ルビーの人生は輝きに輝いている。
最推しのアイをママに持ち、最愛のせんせを兄に持ち、恋する
恋の相手には手強いライバルがいるが、何、深い関係がすでにある以上あとは最推しになってもらうだけだ。
となればもう、今世完全無欠と言っていい。
……と思いながらも今少しだけ胸の奥に刺さっているものがある。
それは”
ルビーにとっての"お母さん"とは前世のさりなの母のことだ。
今まで捨てられたと思っていた誤解は解け、たくさん会うわけじゃないが、たまに仕事でかち合ったり、近くにいたりすれば連絡を取り合っている。
顔を出してくれるし、メールでちょこちょこお互いの近状についてやりとりしていたりする。
信頼していいのか最初は半信半疑であっても積み重ねは正義だ。
推しであったアイドルを母親にもち、家族と長く一緒に生きることでアイドルも一人の人間で、一生懸命母親として愛を注いでくれていることを知ったのだ。
アイドルとしてあんなに忙しい中でも全力でママをしてくれている姿を知った。
最推しなのは変わらないし、弱いところを子供に見せない無敵のアイドルではあったが、完全無欠ではないと知った。
母親の情は無限だと思っていたから、それが割り当てられないことに裏切りを感じた。
でも、お母さんも一人の人間だったのだ。
強さも、弱さもあって、一人の人間だった。
だから、弱さを受け入れた。
娘としてお母さんを許した。お母さんも、娘に向き合った。
今ではお母さんはほぼ私をさりなと確信して接してくれている。
お母さんに抱きしめられ、”愛している”
そう伝えられると胸がいっぱいに暖かくなる。
「おかえりなさ~い、ルビー!」
「うん、ただいま! ママ!」
でも同時に家に帰ると胸がキュッと締められる時がある。
アイに……"ママ"に会うときだ。
私のママの呼び方は生まれたときから"ママ"だ。
お母さんと呼んだことはない。
そう、私は明確にお母さんとママを区別していた。
ママはアイドルで社長たちはいたけど、両親も相手の男もいないのに頑張って私達を育ててくれていた。
一心に愛情を込めてくれた。
私はママの愛を疑ったことはない。
ママは本当に最高のママだ。
あんなに懸命に全力で愛してくれる。
なにより、……ぼんやりした意識ではあったけど、生まれた瞬間の私達を世界で最も愛おしいものであると言わんばかりに見つめる目が証明している。
ママは私を愛している。
なのに、
なのに、私はママをお母さんの代わりにしていた。
裏切らない、私を捨てないお母さんとしてママを見ていた。
私を愛してくれる
なのに、今誤解が解けたらお母さんの娘をしている。
ママの娘なのにだ。
それがなんだか後ろめたいことのようで、
……浮気ってこんな感じなんだろうか。
いや、浮気じゃないけど!
でも、今日こそはそんな迷いを振り切って見せる!!
ちゃんとママのことを思っているよって私の思いを伝えるのだ。
ママ、愛している! って!
「ん? どうしたの、ルビー?」
ママのこの世界で最高に可愛い顔がこっちを見て不思議そうに小さく笑う。
そんなところも最強にかわいいが、家にママしかいない今こそがチャンスだ。
勇気をちょうだい、大くん!
よしきた、この波に乗るんだ! えい! いけ!
アイドルルビーにできないことなんてないっ!!
「ママ! 愛してる!!」
アイには負けるかもしれないけど、私は多分人生で最強の笑顔で愛してるを伝えた!!
かいしんのいちげき! 決まったね★
ばちこーん★
……あれ? ママがぽかんとしている。
あれれ~?
い、いきなり過ぎちゃったかな? 前フリが必要だったかな。
母の日にすべきだっただろうか。
でも、母の日に愛してるってそれは思いよりイベント味が出ちゃうというか、アクアだって真似てやるだろうし、パワーが半分というか。
サプライズには演出が必要だと脳内でアクアが言ってくるがこういうのは思いが高ぶった瞬間が言うべきときなのだ。
多分。
ためらって行動しないはアイドルルビーの哲学には存在しないのだ。
しかし、戸惑っている間にママにそっと抱き寄せられる。
ムハァ! ああ゛~桃源郷! 私はおぎゃばぶランドに帰ってきた!
中学生になってからは流石にこういうガッツリした抱きしめは切れていたのだ。
助かる~。
助かるー。エナジーマックスになるー。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけあった不安が消える。
ママをちゃんと私は愛している。
ミルクを与えられ、よしよしされ、抱っこされ、美味しいご飯を作ってもらって、育まれて来た。
この思いは本物で、ママの愛情だって本物だ!
私の愛情だって本物だ!
相思相愛だ!
突然だったからかちょっと動きが硬いがいつも通り愛情たっぷりのハグだ。
素敵で最強のハグだ!
世界で一番大事だって言うのが伝わってくる。
ああ~、赤ちゃんに戻りたいよう!
「うん、ありがと。私も大好きだよ、ルビー!」
嬉しくなってママのを顔を見る。
アイの百点満点の笑顔が私を迎えてくれる。
最推しは流石だなあ!!
満点だよ、まんてん……。
ぎゅっとママには抱きしめられたけど、……
なんだろう。
ちょっともやもやする。
なんでかなあ……。
**
やってしまった。
やってしまった、失敗した。
言えなかった!
嘘のない『愛している』を受け取っておいて、私は返せなかった!!
ためらってしまった!
あんなにきれいなものを受け取っておいて本物を返してあげれなかった。
ルビーだって暗い表情を浮かべた!!
正直、愛していると言えなくても、きっと愛に違いないものを胸に抱けていた。
二人から温かいものを受け取れるだけでそれなりに満足していたのだ。
嘘かホントか明かさなくても、十分じゃないかって思っていた。
嘘だって思ってしまったらと怖さに負けて言えなかった!!
ああ、どうしよう、どうしよう!!
ルビーが”親に愛されていない子ども”になってしまった!
わたしが、勇気を出せなかったばっかりに……。
どうしよう……。
どうしよう……。
ああ、私が意気地なしだったから……。
ごめんね、ごめんね……