そこにあったのは、金属の円柱だった。
「・・・・・・来たか、」
そこから、機械越しの音声が流れていた。
「・・・・・・まあ、なんだ、座れ、」
「君に?」
「それはやめろ、」
大体、僕の胸元くらいの身長の、短い手足の生えたドラム缶。わかりにくいとか言うな。
ドラム、もん? むしろアールツーディー、何それ構造式?
レンズのついた半球場の頭から、先程までと同じ声が聞こえてくる。
「えっと、それ、どうなってんの?」
「どう、とは? ジブンにとっては、これが普通だ」
純粋な科学の結晶である機械、
魔力を原料としている魔道具。
電気、液体燃料、有機的エネルギー、そのどれとも、
「・・・・・・・・・・・・予備源力、どれがだ、いやどれもが?」
「あまりマジマジと見るな、そんなに面白いものでもないだろう、」
機械の手足をカシャカシャしながら声を出す。
まあ、確かにね。そんな人のことをジロジロと観察するものでもないか。今更だけど、
「・・・・・・・・・・・・聞きたい事が増えたけど、まあいいや。それ、自分でやったの?」
「・・・・・・それが、前払いか?」
息遣いを感じる、目の前の金属柱から、
どうやら、諦めて対話してくれる気になったらしい。
「うん、特に聞きたいね。それとも、彼とやらがやったのかい?」
自走する最も古そうなアンドロイド、
クルクルと手元に持ったままの携帯をしまって、改めて視線を合わせる。
レンズ越し、その奥にあるのは、
「彼。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そう、だな、」
「・・・・・・・・・・・・ふーん。それじゃ、教えてくれる?」
嘘、ここまで来たら、もう隠し事は難しいだろう。
少々、いやだいぶ想定していた素顔とは違うが、それで手を緩めるつもりはない。
むしろなおのこと、気合を入れて取り組まないとな。
「まて、その前に、オマエのことを教えろ、」
「・・・・・・うん。まあ道理だけど、勝手に覗き見してたんじゃないの?」
監視カメラ、町中にあったけど、あれは息苦しくないのかな。
・・・・・・でもそのおかげで安全性、僕みたいのが減るんだとしたら、やっぱりいいな。君の世界は。
ま、僕は途中から最低限にしか映らないようにしてたけど。所詮は紛い物でガバガバだね。
・・・・・・普通はそうはいかない? そうなん??
「それで測りきれなかったから、今こうして対面されている、」
「そう。でも一つわかったでしょ? この場所に来れるくらいの実力はあるって、」
といっても、隠蔽の魔法すらかかってなかったからね。レリアでも時間かければ来れると思うけど。多分。
「・・・・・・・・・・・・試すぞ、」
「ん? うん、」
カチッ、音がして、
————ッッッッ、
飛来する金属の礫、子供のおもちゃ。
空気を裂く音、戦場の空気、それなりの殺意。
見慣れてしまったその螺旋を、半身を逸らして対処する、
「壁から、へー、便利だね」
「・・・・・・・・・・・・慌てすらしない、か、」
いや少しは怖かったよ、
こんな室内で使って、跳弾した挙句に君に当たって機能停止でもされたら、流石に笑えない。
むしろ君に当たらないかどうか弾道計算する方に気を使ったね。
「まあそのための金属製外皮か。次は、その体に埋め込まれた銃でも使うの?」
「——ちっ、いや、いい。無駄だな、」
そうだね、そうかな。
そのツルっとしたボディから、どんな風に銃口が飛び出してくるのかは、ちょっと面白そうだったけど。
ね、君も気になるよね、男のロマンだっけ、違うか?
まあでも科学の機械、君には見慣れたものだし、そんなに興味深いものでもないかな。
・・・・・・・・・・・・ん? あんなもの現実にはないんだっけ、あそう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ? そうなん??
「それで、彼の話、か、」
「あ、うん。聞かせてくれる?」
答えはイエスかはいで。
それ以外なら、脳に電極ブッ刺して直接吸い出します。
ははは、君の世界は怖いね、なんてジョークさ。流石にわかるよ。
そんなね、体の自由奪って直接脳から電気信号で記憶を引き抜く拷問なんてやる奴・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・いや、僕は、拷問とか別にしてないし?
人に向かって鞭打ったりしたことあるけど、いやまあ、あーーー、
「正直。ジブンも詳しくはわかっていない。こうしてこの体を授けてくれて、知識をくれた人。それだけだ、」
「・・・・・・そう、」
嘘ではないかな、電極刺さなくてもまあ多分そう。
魔法使えば一発だけどね、それは最終手段かな。
「もうこの国にはいないの?」
「・・・・・・さあな。ジブンは、あの人が今どこにいるのか、何をしているのか、生きているのかすら、ナニもわからない、」
真実、だけど信じたくはない。
何せこればっかりは僕の判別が間違ってた方が都合がいい、だってこれが嘘じゃないなら、完全に手詰まりだ。
・・・・・・使えない、肝心な情報何一つないじゃん、せめて電話番号とかメルアドくらい交換しときなよ。
今はあれもあるんだろ、確かライ、エスエヌ、なんちゃら、
ほら、あの青い鳥とか君はよく見てたけど、なんて言う名前だったかな、まあいいや。
ま、それもこれも昔の話だ。
この世界にないものを懐かしんでも、しょうがない。
・・・・・・・・・・・・僕は、使った事なんてあるわけないんだけどね。
「はぁ、じゃあせめてこう、名前くらいは知ってるでしょ?」
答えはイエスかはいで。
それ以外なら、もうなんか呆れて帰るしかないかも。
「名前・・・・・・、」
「まさか、それすら知らないの?」
考え込む、機械の筒が沈黙するのは、いささか居た堪れない。
だってまるで僕が、何もない空間に話しかけてるみたいになるじゃん。そんなの、
アレ? 笑、いや草? へー、返事をする筒があるんだ。命令に従うだけの置物なんて、まるで僕みたいだ、親近感湧いちゃうかもね、クサ。
「そう、だな。それは、成功報酬としよう、」
「む。・・・・・・ま、確かに、もはや話せる情報持ってなさそうだしね、」
それに何故か、話したくなさそう?
ふむ、これは・・・・・・・・・・・・、独占欲、的な?
はは〜ん、いなくなった彼とは、なるほどねー。
まあアレンの名前を世界中に広めたい僕には、わからない思考かもね。そもそも僕が人間の思考をできてるかは知らないけど。
それならいいや、正直、今更名前を聞いたところで大した意味もないし。適当な偽名一つで無に帰すし。
「むしろ外見情報を聞くべきだったかな、」
「・・・・・・・・・・・・まあ、恐らく、そんなに奇抜ではないどこにでもいそうな人だったとは言っておこう、」
「ふむ。絵とかに写せないの?」
「それは・・・・・・、後で、思い出して、作っておこう。そっちも報酬としてだ」
そう。
せっかく携帯もある事だし、写真でもあれば一発だったのにね。
それを指摘するわけにもいかないのが、面倒だけど。
「・・・・・・それで、オマエ。本当に一人で、優勝する気か?」
「え、うん。信用できない?」
ヒョイっと手並みぐさに変形した銃弾を拾い上げ、ポイっと半球頭のてっぺんに投げ立てる。
うーん宴会芸、芸は得意だよ、だからサーカスの天辺に立つのもそう難しくはないと思うけどね。
いやまあ、実際にやると僕には華やかさも愛嬌もないから無理だけどさ。そこ、胸の話じゃないからね。
「それは、まあ、いい、」
「あ、動いたから落ちちゃった、」
「載せ直そうとするな」
頭を振って転がり落ちたのを、地面につく前に蹴り上げて戻す。
避けようとギコギコ動いて、計算通りにもう一度てっぺんに乗って、そのまま落ちる。
流石に、相手に動かれちゃ載せ続けるのは無理だね。もう一度リフティングしても良いけど、まあこんなもんでいっか。
「・・・・・・・・・・・・それより。動機だ、何故ジブンに協力する?」
「んー、協力っていうか。まあ都合がいいからね、」
勇者が新しく生まれるのは許せないから、彼の情報をもっと知りたいから、祭りを中止させられたくないから、聖国の利益になるから、思い出作り、
「さて、どれだと思う?」
「・・・・・・・・・・・・どれも本当、か。逆に信じられないな、」
「自分を信じてあげなよ。それ以上は、僕もどうしようもないからね、」
いっそあれ、嘘発見器とかないの?
ほら、手を置いたりして、汗とかで、
・・・・・・あ、僕あんま汗かかないや、まあ今は鼓動強めだし、心拍測ればいけるかなうん。
ねえ君、これちょっと使い辛くない? レリアの方がよっぽど精度いいよ。いやまあ別にあの聖女様も割と簡単に騙されてた気がするけど。
「まあいいや。今日は早めに仕事を終わらせるつもりだったんだ。話自体は、これでいつでもできるしね、」
「・・・・・・スマホ。ああ、そうだな。そっちからも、連絡できるようにしておく、」
お? 初の電話番号ゲットだね。
しかしまあ、これ画面割れてるけどちゃんと使えるのか、
・・・・・・こっそり、この空間に次元の穴繋げて、直通で会話できるようにしてやろうかな。
「それに、確かにそろそろ時間かもな、」
「え? 何が?」
「一般参加者の受付だ。敵情視察にもなるし、そっちで潜り込むなら、早いほうがいいが、」
「は??」
ん、あれ、なに? もしかして事前に登録してないと出場すらできない系!?
いやまあ確かにそりゃそうだよねなんですがけど、あ、ちょ、聞いてない! まっずーい!!?
「ま、オマエなら、問題ないだろ」
「でも、時間、えっ、」
「む? そっちの方がいいのか、まあ走ればいいだろ、まだ間に合うはずだ、チャンピオン」
・・・・・・なんか、勘違いされてる空気。
あの、僕、別に足遅いんですけど、
多分、全力でダッシュしても、間に合わないんじゃ、、
「っ、君、足、車輪、乗せろ!!」
「うぇ!? ちょ、待て、こっちくんな、」
「いいだろ、乗りやすそうな形状しやがって、いけーーー!?」
「ひっ、死ぬ、やめ、ヤメロー!?」
くそう、なんでこんな目にー、
これなら、車の免許をとっておくんだった、とほほ、
なんて、まだ僕の年齢じゃどっちにしろ無理でした、
いや論点はそこじゃないか、ともかく急げーーーーーーッ!?