もしもあの日、デンジと出会ったのがマキマだったら 作:純愛の悪魔
嫌に、気分の悪い雨の日だった
「流石は、チェンソーマン……強い…
四騎士と…武器の悪魔達の、総出で…こうも…無様に…」
右腕と左脚が吹き飛び、左腕も肘の辺りが抉れて辛うじてゆらゆらと繋がっているだけ
傷口からは止めどなく血が噴き出しては雨に流されていく
血が固まったりは最初から期待してなかったけど、傷口に当たる雨粒が形を把握できるぐらいに不快で…痛い
「次……次は、身体を治す手段を…用意しよう…
適当な国の、指導者を…支配、して…契約、させれば……」
喋り続けなければ意識が飛んでしまいそう
そして、今意識を手放せば…〝私〟は二度と…
「それは……嫌だな…」
やっと、出逢えたのに
地獄のヒーロー、チェンソーマンに
やっと…出逢えたのに
私と同じ…強い悪魔に
「あんなに強い悪魔なら…【支配】できない、かも…しれない」
私の力が効かないかもしれない、初めて出逢った存在
…………私が求めるナニカに、なってくれるかもしれない
「悪魔…!」
子供…ようやくツキが回ってきたかな
支配して、血を飲めば…ひとまず傷を治すぐらいはできる
「…俺を殺すなら殺せよ、どうせ死ぬんだ……!」
事情は知らないけど、要らない命なら言葉通り貰っておこう
これで、次こそはチェンソーマンを…
「これは命令です、私に血を捧げなさい」
「……何言ってんだ…?」
これは……まさか、こんな子供1人支配する力もないぐらいに弱ってしまったなんて
あぁ……せめて、せめて最後に
誰か……私を…抱き締めて
「ケガ……お前も死ぬのか……噛め…!!
悪魔は血ィ飲めばキズ治るって聞いた事がある!死にたくないなら噛め!」
なにを…言って……
「俺の血はタダじゃねぇ…噛むなら、契約だ!
お前を助けてやるから…俺を助けろ
やっぱ俺も死にたくねぇ…」
「……あはは…よりにもよって、私に【命令】するなんて…
キミ、名前は……?」
「…デンジ……デンジだ!」
「そっか…ならデンジ君、キミに私を…助けさせてあげる」
これが私と彼の出会い
嫌に、気分の悪い雨の日の想い出
だから…私は雨が好き
「私の力でデビルハンターになる?」
あの後、デンジ君の腕を噛んで最低限の負傷を治した私は彼を連れて近くにあったハンバーガーショップに来ていた
「んぁ、ほうだ!おまえもあくまはらつよひんだろ?」
トレー一杯に載せたハンバーガーやポテトを手当たり次第に口へ詰め込みながらデンジ君は私に問いかける
多分だけど…お前も悪魔なら強いんだろ?かな
……確かに私は弱い訳じゃないけど、ここでデンジ君とデビルハンターをするのは彼を【助ける】ことにはならない
ここで、私は初めてデンジ君をしっかりと見た
ボロボロで布切れと言っていいような服
痩せこけて骨が浮き上がった身体
垢が浮いて
私が支配の力を店員や客に使わなかったら多分入店拒否されてたかもしれない
……まぁ、今は私も腕が無かったりするし同じか
「んぐっ…お前と俺で悪魔倒してよぉ〜!そいつをヤクザ共に売っちまえば…借金だって返せんじゃねぇか?」
ヤクザ、借金…なるほどね
デンジ君は何かしらの理由でヤクザから借金をしている
……何かしらというか十中八九親の借金だろうね
捨てられたか、売られたか…それとも首でもくくったのか
そこまではわからないし関係ないけど、とにかくそのヤクザへの借金を返せれば良いわけだ
「借金ならデビルハンター以外でも返せるよ」
私はデンジ君を【助ける】契約を結んだ
だから、私は彼を助けなければならない…だから少しでも危険の少ない方法を選んでもらうとしよう
「……ダメだ」
「どうして?」
デンジ君は少し考えて、ギュッと目を閉じてうつむいた
「普通じゃ全然足りねぇ…明日までに70万、用意できなきゃ殺される……」
70万…それは確かに無理だ
というか子供とか関係なく一日で用意できる金額じゃない
……これは、最初からデンジ君を生かす気はないみたいだ
………仕方ない、相手が普通じゃないなら──こっちも普通にやる義理もないね
「デンジ君、それ…私にもくれない?」
とりあえず、方向性は決まった
でも、それには私の回復が最優先だ…今のままでもヤクザぐらいに負ける気はしないけど、万が一を考えるなら両手両足ぐらいは繋げておきたい
「おお、お前も腹ァ減ってんだよな…良いぜ!」
お腹が減ってるというよりは身体の材料が足りないから少しでも食べておきたいだけなんだけど…まぁいいや
グイ、とデンジ君は少し萎びたポテトを私の前に突き出した
「………これは?」
「あぁ?腹ァ減ってんだろ…その手じゃ食えねぇだろうし食わせてやるよ!」
…………つまり、私に手渡しで食べさせる…と?
確かにそのトレーごと渡されてもそれこそ犬みたいに口をつけて食べることにはなるけど…
「………ありがとう」
背に腹は…いや、プライドに腕はかえられない
その後、私はデンジ君にハンバーガーやポテトを食べさせてもらってなんとか左腕を繋げるぐらいには回復した
「俺、こんな美味いモン初めて食ったぜ!ありがとな!…えっと……」
「……マキマ、私はマキマだよ」
「マキマ!!ありがとな!」
「こんな油で萎びたポテトやハンバーガーをおいしいだなんて…キミは健気だね」
「けなげ……?」
油で光る顔を傾げて不思議そうに見返す
「かわいいって意味」
そう言うと少し照れたように笑うデンジ君
その顔は、今でも忘れない
………私の宝物のひとつ