情報過多の荷物持ちさん、追放される   作:エム・エタール⁂

94 / 124
90話

 

 エウス・苗字は、なんだっけ。

 あんまり聞き覚えがないような、逆にあるような、ともかくそんなん。

 どことなく僕と似ているらしい彼女の元へ、一人で走る。

 

 ——あら、セシィちゃん一人で行きたいの?

 ——うん。効率的にね。僕は相手選手の方知らないし、そっちにも説明いるでしょ?

 ——まあ、そうねぇ、

 

 ・・・・・・それに、僕が元気な姿見せないと、休むためにズルしてるみたいになっちゃうからね。

 そんな最もらしい理由をつけて、本当のところは、よくわからない。

 ただ何となく、二人きりで話がしたかった。

 

 僕は、何のために、戦えばいいのか、

 

「・・・・・・どうもエウス、さん?」

「おや、どうしましたかお嬢さま?」

 

 探し回ってそこにいた。

 少し暗い控え室、敗退者がくるには相応しいような相応しくないような、少なくとも運営責任者がいるには狭苦しい。そんな部屋。

 

「——いや、その。レリアが、三位決定戦をやらないかって言い出したんだけど、」

「おや、なるほど、」

「まあ、僕は別に、どっちでも、」

「ふむ。それは——、」

 

 目が合う。

 取り敢えず僕は問題ないですよと体を動かして、元気ピンピン健常アピール。

 

 なんかレリアに責任押し付けた形に、いや別に本当に僕からは何も言い出してないんだから、特に何もないんだけど。

 

「————、」

「・・・・・・あー、えっと、無理なら・・・・・・」

「——————素晴らしい! さらに祭りを盛り上げようと言うのですね! ではすぐに、そのように手筈を、」

 

 おお、テンションの落差が激しいな。

 と言うかその場合、あなたは今から試合なんですが、疲れた様子は・・・・・・、

 

 うーん、怪我は、少なくともないね。

 そりゃそうか、レリアの結界あるし、多少の擦り傷すらついてないか?

 

 ・・・・・・でも一応、内側に疲労隠すの上手い奴もいるし、

 この人も、多分そのタイプだろうし、なんか悪いし、一応詳しく確認しといた方がいいかな?

 女性同士とはいえ、あんまり奥までジロジロ覗くのもどうかと思うけどね。

 

「そうと決まれば、彼女にも話をしなければね、」

「(・・・・・・しかし突拍子のない思考の躁は、疲労の証だ。——いやこれが平常運転なのかも、どうだろう・・・・・・)」

「どうかなさいました?」

「いや、なんでも??」

 

 声に出さない独り言に、覗き込まれる。

 劇場仕立ての観察眼か? まあわざと分かりやすくしてる方が悪いか。

 しかしそう、少し屈まれるといやでも目につく部位が、くそぅ、

 

 ・・・・・・そういやそれで前にも覗いたな、じゃあいいや、喰らえメディカルチェック!

 

「・・・・・・・・・・・・?」

「————なにを、して、」

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

 何だろう、この違和感。

 流石に触れずに内臓まで見通すのは、そこまで精度がいいとは言えないんだけど、

 

「さっき、試合したんだよね?」

「——ええ。残念ながら、力及ばず負けてしまいましたが、」

「・・・・・・そのわりには、息とか切れてないね、」

「まあ、劇団員として、体力には自信がありますので、」

 

 ・・・・・・そうか、それで説明は果たしてつくのか?

 僕だって別に医療に関してはそこまで詳しくない。

 精々が、自分の体調くらいは完璧に把握できる程度。

 

 それを元に考えるに、これは、この状態は、

 試合で負けたというのに、あまりにも、いや全くと言っていいほど内臓に疲労が蓄積されていない。

 

 ・・・・・・レリアの結界? いやあれにそんな効果はなかったはずだ、

 それにこの中身、どこかで、。いやそれは今はいいか、

 ともかくこれは。

 

「・・・・・・本当に、本気で試合、したの?」

「ええ、ワタシの持てる、全霊を持ちまして、」

 

 嘘だ。

 いやこれは、わざと言葉を組み替えてるな。

 この反応、やはりどこかで、

 

「・・・・・・本気で、演技、したってこと?」

「————おや、」

 

 突き詰める。

 この行為に果たして意味はあるのか。

 別に、僕は八百長を咎めたり、試合を盛り上げるためにプロレスする事を咎めるつもりはない。

 そんなこと言ったら、僕の方が内臓ボロボロだし。

 

 でも何故か、気になったから、

 

「————あなたには、やはりお見通しですか、フロイライン。いえそれとも、ジョンスミス様とでも?」

「いやまあ、別に?」

 

 試合すら見てなかったとは言えないな。

 試合くらい見てたら、今こうしてわざわざ確かめるまでもなかったのかな。

 

「ふふ。誤解のないように言っておきますが、決して相手の方が弱かった訳ではありませんよ。アナタにもきっと、忘れられないお相手でしょうから、」

「はあ、それは、そうだね?」

 

 うん。

 どうなんだろう、どっちにしろ今更知りませんでしたは言い出せない。

 だって死亡フラグ族だよ、それこそこっちの、均等に配置された健康的な中身の持ち主の方が、よっぽど脅威に思えるけど。

 

「それで、魔法の裏側を覗いてしまった悪い子猫様は、なにをお望みでしょうか?」

「うぇ、・・・・・・いや別に? ・・・・・・あ、じゃあ僕の正体内緒にしといてね?」

 

 うーんこのノリは、やっぱり苦手だ。

 それに、よく考えたらこのお願いは、この人の最終目標的に聞き入れられない、

 

 ・・・・・・いや、というか結局、この人なにがしたいんだろう。

 自分で勝ちたかったのか、他人を勝たせたかったのか、よく分かんない。

 お祭りでやりたいことも終わったし、今なら聞いても、いいのかな?

 

「・・・・・・・・・・・・んーー、えっとーー、エウスさんはやっぱ劇団とかやるくらいだし、物語とか好きなんですかーー??」

「ええ、それは、」

 

 でも真正面から聞くのは流石にだな、はは。

 そういや僕って、相手の話を聞くのは得意にしたけど、自分から話題振るのはあんまり慣れてないっけ。

 不自然な会話になってないといいけど、

 

「一番好きなのって例えばどんな、。あ、僕はやっぱり、勇者が魔王を倒して、ハッピーエンドってやつだけど、」

「ハッピーエンド。それは良いですねえ、ボクもそういうお話は、大好きですよ、」

 

 ・・・・・・嘘だ。

 僕は別に物語とか興味はない。

 それはそれとして反応を見る、いつも通りの劇団チック、嘘か本当か感情は、もっとちゃんと話せば解るのかな。

 

「それで、エウスは、」

「そうですねぇ、勇者。・・・・・・ワタシが一番好きな物語は、ある旅人の話なんですよ、」

 

 む、話がズレてしまった。

 勇者についての反応が欲しかったのに、まあ人物像のプロファイリングには役に立つか。

 

 って、こんなことばっかり考えてるから、相手の思考も解らないのかな? そんなこと言ったって、今更どうしようもないけど。

 

「遠いところから訪れたある旅人が、そこで出会った少女を救い上げ、共にいくつもの悲劇を自由に解決し、やがて世界すら救ってしまう。そんなお話です」

「・・・・・・なるほど?」

 

 旅、か。

 それで旅芸人になりたいのかな?

 よくわからないけれど、まあ少しくらいは行動原理が知れた、かな??

 

「それにしても、世界を救うだなんて、まるで勇者みたいだね、」

「ええ。お話によるとその旅人は、神様から特別な力を与えられるとか、」

「へー、」

 

 アレンはそんなのなかったけどね。

 神様だなんて、それこそ物語にしかない幻想。

 ・・・・・・・・・・・・勇者、やっぱり、いやでも?

 

「・・・・・・なんて話なの?」

「いえ。なにという程では、色んなものがありますので、」

「ん? 誰が書いたやつとか、それともこの国に伝わる話?」

「誰が、まあ、さまざまな人が、自由にですね、」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・?

 形としてある有名なものじゃなくて、誰かが話したその場の夢、みたいな?

 集団で見る自由な世界への憧れ、それが形を持って受け継がれた、とか、

 

 この闘技場、そしてそこのことを考えると、それが一番しっくりくる。かな??

 

「・・・・・・あー、だからみんなで自由に旅芸人、的な、」

「・・・・・・・・・・・・ええ。あなたも、見たことがあるんじゃないですか?」

 

 僕?

 僕はそういうの、無かったな。

 そんな余裕も、希望も、何も、

 夢なんて、それは、僕のものじゃなくて、、

 

「本当に?」

「え、うん、」

「————本当に、そう?」

 

 むむ、いや、なんか、そう言われると、

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・いや、やっぱり、僕に夢物語なんてないけど、

 

 でもまあ、君のなら沢山知ってるからね、よく好きで読んでたみたいだし。

 なのにこんな状態にしちゃって、ごめんね。

 

 ともかくそれじゃあ、そっちが滲み出てたとか?

 どうなんだろう。いくら見やすくしてるとはいえ、僕はそんな奥まで見通せるようにしたつもりは無いんだけど。

 

 ——これは僕だけの夢だ。

 

 勝手に出てきたとか?

 わからない、わからない。

 わからないけど、わざわざ話すほどでは、やっぱりないはず。

 何故かは、知らない。

 

「・・・・・・・・・・・・悪いけど、やっぱり僕には、そういうのは無かったかな、」

「————それは、残念、」

 

 あはは、本当にね。

 ところであー、話は変わるんだけど、君もしかして兄弟とか、

 

「でも安心してください。忘れてるだけですよ、ジョンスミス、」

「は? というかそれで呼ぶのやめ、」

「プリンセス、プリンの時は、そういう事もあるのかと思ったんですけどね、」

「それわざわざ口に出すの、って、本当になんの話、」

「大丈夫です。儚い夢なら、思い出せば良いだけですよ、」

「・・・・・・っ、何して、」

 

「——ボクに、お任せください」

 

 

 

        『想起』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。