一騎当千の拳   作:北斗のハゲ

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2話

 

 

あの後四天王に喧嘩を売ろうとしていた伯符であったが、既に四天王は校内におらず、落胆して帰ることになり、そのまま居候先の公瑾の家に向かうこととなった。伯符は初日から売りまくった喧嘩と長旅による疲れからか昼近くになった今でも寝ぼけていた。

 

「ん……」

 

とろんと垂れた寝ぼけ目でおやつ代わりに出されたスイカを食べながらも、伯符が見つめる先には公瑾の耳につけられた勾玉だった。

 

「わ!? は、伯符!?」

 

あわやキスされそうなくらい近付いていた伯符の顔に公瑾は顔を真っ赤に染めてその場から離れる。

 

「勾玉の色……白符のと公瑾のじゃ色が違う……なんで?」

 

むー……と小さく唸り声をあげる白符に、公瑾は自身の耳を触り、勾玉が取られていることにようやく気づく。

 

「(い、いつの間に……)と、闘士のランクが上がれば、色も変わるんだよ。僕はDランクだからパール色だし、楽就さんはBだから銀、Aだと金だ」

「はえ〜」

「色が上がる条件は他の闘士をたくさん倒すとか、技を身につけるとか、色々言われているけど……まぁ、分かりやすく言えば強くなれば色も変わるってことさ」

「……ん? じゃあ公瑾はあたしより強いってコト!?」

 

伯符は信じられないと言った顔で公瑾を見ていた。

 

「まぁ、そーなるかな」

「嘘! まちがってるよ!」

「うわっ!」

 

伯符の口からスイカの種が飛び出し、公瑾の顔に降りかかる。美少女の吐いたモノ。特殊な方々にはご褒美かもしれないが普通の少年である公瑾はただ行儀が悪い、汚いとしか思わなかった。

 

(昔っからこういう所あるよな、伯符は……)

 

タオルで顔を拭きながら公瑾は呆れていた。

 

「だってだって、泣きの公瑾があたしより強いわけないもん」

 

『泣きの公瑾』それは公瑾にとって最も忘れたい黒歴史そのものである。

それを掘り起こされ、語られるなど恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

 

「それは昔の話だろ! 今は、れっきとした闘士だ。す、少なくともキミよりランクが上の──」

 

公瑾が言い終える前にガシャン、と皿が落ちた。

 

「ひぃ! ごめん嘘…………って寝てるし」

 

ビク! と少し驚きながら伯符を見ると、彼女はスイカの種を頬に付けながら寝ていたのだ。食べるのか、怒るのか、寝るのか。はっきりしてくれよ。公瑾はそう思った。

 

 

 

 

 

拳次郎と楽就と左慈。この三人は南陽学院でよく一緒に居ることを目撃されている。と言っても、左慈の方は女と居る事も多く見られているが。友人、学友。当て嵌めるとしたらそんな仲だろう。

 

拳次郎と左慈は闘士としての目印の勾玉を身につけていない。だが、実力は確かなものだと噂されている。噂程度しか語られていないのは、拳次郎があまり積極的に戦おうとしないのが主な理由であり、大抵は挑まれたとしても無視をするか、指先一つで動けなくされた。と挑んだものたちは口にする。

 

左慈を抜いた二人は次の日の放課後、共に公園に来ており、楽就はチンピラを相手にしていた。

 

「いいから蹴ってこい!」

 

楽就は孫策に向けて言った言葉をチンピラにぶつける。

 

「あ、アチョォォォオ!」

 

チンピラは楽就の言葉に戸惑いつつも、渾身の蹴りをお見舞いする……が、その足は指一本に止められていた。

 

「次、貴様だ! 蹴ってみろ……蹴らんかぁ!」

「ひぃ! バケモンだ!」

 

自分たちの技が通用しない。チンピラたちはそんな楽就に対して怯え、そそくさと逃げてしまった。

 

「……満足したか?」

 

椅子に腰掛けていた拳次郎は楽就に問いかける。

 

(……いくら蹴られても拭いきれぬ。この……焦燥感、いや恐怖感……やはり、もう一度あの女、孫策伯符と……)

 

「……やれやれ」

 

考えこむ楽就に拳次郎は呆れていた。そして、そんな二人に忍び寄る影が一つ。

 

蒼い髪にメイド服、それに眼帯。一見するとコスプレをした美少女だが、その実力を二人はよく知っていた。

 

呂蒙(りょもう)? 何しに来──!」

 

楽就の言葉を待たずに呂蒙は蹴り飛ばした。ガゴン、と吹き飛ばされた楽就は壁に激突し、大きな穴が開く。

 

南陽四天王の一人、呂蒙子明(りょもう しめい)

 

「何のつもりだ」

「勅……詔勅(しょうちょく)よ」

 

詔勅──分かりやすく言ってしまえば上の者からの命令。

 

「朕の詔なく行動する楽就……霞拳次郎。規律を乱す者には制裁を加えるべし」

 

──それが四天王であったとしても、ね。

 

呂蒙は笑みを浮かべると、拳次郎に向けて拳を振り抜く。

 

「……」

 

拳次郎はそれを片手で受け止め、その勢いを利用して呂蒙を空へと投げ飛ばす。

 

「霞拳次郎……噂通りの実力だな! だが……!」

 

呂蒙は勢いそのままに拳次郎の両腕を取り、身軽な身体を活かして背後に回り込んだ。

 

(トった……!)

 

拳次郎の両腕は自分自身の首を絞めるような形になり、呂蒙はそのままギリギリと体重を掛け始める。

 

「フフフ……どんどん首が自分の腕で締まっていくぞ?」

「……」

 

この締め技は屈強な男ほど効果的な技であり、抜け出すことが困難なものだ。その上両者の手に付けられた手錠が更に困難さを増している。

 

「り、呂蒙! もう辞めろ! 拳次郎は闘士ではないのだぞ!」

 

穴から抜け出した楽就がフラつきながら助けに向かおうとする。

 

「呂蒙」

 

拳次郎が静かに名を呼んだ。その声からは苦しみなど欠片も感じさせない。

 

「フン、今更命乞いか?」

「誰の勅で来たか、などはどうでもいい。それが袁術のモノなら尚更な……」

「……!?」

 

すぅ、と拳次郎が息を吸った後、呂蒙は異変に気づいた。

 

「ハァぁぁぁぁ……!!」

「くっ!」

 

ぐ、ぐ、ぐ、も徐々にクロスされていた拘束が元に戻っていくのだ。呂蒙も何とか抵抗しようとするが、意味をなさない。

 

「ハァッ!」

 

拳次郎の声と共に手錠が千切れ、拘束が解かれた。

 

「何だと!?」

 

呂蒙は闘士でもないものに解かれる筈がないと確信していた為、動揺が隠せない。その場から離れて構え、拳次郎の様子を伺うが、彼はだらりと腕を下げたままだ。

 

「俺は、俺の拳はもう何も奪わせない為に振るうモノだ。故に呂蒙……お前とはこれ以上戦わん」

 

拳次郎はそう言うとベンチに置いてあるカバンを二つ持ち、片方を楽就に渡す。

 

「俺たちは帰る。勅は成功したとでも伝えておけ」

「お、おい拳次郎……」

 

もはや拳次郎の視界に呂蒙は映っておらず、足は自宅へと向かっていた。

 

──お前は自分と戦うに値しない。

 

そう言われた闘士がはい、分かりましたと納得できるであろうか? 

 

否。

 

「霞拳次郎……貴様ッ!」

 

格下の雑魚扱いされ、呂蒙は頭に血が昇った。こいつは叩きのめす。頭がそれで埋め尽くされる。

 

「やめておけ」

 

背を向けたまま拳次郎は口を開く。

 

「な、何故だ……何故動けないっ!」

 

呂蒙がいくら動かそうとしても、彼女の足は一歩も踏み出せない。力が入らないのではない。まるで地面と強力な接着剤でくっつけられているかのように動かないのだ。

 

上血海(じょうけつかい)の秘孔を突いた。暫くはお前の足は動かない」

「秘孔、だと?」

 

呂蒙が自身の足に視線を落とすと、大腿部に一つの赤い点があった。

 

(まさか、私が奴の腕を取った時に打たれていたというのか!?)

 

「やはり、あいつの実力は本物だったか……」

 

楽就は拳次郎が強者である事は知っていた。闘士ではない者の中では、と言う印象だったが、それは改めなければならないようだ。

 

身体がブルリと震えた。

 

(孫策伯符に感じたモノとは違う……闘士として、闘ってみたいと、身体が叫んでいるようだ──だがまぁ、あいつの性格上誘っても乗っては来ないか……)

 

普段の生活態度を見ている限り、自分も目の前の呂蒙のようになるか受け流されるだけだろう。拳次郎が闘士であったらと楽就は思わざるを得なかった。

 

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