

 記憶に残った、あの子お得意の空間魔法。

 なんか場合によっちゃヤバいらしい、死ぬほど難しいもの凄い魔法。

 よく見た俺は、その一端くらいは、使える、

 

 

 

 ——わけがない。

 これはあの子の努力の結晶だ、

 俺なんかが、そうホイホイ使えてたまるか、

 

 今のはただ、何とか魔力とやらを捻出するポーズを囮に、こっそり体を使って音を出しただけだ。

 何故かうまいこと深読みしてくれて、それどころか誰かビックリした拍子に何か暴発させた?

 ともかく運良く動きが止まったが、こんなのが決まるのは一度だけだな、

 

「ははは、というわけで落ち着いて、一度解散して、」

 

「ふざけるな「普通の魔術にしてもおかしい、いやあれは「まさかそれ、科学とかいうやつ「っ、やはり、そいつも、お前も、仲間か!?」

 

「ちょっと、待つのじゃ!? 貴様らの気持ちは分からんでもないが、あれは本当にやばいのじゃ!!」

 

「庇って「くそ、やっぱり仲間「というかあんた、準決勝の「なに、潜り込んで「いやそもそもどっかから来た選手って、」

 

 まずいっ、レコウさんに、関係ない人にまで迷惑がかかっている。

 俺の勝手な我儘で、これ以上余計な問題を増やすわけには、

 

 でも今さら、なかった事になんてできるはずが、それにするわけない。

 

 しかしくそう、手詰まりだ。

 何か、新しい、選択肢は、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・あん? どういう状況だ、これ、」

 

 

 

 声。

 体が勝手に、そっちを向く。

 まだ姿が見えてすらいないのに、何事よりも優先して確認すべきものがそこにあると、

 あれ、ん? なんだ、これ、、

 

「な、なんだ「向こう?「あ、誰かいるぞ!「あれは、いったい、」

 

 つられて集団も、向こうを向く。

 いくつもの、興奮した視線。

 されどそれを浴びながらも、平然と、むしろそれが相応しいと堂々とカッコよく現れるその姿は!!

 

 アレ、ンー?? こ、これは?!

 

「ふぅん。悪党退治ってところか? わかりやすいな。俺様も、混ぜてくれよ」

 

 だ、誰だ!?

 アレン!?

 わからない、何だこれ、記憶の一片たりとも渡してたまるかという執念を感じる!!

 アレン♪♪!!

 知り合い、なのか? いや、だが、助かった——、

 

「あ? 後から来て「それに、ん、その頭の「まあ、いいだろ、手伝ってくれ「剣? はっ、まあちょうどいい。あんた、前に出て、」

 

 わけじゃない!?

 そ、そうだ、まずい、

 今は、こっちが集団心理の悪者なんだ。

 

「・・・・・・勇者、じゃと!? 何故ここに、」

「勇者、なのか??」

 

 剣を持った、その人相悪い顔の、そんなところもカッコいい男が、こちらに向かってくる。

 

 目が合う、

 

 その瞳は、獲物を見つけた表情を、していた。

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