機甲人形戦線 作:SML 37mm Frim
「今日から君達、特殊遊撃部隊 ナインボールの指揮官に着任する、ジャックだ。よろしく頼む」
「指揮官、サードリーダーのシオンです」
標準戦闘服を着込み、やや固い印象を受けるサード。しかし、何処かで会った気がしてならない。
「…………。済まない、何処かで会ったかな?」
「初対面の筈ですが」
「初手で自分のサードリーダーを口説くとは、君も人間味が出てきたな」
「そんなつもりは無かったんですがね」
「そうか。まぁ、遊撃部隊の指揮官になる訳だ。サードリーダーとは上手くやってくれよ。君達は即応性が求められる、いざという時の信頼関係は大事だからな」
そう言いながら、俺の肩を叩く。人類連合軍たるカラードのブライト少佐は、俺達が壊滅させた分隊が所属する大隊長であった人物であり、俺達に見込み有りとしてこうして登用してもらった。とはいえ、コイツは信用してはならない人種だ。老獪で、かつ執着心も強く権力もある。敵に回せば厄介なクソジジイだ。
「君達は遊撃部隊専用の前哨基地に移動してもらう。そこでは君の知り合いが案内してくれる」
「俺の?」
「ああそうだ。
「行けば分かるさ。それと、私の権限で多少融通してやれるが、なにか欲しいものは?」
「……。」
「まぁ、まだ時間はある。要望を纏めてくれ」
彼女達に、補給は弾薬以外は必要無い。しかし、人格を消去すると戦闘力が激減するという結果から、彼女達はそれぞれの人格を持つ。それらは精神的な影響を受けるために、食事を取り入浴を行い睡眠を取る。それであれば、彼女らは兵器よりも人間に近い。
「……君達の、希望を聞きたい」
「えっ、聞いてくれるの?」
素っ頓狂な声を上げたのは、黒髪のサード。
「メノ、言葉遣い」
「だって!」
「待って。どうして私達の希望を聞くのか答えて」
メノ、と呼ばれた黒髪のサードはシオンに注意され、反論しようとした所を小柄なサードに押し退けられていた。
「どうして……か」
「下らない理由なら殺すわ」
「マギー」
「私達はあなたの命令で死ぬ。弱々しい奴が指揮官になるのなら、私はそれを許容できない」
「マギー、といったかな。君の考えは分かる。だが、一つだけ言わせて欲しい。俺は君達を兵器としては見れない」
怪訝そうな表情。それはそうだろう。優秀な指揮官であれば、彼女らを兵器として死んでこいと言えるのだから。
「それは何故?」
「……戦場を共にする、仲間だと思っている」
「は?」
「俺は君達の命を預かる指揮官という立場だ。例え実際に戦闘に参加できずとも、俺は君達と共に死ぬ覚悟がある。指揮官とはそういうものだ」
「……バカなの?」
「俺は本気だ。済まないがシオン、皆の名前と希望を取ってくれ。俺は少佐と話してくる」
「了解」
ちょっと小走りに、少佐の背中に声をかける。
「少佐!」
「……その様子だと、隊の子達には聞かれたくないようだな。聞こうか、君の要望を」
「俺の知り合いを二人、俺の隊にオペレーターとして着けてほしい」
「ほう、それだけか?」
「それとAG用の補給品も」
「……なるほど、レイヴンは未だ死なず、か。いいだろう」
少佐はそれを聞いて嗤うと、足取り軽く去っていく。
「他の要望は出発の時に聞く。上手くやれよ」
「分かってます少佐」
俺も振り返り、部隊の下へ戻る。
「あっ、戻ってきた」
「指揮官、希望を纏めたものです。それと、遊撃隊メンバーの情報です」
纏めた紙を受け取り、メンバーの情報として差し出された手に手を重ねてみる。
「……なに、踊るの?」
「指揮官、指揮端末を」
「ああ、それか」
マギーの冷ややかな視線を受けつつ、ポケットから出した端末を渡す。彼女らにはデータリンク、レーダー等の内蔵型電子機器を装備している。その為に、こうして何もなくとも端末へのデータ転送が行えるのだ。
「インストール完了しました。ご確認ください」
「ありがとう。君はシオン、この部隊のサードリーダーだな」
「はい」
視線が交差する。やはり何処かで会った気がしてならない。
「それで君はマグノリア、ポイントマンか」
「そう。私が1番手。よろしく」
腕を組みながら、睨みつけてくる。
「メノ、ライフルマンか」
「はい!よろしくお願いしまーす」
元気な子だ。若々しさを感じる。
「ルール、マークスマンだな」
「よろしく指揮官」
マークスマンらしく、ヘッドセット型の増設レーダーをつけている。こちらに興味無さそうだ。
「アリシア……機関銃手、志願者か」
「お互いに、頑張りましょうね」
脳をサードに移植して入隊するものも少なく無い。彼女も祖国解放か復讐を夢見ているのだろう。
「ウィンディ、擲弾手だな」
「そうだ。気をつけろよ」
凛とした雰囲気、伸びた背筋、軍人というよりかは剣士とかそっちの類が似合うな。
「さて、改めて。俺はジャック少尉、この部隊の指揮官を勤める。傭兵で、この職も依頼という形で受けている」
「傭兵?」
「通りで着任したてにしては慣れてると思った」
「ってことは指揮官は企業所属なの?」
「まさか、フリーだよ。こんなご時世でも、傭兵は食べていける職業でな」
興味を示すメノ、不信感を顕にするマグノリア。他はどうでも良いと言いたげだ。
「じゃあ私達とも戦ったり?」
「君達の強さはよく理解しているつもりだよ。何回死にかけたか」
「こっちも治安維持の時に迷惑してたわ」
「それじゃあお互い様だな。皆、準備は済んでるか?」
「我々は既に手荷物以外は前哨基地に送ってあります」
「そうか。なら、俺は準備してくるから出発前に再度集合。質問は?」
「ありません」
「なら、良し。解散していいぞ」
▼▽▼
「……あの指揮官、どう思う?」
マギーが腕を組みながら、去る背中を睨みつけてながらそう呟く。
「いい人そうでしたけど」
「メノは能天気だからいいけど、ウィンディとかアリシアは?」
「酷くない!?」
「私は聞いてくれないのね」
「ルールは興味無いでしょ」
マギーが酷い事言うと抱き着いてきたメノを宥める。ルールはバッサリと切り捨てられて大げさに肩を竦めた。興味無いのは本心なのだろう。
「それで二人は?」
「手練れだ。奴は戦場を歩いて来た者の目をしている。その中でも、修羅場を五体満足で潜り抜けてきている」
「概ね同意よ。ただ、良い兵士が良い指揮官足り得るかは別よね」
「私は、あの指揮官が傭兵で良い兵士なのは認める」
そう私も同意すると、マギーがギョッとした顔でこちらを見る。ウィンディとルールは怪訝な表情であり、アリシアは首を傾げた。
「シオンがそんなこと言うなんて、珍しいわね」
「事実は認めるわ。ただ、指揮官の精神面については計り兼ねるわ」
「マギーとほぼ同意見ということか」
「一緒に死ねると豪語するその精神が、どちらに転ぶかは次の任務で見極められるでしょうね」
「犬死は御免被りたいわ。私は」
そう言い放って、マギーは去る。ルールも、今後に期待だと残していく。
「何かあったら呼んで頂戴」
アリシアと、ウィンディが去る。
「私、指揮官とお話してきますね!」
メノは指揮官の後を追った。一人残されてしまった私は、暇潰しも兼ねてメノについていくことにした。
▼▽▼
「指揮官!」
「メノ……とシオンか。どうした」
「指揮官ともっとお話したいと思って来ました!」
「それの同行です」
「なるほど。準備しながらで良いか?」
「全然大丈夫ですよ!」
「悪いな」
作業しながら、メノの話に耳を傾ける。
「ネクストと戦ったことあります?」
「ある。北方でな、あの時は正規部隊の代わりに戦った。丁度、サードが現れた時くらいだったな」
「へぇー、なら滅茶苦茶強かったんじゃない?」
「強かったさ。AGがいるとはいえ、通常兵器じゃ厳しい戦いだったな」
「それでも五体満足なのですね」
思わず、ピタリと作業の手が止まる。チラリ、とシオンへ目線をやれば、その感情は読めない。
「俺はAG乗りだったからな。何度か機体は大破しているが、俺自身は無事だったさ」
「その前は?」
「……ネクストも相手にしていたが、人間相手の方が多かったな。企業に雇われたり、カラードに雇われて資源採取地の攻防戦に参加していたさ。幸いな事に五体満足でここまで来来ることができている」
作業を再開して、シオンから目線を外す。シオンには警戒されているが、メノは興味で動いている様子だな。
「指揮官ってどこの生まれなんですか?」
「生まれ……か。旧大陸だよ、何も守れやしなかったがな。さて、と」
準備を終えて、後は運ぶだけになった。3往復ってところだな。
「あ、運びましょうか?」
「……あー、頼んでもいいか?」
「了解」
「はーい!」
私物は軽い。傭兵時代から、使っているものに変わりはないが、指揮官向けの資料や機材など、やや嵩張るものが増えた。輸送機へ積み込み、固定して終わりだ。
「ありがとう、助かったよ」
「これぐらい軽いもんですよ」
「命令ですから」
棘のある言い方。だが、彼女達は自分達が兵器であることに違和感がなく、俺の扱いの方に違和感を覚えるのだろう。何はともあれ、彼女達とは暫く交流していかなければならないな。
「さて、準備は出来たかな」
「少佐」
輸送機に、少佐が現れる。サード達は敬礼でそれを迎える。
「こちらが希望書です、よろしくお願いします」
「しかと受け取った。輸送機はこれより前哨基地へ向けて移動する。準備は良いかな」
「サードリーダー、サード各員点呼」
「了解。サードリーダーよりナインボール各員、異常の有無報告」
「「異常無し」」
「了解。指揮官、ナインボール準備完了」
「了解。ナインボール準備完了」
「うむ、では乗ってくれ」
サードを先に乗せて、最後に少佐に肩を叩かれる。
「君に言わねばならない事がある」
「ここまで来て、何です?」
「サードリーダー、シオンの事だ」
「シオンが、何か?」
「君はシオンを見たことがあると言っただろう。あれは事実だ」
「……どういうことです?」
「彼女は君が撃破した分隊長だ。偶然にもコアを回収してまた復帰したというわけだ。君の因縁だな」
「……それを分かっていて俺をここの指揮官に?」
その問いに、少佐はニタリ、と笑い囁く。
「期待しているぞ、傭兵」
少佐は俺の背中を押すと、輸送機が上昇を始めた。後部ランプから少佐を見下ろすと、彼は両手を広げてこちらを見上げていた。
「君の行く末に、幸多からんことを!」
「指揮官、そこは危険です。こちらへ」
「……ああ」
あのクソジジイめ、それを知っててここに俺達を配属したのか。クソが。
シオンが俺の手を取って、空いている席へ誘導してくれる。その表情は、やはり読めない。