情報過多の荷物持ちさん、追放される   作:エム・エタール⁂

96 / 124
92話

 

 悲鳴、怒号、全てどこか遠い。

 痛みも、苦しみも、悲しみも、全部全部、感じてる暇なんてない。

 

 そんな果て、一人の少女は、死んだ。

 

 そしてその時、奇跡が起こった。

 動けないはずの体に、確かに意思が宿った。

 また、生存のために歩み出した。

 

 

 

 ・・・・・・まあ、それも結局、長くは続かなかったんだけどね。

 それでもおかげで、少女はまだ、生き続けた。

 遠い誰かの知識と、記憶と、

 そして何より、想いを胸に。

 

 与えられたから、返さなくちゃいけないって。

 そう思ったからこそ、僕は生きられたんだ。

 

 

 

「『整理』、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 誰かに与えられるなんて、初めての経験だったんだ。

 きっと君にそんなつもりは無かったんだとしても、僕にとってはかけがえのない体験だったんだ。

 無償の贈り物、きっと普通の人間なら最初に受け取る素晴らしいもの。

 ああそうだ、僕は勝手に、君のことを、——だと思って、

 

 

 

「だから、僕は、私は、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」

 

 

 

 なんで、こんなに、戸惑ってるんだろう。

 ずっと望んでた日が来ただけじゃないか。

 

 ・・・・・・なのに、なんで僕は、こんなにも、

 

 わからない、わからない、僕に感情も拘りも執着も無いはずなのに、

 

 あれ? 矛盾してるね、でも君だけは別だ。

 

 君と、アレンと、後、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・レコウ、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、セシィ、」

 

 

 

 

「・・・・・・ごめんね。」

 

 

 

 さよなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

 

 

 結局、なにもしなかった。

 

 

 

 セシィは、最後まで、ただ我のことを見ていただけだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ、」

 

 我の、大切な親友の体が、糸が切れたかのように項垂れる。

 

 なにも、見た目も、匂いも、変わらないはずなのに、わかってしまう。

 

 ここには、大切なものは、もうないと。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、アア、セシィ、」

 

 我は、また、間に合わなかった。

 

 なにも、できなかった。

 

 ただ見ているだけだった。

 

 こんな、なんで、これじゃあなんの意味もない、

 我は、なんのために。こんな、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、ぐうっ?!」

 

 そして、目の前の人間の体が、また息を吹き返す。

 誰だか知らないクソ野郎が、ゆっくりと目を開けていく。

 

 そうだ、まだ我にもできることがあったんだった。

 大丈夫、今度こそ間違わない。

 我は、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。あんたが、レコウさんか、」

 

「・・・・・・そうじゃ、おはよう、」

 

 

 そして、おやすみ——

 

 

「それじゃあ、早く行こうぜ、」

 

 

 

「——あの子を、取り戻しに、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、目の前で竜が拳を振りかぶっていました。

 

 あっぶな!?

 これあの子がモーニングコール頼んでなかったら、話す暇もなくやられてたんじゃないか!?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで、どこまで覚えてるんじゃ、クソ野郎、」

「あー、うん。気持ちはわかるけどさ。とりあえず、自分は田中優二って、」

「ああ?」

「ひい!?」

 

 や、やられる!?

 

「————ちっ、レコウロスじゃ、」

「あっ、レコウちゃ、」

「————、」

「レコウロスさん、ですね!?」

 

 怖い!

 これがドラゴン、無言の圧力だけで上司の怒鳴り声が小鳥の囀りに思えてくるな、

 

「それで、人間。行くって、どこにじゃ? 当てはあるのか?」

「————え、」

「は?」

「あ、ああね!?」

 

 やべっ、ついノリで、とりあえず口に出したとか絶対言えねえ!?

 

 絶対零度、記憶で覚えてる限りは、氷の魔法は使わなかったはずなんだけどな、、

 

 ・・・・・・・・・・・・とはいえ、全部を覚えてるわけじゃないけど。

 特に、この目の前とのドラゴン様との記憶は殆ど。

 ついでに言うと、このドラゴンちゃんと出会う前の記憶も殆ど。

 

 なんていうか、独占欲?

 一部の記憶、きっとあの子にとって大切な記憶になるほど、靄がかかって思い出せなくなる。

 

「という訳で、確かにあの子に思い入れはあったはずなんです! だから、大丈夫だと思いますサー!!」

「ふーん。——当たり前じゃ〜!」

 

 見るからに、機嫌の良くなる目の前の幼い少女。

 今は目線の高さが同じだから変な感じだけど、これだけだったらなにも恐れることのない、微笑ましい光景なんだけどな、

 

「——それで、行く当ては?」

「っぅ、——すー、あーー、」

「よっ、」

 

 竜が拳を引く。

 

 なんか目に見えないオーラというか、明らかにあそこだけ力が集まって重力が歪んでる気がする。

 

「ちょちょちょ待って!? 俺はともかく、この体は傷つけてちゃ不味いでしょ!?!?」

「————セシィなら、空間魔法でちょっとくらいやっても、」

「いやいや俺はそれ、使えませんから!?!?!?」

 

「——————————チッ、」

 

 あ、あぶねーーっ、

 

 いやまあ実際、これで俺が無抵抗で殴られて元に戻るなら、それはそれで手っ取り早くて楽なんだけど、

 

 多分、それじゃあ駄目な気がする。

 

「——ああん?」

「つまりえっと、あの子がこう変わんない限り、また似たようなことが起こるんじゃないかって、」

「——————ふむ? 死にたくなくて適当なこと言ってる訳じゃ、ないんじゃな?」

「いやもうすでに一回死んでますし?」

 

 そこら辺の記憶も、よく覚えてないけど。

 なんでこんな事になってるのか、むしろ自分の方が聞きたいくらいだな。

 

 もうとっくに俺は終わったはずなのに、ここ数ヶ月くらいか? 急に何か戻ったような、

 いや、もっと前から——? ・・・・・・・・・・・・うむ、わからん。

 

「と、とりあえず、こういう時のお約束の展開としては、あの子のゆかりのあった地を巡る事で記憶が蘇る。みたいな、」

「・・・・・・・・・・・・ふむ。セシィの、」

 

 考える。

 とはいえ別に自分もそんな、精神に詳しい専門家じゃない。ただのどこにでもいる、普通のサラリーマンだった。

 これもただの漫画や小説やらの受け売り、とはいえ今の状態がそれそのものみたいだし、何かしら効果があるはず、

 というかあってくれないと、体返す前にぺち倒されちゃうかも!?

 

「どこじゃ?」

「えっと、あの子が大切にしてるのは、俺よくが覚えてないの。つまりは——、」

 

 目を合わせる。

 猫みたいな縦に割れた瞳、

 こうしっかりと見れたのは初めてだ、なにか、感が気深いものを感じるな。

 

「我か!」

「そうです!」

「それでそんな我と一緒にいて、何か変化はあったか!!」

「いえ特に!!」

「はぁーーっ!!!」

「拳を構えるのはやめろーー!!!」

 

 まあ、そう簡単に戻ってこれるなら苦労はしないか。

 何故だろう、ずっと一緒に居すぎて慣れてしまったとか?

 わからん、年頃の乙女の心情とか、おっさんに理解するのはキツすぎる。

 

「と、も、か、くっ、この子の心を呼び覚ますためには、レコウロスさんの協力が必要なんですよ!」

「うぐぅ、その姿でそう呼ばれるのば、やっぱ嫌じゃの、」

「あ、じゃあやっぱレコウち」

「あ゛?」

「・・・・・・レコウさん。何か思い当たる節とか、」

 

 こっちで覚えてる事象というと、知識はともかく、思い出は殆ど無い。

 きっと大切なものが多かったんだろう、それはいい事だが、故にどうすればそれを呼び起こせるのかわからない。

 

 直近の記憶でいうと、ああ、

 そういえば、あの子が一人で行動してた時の記憶はよく思い出せるな。

 壁の向こう、科学の町? というか、なんであんなものあるんだ??

 

「・・・・・・でもこれは、記憶を思い出すのには役立たなそうだな、」

「ふむ、記憶と言うと・・・・・・。なんかそっちで目覚めてもあれじゃが、一度レリアにも相談してみた方がいいかの?」

「ああ、あの・・・・・・、流石な人?」

「なんじゃそれ?」

 

 いや、そっちもあんまり思い出せないんですよ。

 目の前のドラゴンさんよりはマシだけど、つまりは確かに、何かしらきっかけにはなりそうか?

 

「レリアのやつなら、なんか上手いこと、脳の中身入れ替える魔法とかと使えそうじゃしの〜、」

「こわっ!? いやだから、多分それじゃ駄目なんだって、」

「ははは、最終手段じゃー、」

 

 目が笑ってねえ。

 ・・・・・・しょうがない、まあそれも視野に入れて、一先ず会いに行きますか。

 

 ・・・・・・・・・・・・ところで記憶の中の彼女は、この体に向かって辺な視線を向けてた気がするけど、何か記憶のあやだと、いいなぁ、。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闘技場の中を探し歩く。

 目指すは顔も見えない、

 

「失国のジャックナイト、って、これはあれが勝手につけたあだ名よねぇ。本名は、もしかして名乗ってないのかしら、」

 

 というか名前もわからないわ、

 はぁ、なんで偽名使うのかしら、って、ワタクシが言えたことでは無いのだけど。

 流石に、これ大声で叫びながら探し回るのは嫌ねぇ。

 

「それに、他の運営員の人はどこよ。すたっふ、だったかしら?」

 

 こんな時に限っていないんだから、というか、そもそも人が少なすぎなのよねぇ。

 おかげでワタクシにも余計な仕事が、全く、頼れる人材たりてないのかしら、

 

 ・・・・・・って、これも、ワタクシが言えたことじゃ無いのかしらねえ。

 はぁ、嫌になるわっと、

 

「・・・・・・あら? 控え室、誰かいるのかしら、」

 

 まあ、普通に考えて、試合が終わった選手はそこに帰るものよね?

 だとしたら、ここに。でもここは、会場からも遠いし、使われてないって話だった気がするのだけど、

 

 でもこの感覚、音でも、匂いでも無いけど、確かに誰かがいるって。

 ワタクシの勘が、言っている?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、失礼しますわ、誰か。・・・・・・——えーー、ジャックナイト様? いらっしゃいますか?」

 

 返事はない。

 

 ——ドアを開ける。

 

 何故だか、いえワタクシも一応は運営すたっふ? 特に問題はないはずなのだけど、何故だかとても心情的にそれが重く忌避的に感じて、

 

 それでも、私の直感は、その先に進むことを選んだ。

 

 中に、あったのは、

 

 

 

 

 

 見慣れた、あか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————————あーあ、見ちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 あか、視界が、真っ白になって、

 

 あら? これって、やばい、かしら——

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。