悲鳴、怒号、全てどこか遠い。
痛みも、苦しみも、悲しみも、全部全部、感じてる暇なんてない。
そんな果て、一人の少女は、死んだ。
そしてその時、奇跡が起こった。
動けないはずの体に、確かに意思が宿った。
また、生存のために歩み出した。
・・・・・・まあ、それも結局、長くは続かなかったんだけどね。
それでもおかげで、少女はまだ、生き続けた。
遠い誰かの知識と、記憶と、
そして何より、想いを胸に。
与えられたから、返さなくちゃいけないって。
そう思ったからこそ、僕は生きられたんだ。
「『整理』、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
誰かに与えられるなんて、初めての経験だったんだ。
きっと君にそんなつもりは無かったんだとしても、僕にとってはかけがえのない体験だったんだ。
無償の贈り物、きっと普通の人間なら最初に受け取る素晴らしいもの。
ああそうだ、僕は勝手に、君のことを、——だと思って、
「だから、僕は、私は、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」
なんで、こんなに、戸惑ってるんだろう。
ずっと望んでた日が来ただけじゃないか。
・・・・・・なのに、なんで僕は、こんなにも、
わからない、わからない、僕に感情も拘りも執着も無いはずなのに、
あれ? 矛盾してるね、でも君だけは別だ。
君と、アレンと、後、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・レコウ、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、セシィ、」
「・・・・・・ごめんね。」
さよなら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
結局、なにもしなかった。
セシィは、最後まで、ただ我のことを見ていただけだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ、」
我の、大切な親友の体が、糸が切れたかのように項垂れる。
なにも、見た目も、匂いも、変わらないはずなのに、わかってしまう。
ここには、大切なものは、もうないと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、アア、セシィ、」
我は、また、間に合わなかった。
なにも、できなかった。
ただ見ているだけだった。
こんな、なんで、これじゃあなんの意味もない、
我は、なんのために。こんな、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、ぐうっ?!」
そして、目の前の人間の体が、また息を吹き返す。
誰だか知らないクソ野郎が、ゆっくりと目を開けていく。
そうだ、まだ我にもできることがあったんだった。
大丈夫、今度こそ間違わない。
我は、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。あんたが、レコウさんか、」
「・・・・・・そうじゃ、おはよう、」
そして、おやすみ——
「それじゃあ、早く行こうぜ、」
「——あの子を、取り戻しに、」
目が覚めたら、目の前で竜が拳を振りかぶっていました。
あっぶな!?
これあの子がモーニングコール頼んでなかったら、話す暇もなくやられてたんじゃないか!?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで、どこまで覚えてるんじゃ、クソ野郎、」
「あー、うん。気持ちはわかるけどさ。とりあえず、自分は田中優二って、」
「ああ?」
「ひい!?」
や、やられる!?
「————ちっ、レコウロスじゃ、」
「あっ、レコウちゃ、」
「————、」
「レコウロスさん、ですね!?」
怖い!
これがドラゴン、無言の圧力だけで上司の怒鳴り声が小鳥の囀りに思えてくるな、
「それで、人間。行くって、どこにじゃ? 当てはあるのか?」
「————え、」
「は?」
「あ、ああね!?」
やべっ、ついノリで、とりあえず口に出したとか絶対言えねえ!?
絶対零度、記憶で覚えてる限りは、氷の魔法は使わなかったはずなんだけどな、、
・・・・・・・・・・・・とはいえ、全部を覚えてるわけじゃないけど。
特に、この目の前とのドラゴン様との記憶は殆ど。
ついでに言うと、このドラゴンちゃんと出会う前の記憶も殆ど。
なんていうか、独占欲?
一部の記憶、きっとあの子にとって大切な記憶になるほど、靄がかかって思い出せなくなる。
「という訳で、確かにあの子に思い入れはあったはずなんです! だから、大丈夫だと思いますサー!!」
「ふーん。——当たり前じゃ〜!」
見るからに、機嫌の良くなる目の前の幼い少女。
今は目線の高さが同じだから変な感じだけど、これだけだったらなにも恐れることのない、微笑ましい光景なんだけどな、
「——それで、行く当ては?」
「っぅ、——すー、あーー、」
「よっ、」
竜が拳を引く。
なんか目に見えないオーラというか、明らかにあそこだけ力が集まって重力が歪んでる気がする。
「ちょちょちょ待って!? 俺はともかく、この体は傷つけてちゃ不味いでしょ!?!?」
「————セシィなら、空間魔法でちょっとくらいやっても、」
「いやいや俺はそれ、使えませんから!?!?!?」
「——————————チッ、」
あ、あぶねーーっ、
いやまあ実際、これで俺が無抵抗で殴られて元に戻るなら、それはそれで手っ取り早くて楽なんだけど、
多分、それじゃあ駄目な気がする。
「——ああん?」
「つまりえっと、あの子がこう変わんない限り、また似たようなことが起こるんじゃないかって、」
「——————ふむ? 死にたくなくて適当なこと言ってる訳じゃ、ないんじゃな?」
「いやもうすでに一回死んでますし?」
そこら辺の記憶も、よく覚えてないけど。
なんでこんな事になってるのか、むしろ自分の方が聞きたいくらいだな。
もうとっくに俺は終わったはずなのに、ここ数ヶ月くらいか? 急に何か戻ったような、
いや、もっと前から——? ・・・・・・・・・・・・うむ、わからん。
「と、とりあえず、こういう時のお約束の展開としては、あの子のゆかりのあった地を巡る事で記憶が蘇る。みたいな、」
「・・・・・・・・・・・・ふむ。セシィの、」
考える。
とはいえ別に自分もそんな、精神に詳しい専門家じゃない。ただのどこにでもいる、普通のサラリーマンだった。
これもただの漫画や小説やらの受け売り、とはいえ今の状態がそれそのものみたいだし、何かしら効果があるはず、
というかあってくれないと、体返す前にぺち倒されちゃうかも!?
「どこじゃ?」
「えっと、あの子が大切にしてるのは、俺よくが覚えてないの。つまりは——、」
目を合わせる。
猫みたいな縦に割れた瞳、
こうしっかりと見れたのは初めてだ、なにか、感が気深いものを感じるな。
「我か!」
「そうです!」
「それでそんな我と一緒にいて、何か変化はあったか!!」
「いえ特に!!」
「はぁーーっ!!!」
「拳を構えるのはやめろーー!!!」
まあ、そう簡単に戻ってこれるなら苦労はしないか。
何故だろう、ずっと一緒に居すぎて慣れてしまったとか?
わからん、年頃の乙女の心情とか、おっさんに理解するのはキツすぎる。
「と、も、か、くっ、この子の心を呼び覚ますためには、レコウロスさんの協力が必要なんですよ!」
「うぐぅ、その姿でそう呼ばれるのば、やっぱ嫌じゃの、」
「あ、じゃあやっぱレコウち」
「あ゛?」
「・・・・・・レコウさん。何か思い当たる節とか、」
こっちで覚えてる事象というと、知識はともかく、思い出は殆ど無い。
きっと大切なものが多かったんだろう、それはいい事だが、故にどうすればそれを呼び起こせるのかわからない。
直近の記憶でいうと、ああ、
そういえば、あの子が一人で行動してた時の記憶はよく思い出せるな。
壁の向こう、科学の町? というか、なんであんなものあるんだ??
「・・・・・・でもこれは、記憶を思い出すのには役立たなそうだな、」
「ふむ、記憶と言うと・・・・・・。なんかそっちで目覚めてもあれじゃが、一度レリアにも相談してみた方がいいかの?」
「ああ、あの・・・・・・、流石な人?」
「なんじゃそれ?」
いや、そっちもあんまり思い出せないんですよ。
目の前のドラゴンさんよりはマシだけど、つまりは確かに、何かしらきっかけにはなりそうか?
「レリアのやつなら、なんか上手いこと、脳の中身入れ替える魔法とかと使えそうじゃしの〜、」
「こわっ!? いやだから、多分それじゃ駄目なんだって、」
「ははは、最終手段じゃー、」
目が笑ってねえ。
・・・・・・しょうがない、まあそれも視野に入れて、一先ず会いに行きますか。
・・・・・・・・・・・・ところで記憶の中の彼女は、この体に向かって辺な視線を向けてた気がするけど、何か記憶のあやだと、いいなぁ、。
闘技場の中を探し歩く。
目指すは顔も見えない、
「失国のジャックナイト、って、これはあれが勝手につけたあだ名よねぇ。本名は、もしかして名乗ってないのかしら、」
というか名前もわからないわ、
はぁ、なんで偽名使うのかしら、って、ワタクシが言えたことでは無いのだけど。
流石に、これ大声で叫びながら探し回るのは嫌ねぇ。
「それに、他の運営員の人はどこよ。すたっふ、だったかしら?」
こんな時に限っていないんだから、というか、そもそも人が少なすぎなのよねぇ。
おかげでワタクシにも余計な仕事が、全く、頼れる人材たりてないのかしら、
・・・・・・って、これも、ワタクシが言えたことじゃ無いのかしらねえ。
はぁ、嫌になるわっと、
「・・・・・・あら? 控え室、誰かいるのかしら、」
まあ、普通に考えて、試合が終わった選手はそこに帰るものよね?
だとしたら、ここに。でもここは、会場からも遠いし、使われてないって話だった気がするのだけど、
でもこの感覚、音でも、匂いでも無いけど、確かに誰かがいるって。
ワタクシの勘が、言っている?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、失礼しますわ、誰か。・・・・・・——えーー、ジャックナイト様? いらっしゃいますか?」
返事はない。
——ドアを開ける。
何故だか、いえワタクシも一応は運営すたっふ? 特に問題はないはずなのだけど、何故だかとても心情的にそれが重く忌避的に感じて、
それでも、私の直感は、その先に進むことを選んだ。
中に、あったのは、
見慣れた、あか。
————————あーあ、見ちゃった。
あか、視界が、真っ白になって、
あら? これって、やばい、かしら——