「おっ、登録者200人突破!」
自身のチャンネルの登録者数を見ながら思わず手を叩く。
【我道楽チャンネル】
俺が作った音楽系を主としているチャンネルだ。ギターを弾いたり曲を投稿したりしている。
再生数はまぁ500超えたら嬉しいレベル。いわゆる底辺tuberってやつだ。
いずれ俺の作った曲が販売されて…なんてよく見る夢を抱きながら今日も俺は曲を作る。
「今日は…これでいいか」
適当に配信されている枠をクリックし、ノートを開く。
今やっているのは作詞というやつだ、ノートに単語をカリカリ書いて繋げて歌詞にして曲を作る。
曲だけを投稿することも多いが今回は歌詞付きのものを作ってみたい気分だった。
『最近はね~!』
妙に耳に来る甲高い声、思わず画面の方に目を向けるとキラキラした背景にゆらゆら動く妙に装飾の多い星をイメージさせる服を着た少女の絵。その子の口が動くたびに声が聞こえる。
なるほどVtuberってやつか。と思わず思う、適当に開いた枠はどうやらVtuberの雑談枠というものらしい。
名前は「星野メム」、チャンネル登録者数は俺の700倍ぐらいはいる。
鮮やかなピンク色の髪にその大きな胸が見えるような胸元の空いた服、肩なども出しており見た目は美少女。
喋り方も明るくこれは人気出るだろうなぁ。コメントも勢いよく流れており見ているだけでも楽しめそうだ。
『色んな曲を聴いてて。一番好きなのは【IGNITION・ASSAULT!】って曲で~」
その言葉に思わずガタっと姿勢を崩す。
『途中にある『その魂に火を付けろ!』って所が曲も相まって凄い好きでさ~』
「…」
俺の曲だ…。
IGNITION・ASSAULT!
俺が一番最初に作った曲で今まで作った曲で未だにこれを超えるものは作れてないと思っている。
ひたすら自分を奮い立たせるような感じの曲だ。
コメントでは「知らない曲だ」みたいな感じのことが流れている。こんな有名人もこの曲知ってるんだな...。と、同時になる通知音。それも連続でだ。
「な、なんだなんだ?」
みるとチャンネル登録が一気に増えているのと再生数が4桁を突破した通知。コメントでメムから来ましと連続コメントしかも全員違う。これがV効果か…。
『みんなも聞いてね!! 本当にかっこいいから!』
なんか…ちょっと気恥ずかしいな。別の所だけど感想を見るのは…。
30分ほどたつと通知が収まり確認するとチャンネル登録者数が500人になっており、【IGNITION・ASSAULT!】の再生数は1000を超えていた。半年を1時間で超えられてた、凄いねVtuber。
…なんとなく星野メムの過去に歌っている動画を見てみる。
アップテンポの曲が多い。俺の曲はあんまり合わないというか歌いにくそうな声だなとふと思った。
………カリカリ、とペンが走る。
少し詰まっていたはずだったはずのペンが踊るように歌詞を紡ぐ。どんどん歌詞が生まれると同時にメロディも頭の中を駆け巡る。凄いな、今日中にはほとんど出来そうだ。
結局外が暗くなるまでペンとギターを弾く指が止まらなかった。
「よし…やるか」
いつもは俺が歌って作成するが今回は音楽ソフトで歌わせてみた。
今回は初めての女性中心の曲だ。もしかしたら【IGNITION・ASSAULT!】を超えるかもしれない曲。
「投稿…っと」
飛んでけ。俺の【Stardust・Meteor】
「あっ! 我道楽さんの新曲だ!」
部屋でとある少女が動画サイトを開きながら声を上げる。少女はヘッドホンを付け椅子に深く座り込み目を閉じる。彼の曲を聴くときのいつものポーズだ。曲を聴くことだけに集中できるから気に入っている。
~♪
「…え?」
思わず口に出たがそのまま曲を聴く、最後まで聞くとヘッドホンを置いて息を吐いた…
「私の曲だ…」
こういうのもおこがましいが思わず口から出た。これは私のために作られた曲だ。
今までの曲と全く違う曲調に歌詞、時折入る私を連想させる星。
私…
あの曲を投稿した数日後、すっかり見るようになった【星野メム】のアカウントに一つの動画が投稿された。
【『Stardust・Meteor』を歌ってみた!(めωむ)】
概要欄に『歌いたい場合は好きに歌ってください』と書いていたため特に許可は必要ないようにしているが早いな…。
聞いてみればイメージ道理の歌声だ、完璧と言って差し支えないだろう。まぁ彼女が歌ったから再生数は伸び悩むだろうなとちょっと思ってしまったが。
とりあえず…。
『歌っていただきありがとうございます。【IGNITION・ASSAULT!】に続き、こちらもよろしくお願いします』
「我道楽さんにコメントされた~!!!!」
すっごい嬉しい! 推しから返答貰えるってこんなに嬉しいんだ!! って待って! 【IGNITION・ASSAULT!】ってもしかしてこの前の配信見てた!?
しかもここまで曲で分かって貰えてるって結構前から!? うわぁ~~もう嬉しい~~~!!!
椅子に背中を預けて足をバタバタとさせる。こんなのもう運命じゃん!!!
歌ってる時の声も弾き語りの時の声も最高だしあ~~人気になってほしいけどなってほしくない~~~!!!!!
「あっ、やばっ時間!」
急いで荷物をまとめて家を出る。我道楽さんってどんな顔してるのかなぁ~スタイルはめちゃくちゃよかったけど。
「今日は客少な目になりそうだなぁ」
俺は空模様を見ながらそう呟いた。底辺ギタリストはバイトをしなくては生活できないのだ。
バイトと言ってもほぼ店長みたいな感じだけど。というか店長が奥に引きこもって料理しかしてない。小さな喫茶店とは言えそれでいいのか。
カランコロンカラン
「…店長さん。おはようございます」
「おう月野ちゃん、あと俺はただのバイトな」
「もう店長でいいんじゃないですか? 着替えてきます」
今のはバイトの月野鳴ちゃん、とてもクールな高校生だ。接客も笑顔とか全くないが顔はとてもいいので人気だ。
あと俺のことをずっと店長さんと呼んでいる。ただのバイトなのにな、週6で入っているしカウンターにほぼいるけど。
「着替えてきました」
「おう、今日もよろしくな」
軽い挨拶をして持ち場につく、午後から雨だし傘を用意した方がいいかな。月野ちゃん持ってなかったし。
鼻歌で【Stardust・Meteor】を歌いながら在庫の確認をしていると月野ちゃんがなんか勢いよくこちらに振り返った。
「ん? どうかした?」
「今の…」
「ん? あぁ、最近聞いた曲でな。気に入ってるんだ」
「そっ、そうですか…っ」
なんか口がによによしてる、オタク系の曲だからかな。自分の曲だけど。
見た目だけならわりかし渋目だしな自分。月野ちゃんとは3~4歳しか離れていないんだけどなぁ。
カランコロンカラン
おっと、お客が来た。
「「いらっしゃいませ」」
喫茶店便利すぎだね