————トーナメント、第三試合。
なんかやかんやで厳選された選手たち、ここに勝てれば明日の優勝も見えてくる、熱意のこもった今日最後の試合。
流石に注目されなくなるのも厳しいか、でも段々外も暗くなって視認性も落ちてきた。
まあ注意してれば大丈夫でしょう。
さてはてそれじゃ、最後の試合も誰にもバレずに、ぬるーって進みますかっと、闘技場。
「・・・・・・・・・・・・あん? お前、どっかで、」
ぬ、ぬうん、
目の前の、剣を構えた選手と目が合った。
・・・・・・なんか、めっちゃ見てくる。
いやまあ、対戦相手なんだから当然なんだけど、んーなんだこの視線。
しかし、僕としたことがうっかりしてたな、
視界なんて飾りだし、目を合わせる気なんてなかったのに、つい目の前の相手の異様な外見に気を取られてしまった。
なにせ、その額には、
「動物のお面? ・・・・・・うわ、マジでそれつけて出るやついたんだ、」
「おん? その声、いやまさか、」
あんな遊びでばら撒いたの付けて、ここまでくるやついるとは思わなかった。
改めて相手を見る。筋肉質な体、荒々しくも丁寧に構えられたその手の武器は、僕と同じ木剣だ。
そしてなにより、何故か僕の記憶が、こいつはただの人間じゃないと言っている。
「その構え、適当で隙だらけなのに隙がねえ、ただの木の剣が恐ろしく見えやがる。まさか、お前は!」
「・・・・・・・・・・・・んーーー、木剣、なんだっけなー、」
記憶の片隅に、これは誰のだ。
こんがらがる、なんだいったい、
まあ、とはいえ別に、そこまで脅威を感じてるわけじゃない。普通にやって普通に勝てばいい。
そうだ、なんの問題もない、
「セレ、・・・・・いや違ったんだったな、セシ——「ちょっと待ったー!!」
試合開始!?
距離を詰めて、黙らせる。
間違いない、知り合いだこいつ!? 誰!!
と、とにかく変なこと言われる前にさっさと沈めてしまえ!!?
「おっ! ・・・・・・こねーのか?」
「おっとー? そっちこそ、」
そして、目の前まで一気に詰めて、両者の動きが止まる。
お互いに、すでにどう振っても当たる剣の間合いなのに、ピタッと急に意識を失ったかのよう、
でも違う、その静寂の中にこそ、何重にも意識の張り巡らされた達人の間合いだ。
・・・・・・あれー?
相手に接近されたら、普通は少なからず迎撃の準備をするなり位置を調整するなりするはずだ。
ましてや僕は一見物凄く無防備、というか実際体勢はあまり良くない。相手の攻撃誘うためにわざと崩してる、後出しでも強引に合わせられる範疇で。
普通の相手なら、どう考えたって合理的に攻撃をする場面だ。後はそれに合わせて体幹崩して投げればいいんだけど、
「おう、その動きは前にも見たからなぁ」
「あー、うん、そうだねー?」
あれ、僕の戦術バレてる?!
やばー、どうしよ、
僕は大して剣術は強くない、というか接近戦ではただの雑魚だ、
見ろよこの貧弱ボディ、骨浮いてるぞ、ところで筋トレすれば多少胸のサイズ盛れるって本当?
いや胸筋にしからないかくそ、ともかく僕の戦術は不意打ちか、相手が油断しているところを初見殺しでカウンター入れるのが基本なのだが、
「・・・・・・やーい、ざーこ♡」
「へっ、そうだな。だがあれからオレも隠れず大々的に鍛えれたからよぉ、改めて勝たせてもらうぜ」
と、言いつつ、何もしてこない。
うん困る。
何が困るって、僕ここにくるまでにまたレコウにお花を雉にするって言ってきたんだ、時間かかると怪しまれる。
それにこいつめっちゃ大声で叫ぶし、レコウに注目されたら流石に誤魔化すのも厳しい。
くそぅ、無駄にしっかりした体幹してやがる、僕から仕掛けて真正面で撃ち倒すのは結構大変なんだぞ。
そしてそんな動きして、目立ってしまったらまた面倒だ。魔法はバレないような細かいのじゃ決めきれないし、うぬぅーー、
「とーぅ、」
「へっ、きたな!」
ペシペシと、腰の入っていない子供の力で相手をはたく。
それでもなお、何もしてこない、
されるがままに、全身を叩かれている。
なんだこいつ、ドMか!?
メスガキに全身叩かれて興奮しちゃうやつか!? 僕でも流石にひいて、も、いいよね? 僕ここまで酷くはないよね??
まあ今は格好的にオスガキなんだけど、なお悪いか、いやこいつには僕の正体バレてるのか?
「へっ、こんなもんじゃねえだろ、セシ、」
「だからそれやめろーー!?」
あっ、やべ、ちょっと力入れすぎちゃった。
さっきまでより、剣を引き戻すまで余分に時間がかかる、
その瞬間、黙って耐えていたその男がついに動く。
溜めに溜めた、力強く、それでいて精密なまさに剣聖と呼ばれるに相応しい鋭い一刀を、
・・・・・・ん、おお??
まあいいや、無事に釣れたし、それじゃあ、
「はいそこ、地面くぼんで、」
「ねえよ!」
「今からくぼむんだよ」
剣を下に流して、そのまま地面で叩きおっと、
強引に手元で押さえ込んだな、じゃあそのまま頭を下げるがいい。
うーんいい位置、は、やり過ぎないようにしないと。まあこのくらいで気絶するだろ、
「っ、おらぁ!」
「おお? 転んだ状態のまま振り回すとはやるね、」
と、思ったけど、なんか耐えてきた。
普通の人間ならこれでやってたと思うんだけどね、まあ相手はドラゴンですら手加減に困る無駄な耐久性だ、そりゃ僕がミスってもしょうがないよねって。
・・・・・・・・・・・・んー??
あー、思い出してきた、こいつはえっと、
「それで、うーん、スー、いやセー、だったかな、」
「おー、ああ?」
「まあいいや剣士君、」
「シュヴだ!?」
ああ、それそれ、ってほどピンともこないな。
脳内でずっと剣士君って呼んでたし、君名前いる??
まあいいや。いたねー、こんなやつ。僕のクラスメイトだ、確か。
んでー、あとなんかあった気がしたけど、別にいっか。
「おまっ、忘れてたのかよ」
「・・・・・・いや、ほら、君も顔隠してるし? お互い正体隠す理由あるんでしょ、だから名前呼ばなかっただけだよほんとだよー、」
あとわかったなら絶対僕の名前呼ぶなよ。
「あー、何か代表選手から外されちまったからよ、しょうがないんであいつに秘密で一般参加してたんだが、」
「ふーん、」
「ま、そうだな。プリンだかなんだか売ってないってバレたら怒られるし、黙っといてくれよ」
ああ、こいつ無料の労働力か。
しかしサボりやがって、その分の売り子を誰がしたと思ってるんだ。関係ないドラゴンちゃんに仕事押し付けて恥ずかしくないんか!?
・・・・・・・・・・・・まあ、多分こいつが弾かれたのってレコウが枠に入ったからだと思うけど。
・・・・・・うん。どっちにしろ美少女ドラゴンの方が売り上げ上がっただろうし? 気にせんとこ、
「ああ、だがおかげでこんないい機会に恵まれるとはなぁ。今度こそ、勝たせてもらうぜ!!」
「ははは、前は僕の完全勝利だったからね、」
「違いねえ!!」
今度は向こうから攻めてくる。
力強く型のない本能的でありながら、隙のない剣捌き。
ふむ、厚みがありながらも、しなやかな筋肉。これがさっきの強引な動きや耐久性の源だな?
となると、こいつに有効なのは、
「前みたいに、でっかくはならないの?」
「ああ。こっちの方が、動きやすい!」
「違いないね、」
振られる剣を受け流す。
わざと大袈裟に、避ける時も受ける時も、相手を大きく見せるように。
最近見えたサーカスの魅せるやり方だ。
こうすれば、僕が完璧に攻撃を受けていても周りからは防戦一方の弱者に見える。
そして何より、
「はぁ、ちっ、これ元王子にもやってたやつだろ、」
「おお、気付いたか、やるねぇ、」
「へっ、攻略できなきゃ意味ねぇけどな、」
相手を大きく動かさせることで、余分にスタミナを奪っていく。
みるからに体力自慢のこの体育会系男子学生にこの戦法は時間が掛かるが、一先ず最低限の体幹削れればそれでいい。
とりあえずまあ、心ゆくまで打ち込んできなよ。また、相手してあげるからさ、
「嬉しいねえ、やっぱお前とやるのが一番楽しいわ、」
「何それ、告白?」
「そうだぜぇ!!」
ははは、乙女ゲームの攻略キャラかよ、なんちゃって。
右に左に縦横無尽にかける刃を、時にズラして、時に流して、大きく回す。
上からの振りは来ないな、さっきので警戒されてしまったか、いいね。飲み込みが早いのは悪くないよ。
だってそれはつまり、
「おっと、地面に窪みが、」
「あ、お!? マジであるっ、あぶねえっ、」
「ねー、ちゃんと整備してほしいよねー、」
前の試合の残りかな、
明日の試合がどうなるかはともかく、今日は過密スケジュール。小さな傷をいちいち直す時間も無かったんだろうね。
それじゃ、お留守になった足元にっと、
「喰らえ地を這う膝カックン、」
「ぐうっ、どんな動きだ?!」
「関節外してないだけ普通だよ。それじゃそろそろ、」
足を回して相手の膝裏に。
・・・・・・物凄く硬いな、完璧に押し当てたのに、こっちまで体勢崩しちゃいそう。
でもまあ、これが完全に筋骨隆々のガチムチならともかく、君のは柔らかさも含んだ剣を振るのに適した筋肉だ。
だからこそ、僕の力でも外から動かせちゃうっと、
「っ、また負けか?」
「そうだね、ここで終わらせよう、」
そして、シーウ? 剣士君は倒れ込んだ姿勢のまま、剣を最後まで手放さなかった、
「ああ、決着だ!」
意識外、ここまであえて出さなかった上段振り。
重力と合わせた、何よりも速い一撃。
ふふ、一丁前に作戦を練っていたらしい、
想定される速度より何段も速い、どうせこのままだと転ぶからと、今までセーブしていた分も全ての力を込めたのか、
柔らかな筋肉、その最大の利点は瞬発力。
それを、あえて封じていたんだ、大振りな剣技に付き合うことで体力自慢をアピールして。
つまり、これが彼の本来の一撃。最後まで溜めに溜め込んだ、秘匿の一刀。
うん。少なくとも、前に見た時とは違うね。手慣れてる、その状態で何度も訓練したのかな。
よかったね、よかったよ、僕のしたことにも意味があった。
そう、
「時間をかけた削りあいよりも、持てる全てを込めた全力どうしのぶつかり合い。その方が、お互い都合がいいよね、」
重く、鋭い剣を、真正面から受け止める。
横に流すのは簡単だ、だけどあえて僕の不利な正面からの打ち合いをしてあげる、
剣が、ギシシと鳴りあって、
——バキッ、
剣が折れる。
当然の現象だ、無料で貸し出してる木の剣なんて、そんなに上質なものじゃないんだから、
むしろ、今まで保っていた方がおかしい。
「なっ、」
だけども、君は驚いた顔をする。
剣を雑に扱っていたからじゃない、むしろ丁寧に扱いすぎていたからこそ、
荒々しい剣技の中で、一つだけ絶対に徹底していることがあった。
剣を、必要以上に傷つけないこと。
ともすれば自分の体を犠牲にしてまで、剣に負荷をかけないようにしていた。
拘りの見える技術、あるいはこれが剣聖と言われていた所以なのか。
だからこそ、計算と違うだろう。
同じ硬さの剣同士で打ち合っていたなら、まだそれは保っていた、あるいはせめて折れるにしても僕の方が先だったはずだ。
でもこれは、この無料で貸し出されてた木剣は、丈夫さだけならどんな鋼の剣より上なんだよね、
「保存。これが、僕のなんでもありの全力だよ」
「・・・・・・ははっ、そいつは、いいもんが見れたぜ、」
地面に剣を突き立て、大地の力を剣士君にそのままぶつける、
普通なら剣が先に折れる衝撃を、そのまま受け取って。
「それじゃ、お疲れ様」
君が飲み込み早くて助かったよ。
僕の、作戦勝ちだ。