IS インフィニット・ストラトス 3番目の兵器と呼ばれた少女   作:DON-KAME

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新作ゲーム
「セインツ・ストラトス」
あのバカゲーが、ついに日本のラノベに殴り込み!?
IS学園の平穏は・・・消え去ってしまうのか

主人公に突然判明したISのSランク適性。
己の可能性を確かめに、そして学園生活をするためにIS学園へと向かうことになる。

主人公の性別はもちろん、容姿、年齢まで自分の好みで設定可能!
兄貴属性から千冬に並ぶほどの女性にまであなた好みに!
ヒロインからモブ、そして一夏まで攻略が可能。エンディングは全ての登場人物に5通りをご用意しております。

スキルはカンスト済みで、前作のデータの引き継ぎも可能。
銃で撃たれようがビルから転落しようが車に潰されようがノーダメージ。

発売日:未定
音声は日本語と英語の選択が可能。
声優はベテランから期待の新人まで、約100人を用意。
年齢指定:Z


第4話 普通の休日

手にした書類を眺つつ、ウッズはマグカップを手に取りその湯気の立つ中身を啜る。

 

コーヒーだ。

NAGA社の派遣社員である彼はここIS学園の職員室や事務室へ立ち入る事ができるため、こうして事務室へ顔を出している。

他の隊員達は特にする事が無いために各々で時間を過ごしているのだが、エコーとマークはIS学園の警備員として派遣されたというこの部隊の面目を保つために巡回中だ。

 

IS学園に駐在する彼らは基本的には暇とも言えよう。

なにせ4人では警護対象を監視するには数が足りない。

警護をするのにもシフト体制は人数的に厳しく、且つ24時間体制で行おうものならば肝心の”脅威”が現れる前に部隊が行動不能になるという笑い話になりかねない。

そのために、彼らはあくまで”保険”であり、本社の諜報班や部隊、学園が湖を挟んで隣接する町に駐在する別の部隊が主に周囲に眼を光らせ、対処する。

加えてかつてにないほどテロリズムに脅かされる先進国の中でも治安が良く、テロリストの入る隙もない。

辛うじてこの国に潜り込めたとしても警察や、一般には”存在しない”とされている防衛省直属の諜報部隊、加えてNAGAの世界各国より引き抜かれた(ーーー亡命とも言える)優秀な人材で組織された諜報班が眼を光らせる中、行動することとなる。

なので、台風の目とも言えるIS学園に配属された彼らは任務という名の有給休暇を与えられたに等しい。

 

そんな暇を満喫している彼の手元には書類がある。その内容は自分たちの警護対象であり、獲物をおびき寄せる餌でもある織斑一夏の顔写真とそのプロフィールだ。人に見せても大丈夫な項目しか無いのでこうしてぶらぶらと他所で堂々と見る事もできる。

『どうですか?職員(女性)の方からは好評なんですが、お口に合いましたかね』

ふと、このコーヒーを淹れたらしい同じ室内にいる掃除用務員がウッズに声をかけてくる。

末端である掃除用務員までもが流暢な英語をしゃべるあたり、IS学園の特徴である”多国籍”は伊達ではないらしい。

そんなことを思いつつもウッズもカップを軽く持ち上げて言う。

『ええ、美味しいですよ。まあ、これ(コーヒー)には男も女もありませんがね』

互いに笑みを浮かべると再び互いの作業に没頭する。

 

ウッズは警護対象の再確認を。

コーヒーを淹れたこの学園では数少ない”彼”は新聞を。

 

活発的、且つ直情的な傾向有り。幼い頃に武道を嗜んでいたものの中学校在校時には武道を休止。またクラブにも所属せずアルバイトを行っていた事からその性格及び人格に若干の留意点有り。女性経験は無い模様、されどチフユ=オリムラからの情報より、異性からの注目及び好意を集めやすい要素を持ち、本作戦においての特異的環境より作戦行動への支障が発生する可能性への注意が必要。

 

(直情的ねぇ・・・)

カップの中で若干ぬるくなったコーヒーに渦を作りながらウッズは諜報班からの情報を思い出す。

当然ながら今手元にある書類には書かれていない情報だ。

作戦前に殺害、捕獲、警護、救助といった人間そのものが作戦の核になる場合、その対象の情報を可能な限り収拾し、プロフィールを作成、関係者からの第3者からは得られない情報を照らし合わせて修正、その繰り返しで対象の癖や行動パターンなどから対象の”性格”を情報化し作戦行動をさらに円滑にする。

時にはその情報化されたそれによって反って作戦行動の妨げとなる危険性もあるが、あるだけマシとも言えよう。

もっとも、半世紀にも近い月日を過ごし、多くのものを見てきた彼には何かしらの勘というものが頼りになる時がある。

現に今がそうだ。

彼の勘は語りかけてくる、この少年は絶対に何かやらかしてお前の予想の斜め上の問題を引き起こすぞ、と。

事実、入学して間もなく英国の貴族と問題を起こし、ついには決闘まですることになったあたり、彼の勘はあながち間違ってはいない。

さらには自分の部下である少女がその警護対象と対立する側に着いてしまったようなものだからこそ、予想の斜め上

の問題という勘も的中している。

 

部下の1人はきな臭い子供兵、警護対象はトラブルメーカー、己の容姿にすれ違うここの学生からは怖がられる、上司は気まぐれな天才、部下(エコー)と学園職員との接触を規制するべきか否か。

 

早くも悩みの種ができてしまった彼だが、とりあえず今は残り少なく、且ついつのまにか湯気を立ててないコーヒーを飲み干す事を優先することにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

色とりどりの看板に目移りしそうになるも、まずは腹ごしらえをしないといけない。

この国のことわざ、「腹が減っては戦は出来ぬ」ってやつだ。

さぁて、「タコヤキ」に「ラーメン」「ドンブリ」「ハンバーガー」「フライドチキン」・・・

多過ぎだろおい。

 

これはいったいどこまで続いているのやら。

そう思いつつも、視線を前へ移すとそいつらがいた。

 

「Damm it.」

しまったと思ったときにはすでに汚い言葉が私の口から発せられ、隣のセシリアがちらりと私を見やる。

私の発言に対してか、それとも文字通り直面している問題に対しての意見を求めたのかはわからない。

ただ、私は・・・少しでもいいから良い方向へ物事が進んでくれる事を、切に願う事しか出来なかった。

 

 

 

 

ーーー6時間前

 

 

 

Welcome Sunday.

もし日曜日が目の前にいたらハグしてやりたいくらいだ。

これはあくまで”普通”な休日。

友人とショッピングをすることなんて、一般では”普通”。

 

3日前、いつものように対オリムラ戦を兼ねた訓練も終え、部屋の照明を消していざ寝ようとしたときのことだった。

「ねえ、エヴァレンスさん」

「ん〜What?」

「せっかく日本に来た事ですし、どこかお洋服でも買いに行きませんか。丁度学園のすぐ近くに街もございますし」

「いいアイデアだ。丁度身の回りの物も買いたかったし。それでいつ行く?」

 

体の向きを変え、声が届きやすいようにする。この暗闇じゃ声だけが頼りだ。

それに続くように隣からも布のこすれる音が聞こえ、同時に息をそっと吐き出す音がこちらに直に響くようになる。

おそらくセシリアもこちらを向いたのだろう。

「今度の日曜日なんてどうでしょう。丁度休みですし」

「オーライ。楽しみにしているよ」

「ふふ、私も楽しみにさせていただきます」

「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 

『なあ今度の休みは基地の外にある闇市で海賊版DVD買おうぜ!』

『でもあそこはまだ掃討済んでないだろ?ヤバいと思うぞ』

『大丈夫だって。ターバン巻いて神は偉大なりって呟いておけばノープロブレムだ』

『オーケー、でも私は念のためにG18を持っていくとするよ。お前の背中をフルオートで試し撃ちできそうだしな』

『新しく買ったのか。なあ、今度みせてくれよ』

こんな会話をつい1ヶ月前までしていただなんて、自分でも信じられない。

ちなみにその時買ったのはイギリスの諜報機関に所属する2枚目な男が、世界を救うために撃っては飛んで、車からミサイルを飛ばしたりするわでまったくスパイをする気配の無い、それでもって映画ごとに別の美人とイイ感じになる映画だ。

閑話休題。

 

モノレールの中はさすが休日とだけあってか、私服姿の生徒が多い。

セシリアはクリーム色のセーター、首回りからは青いTシャツが顔をのぞかせている。

それにシャーリング加工の施された黒いスカートという格好。

対して私は”いつもの”格好”だ。

IS学園の周辺には容姿も優れた生徒を狙った連中もいると聞いたから、対策としてあまり声のかけられないように意識したのだ。

髪は後ろで一つの玉にし、それを隠すようにベースボールキャップをかぶっている。

そのおかげで、女と気付かれる確率は低くなる。体の凹凸の少なさがそれに拍車をかける。

・・・なんだか悲しくなってきたぞ。

まあ事実、これが”いつもの格好”であることに変わりはないけど。

 

今日のランチはどうするかなどと、とりとめもない話をしているとモノレールが駅に到着する。

片道で7分はかかるということから、このIS学園が点在するこの湖の大きさがどれだけか分かる。

なんでも、隕石が落下したことによってできたクレーターらしく、そこにこの周辺のわき水が一斉に流れ込んで湖になったらしい。

今では、豊かな自然が湖を取り囲み、つながった小川などからも魚や水鳥などの生息地域となっている。

 

暖冷房の効いたモノレールを降りれば、そこは見渡す限りの雲一つない青空。

若干湿度を含んだ空気はおそらくもうすぐ春の季節になるってことだろうか。

冬の名残をわずかに感じさせる涼しげな空気、それを暖めるのはその燦々と降り注ぎ肌を撫でるかのようにも感じられる暖かさを含んだ太陽の光。

 

さて、少し駅舎を歩いていくと目的地のショッピングモール「レゾナンス」の大人数に対応した入り口が見えていた。

ちなみに一緒にモノレールに乗っていた生徒たちは各々の目的地へ向かったためか姿は見えない。

 

学生に配られたIS学園の周辺に関するパンフレットにも書かれているこのショッピングモールはとにかくスケールが違った。

地下鉄やバスを始めとする町中へつながるアクセスの中心であり、地下にはさまざまな店や娯楽がひしめき合っていた。おまけに地下は駅舎にも直結ときたもんだ。

さすが、世界に名高いIS学園が目と鼻の先なだけあってか飲食店は世界中の食文化を楽しむ事ができるほどの多様さを誇り、衣類も学生のお財布に優しい量販店から値札の桁を疑うような高級ブランド店までもが鎬を削る激戦区でもある。

レジャー施設も充実しているためにゲームセンターや広場、ホビー店といった子供向けのものから自然が豊かで噴水がある広い庭、レトロな物を扱った骨董品店、賭け禁止のボードゲームやカードをその場で知りあった人と楽しむ部屋といった中高年向けのものまであるという。

 

しかも、これはまだメインの施設であり、大なり小なりかなりの数の施設があるらしい。

もはや驚愕を通り越して呆れてしまうほどまで充実した”ショッピングモール”だ。

 

IS学園はもちろんの事、このショッピングモールを目当てにこの街へやってくる物好きまでいるものだから、この街は福祉が充実している。

そう、標的になりやすいIS学園がある故に、警察や軍(「ジエイタイ」ってタナカが言っていた)の設備や装備も”充実”しているのだ。

 

一見のどかに見えるこの街も、アメリカのCIAやイスラエルのモサドといった世界中の諜報機関から、中東の田舎過激派組織「赤き月」やアフリカでかなりの規模を誇り、世界中の戦争経済を動かす燃料でもある「自由の夜明け」

といったテロ組織もその根を町の地下に張らしているらしい。

 

これもまた、知らないふりをするのが一番だ。

下手に手を出して散り散りに逃げられるよりは、慎重に作戦を立てて一網打尽にするほうがベストなのだから。

だから、こういうスケールのでかい事は上層がやってくれる。

 

さて、今は買い物だ。

ええっと。

地下がフードコーナーで、この階が「土産」ってやつを売る店とアクセス関連の階、2階(ーーー日本じゃ階数が1つマイナスされているんだよな・・・)が衣類コーナー、3階が物品コーナー、4階が娯楽施設、5階が・・・ってどこまであるんだよ。

 

それに加えて・・・すげえ人だ。

人 人 人 人 人、視界から最低でも5人の人が映り続けているぞ、これは。

休日のせいか人数、密度がともに高い。

 

いかん、これは酔う。

人の多さに酔うとは聞いた時はまさかと思ったが、これは本当にまずい。

隣のセシリアはおそらく舞踏会やパーティーとかに出た事があるおかげだろうか、若干驚いた様子ですんでいるようだ。

 

「と、とりあえず2階行こうか」

「ええ、そうしましょう」

そういうなり私が先陣を切る形で人と人との間を文字通り縫うように歩みを進める。

 

「ッ! Gotcha(捕まえた)!!」

5歩ほど歩いたとき、ふとセシリアが気になって見てみると、文字通り人の波に呑まれそうになっていたではないか。

すかさずその手を掴み、こちらに引き寄せてやる。

人にぶつかりそうになるもそんなのは気にしていられない。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ。助かりましたわ」

ホッと息を吐き出し、冷や汗を流す彼女。

でもこの調子じゃ絶対に逸れてしまう。

「セシリア手をつなぐぞ。このままじゃ逸れちまうからな」

「ええ、私もそう考えていましたわ」

「よし、行こうか」

 

そして始まった手繋ぎでの移動。

その手はまるで、絹のように繊細な肌触りで、気を抜いたら握っている手からすり抜けてしまうんじゃないかと思うほどだった。

冷たいような、暖かいような絶妙な温もり。

その触り心地はいつまでも握り続けたくなるほど。

 

そんな、セシリアの手の触り心地を楽しむ半分、頭に叩き込んだ地図と今見える光景を比較しながらも確実に上のフロアへと通じるエスカレーターへと近づいていた。

右、次を左、この広い通路を人ごみに呑まれないようにまっすぐ40メートル。

ほぉら、人類の発明の一つ、さらに高い場所へと登るための動く斜面「エスカレーター」を発見だ。

左側が動かないで、開いた右側に急ぐ人が乗るのか・・・日本人ってやっぱりこういうところは凄いな。

 

まるでベルトコンベアに運ばれる商品のようにエスカレーターの列に並び、2階へ上がり、後ろにいるセシリアを見ると・・・ってあれ?

「セシリア、大丈夫か」

「だ、大丈夫ですわ!」

動いていたせいか、いつの間にか握っていた手が熱くなっており、若干汗ばんでもいた。

セシリア自身も若干ペースに付き合ってもらっていたせいか、息が乱れ気味のようにも見られる。

休憩させようかと声を掛けるも、肝心の本人が逆にこうじゃ休憩させること自身が難しいかもしれない。

ここは休憩がてらゆっくりと歩きながら見ていくか。

 

聞くところによると、どうやら私とおなじ年代の女子たちは季節に合わせて服装を変え、さらにはその服装自身も季節の変わり目よりも先取って買ってしまうらしい。

服からボトム、アクセサリーも・・・良い女と良い酒には金がかかるってフランス人のエコーが言っていた気がする。

 

なら、いまここで

 

「ところで・・・エヴァレンスさん」

「ん?」

どうしたと言いかけた私の口は、それ以上動く事はなかった。

なぜなら、声を掛けてきたセシリアの表情がいつもと異なる雰囲気を纏っていたからだ。

どこか、決意を感じさせるそのブルーの瞳が、私を捕らえて話さない。まるで赤外線追尾ミサイルの先端のカメラのように。

 

「ど、どうしたんだ」

そう、ぎこちなく返事をする私。

やっぱりあれか、少し自分のペースに巻き込んだ事だろうか。確かにあれは焦っていたかもしれないーーー

そんな悪い方の思考に陥っていく私に、セシリアは言った。

 

「私に、コーディネートさせてくださいませんか」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

この1秒弱でわかった。

改めて自分の服装を見渡す。

カーキ色の動きやすいズボンに、寒さを凌ぐと同時に湿度調整が可能な灰色のタクティカルジャケット。

加えて黒いベースボールキャップにカーキ色のタクティカルブーツという格好だ。

 

これまではこの格好で過ごしていたんだが・・・なにかまずいのだろうか。

ゆっくりと過ぎ去っていくショーケースに色とりどりの洋服が展示された洋服店を背景に、セシリアは隣に歩く私を足の先から頭の頂点までを見回し、こう言った。

「エヴァレンスさんは・・・ええと、いつもこの格好で過ごしているのですか」

「ああ、そうだけど・・・セシリア?」

困惑の声を上げる私の両肩には、セシリアの両手。

 

「私に、お任せください!」

「お、おう。任せるよ」

迫ってくるセシリアの気迫に思わず承諾してしてしまう。

 

この後、安易な返事によって私は「ファッション」というものを身をもって学ぶ事になる。

ーーーーー

ーーー

「まあしかし、どうりでそれらしき殿方が見えても、一人も声を掛けてこないはずでしたわ・・・私とした事が、失念しておりました」

そう自責のようにつぶやくセシリアの両手にはハンガー。

右の手には白地のフリルをあしらわれたワンピース、左の手にはスリットの入った黒いカーディガンのかかったハンガーだ。

セシリアはそれを満足のいかないといった表情で元の位置に戻す。

そしていつの間にか取り出したハンガーにはシンプルなデザインの赤いブレザーがかかっているではないか。

 

それに対し、私は女性の店員に3サイズを測られながら、視界に映る見た事もないような種類に富む服を見ては驚いているしかできなかった。

たかが服、されど服。

それが女性というものなのだと、実感させられる。

これまで、戦ったり、ナノマシンやらISのデータをとったりでファッションだなんて気にしたことが無かった。頬の傷がさらにファッションに対しての逃げ道を作ってしまう。

まあ、他の人曰くよく見ないと気が付かないらしいが、それでも鏡をみると自分の目にははっきりと、頬からあごにかけての傷を意識してしまってしまう。

 

どうりであのオカマ野郎たちがうるさかったわけだ。

今度会ったら、少しは「ファッション」を勉強させてもらおう。

まあ、さすがに”あの制服”は着る気はないけどな。

 

と、そんな現実逃避ともいえる思考にふけっているとふけっているとセシリアがいつの間にやら別の店員と店員とときおりこちらを見ながら話しているのが見える。

その両手にはまた別のハンガーが・・・

 

「私としてはやはり、こちらのブレザーがよいのではないかと」

「ええ、確かにそうですが・・・赤色はさすがにアクセントが強すぎるような気も」

「スタイル良いですねぇお客様。あとはここの肉を寄せればさらに」

 

ワレ 混乱ヲ 極メル

 

結局、クリーム色のジャケット。少しゆったりとした黒いズボン。紺色の吸汗性に優れた長袖の首筋が見えるVネックのTシャツ。

それに木製の足輪を購入し、見た目は動きやすく、またこの湿度の多い気候に対応できるという暑くもなく寒くもないという格好だ。

ズボンは脛が見えるか見えないかという長さであり、足輪が一つの控えめなアクセントとなっている・・・

露出が少ないかと思いきや首元や足下で控えめに露出をしたつもりなんだが。

フリフリがたくさんついた服を着せられそうになったから、半ば強引に、自分が良いと思う服を買ったという結末になったのだ。

もっとも、そんな服装も黒い円盤にシンプルな白く目盛りや数字が刻まれ、夜光塗料の施された腕時計、つまりクラシックなミリタリーウォッチのせいで台無しとなっているんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか久しぶりだなぁ・・・」

とはいっても、2週間ぶりなんだけどな。

箒との特訓も、今日ばかりは休みにしてもらい、俺は駅前のショッピングモール「レゾナンス」へ来ていた。

IS学園に来る前まではよく「鈴」と「弾」とでここに遊びに来ていたっけ・・・

 

思い出すのはすげえ大雑把な千冬姉の言葉。

「着替えと携帯電話の充電器さえあれば十分だろう」

いやいやいや、いくらなんでも少しは生活の潤いも大事だろ。

ただでさえ男は俺だけっていう過酷な環境なんだ。娯楽用品のひとつやふたつ、あっても困るはずがない。

というよりは、ないと多分俺は色々な意味でおかしくなる自身がある。

 

それに俺は望んで学園に入学したわけじゃないんだ。

試験でISを動かしたと思うと、いきなり中学の先生に家に立て篭もってろっていわれて、マスコミとか世界中の研究機関が家に押し掛けて・・・黒い服を着た男達に入学手続きを”書かされて”。

気付いたら俺の行きたかった「藍越高校」は勝手に受験が取り消されていて・・・

 

確かに千冬姉の言う通り、俺個人の意見は多数決の意見でいうと極少数のもので、採決されるはずもないものなんだ。

せめて、千冬姉の恥にはならないようにしていかないと。

 

そのためにも、まずは生活の潤いをだな

俺が必死に今日ばかりは生活用品を買わせてくれと箒に言うと、しぶしぶ今日は休みにしてくれたのだ。

やっぱり、さすがにシャンプーとか石鹸をずっと使わせてもらうわけにもいかないからな。

箒自身も、それじゃあまるで夫婦だなんて言って顔を真っ赤にしては嫌がっていたみたいだし。

 

ええと、今日買うのはシャンプーに石鹸、綿棒とか雑誌に漫画、それと一旦家に帰って近くに置いておきたい物、あとは弾とか数馬から借りた機密書類(やばいモノ)を例の場所に隠しておかなければ・・・

まさか、箒のいる部屋に隠すわけにもいかないし・・・1人部屋になっても女子しかいない学園の中に持ち込む時点でいろいろとダメな気がするし。

 

まあ、なんとかなるだろ。

「人間の欲求は、理性で制御できるって」哲学でもあるしな。

 

さてと、はやいところ行くかな。

 

ーーーーー

ーーー

 

 

「おい、やめろよ。嫌がっているだろ」

そう言い出したのは俺。

両手には買ったもので膨らんだ大きなビニール袋がぶら下がっている・・・口で言ってる割にはかっこ悪いと自分でも思う。

 

俺の前にいる6人の男たちは誰かを取り囲むかのように立っていた。

髪はどいつもこいつも染められているのか、金髪やら茶髪やら、前髪も視界に映るくらい伸び垂れていた。

今で言うイケメンってやつだ。服装もみんな俺の手の届かないくらい値段が高そうだ。

 

普通なら運が悪かったんだと囲まれている女性に心の中で詫びをして、見ぬ振りをするに違いない。

関わらないほうが、メリットもなければデメリットもない。今まで通り平穏に過ごせる。

けど、俺はそんなことをするくらいならあえて首を突っ込む。

何か出来るのに、だれかを助けられるのに助けないのは最低なやつのする事だと思うんだ。

それにこいつらだって、結局わざわざ6人で囲んでいる。

どうせ一人じゃ満足にナンパもできやしない奴らに違いないんだ。

 

だから、拒絶を表す声が、男自身の檻の中から聞こえたとき、俺は無意識のうちに声を出していた。

 

「何?部外者はどっか行っててくれないかな」

檻を形成しない男の一人が俺の前に立つ。身長も高い。175センチはあるかもしれない。

上から笑顔でそう言ってくる男。

鼻をくすぐるような、嗅いだら咽が渇くような・・・そんな、俺の苦手な香水の匂いがする。

その浮かべられた笑みも、どこか嫌な雰囲気を纏っている。他のやつらも同じだ。

分かっている、引き返すなら今しかないってことぐらい。

 

でも、それでも・・・俺は見ず知らずだとしても、そこにいるであろう女性を助けたかった。

 

「聞いている?逃げるなら今のうちだよ、見逃してあげるからはやく」

「おい、織斑か!?ったく、何処行ってたんだよ。ほら、どいたどいたぁ!」

 

・・・え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男達が退散していったとに取り残されたのは私と、セシリア、そして・・・オリムラであった。

まさか・・・こいつがいたとは、まあすぐ近くにIS学園があるからあたりまえっちゃあたりまえなんだがな。

 

それにしても本当に困ったもんだ。

IS学園は無論、この町にも当然小中高の学校はあるし、オリムラの友人の多くもこの町の高校の生徒だ。

もともと都市部でもあったこの町には学園都市があるほど学校が多くあり、若者のエネルギーにあふれている。

そして、容姿に優れた学生の多い町としても知られている。

優秀で容姿に優れ、さらに将来の可能性に満ちあふれたIS学園の生徒と親しくなればそれだけ、男の肩身が狭いこの国では大きなアドバンテージとなる。

それを計算にいれてこの町にやってくる奴もいれば、さっきのように容姿さえ優れていれば良いなんていうバカ共も大勢いる。仲良くなって、関係を築いて、飽きたら捨てる。そんな奴らはこの女尊男猥となった世界にも存在する。

 

そう、ホステスなんていう店で女のご機嫌取りをするやつらだ。

さっきの奴らの雰囲気と香水の種類からしてそういった類いの人間に違いない。

女尊男卑の風潮になってからというものの、女のご機嫌取りをするサービス業は業績を上げている。

女に払われる給料が増え、その増えた分もろともそういった店に流れていく、実に簡単な理由だ。

それにともなって、女に気に入られるような容姿の男共は甘やかされ、男尊女卑とはまた違う歪んだ誇りを得て、まるで世界の頂点になったような気になる。

そして、気に入った女を取り囲むなんていう暴挙にまで出る。

自信を得た人間ほど、厄介なモノはないからな。

 

それにしても、本当にタイミングが良いんだか悪いんだか・・・

後少し気付くのが遅かったら、織斑は男共と問題を起こしそうになり、別動隊の連中はいちゃもんを付けてこの男共を引きはがしていたに違いない。

オリムラの向こうには見慣れたやつら、そう、この町にいる別動隊のやつらがちらほらと見え、再びオリムラを包囲するような配置に着こうとしている。

さすがに行動が早いな。

これなら、私の負担も少なくなるだろう。

 

「ありがとうなオリムラ。助かった・・・ほらセシリアも」

「ふん!」

「気にするなよ。クラスメイトだろ?それに、男が女を助けるのは当然だ」

吹き出しそうになるのをこらえ、感謝の印である握手をする。

セシリアは相変わらず、顔をしかめっぱなしだ。

まあ、口喧嘩をした揚げ句に裸を見られちゃこうなるのも仕方ない。

そもそも喧嘩が原因で決闘をすることになった相手と仲良くするだなんて、ヤクの売人と政治家に仲良くなれと言っているようなものだ。

 

「サン=エヴァレンス」

「え?」

「名前だよ。よろしく」

「あ、ああ。織斑一夏だ。こちらこそよろしくな」

自己紹介を兼ねた握手を終えると、オリムラはセシリアの方へと向き手を差し出そうとしては・・・やめた。

握手をしようとする気配を察したセシリアがネコよろしく毛の逆立つような警戒心を露にしたからだ。

 

「ま、今はこんな感じだし、”決闘”が終わったら一つおごらせてくれ」

オリムラの肩を軽く叩いてやり、そっと耳打ちをするとオリムラは苦笑しつつも静かに頷いてくる。

これで、事後処理の手はずは整った。

途中経過はともあれ、オリムラとセシリアの2人に親しくなってもらえればそれだけオリムラが”エサ”としての価値が上がり、大物もやってくるかもしれない。

 

・・・やっぱり、自分は最低だな

 

表情を変えないように勤めるも、心の中は突然降り出したスコールのように憂鬱に。

セシリアをエスコートするも、肝心のセシリアはオリムラとすれ違うときまでネコみたいに警戒心むき出しだったけどな。

 

「ーーーーーまあ、感謝しますわ」

「え?」

「ッ!明日を楽しみにさせていただきますわ!!覚悟しておくのですね」

すれ違いざまにオリムラへ、呟くかのように言ったセシリアの一言。

聞こえなかったのかオリムラが声を出すのも構わず、セシリアは全く別の意味の言葉を言い、顔を「ぷい」という擬音が一致するように顔を背けて行ってしまう。

まったく、オリムラに対しての態度はどうかと思うものの、こうしてみるとかわいらしいものだ。

 

その後、2人はランチにパスタ店に入り、大皿に入った「スパゲッティナポリタン」と「茄子と春野菜の和風スパゲッティを小皿に取り、デザートはカラメルプディング。

それらの味を楽しんだのであった。物価の高さに驚きつつではあったが。

 

当然、水面下では人目に触れられることのない戦いが起きていたらしい。

まず、反西洋過激主義組織「アラブの矢」の潜伏部隊の掃討と、オリムラの監視をしていた男の捕獲が日本政府及び国連の公認の元で行われたというのだ。

郊外のアジトとなっていた安アパートもオリムラの監視チームとはまた別の部隊が突入し、”掃除”が完了。

これで、そこらの小規模なグループはオリムラには近づかなくなるに違いない。

残されたのは、先進国(中でもアメリカとイギリス)が警戒するでかい組織。

アフリカの「自由の夜明け」、詳細不明の「亡国企業」、東欧とシベリアの「ロシア自由戦線」。

この3つが代表例だ。

 

まあ、何かあったら本部がなにか言ってくるだろうし、私はただセシリアの回りに目をやればいいだけだ。

そんな事を思いつつ、死んだ顔をしているタナカに頼まれていた「冷えピタ」っていうやつを渡していた。

まあ、この4人は戦闘能力は高く、おまけに皆ナイスガイときたもんだから、異性への意欲が強いここの女性職員から強いアプローチがあったに違いない。

でも隊長はもちろんのこと、こいつらは二日酔いになるくらいまで酒を飲むことはまず無い。

そうすると、女性職員への差し入れなんだろう。

 

帰りに気をつけるようにと手を振るタナカに見送られ、夕日も沈み切り薄暗くなった公園をセシリアの部屋へと戻る。

 

夕食を食べている際に、食堂で目の合ったオリムラに手を挙げてコミュニケーションをとる。

ちなみに、メニューは「豆腐ハンバーグのフレッシュハンバーガーセット」という、肉はないに等しく、野菜は多めという内容でありながらも満足感を感じさせてくれるメニューだった。

 

そんな感じで部屋のシャワーを浴びつつ今日一日の出来事を思い出す。

今日はあまりにもたくさんのことが起きすぎた。

ショッピングモールで歩き回ったせいか疲れがたまり、記憶もあまりはっきりとしない。

警戒していなかったためか、無意識のうちに無駄な動きが多かったらしい・・・もっとも、お洒落なんていう特殊な状態で、無意識のうちに緊張していたのも無駄に疲れた要因かもしれない。

これまで、ドレスや年ごろに見合った格好をしたことはあっても、それはすでに任務のために用意された物に体を通し、着ている物なんかに気を配る余裕がなんか、なかったのだ。

セシリアも同じだったのか、夕食を過ぎた辺りからしきりにあくびを噛みしめていた様子が、うっすらと思い出すことができる。

 

ふと、前を見ると鏡があり、顔が映っている。私の顔だ。

パウダーを落としたせいか、傷跡がよく見える。右の頬からあごにかけて、顔をなぞるかのような傷跡。

狂気に満ちた殺し合いによって残された傷の一つ。

背中、左胸、腹、私自身の小さな細胞を元として人工的に作られた右腕、その付け根にあるよく見なければ気付かないほどの接合の後。

不可視のバーコードが至る所に刻まれたこの成長過渡期の体。

 

この胸が

この尻が

この身長が

 

大きくなるときまでに、私は生きているのだろうか。

 

 

きっと疲れが出たんだ。

そう、ネガティヴな考えを忘れようと前髪をかき上げて顔にシャワーを浴びせかける。

今日買ったばかりの洗顔に含まれる成分で生み出された、透き通るような爽快感が気分を少しはよくしてくれる。

蛇口を捻り、上から降り注ぐ暖かな雨を止めると防水カーテンの向こうにあるバスタオルを手に取り、体の水滴を吸い込ませていく。

思わず髪もさっさと拭こうとするも、髪は大切に撫でるように拭くようにという教えを思い出し、慣れない手つきで髪の水滴をなくしていく。

 

面倒な体だ。

生まれるなら男に生まれたかった。

そう思うも、今生きているのはこれまで”少女”という理由で幾度か助かってきたことを思い出すと、生まれたからには我侭は言えないと自分に言い聞かせる。

むしろ、女の特性を活かせば良いだけの話なのだから。

 

明日は再び学校が始まる月曜日。

そして、ルームメイトが決闘をする特別な日。

応援、というよりは観戦に行くと言っておいたものの、どうも嫌な予感がする。

結局この学園に来ているはずの”アイツ”は顔を出さなかったわけだし。

 

「あら、髪は梳かないので」

風呂から上がると、丁度クシをドレッサーに置こうとしていたセシリアが寝巻き代わりであるTシャツと、膝くらいの長さで涼しく、伸縮性に優れ快適に過ごせるルームパンツというラフな格好でシャワールームから出た私に声を掛けてくる。

「ああ、軽くで良いんだよ」

そう言いながら2,3回簡単に梳いて私も同じように櫛をドレッサーに戻す。

しかし、それを見逃すセシリアではなかった。

「いけませんわ!髪は大切にしないとなりませんわ。ささ、ここに座ってください」

両肩に手を載せ、私を優しくイスへと誘導する。

特に抗う理由も見当たらないから、おとなしくイスに座ると私の使っていた櫛を手に取ると髪を梳き始めるセシリア。

私とは違い、撫でるように、ゆとりを持ってゆったりと櫛を流していく。

「髪というのはただ洗えばいいというわけではなく、こうやってトリートメントを使うのも大事でしてよ」

「へぇ、本当か」

「そうでしてよ。髪を保護するとそれだけ艶も出て美しくなるのが髪というものなのですわ」

櫛が終わると次はクリームらしき物を手に乗せてはそっと髪をその手で撫でてくる。

頭を撫でられるのに近く、また微妙に違う気持ちよさに思わず目を細めてしまう。

子供のように扱われているかもしれないけど、そんなことはこの気持ちよさの前ではないに等しい。

 

「ふぁぅぁ〜」

「ふふふ」

とうとうこの心地よさが疲れと合成し、とてつもない睡魔を生み出してくる。

思わずあくびをすると、後ろのセシリアは母性を刺激されたのか、その手つきがよりいっそう柔らかなものとなって睡魔を助長させてくる。

これは、色々な意味でたまらない・・・

 

「それにしても、今日は楽しかったですわね」

「ん、ああ。また今度行こうな」

「ええ。そうしましょう。楽しみですわ」

そんな今日一日の思い出を2人で共有しつも、髪の手入れを終わり、ベッドへと向かう。

2人であくびを噛みしめつつだけど。

 

電気が消され、部屋は光源が一つもない空間となる。

ここからは視覚が必要とされない状態となる。

 

「なあ、今日のオリムラもなかなか男前だったと思わないか?6人相手に立ち向かったんだ」

「それでも、失礼な方ですわ。紳士には程遠いい野蛮人。いえ、もはや類人猿のできそこないですわ」

「・・・そうか。明日頑張れよ」

「ええ、代表候補生にふさわしい華麗なる勝利を飾ってみせますわ」

 

電気が消えていて助かった。

なぜなら、今の私の顔は差別的発言を行う友人を、冷ややかなもので見ていたからだ。

暗闇という障害の向こうにいる友人の声の音色からは、誇りと優越に満ちた感情が感じられる。

 

「まあ、油断だけはするなよ?」

「当然ですわ。なにより、エヴァレンスさんが練習に手伝ってくれたのですから。おかげでビットの稼働率も上昇したわ」

まあ、あんだけ斬新な戦法を繰り出し続ければ、ISの独自学習機能とか非限定情報共有(シェアリング)への影響もあったはずだし、私にもセシリアにも、そしてお互いのISにも、良い経験だったに違いない。

私の専用機、ピースメーカーの経験値もそうとうたまっている・・・はずなのに、なぜか”次のステップ”にいけないんだよな。

 

まあいい、とにかく今日は寝よう。

果報は寝て待て。寝る子は育つ。

寝ることは罪ではないのだから。

それに、こうして余裕をもって熟睡できるのも本当に久しぶりだ。

寝られても長くて5時間、最短で30分。命令があれば5分で支度を済ませて指示を受けるあの日々。

不眠でISのテスト機動実験やナノマシンの人体実験もした。少女という理由で中東で部隊と現地民との仲介役をしたときだなんて、回収のヘリが砂嵐に巻き込まれて墜落。掃討の済んでない地で孤立し、夜襲を警戒するために一晩中睡魔と戦うことだってあった。

まあ、どこかのバカが居眠りしたり、勝手にトイレのために陣地を離れたりして・・・首から上の無い死体が5つも発見された。

 

そんなことを思い出していると、気付いたときには時計が朝の5時を指していた。

 

 

 

 

 

 

 

少年、織斑一夏が己の部屋を目指し家に入ったその時、状況は開始されていた。

もっとも、彼が学園を離れた瞬間からそれは始まっていたのだが。

 

ショッピングモールで少年を監視し、いざ人気の無いところで掴み掛かろうとして後ろから羽交い締めにされた男。

少年の部屋の窓にSV98狙撃銃の照準を付けた瞬間に、スコープ割ってを通ってきた7.62mm弾に脳神経を破壊された狙撃手。その死体は床に血を撒き散らしたアパートの一室で横たわっている。

少年の家のある住宅街の一角で、突然車内に流れ込んできた催眠ガスによって気を失い、捕虜となった拉致部隊。

 

 

『何がどうなっている』

『第1から第5小隊との通信途絶、尖兵との連絡も途絶。即席爆弾(IED)も反応しない・・・』

額に汗粒を浮かべ、豊かなヒゲを蓄えたアラブ系の男は己の心臓が高鳴っていることを嫌というほど感じ取っていた。

この国が少年に付けた警備部隊はすでに気付かれないよう始末しておいたはずだったのだ。

あとは、計画通りに少年を捕らえ、己の信ずる神を冒涜する列強諸国への交渉の材料とする。

なのに、その計画がまるで元から見透かされていたかのように目の前で崩れていく。

どこか、胸を締めつけられるような危機感に男は現地で取引し手に入れたM4A1カービンライフルを手に取った。

すでにこの時代では”旧式”に分類される突撃銃だが、整備をしっかりとしていれば精度も良く扱いやすい銃なので、彼らのように少数精鋭を掲げるテロリストの間では1人前の象徴でもあった。

皮肉なことに、彼が嫌悪する列強諸国の一つ、アメリカという国の軍がかつて使用していた突撃銃でもある。

今では、かつての5分の3まで軍縮が進んだためにアメリカ軍兵士は皆、最新のType15(15式自動小銃)という日本製の最新のアサルトライフルに更新が完了していた。

打撃を受けたアメリカの銃製造企業は、急遽民間軍事会社へ路線を変更したことが、それらの企業を保護し、同時に吸収したNAGA社の巨大化にも貢献することとなったのだ。

 

突然、ドアがノックされる。

郊外に建つ、現代人の誰もが住みたがらないような古びたアパートだが、彼らのとってマシな物件であり、郊外のために行政の網にもかかりにくいという良物件でもあった。

ドアのノックしたのは、前祝いとして注文しておいたピザの入った箱を持つ配達人。

男の部下の一人が安全を確認すると、努めて穏やかな顔でそれを受け取りに行った。

いつも注文している店なので、常連のようなものだったのだ。

「ハイ、イクラデスカ」

片言の日本語で日本語をしゃべりながら男は財布の中身より視線を上にする。

つい、いつもの癖で先に財布の中身を確認してしまうのだ。

 

『無料だよ』

流暢なアラビア語と干した布団を叩いたかのような、抑えられた銃声の後に、男は頭の中身を玄関の壁に散らせた。

玄関からは見えない位置に立っていた男の手には、M1911A2拳銃に消音機の取り付けられたそれが握られていた。

力の抜けた男の体が床に崩れ落ちる音とガラスの突き破られる音が響いたのは同時。

 

後は一方的とも言える状況だ。

窓ガラスを突き破り、屋上からつるしたハーネスを使い突入してきた部隊、無防備に開かれた玄関からはピザ店の使用する箱より消音機と光学照準器の取り付けられたKRISS Vectorをとり出し、ストックを展開してはアパート内部を警戒、拳銃を持つ男は誰も近づけないように周囲を警戒していた。

 

催涙ガスが立ちこめる室内からは悲鳴と次々と拘束されていく男達の罵声が響く。

 

『こちらチャーリー、掃討完了1名射殺、4名を捕獲。こちらに被害なし。オーバー』

アパートの掃討が済み、司令本部へと通信をする男。

その胸のパッチには、そのときルームメイトと休日を楽しんでいるであろう少女の所属する企業の、3角形のロゴが付いていた。

 

早く、静かに、正確に行動した別動隊。

アパートの周囲はまるで何も起きていないかのように、平穏を保っていた。

 

 

 

 

 

 

 

フランス パリ

 

オレンジ色の夕日に包まれ、芸術の都とは別の一面を見せ始めるパリ。

そんな”別の一面”の世界に生きる人間も存在する。

 

横倒しとなった防弾使用のテーブルに隠れる2人の男。

次の瞬間、ショットガンの銃声とともに散っていくテーブルの一角と血飛沫、それと男の拳銃を握る右腕。

 

「まったく。給料のわりには対したことの無いチンピラ共だ」

無精髭を生やし、カーキ色のコートを着こなした男が気だるそうにつぶやくとショットガン、SPAS12の空となったシェルを排出する。圧力によって排出されたシェルはくるくると回転しながら床に落ちていく。

ジャコンという気持ちのよい操作音だが、テーブルに隠れている男にはまた一歩死が近づいてきた音にしか聞こえない。

シェルが2、3度床を跳ねる。

 

『くそったれ!』

拳銃を男が隠れている部屋の入り口に牽制として乱射する男だが、コートの男は耳障りであるかのように、特に動揺することもなくため息をつく。

男はいくら依頼主による要望だとしても、この銃があまり好きではなかった。

 

撃つ度に手動で薬莢を排出せずとも、発砲時に生み出されたガス圧を利用して自動的に排出することのできるという聞こえの良い特徴も、「安価・頑丈・対人専用である」という売り文句も、結局現場でトラブルが起きてしまえばただのお荷物に過ぎないのだから。

彼は重火器のトラブルを従軍経験があることから特に嫌っていた。そのトラブルのせいで、なんどもアフリカの地で死にかけたことだってあるのだ。

 

カチ カチ と撃鉄が銃本体をノックする音が寂しく響き、続いて男の引き攣ったような悲鳴。

 

M92 Elite IA(ベレッタ)の装弾数は確かに心強い。でも、パニクっていちゃ意味ないんだよ素人)

そんなことを思いつつ、隠れていた壁から素早く姿を現した男は、躊躇無くショットガンの引き金を引く。

発射されるのは一つの鉄の塊、スラグ弾と呼ばれる対人での使用はその人体的破壊力の高さより非人道的という理由で禁止されているものであり。本来なら生命力の強い生き物などに猟で使われる。

依頼主は、「これで極力殺さないように、そして有らん限りの痛みを与えて戦え」と男に言い、これを渡したのだ。

 

燐の香りが漂う部屋に残るのは、すでに原形を留めない右腕を庇うようにのたうち回る男たちと、気怠そうにため息をつく男。流暢なフランス語だ。

『あぁ〜あ。パリのやつらも弱くなっちまったなぁ』

『ックソが!このイカれ野郎がぁ!!』

まるで、そこら辺に捨てられた子犬を見るような、慈悲とも同情ともつかぬ感情を含む瞳で男は、血に染まったスーツを着、片腕を吹き飛ばされたことへの怒りを含んだ瞳でにらみつけてくる男を見る。

 

そして、足下に転がっていたフォークをおもむろに手に取ると、男の無事なほうの手先を無理やり床に広げさせる。

 

『悪いね。依頼主からはとにかく痛めつけて、殺すなって言われているから。まあ、リーダーのあんただけは活かしておけってことだけど』

そんなことをいいつつも、現在進行形で顔写真を胸ポケットを取り出して本人かを確認する男。

指の間に存在するスペースにフォークを差し、その隣のスペースに差し、次々と素早くフォークを刺していく。

 

『や、やめろ!仲間が来たら、今ならまだ許し』

 

男の顔が恐怖に歪んだ瞬間

「上司の金パクって逃げようとした時点で、覚悟しておけばよかったんだよ」

先程まで食べていたであろうナポリタンに赤く塗れたフォークが、手の甲へ振り落とされる。

『それに、あんたの言う4人の仲間だって本当に無事なのかい?』

 

 

手入れのされていないであろうぼさぼさの黒髪に手を当て、男がため息をつく。どうやら参った様子だ。

ふと、かの有名なベートーベン作曲の「運命」を着信音に設定された携帯が、マナーモードに設定されていたために音を吐き出すことなく控えめに震える。

先ほどの銃さばきとは異なり、特に急ぐ様子もなくのっそりとした動きで携帯を内ポケットから取り出し、着信に出る男。

「こっち終ったよ。こいつら雑魚ばかり!フヒヒ」

幼さの残る嬉しそうな声とは裏腹に、内容はおぞましいものだ。

「ほい、おつかれさん。じゃいつもの場所で」

「はぁーい!」

 

携帯を折り畳むと、かすれるような悲鳴の響く部屋を後にし、表へ出る。

3ブロックほど歩くと、先程までの静けさが嘘のように人通りの多い通りとなる。

休日のためか、通りの両脇では仕事の疲れを忘れるべく、表に置かれた丸テーブルを囲み会話を中心として己のペースで少しずつディナーを楽しむカップルやグループがいた。

食事が冷めようとも、口が何かを求めればフォークに巻き込ませてはそれを口に運ぶと、再び会話に花を咲かせる。

俗に言うスローフードというものだ。

夕方に食べ始め、店じまいとなる時にようやく食べ終わるのは当たり前。

男もまた、仕事のない日には行きつけの店でその場で出会った者たちと朝まで語り尽くすような人間である。

 

ただ、最近は”弟子”のおかげでそれもあまり出来なくなっているのだが。

「おーい!ジラフー!!」

1ブロック先からでも見えるほど、元気に手を振るその弟子。

仕事が終わればいつもそのオープンカフェに行き、ミートスパゲティを食べるようにしているのだ。

決めた時間までに片方がいなければもう片方は即座に、隠れ家へ駆け込む。

それをはじめとするいくつものルールがあるのだが、追っ手もいなかったために男は思わず頬を緩めてしまう。

足を速め、その弟子へと歩みを進める。

次第に開けていくその視界に映るのはプラチナブランドのショートヘアーに黒い革のノースリーブジャンパーと黒いTシャツ、そして黒いハーフパンツという服が全て黒という格好の少女。

その格好からも感じられるその活発そうな性格に見合う、茶色の瞳が男を捕らえていた。

 

2人とも、使用した武器は指定された場所に捨ててきているために、仕事帰りにもかかわらず直行してきたのだ。

もっとも、彼らの依頼主はもっぱら国家権力にまで影響しえる組織、つまりマフィアであるために、警察も彼らに手出しすることが出来ないのだ。

事実、一度新人の警官がこの男を逮捕し留置所へ入れたとき、新人の所属する警察署が”なくなった”のだから。

ちなみに、この少女に与えられた武器は2本のグルカナイフであり、閉鎖的空間で刃物を振り回す少女にとっては身に付けている下着よりも体になじむものだ。

 

「よおお二人さん、今日もいつものやつでいいのかい」

「ああ、頼むマスター」

「あ、チーズも頂戴!」

少女の好物の追加注文に対し、あいよ。と店主が気前のよい返事をして店内へと引っ込んでいく。客はまだまばらだが、日がすっかり沈んでからこの店はにぎわうのだ。

 

「本当にチーズが好きなんだなお前は」

「だっておいしいんだもん。ジラフだって好きでしょ」

水代わりのようにワインを飲む彼にとって、チーズは好物でもあるため苦笑することしか出来ず、してやったりというような少女は笑みを浮かべる。

 

 

「今度はでかい依頼だ」

「うん」

「これまで以上にでかいヤマだし、ヤバい仕事でもある」

「うんうん」

「・・・今回うまくいけば、もう俺たちは戦う必要がないくらいの大金が入る」

「ふ〜ん・・・って本当!?」

「こら!食事中は行儀よくしろ」

そう言われると、少女は思わず乗り出しそうになったその身を再びイスの上へと戻す。

テーブルの上のナポリタンはまだ半分も減ってはいないが、すでに周囲は暗くなり店の柔らかな証明が路地を照らす光源のひとつとなっていた。

確かに多少は手元が見にくいかもしれないが、古い町並みの景色を崩さないようにするためなのだ。

あえてこの地域の店々は消費電力の少ない最新の照明を使用せず、昔ながらのランプや間接照明を使用する。

それによってこの心落ち着かせてくれる風景を守り続けてきていた。

 

少女の顔を店の外に吊るされたランプが優しくうっすらと照らし出す。

「ジラフ、私頑張る」

「ああ、おれも頑張る。だから、かならず生きて帰るぞ」

「約束だよ」

「ああ」




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「皆、理由があって戦争の犬になった。隊長の俺は詮索はしないし、詮索もされない。
人々は俺たち傭兵をテレビのニュースで見てはトーストを噛り、どこでどれだけの人々が紛争で死んだかを忘れる。それでも、俺たちは戦うんだ。金のために。自由のために。己の思想のために。平和のために。いいかい、君はまだ若いんだ。結婚はあせらず、相手をしっかりと見定めてからーーー」
「隊長・・・飲み過ぎですよ」
「まるでマリファナ吸ったときみたいにべらべらしゃべってる」
「まあ、強面は変わらないけどな」
「あそこまで隊長にしゃべらせるだなんて・・・チフユオリムラ、恐ろしい女だ」
「ワオ!エコーが早速ハーレムつくってやがる」
「おい、タナカ。お前も飲んだらどうだ?今は勤務時間外だぞ?」
「これだから日本人は」
「オー!モーレツ!!ってやつかぁ!」「マークが早速潰れたぞ」
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