もしもあの日、デンジと出会ったのがマキマだったら   作:純愛の悪魔

2 / 5
チュッパチャプス コーラ味

「あんまり遠くに行っちゃダメだよ

脅すわけじゃないけど、私はあんまり人を見分けるのが得意じゃないんだ」

 

ハンバーガーショップを出た後、デンジ君は嬉しそうに駆け出していた

 

「早くしろよマキマ!急がねぇと雨が止んじまうぞ!」

 

雨が止んでしまう…?別に止んで良いと思うんだけど

小首をかしげる私の疑問はトタン張りのボロ小屋の前で服を脱ぎ始めたデンジ君の口から答えられた

 

「マキマも脱げよ、雨止んじまったら身体洗えねーぜ?」

 

…………なるほどね、お風呂…というよりシャワーの代わりってことか

確かにこのボロ小屋にお風呂なんて付いてなさそうだけど…

呆然と立つ私の前でデンジ君はせっせと大きめのタライに溜まった雨水で着ていた服をバシャバシャと洗い始めていた

洗剤も何も使わないから垢だって落ちないし、服もボロ布同然になる……小屋には人気もないし、やっぱり保護者の類は居ないみたいだね

………別に、彼の生活環境を改善させる必要はない

私との契約はあくまでも【助ける】だけ

デンジ君を幸せにしたりだとかは契約範囲外だ

 

 

 


 

「デッケェ…!コレが全部お湯ってマジかよ!?」

 

デンジ君の声が銭湯の壁に反響して響き渡る

…………よく考えてみれば、子供は大人に比べて免疫機能が未熟だから清潔にしておかないと病気になってしまうかもしれない

そうなってしまえばデンジ君を助けるという契約を履行できないのだからこれは必要なことだ

そう、契約の為に必要なこと

 

「下は滑りやすいから走っちゃダメだよ、デンジ君」

 

「マキマ!これ何だ!?泡がスゲェ出てくんぜ!」

 

シャワーヘッドや石鹸、桶や洗身用のタオルの全てに新しくて心底嬉しそうな反応をするデンジ君の後ろを付いて回る

一応私もまだ片腕が無いし、【支配】で他の客には帰ってもらったからどれだけ騒いでも問題は無い

 

「おいでデンジ君、身体…洗ってあげる」

 

キョロキョロと周りを見廻るデンジ君をイスに座らせてたっぷり泡立てたタオルで背中を擦る

やっぱりボロボロと垢が落ちる…数分ぐらい続けるとようやく垢が落ち切ったけど、少し背中が赤くなってしまった

 

「あんがとなぁマキマ!マキマも洗ってやるよ!」

 

デンジ君は新しいタオルを片手に私の後ろに回り込む

……はぁ、確かにまだ右腕は繋がってないしね

 

「なら…お願いしようかな?」

 

「おう!!」

 

その後、強く擦られ過ぎて赤くなったデンジ君とそのデンジ君に同じように擦られてやっぱり背中が赤くなった私はお湯に浸かりながら声を漏らした

 

「あったけぇ…なぁマキマ、俺ェこんな色々スゲェことして良いのかな…」

 

どこか不安気に言うとデンジ君はまっすぐに私の目を見た

普通、私の【支配】の力を知れば人間は皆自分の為にどうするかだけを考える

人の本質は──獣だ

自分の利益の為ならどこまでも冷酷で冷徹になれる

如何に道徳を嘯こうと、非道徳な権益者が得をして

如何に平等を謳おうと、不平等な現実だけが平等で

如何に平和を願おうと、非平和な日常に圧殺される

それがどうだ?この眼の前の彼は…こんな状況で、今までの不幸を知ったうえで

そのうえでデンジ君は幸福に疑問を感じている

 

「俺…今こんなに幸せで……夢みてェな気分なんだ…

……隣にマキマが居てくれて……初めて一人ぼっちじゃなくなって…なのに、あんな美味ェもん食って…こんなデケェ風呂入って……本当に、良いのかな…」

 

不幸を知れば、人は謙虚になるか?

答えは否…不幸は人をより貪欲で傲慢にする

自分はこんなにも不幸だから、だから幸福になって当然

そんな幻想的な思考回路が出来上がる

でも…デンジ君は……違った

 

「一人ぼっち……?」

 

「俺……親父が居たんだ…

死んじまったけど、生きてた頃も……」

 

そこまで言うと、デンジ君はギュッと目を閉じて肩を震わせる

綺麗になった身体は全身が青あざまみれだった

……それも、全部が同じような大きさで……丁度大人の拳みたいなカタチだ

 

「……私は、キミに酷いことはしないよ

…………助けるって契約だからね」

 

そう、契約だ

悪魔と人間との契約

だから……

 

「………ありがとなマキマ」

 

ギュッと抱き着いてきたデンジ君の暖かさが、お湯の中なのにやけに鮮明だったのを覚えている

 

この日、私達は…一人ぼっちじゃなくなった

 

 


 

 

「デンジ君を自由にすると言いなさい」

 

結論から言えば、厄介事は全て拍子抜けするぐらいにあっさりと片付いた

デンジ君の言っていたヤクザ達は規模こそ中々だったけど、悪魔対策はお粗末で私の力を使えば簡単に支配できた

これで、はれてデンジ君は自由の身

彼を助けるという私との契約も……終わりだ

 

「良かったねデンジ君、これで……キミは自由だよ」

 

来る途中のお店で拝借した数日分の食料品が入った袋を手渡しながらデンジ君を見る

デンジ君は俯いたまま、何度かバッと顔をあげて何かを言いかけるとまた俯いている

 

「……ほら、これなんかどうかな?飴なんだけど…美味しいよ」

 

なんとなく…彼が悲しそうにしているのが嫌で泣かれて五月蝿くなるのが嫌で空気を変えようと袋から棒付きの飴を渡す

飴をデンジ君の口に無理矢理押し込んで、踵を返し歩く

 

「じゃあねデンジ君、もう…会うことはないと思うけど」

 

そう言い切る前に、腕を掴まれた

弱々しいけど…決して振り払えないと思うぐらいに強く

 

「いらねェ…!こんなんいらねェから…マキマ…側に…

俺の側に居てくれよ!」

 

ゆっくりと振り向く

きっと、何度も言いかけては飲み込んだであろうそのセリフと共にデンジ君は袋を突き返してきた

でも、もう彼との契約(繋がり)は終わった

だから……

 

「なら、返して貰おうかな」

 

私は自然とデンジ君の口から飴を盗って、咥えた

唾液で濡れて、人肌にぬるくなった飴を舐める

安っぽい香料と甘味料の味

………そういえば、間接的にとはいえ人とキスをするのは初めてだな

 

「悪魔との契約は…次からはもっとちゃんと結ばなきゃダメだよ」

 

そう、契約だ

デンジ君を助けるという契約

この契約は…いつまでという期限が設けられていなかった

誰から、何から、どうやって、いつまで…そんな事も明確にされていない契約

私は、とんだ白紙契約をさせられた…という訳だ

 

「マキマ……!」

 

「仕方ないから一緒に居てあげる……そういう契約だからね」

 

嬉しそうに抱き着いてきたデンジ君をそっと抱き締め返す

これは……転んでケガでもしたら危ないからだ

全ては契約通り

だから、この胸に溢れるよくわからない感情は契約を履行できる安堵感で

だから、この温かい気持ちは契約を明確にできることへの嬉しさなんだ

そう、私は何も変わっていない……だから、もう少しだけ

 

あと少しだけ、この暖かさに浸っておこう

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。