聖女の間。
それは、とても荘厳で、神聖なもの、
ではなく、
「これは、なるほどな」
「わかるの、エイン君」
「いや、駄目だ。半分ほどといったところか」
めちゃくちゃ魔術的だな。
願いも奇跡もあったもんじゃない、合理性と理論の塊。
そのくせ、外観は無駄に整えられているものだから、違和感が凄い。
「やはり、結界とはこういうものなのだな。純然たる、人の知識で作られたもの」
「それでいいの?」
「事実に、いいも悪いもあるか。少なくともわたしにとっては、この目で見たものが全てだ」
そして、メガネは本体をくいっと上げる。
あ、そのポーズ、夢で見た。
やっぱそれ、世界共通なの?
「・・・・・・中心、渦巻いている、あそこか」
「うーん、一人用だね。本来は複数人でやるものらしいのに、」
この建物、意外と広いのに、完全に個人用に作っちゃってるじゃん。
あの子、そういうとこあるよなー。
「・・・・・・流石に、中には入れないか。だが何か動いている、今も誰か聖女がいるのか?」
「・・・・・・うん、いなさそうだけどね。それに聖女は一応ここにもメートちゃんがいるし、わざわざ学園外から来るのかな」
元々の大人数用の装置も、別にあるみたいだしね。
それにレリアなら、わざわざここに来なくても、どこでも結界に干渉できるだろうし。
「みんなー、じゃあいってくるね〜」
聖女が、聖女のための部屋に入っていく。
ピンク? メート、君は張りぼての聖女だったはずでは? できるのか?
いや、それとも、ただのポーズ。
あの女が正規の聖女でないことも、国家の秘密であるのか。
本人、普通にその辺、皆に話してた気がするけど。
「・・・・・・ふむ。あの女がいなくても、何とかならないことはないのか?」
「つまんなそうだね。・・・・・・まあ、どうだろう。今だけかもよ」
マジでレリアがこの国を見捨てた場合って、どうなるのか。
案外、元通りで何とかなるのか、
それとも、一度引き上げられた水準は、もう元の下には戻れないのか。
だとしたら、君はやっぱりなかなかの悪女だね、僕は好きだよ。
「・・・・・・終わりか。まあ、参考にはなった」
「・・・・・・君が聖女になれそうなくらい?」
「馬鹿いえ。それを言うなら、せめて聖人だ」
「それは、なんかナルシストっぽい」
「ナルシスト? ああ。まあそうだな」
「えーー、」
さて、帰るか。
僕にとっては、何の面白味もなかったな。
わかりきった魔術の仕組み。ただ、これを一から構築しろといわれても、僕にできるかはわからないけど。
こんな、大人数を守るための魔法なんて、僕には多分おもいつかない。
「あ、すみません。そこの、セレンさん」
他の生徒が帰っていく中、僕だけはわかめ先生に呼び止められた。
メガネ君も立ち止まろうとしたが、おそらく職員に、うながされて帰されていく。
「・・・・・・何ですか?」
「いえ、大したことではありませんが。魔導国からいらっしゃったあなたには、ぜひここの感想を聞いておきたくて」
・・・・・・ふむ。
あ、レコウも職員に止められたな。
魔導国、って設定の人に聞く、ということは、
「・・・・・・綺麗な、場所ですね」
「そうですか、そうでしょう。流石ですよね」
何だこいつ。
しかし、まあそうか、下手に魔導国の人間なんて入れたら、秘密が漏れてしまうかもしれないから。
ここに神の奇跡なんてものはなく、ただの洗練された魔術と魔法であると。
口止めする気かな、別にいいけど。
僕が何かしなくても、どうせそのうちバレるだろうし、ほらメガネ君とか。
「それだけですか?」
「そうですねえ。あなたには、是非とも彼女が作ったものがどう見えてるか、聞いてみたかったので」
「はあ、帰っていいですか?」
もう皆いなくなっちゃったよ。
レコウだけは止められてるけど、あの子もじっとしてるの苦手そうだしな。
「いえ、その前に。ちょっと従っていただきたくて、」
きたか、黙っとけってだろ?
はいはい、この国の人にとっては、聖女の結界は絶対ですもんね。
レリア以外、見ることすらできないらしいし、考えてすらいない。
疑う人間なんて、いちゃいけない・・・・・・、
こいつは、何でそれ、知ってるんだ?
「『ワタシに従え、洗脳』」
「『ッ、』」
くそっ、油断した、
こいつ、この程度の悪意、貴族周辺の連中ならみんな持ってる程度だと思ったのに!
いや違う、こいつにとってはこの程度、悪意をともなう行為ですらないんだ。
息をするように慣れ親しんだ行動、ちっ、これだから上にいるつもりの人間は!!
「・・・・・・・・・・・・、」
だが、この程度の魔術の腕で、僕を従わせられる訳がないだろう。
ただでさえ、僕はそれなりに魔術を使えるのに、なにより、
僕が、アレン以外に従うわけナイダロ?
オマエだけは、確実に殺してやるよ。
「ふふ、いい子ですね。では、」
クソムカつくが、一応かかったフリをしといてやる。
さっさと収納してやってもいいが、ここは聖女の結界の中心近く。
無理やりやったら、この国全体のまで壊れるかもな。
ま、そんなのどうでもいいけど、まずはこうして落ち着かないと、本当にさっさと殺し尽くしちゃいそうだし。
そんなので許せるか、死なんて楽なもので、オマエには、もっともっと底の底の、
・・・・・・ふぅ、だめだめ、そんな思考じゃ、
拷問はゆっくり考えてっと。それにしてもこいつ、自分の魔法がちゃんと効いたのかすら判別できないのか?
すっかり油断して、どう調理してやろうかなーっと。
「そっちの子にも、やらせていただきましょうかね。『ワタシに従え、
・・・・・・はは、オマエ程度の腕で、レコウに魔術が効くわけ、
・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・レコウ、魔術耐性、クソ雑魚ナメクジ、五円玉以下。
・・・・・・・・・・・・あ、
やっばー、
「っ、ま、『反論、いや杖ないんだった!?」
「おや、やはりまだ動けましたか。でももう遅い、『洗脳!』」
っ、まず、だめ、
空間魔法、もう渋ってる場合じゃない! 今すぐどうにかしないと、レコウが!!
「レコウー!」
「お、なんじゃ? どうしたのかの?」
「『そいつをやりなさい、ワタシのしもべよ』」
そして、レコウは、鋭い目をして、
僕の方へ、高速で、
あ、死ぬ、防御しなきゃ、
この、軌道は・・・・・・、
「よくわからんが、人間が我に指図するなー!!」
僕の横をすり抜けて、
わかめが、殴り飛ばされた。
・・・・・・この速度なら、人間大の肉なんて弾け飛んでるはずなのに、相変わらず君は力加減が上手いね。
なんて、
「レコウ、大丈夫なの!?」
「え、何がじゃ? しかし、やっちまったの。人間のこの程度の悪意、ありふれているものじゃというのに、ついカッとなっちまったのじゃ」
問題にならないといいがー、って、正当防衛だからいいよ。
弾け飛ばせてたとしても、過剰にはならないくらいだ、
じゃなくて。
「レコウ、今、魔法を使われたんだよ」
「え、マジかじゃ、大丈夫かの?」
「いや、僕もだけど、レコウも、」
「・・・・・・うん? 全然気づかなかったのじゃ」
・・・・・・あー、そーなる、のかなー??
何故だ、前提が変わってくる、考えられるものとしては、こいつわかめの腕不足。
それとも、ドラゴンだから人間のとはそもそも構造が違うってことで、効果がないのか?
うーん、わからない、とりあえず流石ドラゴンヘッド??
「今は人間なんじゃがな。それよりそいつ、どうするのじゃ?」
どう、してくれようか。
まだ考えが纏まってない、
しょうがない、僕がここで考えても、殺す以外の結論が出なそうだし、
「とりあえず、レリアのところにでも持ち帰って、情報抜き出してみるか」
止めてくれる人がいないと、さっさと廃人にしちゃいそうだしねー。
————ハハハ、
ん、なんだ、わかめ、まだ息があったか。
なにわろとんねん、さっさと締めてやろうか、
「————アハハハハハ!!」
「うわ、なんじゃこいつ、もっと強くいっても良かったか、
「——ハハ。ワタシの愛しのアウレリア。やはり、あなた達が隠していましたか」
・・・・・・アウ? ああ、レリアの本名か。
そういや、ちゃんと聞いてなかったな。
愛しのって、気持ち悪いな。レリアには合わせない方がいいかも。
いや知り合いの可能性も、あーる、のー、かなーー???
「どうするじゃ、」
「殺したい、でもまずいかなー?」
「返していただきますよ、『襲いなさい!』」
なに、外から、魔物!
潜伏、何で悪いやつは皆それ使うんだ、悪いやつだからか、そうか、
それにこの国は、聖女が常に見張ってるようなものだからね、そりゃ潜伏の一つや二つ、
それで町中にモンスター隠せるって、聖女の結界、やっぱガバガバじゃない!?
「これ、ダンジョンのじゃの」
「あ、昨日の犯人もお前か!」
くそ、まあいい、空間魔法。
・・・・・・この部屋、魔法阻害されるな、狭い分昨日よりキツイかも。
でも、僕を止められるほどじゃない。
「よし、それじゃあ、」
「おや、探し物はこれですか?」
ん、今、会話飛ばさなかった?
これ見よがしに取り出したのは、あ、僕の、というかレリアが僕に作った杖!
「そちらのお嬢さんがここまで動けるとは想定外でしたが、あなたはもう、何もできませんよねえ」
想定外? ああこいつ、剣術の授業とかは見てないからな。
あと、何をもって僕のことを、その杖頼りの貧弱君だと。
・・・・・・あー、まあ、学園内の僕しか見てないなら、そうなるのか?
剣とかの授業もちゃんと見てたら、お前程度、殴り合いでもどうにでもなるってわかるだろうに。
「よしレコウ、ごー、」
「おや、いいのですか? ワタシを倒したところで、魔物は消えませんよ?」
「よしレコウ、ごー、」
「彼女はともかく、あなたは自分の身を守れるのですか?」
「よしレコウ、ごー、」
「それに、もしワタシが倒されたら、外にいる魔物が散らばって、他の生徒を襲ってしまうかもしれませんよ」
「よしレコウ、ごー、」
それは全て、僕が気にすることか?
「っ、野蛮人が! いいで
「ゴーゴーなのじゃー!!」
——ゴファ!?
お、いいぞーレコウー、気を失わないくらいだ、ギリギリまでお手玉にしてやれー、
「じゃあ魔物は『収納』っと、」
さてと、もはやこいつに聞くことはあるか知らないけど、殺さずに、ちょうどいい拷問はー、
・・・・・・そういや昨日、なんか見たっけ。
「・・・・・・ねーレコウー。レコウって、人の黄金には興味ある? 潰し放題なんだけど、」
「嫌なのじゃ、普通に、」
「だよねー、」
うん、僕らは淑女らしく、
顔面サンドバッグとワカメ刈りで許してやろ。