つえパーンチ、つえチョーップ、つえキーック、だめだ、当たる気がしない。
「『それは、つえ関係ないんじゃないのー?』」
「『何言ってるの、手に意識を集中させて意識外から蹴る、立派なつえ術だよ』」
機会があればつえビームも、ってこれは普通だな。
「『じゃあ今度はわたしからー、もこもこ!』」
「『え、なにそれ!? この状態で使えるの!?』」
彼女の腰あたりにあったもふもふでふわふわな飾りが広がって、意志を持って殴りかかってくる!?
「『うそー!? 受け流し!! うわバチって痛った?! 静電気??』」
「『いったーい、ぐるぐる、』」
何で君まで体勢崩してんの?
いや、違う、これ、繋がってるんだ。
それどころか、これは、
「『あ、いい位置に頭』」
「『お、とりゃー!』」
彼女の頭に手を添えて、首を振って抵抗?
ん、何だこれ、でっかい髪飾りの奥に固い物?
いや、鋭い、痛い、
「「『『わー、ささったー!?』』」」
何これ、角?!
メートちゃんは、地面に刺さってるし、なんだこれ!?
「『うぐぐ、バレてしまったのです。実はメートは、羊の妖精なのです』」
「『あ、これ、羊の角か、』」
僕が気づかないなんて、どれだけ自然に行動に溶け込んで。
・・・・・・なるほど、これはつまり、僕のからと同じ、彼女にとって最もふかい、
「『それ、羽、生えてんの?』」
「『そう、羊毛の! もこもこなのです!!』」
「『いや羊は羽生えてないと思うけど、』」
「『妖精だからいいのです!』」
妖精、なんてものじゃない。
羊、それも部分的だ。
これは、間違いなく、
「『・・・・・・それ、わざわざ縫い付けてあるの?』」
「『もう、妖精の秘密だよ。いっちゃだーめ、てーい!!』」
「『鞭、あえて受ける!!』」
「「『『いったーい!!??』』」」
やっぱそうだ、これ、尻尾だ!?
悪魔、いやサキュバスの尾!!
何でそんなものが生えて、いやなんでそれで叩いてくるの?!?!
「『・・・・・・何でそれで戦おうと思ったの??』」
「『・・・・・・痛く、ないのです?』」
「『いやそっちこそ、』」
「『メートは我慢できるのです。でも他の人は、きっと痛いと思ったんだけどなー』」
いやいや、その程度で。
メートちゃん、いいこと教えてあげる。
鞭はね、先端が細い方が痛いんだよ?
「『力学的にね、そっちの方が速度が出るんだ。それに力が分散しないから、より奥まで抉れる』」
「『ほえー、メートは、そんなこと学ばなかったのです』」
「『僕は体で学んだよ。慣れてくると、何だかおかしくなってきてね』」
頭が、なんて。
いやいや、この子にだけは、こんな話をしてちゃいけないな。
「『というかメート? それ、色々見せてくれて嬉しいけど、全部むしろ自分の方が不利になってるんじゃ・・・・・・、』」
「『・・・・・・め〜♪』」
「『えぇ、』」
「『だって、あなたには、わたしのことをもっと知ってもらいたかったからね』」
そう、それは光栄、なのかな?
「『めぇめぇ、この国には、人間の奴隷はいちゃダメなんだ』」
「『うん、聞いた』」
「『そして頭の悪い人は考えました、じゃあ人間じゃなくしちゃえばいいんじゃないかって』」
「『まあ人間は、扱いづらいもんね』」
「『なのでとりあえず、魔物の血肉を入れてみたら、こうなりました! めぇめぇ、』」
ほーん、いや、ただ適当に打ち込んだだけじゃ、普通に死ぬと思うけど。
対処療法というよりは、多分元からそこらへんの需要があって、その技術を応用したのかな?
ま、頭の良い悪い人の考えることは、よくわかんないねー。
「『それでねー。メートヒェン等は、聖女が結界を改良した時にみんな見つかって、回収されたんだ〜、』」
「『なるほどねー、』」
「『それでね、みんなみんな処刑されちゃった! この国が作ったのに、勝手だねー』」
「『うん。勝手だよ。とりあえずその勝手な一人は持ってるけど、後で蹴る??』」
「『えへへ、いちおーメートのみかた〜。でも楽しそー!』」
どこを、って言ったら、この子もドン引きするのかな。
いや、嬉々としてやるかも。
どうだろうね、レリア。
もう少しだけ世界が優しかったら、君たちも一緒に、
いや玉二つあるからって二人で蹴るのは何も優しくないわ。
「『でもね、わたしだけは、メートだけは、ゆーしゃ様が助けてくれたの』」
「『よく気持ちがわかりそうだ』」
「『わたしだけ、ずるよね、でもそんなゆーしゃ様が大好き。たすけてーって、いつも答えてくれる』」
「『うらやましく、は、ないよ別に、』」
・・・・・・・・・・・・、
あ、レコウー! そいつ針飛ばしてくるよー、気をつけてー!!
「『結局あれ、彼? は何?』」
「『んー、予言の勇者様? わたしも、メートも、よくわかんない。でも間違いなく、勇者だよ』」
「『いや、それ僕は認めるわけにはいかないけどね』」
「『えー?』」
「『うん、』」
さてと、羽を広げて、結構自由に動かせるんだな、
あれ、殴られても大して痛くなさそうだけど、捕まったら流石にまずいか。
鞭は、むしろ向こうのほうがダメージ大きいんじゃ、
いや、さすがに、もう受けたくはないけど。
「『メェー! じゃあ、ちょっと、ずるいことします!』」
「『なに? おっと、羽の後ろから大量に針撃たせようとしてるね、絶対君の方が痛いよ?』」
「『いけーゆーしゃ様!!』」
針が貫通、しない!?
うわ、羽から無数の針が生えて、アイアンメイデンみたい。痛そう。
そしてさらに、鞭を手放して、
「『とー! ゆーしゃ様そーどー!』」
「『うわ、ほんとにずるいね!?』」
それ、何本も増やせるのかよ。
じゃあ、剣奪われてた王子はなんなんだ、
というか、流石に、これは杖で捌くの厳しいかも。
「『くそ、じゃあ僕もずるい手しちゃうぞ!』」
「『どうぞどうぞ〜』」
くらえ、じゃあ、
『放/出』⁉︎
「『むー? そんなのじゃましちゃ、
ポンッ!!
「『ピッ!?』」
「『おっと、運が悪かった、いやよかったのかな?』」
空間魔法の暴走爆弾だ、
僕にももう制御できてないぞ!?
「『空間の狭間が開いて、ワンチャン全てが吹っ飛びます』」
「『えーーー!?』」
「『ま、流石に、僕の魔力じゃ、そこまでは大丈夫な・・・・・・はず、』」
多分、おそらく、きっと、うん。
「『はっはっはー! 怖いだろー! 怖かったら大人しく降参するんだなー!!』」
「『むー、いいもん、わたしはこの国が壊れたって!!』」
「『なら僕は宇宙が壊れてもまわないよ、ほらほら〜、』」
一番大事なものは、別で守ってるしね。
しかし、本当にこれでこの国が崩壊したら、僕なんのために戦ってるんだろう。
「『・・・・・・わかった、ゆーしゃ様そーどはやめるから、それはやめて? そうなったら、ゆーしゃ様も死んじゃう』」
「『だよね、僕は今、核抑止力というものを実感しているよ』」
そりゃなくならないわな、武力。
「『じゃあ、しょうがないから、殴り合いに、』」
「『と見せかけててーい!』」
「『うわっ、本当にずるいね!?」』
そりゃなくならないわな、戦争。
「『もー、いいの? やっちゃうよ!?』」
「『ふふふ。あなたには、わたしの一番ずるいの、見せてあげる』」
「『今の以上が!? もう君が怖いよメート』」
「『えへへ、いっくよーー、』」
『虚構』
警戒していたはずだった、みすみす魔術の行使を通すはずがないと。
でも違う、これは、魔術ですらない、ただのシンプルで簡単な魔法。
効果は、無い。
「っ、空間内の魔力が、全て消えたのか!?」
何も、ない、無だ。
魔法も、魔術も、全てが消えた。
体の内側から出そうとしても、外に出る前に消えてしまう。
「・・・・・・なのに、何で君の勇者は、消えてないのかな?」
「言ったでしょ、ずるいって、」
剣が迫る、
「じゃあ、さよなら、」
これは反らせる、
そして羽に包み込まれる。
「もういいよ、おやすみ」
ああ、確かに、こんなものに包まれて死ねるのなら、幸福、
・・・・・・・・・・・・、
な、わけあるか、
いや棘だらけで痛い!!
「っ、が!」
「もう、暴れると痛いよ?」
「君もね!? はね、ズタボロじゃん」
くそ、いっそこれが本当にただの優しい羊毛なら、諦めて負けを認めてたかもな。
でもこんな、ふざけたもので、死んでたまるか!!
この世界で死ぬなら、せめて、
「レコウ!! まとめていって!!」
「ん、本当に、死んじゃうよ??」
竜の手で、なんて、
わかってないな、あの子めちゃくちゃ力加減うまいんだぞ。
「よっしゃーなのじゃー!!」
「っ、ゆうしゃ様! とめて!!」
鎧と竜が、もつれあって向かってくる。
このままだと、本当に二人まとめてイクかもね、
「もー、むー、てーい!」
「頭突き!? 刺さるか!!」
的確に自分の身体的特徴使ってくるな、
でも無駄だよ、いま僕の脳は魔術にリソース使ってないから、その程度首の動きだけで、
「うぐぅ、あたまぐらぐらするぅ?」
「はははー、頭蓋骨についた角なんて、やっぱり弱点にしかならないよ!!」
逆に側面からぶつけて捻ってやる。
あっ、でも、流石に僕も痛い、額切れた、ここ無駄に出血多いんだよね、
「おっと、解放された。まったく、ハリネズミの気分だよ? いや逆か?」
「うわっ、大丈夫かの、セシィ!!」
「うん、平常運転。それに、あっちも大概酷いはずだよ」
ギリギリで離れて、その間を竜と鎧が通過する。
流石にもうこれで羽は使えないだろう。
「それにほら、こんなに武器が手に入った。メートも、愛しの勇者様の一部で死ねるなら本望でしょう」
「もー、ゆーしゃさまー、」
「あ、消えちゃった。出血増えるな」
そんなことまでできるのか。
しかし君の羊毛も、真っ赤に染まって、いやちょうどよくピンク色だな。
なんと、そこまで計算してたのか!!
「ゆーしゃ様!」
「おっと、そろそろまずいの。我も、魔法が使えたらいいのじゃが、」
「うーん、どっちにしろ? というかレコウ、変身魔法は大丈夫なの?」
「何がじゃ?」
ふむ、前からかかっていた魔法は消えないのか?
とはいえ、僕に使えるものはないけど。
「めー。痛そう。まだ動けるの?」
「まあ、大したことないよ、取り立てて騒ぐほどじゃない」
「・・・・・・そっか〜」
君も、その程度の痛みは慣れっこか。
「ねえ、あなたの名前って、セシィ?」
「あ、聞いてたの?」
「うん、可愛い名前! 自分でつけたの?」
「いや、レコウが付けてくれた愛称だよ。本来のはセルース、」
「えー、ひどくなーい??」
「あはは、殺すよ?」
いいよ、君だけは許してあげる、
でも次はない。
「ねえ、セシィ。わたしは、メートは、全部を見せたつもりだよ」
「そんな仮面被っといて?」
「もう、違うよ! これは仮面じゃなくて、本当のわたし。何もなく、平和に暮らしてたはずだったわたし、中身を見せてるだけ」
ああ、なるほど、やっぱり彼女は僕と同じで真逆なんだな。
あれは、あの気持ち悪くて美しいのは、グヂャグヂャにされた中身を、綺麗に貼り直したもの。
仮面なんてなくて、内臓を直接見せびらかしてる。どちらにしろグロテスクで可愛くて整ってる。
「・・・・・・本来の君なら、その先読み能力は無理では、」
「えへへ、これは癖だし。それに、わかんないよー♪ わたしたちの未来は、いくらでもあったはずなんだ。セシィも、絵本の中に旅行したりしないの?」
「未来か。僕にはわからなかったよ。でも旅行ならしたな、奇跡的な出会いだった」
彼女にとっての絵本が、僕にとっての夢だったんだね。
僕だけは、君だけは、お互いに理解しあえたのかな。
「だから、わたしにも、本当のセシィを見せてくれない?」
「えー、どうしよっかなー・・・・・・、いいの?」
「うん。おねがーい、」
あはは、他ならぬ、君の頼みならしょうがないね。
レコウにも見せたことがない、特別だよ。
それじゃあ、
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・・・・・・そっか、そうなっちゃうんだ。
失敗したな。
わたしは、剣を振るう。
もう、彼女は、こっちを見ることすらなかった。
なにも、わからない、
なにも、感じない。
完全な、無。
わたしの魔法なんかより、よっぽど虚構で、虚無で、なんにもない、
彼女の動きがわからない、
剣をすり抜けて、そのまま押し倒される、
こきっ? あれ、て。動かせないや。
のしかかられて、羽も動かせない。
あー、ゆび、ほそいなー、
ぎゅっと締め付けるんじゃなくて、摘むように、
今までで一番軽くて小さな手なのに、一番苦しい、
すごいね。どうやって知ったんだろう。
あ、壊されてる、効率的に、
わたしのこと、人としてすら見てないや、
あーあ、やだ、
やだやだやだ!!
「——っ、は、なし、て、」
わたしの抵抗なんて意味はない。
わたしの思考なんて考慮しない。
わたしの意思なんて存在しない。
ああ。これが、あなたの見ていた世界なんだ、
「———ぉ、は。なじ、シ、ぇ」
やだよ、はなして、はなして、このまま終わりなんてやだ、
まって、まだ、あとちょっとだけ、
お願い、わたし、は、あなたと、
————ォ、ぁ、ぁ、ぃ、、
お話。したいのに。
「・・・・・・セシィ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「なに?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「いつまで、そうやっとるんじゃ、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そうだね、もういいかな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「いや、手を離すのもそうじゃが、それ以上に、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ん、ああ、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
ふう、楽だったんだけど。