一騎当千の拳   作:北斗のハゲ

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3話

 

 

『反董卓(とうたく)連合の盟主には予州学院の袁紹(えんしょう)が選出。さらに同連合に陳留高の張邈(ちょうばく)、幽州高の公孫瓚(こうそんさん)も参加を表明しています』

 

「ふーん……曹操は?」

 

『各高校に反董卓の檄を飛ばして以来、沈黙を守っています』

 

(ま、曹操らしいな……)

 

左慈は寝そべりながら誰かと電話をしていた。内容は物騒なものだが、左慈は世間話をしているように穏やかな顔つきだ。

 

「左慈ッ!」

 

南陽学院の屋上にて女の怒号が響く。左慈が身体を起こして声のした方向に顔を向けると、そこには南陽の制服を着た呂蒙が眉間に皺を寄せて立っていた。

 

「おー蒙ちゃん、おはよう」

 

左慈の軽い挨拶を呂蒙は無視し、胸ぐらを掴む。

 

「教えろ、霞拳次郎とは何者だ!」

「なに? 惚れちゃったの?」

「ふざけるな」

 

呂蒙の目を見た左慈はやれやれ、と両手をあげて降参と口にする。

 

「実際、俺だって見たのは一回だけだよ。ケンちゃんの実力は。元々好戦的な性格じゃないし」

「私が聞きたいのは奴の使った技だ」

「んー……俺もそれ聞いてみたんだけど、教えてくれなかったよ」

 

まぁ自分の手札を晒す様な真似はしないよね、と左慈は続ける。

 

「……だから私を当て馬にしたと、そういう事か?」

 

不確定要素である拳次郎の実力を改めて調べる為に左慈は自分を向かわせたと、彼女は考える。

 

「いやー、そこまでの意味は無かったさ。ただ、後顧の憂いは全て断つ……袁ちゃんのポリシーに従った結果って所だよ」

「フン、相変わらずの腰巾着だな」

「はは、何とでも言ってくれ」

 

呂蒙は携帯を取り出し、ある画面を左慈に見せつける。

 

「コレも、お前の仕業か?」

 

開かれたメールの画面には『孫策伯符を誅戮せよ』と短い文が書かれていた。

 

「さあね……まぁ、今からどうこうしようとしたって無駄だよ。(カン)ちゃんは向かっているだろうし」

 

南陽四天王の一人、甘寧(かんねい)。イカれた中国拳法使いと言われており、女子供にも容赦がないと言う。

 

(さて……どうなるかな?)

 

左慈はタバコに火を付けると煙を空に向けて吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「うわーん! 遅刻だー!」

「だから! あれ程夜更かしはするなよって言ったのに!」

「だって! これから毎日あんだけ強い人たちと闘えるって考えたら、ワクワクしちゃってさー!」

 

公瑾と伯符は文字通り全力疾走していた。原因は伯符の寝坊。学校の行事を楽しみにする小学生のように、ワクワクして寝付けなかった伯符

は当然の様に寝坊。公瑾がいくら声を荒げてもむにゃむにゃと夢の世界に居た伯符をどうにか起こそうと奮闘した結果、こうしてギリギリの登校になってしまった。

 

「まさか、今日いきなり楽就さんにリベンジしようなんて、子供じみたこと考えてないよね?」

 

走りながら公瑾が聞くと伯符は分かりやすく目を泳がせた。

 

「え? えー? そ、そんな訳ないジャン」

「思いっきし考えてんじゃん! ダメだよ、もっと力を付けてから……」

 

公瑾が呆れていると、伯符は不満そうにしていた。

 

「だってさぁ、きのーあの人からいい一撃もらっちゃったし、それに……えーっと、「借りたモンはキチッと返さな……ね、奥サン?」って小さい頃ママがよく怖いおじさんに言われてたし」

「いや、それは……」

 

(恐らく、というかほぼ意味が違うだろ……)

 

公瑾は伯符の家は苦労してたのかな? と、少し心配したが、伯符がここまで大きく無事に成長しているのを見ると、余計な心配だったのだろう。

 

「どわぁっ!」

 

考えながら走っていた公瑾はそこら辺に落ちていた石を踏んでしまい、バランスを崩してコケてしまう。

 

「あ、一人だつらーく!」

 

伯符は心配して駆け寄る所か、悪戯が成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべながらそのまま走り去っていく。

 

「だ、脱落って……子供かよ……」

 

公瑾はこんな石ころ一つで転んでしまうなんて情けないなぁ、と落ち込んだ。

 

「……え?」

 

ドォン。突然聞こえた鈍く、遠くで何かが爆発する様な音。そして、公瑾は大きな気の流れを感じ取った。

 

「なんだ、誰かがこんな時間から闘ってるのか?」

 

ビリビリと、低ランクの自分が感じ取れる程の気の強さに、冷や汗が垂れた。今の自分じゃあ逆立ちしても勝てないだろう相手たち。公瑾は自分が知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた事に気づく事なく、先を走って行った少女の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南陽学院に向かう道すがら、拳次郎はある女と対面していた。

 

「……」

「……」

 

艶のある長く黒い髪、褐色肌、セーラー服、大きな胸。街を歩けば男は必ず振り返ってしまう程のプロポーションを持つ女──特Aランク、関羽雲長(かんううんちょう)がそこにはいた。

 

拳次郎は関羽を一目見ただけでかなりの実力者だと分かり、関羽もまた、拳次郎の力を感じ取った。故に、会話もなく見つめ合うだけの拮抗が続いていた。

 

「霞拳次郎」

 

関羽は初めて口を開いた。

 

「何者だ?」

 

見覚えのない女に声を掛けられた拳次郎は聞き返す。

 

劉備玄徳(りゅうび げんとく)からの使いだ」

 

関羽はスカートのポケットから一枚の手紙を取り出した。

 

「……」

「玄徳からの手紙だ。霞拳次郎に渡すように、とな」

「……そうか」

 

出された名前に反応した拳次郎は受け取った手紙の封を切る。

 

『ケンへ。元気ですか? 私、玄徳は元気です。ケンが南陽学院に居ることを最近知り、とても驚きました。また、成都に遊びに来てください。私の友達も紹介したいです。玄徳より』

 

何度も消しゴムで消した痕跡があり、この短い文を書くのも迷ったのだろうと察する事ができる。読み終えた手紙を持っていた鞄に仕舞うと、拳次郎は一人の少女の顔を思い出す。彼が覚えているのはまだ、本が好きな幼い少女の面影を残す姿。

 

「お前が南陽に通っていると聞いた時、玄徳は驚いていたぞ。何故、成都に来なかった?」

「……」

 

劉備玄徳──それは、霞拳次郎の幼馴染という存在である。関羽からして見れば、幼馴染に何も言わず連絡を断った人物として印象は良く無いだろう。

 

「お前に何の関係がある。用が済んだのならば帰れ」

 

拳次郎は突き放すようにそう言った。

 

「……ほう?」

 

その瞬間、関羽の雰囲気が変わる。周囲の木々がざわめき、鳥達が逃げ出した。自分の慕う少女が適当にあしらわれたと感じた関羽は少しだけ、目の前の男を試したくなった。

 

「……」

「久しぶりだ。冷豔鋸(れいえんきょ)が哭いている……」

 

関羽は自身の青龍刀を取り出すと、構えた。

 

「俺はお前と戦う理由はない」 

 

闘士とは、不思議なモノである。強者を前にすると胸が高鳴り、拳が震えるのだ。関羽は自分が実力者であると自覚している。自分の気に当てられても怯むことなく立っている拳次郎に伯符風に言うならば、ワクワクした。

 

「お前が闘士では無い事はよく聞いている。だが、私の勘が告げているのだ。お前は強者である、と。少し、お手合わせ願おうか」

 

関羽は眼鏡を掛けた少女が本を片手にケンと言う人物の話をしているのを聞いていた。かなりの頻度で。勿論、少女が関羽の事を軽んじている訳ではない。信頼しているからこそ、関羽にもその話題をするのだ、と彼女は理解していた。そう、理解はしていたが……。

 

「成都学院三年、関羽雲長」

「ふぅ……南陽学院、霞拳次郎」

 

言わばこれは、醜い嫉妬という感情から来た八つ当たりの様なモノだったと、後に関羽は語る。

 

「推して参る!」 

 

そして、それを聞いた拳次郎は顔を顰めていたとも。

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