「じゃあ、行きましょうかセシィちゃん♪」
「はい、、」
「おお、げっそりしてるのー、」
宿で一晩過ごしました。
昨夜はお楽しみでしたか? いえ何もなかったですほんとはい、
・・・・・・まあ、うん。いい加減普通にベットで寝るのも慣れてきたかな、なんて。
別の意味で、慣れたらやばそうだけど、
——へえ、ライバルの出現ねえ、詳しく聞かせてレコウちゃん、
——おう! なんと幼馴染属性持ちの男じゃぞ! しかもレリアよりも物凄く胸が大きかったぞ!!
——ふふ、それは強敵ね・・・・・・。・・・・・・ん?? 胸筋の話???
いや本当になんの話してるんだろう。
まあそんな一幕もあって、
「おお、ころっしあーむじゃー!」
「そうねぇ、なんなのそれ?」
「さあ、なんなのじゃセシィ?」
「うーん・・・・・・、地名? 多分、」
円形闘技場、いや名目上は多目的ホールなんだっけ、発表会場とかなんとか、
どうでもいいや。どうでもいいけど、好きにはなれなそうな場所。
なにせ、
「おー、人間がたくさんいるのー、」
「うん、うるさい、苦手だなぁ、」
「でも、だからこそたくさん物が売れるのよ、」
あ、ここでもなんか売りつけるんだ、というか特等席って屋台的な場所?
競技観戦しながらプリン、正直会わなそう、いやこれは夢の視点によってるからかもしれないけど。
「いえ、来賓用の席はあるわ。使う予定は無かったのだけど、」
「うん、そっちの方が多少は静かかな、助かるよ、」
「うふふ。私、女王やってて良かったわ」
さてと、いったい何が始まるんだろうね、
人が熱狂している、うん、まあ想像はつくけれど。
不思議だね、僕も君も、直接経験した事はないはずなのにな。
「ここよ、席が三つ、ちょうどいいわね。レコウちゃん、左と右どっちがいいかしら?」
「おおう、絶対に隣を取ってやろうという気概を感じるのじゃ。ほれセシィ、真ん中に座るのじゃ、」
「文字通り僕を挟んで遊ばないでよ、」
まあ隣に誰か知らない人座られるよりマシだけど、
ここ全部指定席なのかな?
「ええ、そっち側は確か、外から凄いご来賓をお招きしたとか聞いてるけれど、誰かは知らないわ、」
「ふーん、こっちは?」
「まだ決まってないわ、まあ多分むさ苦しい男でも来るでしょうから、そんな隣にセシィちゃんを置くわけにはいかないわぁ」
「・・・・・・我はいいのかの?」
まあいいや。
そもそも別に、こんな場所に何度も来る事もないだろうし。
旗、うん、見れるかな、
「あら、始まりそうね、」
段差のある見せもののための空間。
単純な、高低差に留まらない絶対的な隔離場に、人が入ってくる、
いや、あるいは、ものが。
「おお、なんか楽しそうじゃの!」
湧き立てる音楽、舞い散る赤色、組み上げられる鋼、駆り立てられる獣。
扇状的な格好をした少女に、いかにもな小柄なおじさんに、大きな体格の男まで様々が踊る出て、
炎が周り、金属を振り回し、人が空を舞い、そして笑われる。
その空間はまさに、
「・・・・・・サーカス?」
綺麗な魔法が飛び回る。
外見だけに見えて、中身は無駄に高度な魔術、流石は魔術の国?
それが時に空を舞い、時に人に当たって弾け、時に失敗して自分に返ってきて倒れている。
コミカルに、赤と白、成功には歓声が、失敗にも笑いが盛り上がる。
少なくとも、血肉は飛び散らないな。
なんか、思ってたのとちょっと違う、かも?
「・・・・・・何これ?」
「演劇よ、悪くないでしょう?」
「わっはっはっー! 面白いのじゃー!!」
どうだろう、楽しいか、
舞台の上、視線の上では、今度は子供が目隠しをしたまま細い縄を渡っている。
高い、落ちたら死ぬかな、いや魔法があればどうとでもなるか。
観客はその妙技とともに、いやこの程度だったら僕でもできるけど、ともかく心のどこかではハプニングも求めて眺めている。
成功したら素直な拍手が流れ、失敗しても珍しい物を見れた優越感で笑いが取れるだろう。
うん、まあ悪くはないのかもね、どうだろ、本人に聞いてみないとわかんないや。
「んー、はらはらしちゃうかしら、」
「まあ、例え落ちてもあの程度の高さなら大した怪我はしないかな、」
「・・・・・・それ、魔法ありの話よね?」
いや? やっぱ多少の怪我はあった方が、その後のリアリティの為にもお仕置きのためにも、ってなんで僕は悪徳支配人の考えしてるんだ。
まあともかく、彼らは例え火の輪を潜ろうが猛獣と戯れようがナイフを投げ合おうが怪我はない。
たまに失敗して転げ回ってる人がいるけど、それもそういう芸風。どんな気持ちなんだろうね、僕もよくやってたけど他人のを見るのは新鮮だ。
「おお、また失敗したぞ、情けないやつじゃのー、」
「そう、楽しそうだね、」
「つい目で追っちゃうからの、くくく、やり手じゃな」
「・・・・・・そう。まああっちも全力で仕事してるんだ、こっちも全力で楽しまなきゃ失礼かな?」
わからないけど、わからないなりに、会場の空気に乗ってみる。
魔法と、体術の合わさった妙技の数々。
体を使ったものの方が多いな、恐らくこの国では手から大きな火炎を放つよりも、口から小さな火を吹く方がもの珍しく面白いのだろう。
僕と同じくらいの幼い子供がグネグネと体を曲げて輪を作っている、流石に僕でもあそこまではいけるかな、素直に凄いと思えるかも。
お酢とか飲んでるのかな、・・・・・・それは迷信? そうなの??
「うわぁ、すごいのぉ、」
「ぐにぐに、あ、できそう、」
「うぇ、」
「ふむ、これ関節外してるな、自分で戻せるのか、」
「もう、セシィちゃん、はしたないわよ?」
「おっとつい、まあそこまでやらなくていいか」
あんまり彼らの芸を真似るのも良くないよね。
でもこうやって種やら何やら考えながらわいわい話すのも、きっと正しい楽しみ方さ、
「あ、そろそろ来そうよ、」
「む、観客の声が静かになったの?」
「お、なんだろ、期待、喜び、これは、」
間、波、空間が一体となったかのように急にシンと静まり返る。
これは、演者側の人たちがそう演出しているのもあるけれど、それ以上に、
みんなわかっているんだ、これから何が起きるか。誰が来るか。どんな事をしてるくれるか。
それが素晴らしい事だって、
「ええ、この会場の主役にして、大目玉の登場よ、」
会場の大きな門が開く。
そこにいるのは怪物のマスクを被った大男。
鎖に繋がれて、まるで猛獣と同じ扱いの巨体が、勢いよく吠えて駆け出して、
「おお、すごい迫力じゃの、」
「そうねぇ、。そして、あれが、」
中央に飛び出る。
まだ機材や人がいる楽しげな空間が、一瞬の間に想像通りの闘技場にすげ替わる、
逃げまどい、ながら自然に機材を片付けていく演者たちの中、中央に女性たちが取り残される。
扇状的な、兎、バニー? ともかくその集団に掴み掛かり、あわや別のショーが開催されかねないところで、カラフルな爆発が起こり、
「やあ、巨漢さん。あまりおいたはいけないよ、ここはボクのステージなのだから」
くるりと、細い腕が大きな太い腕を受け流す、
いつの間にやらそこにいたのは、頭に小さなクラウンを付けた、まさしくクラウンたちの王様。
明るいオレンジ系の金髪を靡かせて、堂々と白いスラリとした服装を着こなした、理想の白馬の王子様。
にっこりと笑顔を振りまいて、あたりから歓声に嬌声が湧き上がる。
「きゃーっと、すごい人気じゃのー、」
「まさしくみんなが思い描く王子様って感じよねー、うちの馬鹿より貫禄あるんじゃないかしら、」
「・・・・・・あの服、きつそうだな、」
どこからともなく、先ほどまでバニーガールしか居なかった場所から現れた麗しの王子様。
まるで空間魔法でも使ったかのように無から忽然と、どうだろう、レコウには種がわかったかな?
なるほどこれは、魔術に強い国だからこそ騙され湧き立つのかもしれないな、
「・・・・・・うん。あの人がそうなんでしょ」
「ええ。エウス、ミシェルネイ。彼こそがこの劇団のトップにして、実質的な実践派の御旗よ」
ふーん、おかしな話だ。いったいどうやってそんな事になったのか。
でも確かに、クルクルと細い剣一本で巨漢と立ち回っているその姿は、民を率いる王の風格があるのかもしれない。
にしてもレリア、そんなに勿体ぶって。確かに見た方が早かったかもだけど、
「もう、いるんなら早く言ってよ、」
「ごめんなさいね、彼は私生活が謎の上に、劇の最後の方にならないと出てこないのよ、」
「もういいって。普通に最初からいたでしょ、むしろ一番最初に出てたバニーガールだったか? なるほど、目立ちたがり屋だね、」
男装の麗人、なるほど、これは人気が出そうかな?
しかし気に触るのは、なんであの人、ガチガチに男装してるのに僕の通常よりも胸でかいの?
え、おかしくない? 巨乳か男装が似合うか、せめてどっちかにしろよ僕の立つ背がグフゥ、
「え、」
「ん、聖女様? 思いっきり目の前でバニー集団の中から着替えて出てきたよね、まさか本当に知らなかったとか、」
「そ、そんなわけないじゃない? ええそうよ、びっくりさせたかったけど、やっぱり私の王子様は流石ねぇ??」
・・・・・・まあ、うん、視線誘導が上手かったな。
いっそ魔法よりも不思議に見えるかもなんてね、この仕掛けも含めてきっと彼女が考えてるのだろう。
それを証明するかのように、舞台の上で華やかに巨大な相手を圧倒している。
「おお、危ない!?」
「いや、演技だよ、」
巨漢が腕を振り上げる、それを大袈裟に避けてわざと剣を空ぶらせる。
大きく、優雅に、余裕を持って周囲を舞って、華麗に飛び上がって剣を振り飾る、
「自分の何倍も大きい相手にあんなギリギリで、わかっていてもハラハラするわねぇ、」
「いやどっちも人間なんだからせいぜい倍程度だよ、それに結構余裕を持って、」
・・・・・・む、いや待てよ。
なるほど、これ、自分を華麗に見せるだけじゃなく、
「また受け流したの! まるでセシィみたいじゃ、」
「ね〜、セシィに会う前だったら私もファンになってたかもしれないわぁ、。いや私の王子様に似てるからだからそれは有り得ないのだけど、」
「・・・・・・いや、全然違うよ。僕はあんな風には避けれないし、」
ふむふむ、なんて無駄の多く無駄の無い。
わざと余裕を減らし、大袈裟に、まるでとても強敵と戦ってるかのように。
これが演劇か、自分だけでなく、周囲も全て自身の演技の中に巻き込んでいく。
見てる人にはもう、目の前にいるあの少し体格のいい大男は、とても巨大な本物の怪物にすら錯覚させられているだろう。
素晴らしいな、少なくとも僕はこんな事したことない。
「道化の御旗。うん、確かに見た方が早かったね、」
気づいたら劇は終わっていた。
最後に彼女は大きく剣を振り下ろし、赤の一つも飛び散っていないのに誰もが怪物退治の結末を夢想した。
僕ですら、気づけば惜しみない拍手を送っていた、無意識にね。
これは、なるほど、国を半分にできる人間だなんて言われても、信じるしかないか。
そこにいたのは、確かに、一国の王だった。