機甲人形戦線 作:SML 37mm Frim
「ナインボール各員、そろそろ着くぞ」
「了解」
「降りたあと、荷物運ぶの手伝いましょうか?」
「よろしく頼む」
「はーい」
前哨基地、普通であれば堅牢な要塞も兼ねて置かれているがここは遊撃隊専用の基地であるためか、そこまで要塞化されている印象は受けない。
シオンに目をやっても、同じように窓の外へ目をやっている。まだ、シオンに話してはいない。
着陸して、後部ランプが開く。すると、そこには見慣れた顔があった。くすんだ金髪、青い瞳。特徴的なエンブレム。
「スレッジハンマー、来てたのか」
「あたぼうよ!久しぶりだな、レイヴン!」
バチン、と肩を叩かれてたたらを踏む。荷物を持っていたまま、シオンに支えられて持ち直す。
「この方は?」
「第72砲兵連隊、カレン・ハマーだ」
元は同じく傭兵をやっていたが、正式に入隊して砲兵隊として従軍している。スレッジハンマーは彼女の愛機の名前であり、共に戦場を駆けた事もある。火力支援を担当し、重量物運搬車を改造してAGを組み立てている。さながら動く砲兵陣地である。
「ここは良い所だぜ。他の前哨基地より設備は良いし、出撃した奴は2割が帰ってこない。私らが誤射しても、それで何人死んでるかわからねぇしな」
「誤射って……お前がか?」
「んな訳ねぇだろ。お前、私が効力射で的外してるの見たことあるか?」
「無いな。だからだよ」
「ペーペーは観測しても外しやがる。だからサードからは苦情が来るし、歩兵からは殺してやるって言われるんだよ。実際、後ろ弾されてやがんの」
「それで左遷か?」
「まさか!私の腕を買われたのさ、ここの基地司令にね」
話しながら歩き、俺達に充てがわれた宿舎は新しく作られたもののようだった。
「ここが指揮官室、お前は一人部屋だ」
「中々豪勢だな」
「お前のセーフハウスよりかはな!」
執務室とそこから繋がるシャワー室、私室、倉庫であり、私室へと荷物を運び込む。
「サードリーダー、この基地のマップだ」
「ありがとうございます」
端末をシオンに渡して、そういう。インストールして、サード各員に共有していく。
「お前もコレ出せよ」
「おう」
端末を出すと、カレンの連絡先と共にマップが送られて来る。
「23時から8時までは連絡するなよ。してもいいけど、反応は無いからな」
「寝坊助め」
「女には女の準備があるんだよ、チェリーボーイ」
「えっ、指揮官童貞なんですか?」
「メノ」
「え、だって!」
「はは!だってよ、ジャック」
「悪いが違うな。何年も前に捨てたよ」
「お相手は、もしかして」
恐る恐る、といった具合にメノがカレンに目を向ける。意図に気づいたカレンが吹き出す。
「私ぃ!?は、はははは!言うねぇサード!名前は?」
「め、メノです」
「メノか!気に入った!これやるよ」
渡したのは、私物のレーザー誘導機。
「これは?」
「何かあったらそれで座標を送信しな。ジャックにも同じもの渡してあるから、取り違えるなよ」
懐にしまってあるそれを取り出して、確認して戻す。目線を上げれば、カレン越しに懐かしい人物が見える。
「こちらにいましたか」
「おっ!!キャロりん!アンジー!元気だったか!?そもそも生きてたんだな!」
二人纏めて、抱きしめられる。キャロルもアンジーも俺の元オペレーターをしていた。バシバシと肩を叩くカレンを引き剥がして、向き直る。
「お久しぶりです、レイヴン」
「あなたから指名があったと聞いたときには、耳を疑いましたが生きていたのですね」
「当たり前だ。キャロル、アンジー、またよろしくな」
「指揮官って、もしかしてそこそこ有名なお方なんですか?」
「ジャック・オーバーロード。またの名をレイヴン」
「屈指の実力と戦果を誇る、企業に所属しないフリーの傭兵」
「まぁ、コイツ雇えば大抵の小競り合いには勝てるって訳さ」
その説明を聞いて、メノは感嘆を、マギーは訝しげで、他は余り興味無しと言った具合だった。
「小競り合いで勝てるぐらいの傭兵が指揮官とはね。ま、素人よりはマシか」
「そういえば、申し遅れましたナインボール。私はキャロル・セプテム。この隊のオペレーターを勤めます」
「アンジェリカ。部隊の輸送と電子戦、中継などを行います」
メガネをクイッと上げながらキャロルが、一礼してその長い黒髪を直してアンジーがそれぞれ自己紹介をする。
「サードリーダー、シオンです」
「……なるほど、あなたが」
「どうかしましたか?」
「いえ、こちらの都合です。私とアンジェリカのコードです」
キャロルがシオンの名を聞いたとき、こちらに目線をやった。首を横に振ると、察してくれたのか否定した。
「おい、今の何だ」
「……後で話す。どうせ今夜は空いてるだろ」
「まぁな。お前の部屋でいいか」
「ああ」
サードはサード専用の部屋がある。同じ建物の下の階だ。一応部屋は二、三人の相部屋であり、広さもそこそこだった。
「今日は予定も無い。オフでいい。連絡だけつくようにしてくれ。解散」
「「了解」」
サードが各々動き出していく。執務室には、俺とキャロル、アンジーにカレンだけが残った。
「……まずは、キャロル、アンジー。来てくれてありがとう。改めて、これからもよろしく頼む」
「こちらこそ。レイヴン」
「よろしくお願いします」
「カレン。これからも度々世話になると思う。よろしく頼む」
「こっちこそだ。それで?」
さっきのは何だ、と催促してくる。
「サードリーダー……シオンは、俺が壊滅させた分隊の分隊長だった」
「浅からぬ因縁って奴か。なるほど、まだ伝えてないんだな」
その問いに、頷きで返す。
「セプテプタム襲撃もですか」
「昔話は良いだろ。伝える義務もない」
「それは因縁だとしても、ですか」
「因縁は隠しておくべきだ。今の所はな」
「返答の意図を図りかねます。発覚した際に関係を壊すだけでは」
「何れ話す。今じゃない」
「その後悔を抱えたままに死ぬのか?」
「セレンには」
無言だったキャロルが、呟く。
「あの人には声を掛けなかったのですか?」
「…………セレンは関係無いだろ」
「レイヴン、やはり……貴方の秘密主義は身を滅ぼしかねない。そう判断します」
「早い内に片付けな。夜にまた、酒を持って来るよ」
キャロルとカレンも執務室を去る。残ったアンジーは、何を言うでもなくこちらに視線を向けた。
「……アンジー……」
「私は、あなたが嫌いです。本音も事実も言わないあなたが」
「知ってるよ」
「レイヴン。ご健闘をお祈りします」
アンジーも一礼して去っていく。一人残された執務室。何をする気にもなれないでただ椅子に腰掛ける。シオンとの因縁、指揮官とサードリーダーの立場、あのクソジジイの策謀だろうが進ませる気にもなれない。
だが、いずれ言わねばならないのだろう。
考え事をしていると、眠ってしまっていたようで、ノックの音で起きる。声の主の判別は、ついていないが取り敢えず許可を出す。
「失礼します」
知らない人だった。
「初めまして、私はカラード参謀本部所属、133基地司令部連絡員のセルメタリアと申します。参謀本部とこの基地にいる部隊との連絡を行い、命令の伝達や作戦への参加を要請する為にいます」
「俺はナインボールの指揮官、ジャックだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします。今日着任したばかりですが、本部より伝達事項が届いています。作戦に関するものなので、取り扱いには十分に注意してください」
手渡される資料を受け取り、その資料を元に指揮官用のPCから作戦データへアクセスする。
「本作戦にて、ナインボールは予備として動いてもらいます。この作戦の目標は橋頭堡の確保と防衛線の構築です。欧州解放に向けた第一歩となる作戦です。くれぐれもお気をつけて」
「分かった」
「では、ご武運をお祈りします」
作戦は簡単だ。旧大陸の欧州へ向い、ドーバー=カレー海峡を通って海軍の支援と共に強襲上陸し、橋頭堡を確保するという単純なもの。防衛線の構築完了まで我々は予備として常に最前線の真後ろにいなければならないらしい。
キャロルとアンジーに連絡して、シオンにも下達して、カレンが動けるか聞いておくか。
「おいジャック!!」
「……カレン。お前はノックぐらいしろ」
「お前の所のサードは良い奴らだな!ハッハッハ!」
メノをヘッドロックし、酒瓶を片手に執務室へ入ってきたのはカレン。既に出来上がっているようで、テンションが高いし酒臭い。
「聞いたか!?欧州解放だってよ!よくやるぜアイツラもよ!」
「お前は動けるのか?」
「ったりめぇだろ!?万年暇してんだからさ、こっちはよ!」
「し、指揮官、助けて下さい」
「……ほら、カレン来い」
「んぁ?ふふ……いいぜ」
手を広げて、呼ぶ。それを見たカレンはニコリと笑って、酒を一口呷る。そのまま倒れ込むようにして抱き着いてくるのを受け止める。
「衰えてねぇなぁ……お前は……」
「メノ、コイツなにかしたか?」
「えーと、私を拉致したのとマギーと飲み比べして潰したくらいです」
「そうか。マギーは大丈夫そうか?」
「アリシアがついてるので大丈夫だと思います」
「遅れました。ジャック……これは」
「既に出来上がっているようで」
「キャロル、アンジー、丁度良かった。カレンを受け取ってくれないか?」
カレンに呼ばれたのだろうキャロルにカレンを渡し、私室から酒をいくつか取ってくる。アンジーに渡し、カレンを椅子に座らせる。メノは絡まれると厄介だとして退散している。
「んだよぉ、ジャック……私はもう飽きたのかよ」
「シラフのうちに酔っ払いを相手できるかよ」
「頂きます」
「私も」
カレンはくだを巻きつつ、隣りに座ったアンジーにしなだれている。俺は何かつまめそうなものを漁っていると、キャロルも来た。
「糧食3号、美味しいですよ。お酒に合います」
「食ったことあるのかキャロル」
「随分前に。まだ正規軍にいた頃ですね」
「そうか。これぐらいしかないな」
余っていた糧食を開けて、俺も酒に手を付ける。久々の再会、積もる話もそこそこある。だが、何処かにもやもやした感情を抱えたまま、傭兵だった時を思い出してこの時を無理矢理に楽しもうとした。