推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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109 春を買うと言って買春

 

「どどど、っ、どういう意味!?」

 

 脳内であらゆる可能性がぐるぐるしながらも全くうまく変換できない。できない。いや、できない! 

 バイシュンばいしゅん買しゅ……やめろお! 漢字に変換されそうな脳内にインターセプト。

 

「ちっ、違います! 変なふうに言わないでください! ただ、お金を払ってお願いしただけです! お金は払いましたけど愛のある行為なんです!!」

「お金を出してセックスしてもらうことを買春って言うのよ!! しかも未成年じゃない!!」

「18歳は超えてますからOKでは?」

「おいっ!!」

 

 マジカヨこいつ、まじかよ。

 

 どのジャンルでもトップ層というのは普通じゃない。

 そして普通じゃない人間はバランス感覚が崩れているので、普通にできないことも多い。

 様子のおかしい、常識を知らない彼女が何をしてしまったか詳しく聞けば、札束を積んで抱いてもらったそうなのである。

 正確には札束を積み上げて見せただけで、直接は受け取ってもらっていないようであるが、姫川大輝ボックスに札束はどんどん溜まっているらしい。

 なんだコイツ。

 

 ……その後語られるのは、クソ羨ましいダダ漏れエロトークである。

 何だその初体験。クソ羨ましい。クソエロい。

 いいなあ、あの体に抱かれるとか。

 私だってなあ。私だってなあ。

 

 アルコールが脳に回りだしたのに、こうも赤裸々に性事情を語られるとくるものがある。

 私だって、恋愛の一つや二つの経験はある。

 恋愛漫画を書ける程度には経験も観察もしてきた。

 読者に共感を感じさせられるくらい理解はあるし、その上で魅せてきたのだから。

 

 だからって、うう、う゛らやまし゛い!! 

 

『童貞喪男の俺が漫画を大ヒットさせたらヒロイン役の超絶美少女が家に遊びに来てくれたので札束積んで土下座したら童貞もらってくれました!』

 

 こう言えば理解してもらえるだろうか。

 貴様なろうけいかよ、しね。ちね。述懐しね。

 はあ、あの体非売品じゃなかったのかよ、値札つけてくれれば私だって買うのに……。

 

 アルコールのせいでぐてんぐてんになってきた。

 それは気分良く話しながらガブガブ飲んでいたアビ子先生も同じである。

 むしろ小柄な分先に酔っ払ってしまったようでふらふらである。

 

「いやあ、ですねえ、それでね、めちゃくちゃ硬いのに、触ってみるとお~筋肉ってあったかくてえ~……知ってますかあ……あそこなんてえ、こうかちかちでええ」

「知らん! 死ね!」

「せんせーにかっちゃいまひたあ~」

「ぐがあ!」

 

 この子に対して敵意を抱いてしまったのは初めてだったが、これは私悪くないよねえ? 

 少女漫画畑なので、私は比較的青春味の強いレイヤーで活動していたが、雑誌全体で見れば少女漫画はエロ漫画みたいなものだ。

 ものもある。エグいものも、ある。

 ホストや嬢の話もある。

 そして、人気役者、芸能人なんてめちゃくちゃヒーロー役にいる。

 

「いいなあ……」

 

 アビ子先生をタクシーに押し込んで家まで連れてって、家の中に押し込んで。

 売買して、家に戻って。

 今日は休暇だからってアシにも休みって言ったから誰もいない家に戻ってきた。

 静かな部屋はどこか寒々しい。

 

「うう、さみし゛い……」

 

 ポロリと涙が落ちる。

 

「うらやまし゛い」

 

 途中立ち寄ってコンビニで買ってきたビールをカシュッと開けて、ぐびっとのみながらも呟く。

 うらやましい。さびしい。いいなあ、ずるい! 

 今まで恋愛をしなかったわけじゃない。

 漫画部で漫画書いていた高校生活。

 

 でも、そんな自分に声をかけてくれた男がいたし、恋愛っぽいことはした。

 けれどそれは学校という狭い範囲ですらいくらでもありふれていたよくある恋愛で、しかも部活での漫画の締め切りが近くなると相手をしてくれないからといって別れを切り出された。

 

 漫画書いてるような女ってやっぱ女捨ててるからだめだわってなんだよ、ころすぞ。

 お前だっていうほどいい男じゃなかっただろ、どこ磨いたっていうんだよ! 言ってみろ! モブ男が! 

 

「でも、私もそんな男に振られた女か……」

 

 いいなあ、姫川大輝……。自分の作品を一緒に盛り上げてくれた最高の仲間だ。

 テレビを点けたときに映ってれば応援する程度でしかなかったが、小さい頃から見てきた相手ではある。

 いいなあ。

 今更恋愛をしようとしても、漫画と両立しながらとなると難しいなとなって、どうしても恋愛が億劫になってきていて、だからこそより出会いが無かった。

 性欲を作品に叩きつけていたが、それでも高まってしょうがなくなることがある。

 恋愛はしたくない。でも恋する気分は味わいたいし性欲は発散したい。

 いいなあ、私もお金でなんとかならないだろうか。

 ホストみたいに自分をしゃぶりつくそうとしない、ちょうどいい相手がほしいなあ。

 

 アビ子先生だけずるい。私も……わたしも? 

 

「そうだ、そうだ!! わたしも買おう!! お金ならアビ子先生よりあるもん!」

 

 将来的には越されるのがわかる勢いだ。少年週刊誌はペースが月間とは遥かに違うし、顧客層も少女漫画よりはるかに広い。

 だが、札束で叩くことなら私もできる! 

 

 そうと決まれば行動である。

 

 スマホを取り出しピッポッポ♡ プルルとなれば彼の声が聞こえる。

 

「ひめかわた゛いきさん! わたしを助けると思ってぇ! 家に来てくださいっ!」

「へ? 吉祥寺先生?」

「よりこでいいです!!」

「よ、よりこさん」

「おねか゛いし゛ますっ!」

「ええ~。何のようですか?」

「いえにき゛て゛く゛だ゛さ゛い!」

「まあ、偶然近くで仕事してたので良いですが……」

 

 こうしてぐてんぐてんになった女の前に男が現れたのである。

 

 **

 

 吉祥寺頼子先生は割合お世話になった先生である。

 なにせ、ドラマ化で主役として出ささせてもらっているし、その後も人気作の中では映画化したものもあり、出演のお声をかけらたりしている。

 吉祥寺先生は割合ドラマにも興味を持ってくれている原作者であり、見物にも来てくれるため、話すことも多い。

 とはいえ、あくまで役者と原作者の間柄ではあったので、今日突然の電話に困惑していたところではある。

 

 とはいえ……

 

「あれ、酔ってたな」

 

 30分くらい放置したり適当に目でも閉じさせれば眠りに落ちそうな感じだったが、まあ、付き合いのある相手ではある。

 

「まあいいか」

 

 そのせいで再び彼はお金で買われることになる。なった。

 




皆様アンケート回答ありがとうございます!
既読の比率が思ったよりめちゃくちゃ高くてびっくりしました。
ありがとうございます。

読んでてもあったほうがいいという感じだったので、来週あっちの更新と合わせて投稿したいと思います。
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