推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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114 15年の嘘

 

 今日は俺達の15歳の誕生日だ。

 

 愛久愛海(アクアマリン)と名前をつけられて15年とも言えるが、結局芸名もアクアなので、アクアとしか呼ばれない。

 そのせいか意外に名前に不満を覚えることはない。

 変わった苗字で子供の頃は嫌いだったといった友達も患者によく覚えてもらえると喜んでたっけ。

 

 しかし。

 毎年この寒い時期になるとまた一年たったんだなあと感慨深くなる。

 アイはもちろん毎年この日は仕事を空けて一日休みにしようとしてくれるし、難しくても前後の休みに誕生日会をやることにしている。

 

 この日は家族でゆっくり夕食を楽しみ、寝るまでのひとときを家族三人でのんびり過ごすのが通例だ。

 他所の子供に比べればわがままを言うことのない俺達があれが食べたい、これが食べたいと色々お願いをする日でもある。

 

 芸能一家のせいでクリスマスや正月がテレビやドラマで色々忙しくて一緒にいられない事が多い。

 そんな俺達にとってはゆっくりできる大切な一日だ。

 

「中学三年生かぁ~高校受験もすぐだね」

「そーだな。まあ、芸能科にすることにしたし、俺はのんびりできるけど、ルビーは今日はともかく明日からはまた勉強だぞ」

「うえー」

「うえーじゃない。そのためにわざわざミヤコさんに言って仕事量も調整してもらってるんだからな」

「ええ!? だから少なかったの? もー!」

「寿も陽東高校なんだろ? 勉強しないとバカなせいでお前だけ別の学校になるぞ。ヤンキーしかいないバカ高な」

「やだー!」

 

 中身バレして、お互い態度が少し変わることもあったが、ルビーともすっかり元の兄妹……いや、前よりずっと仲良くなった気がする。

 家族仲はこれ以上ないほどにいい関係を築けているし、役者としてもいい役も回ってくるようになってきたし、B小町は大人気だ。

 

 アイだってマルチタレントとして大活躍中である。

 あえて言うなら、役者として人気が出すぎて学校に特別仲のいい友達がいないことだろうか。

 ──芸能科であればきっとのぞみはあるはずだ(残念ながらない)

 

「え~」

「それよりふたりとも、今日で15歳でしょ? 今日は一つDVDを見てほしいんだ」

「わー、なになに? 怖いやつ?」

「う~ん、どうだろう? ある意味で?」

「何じゃそりゃ」

 

 そして始まるDVDは……今まで隠されていた事実、俺達の父親、カミキヒカルについてだった。

 推しに男がいるという事実はやはりわかっていてもこらえる。

 

 ──けどまあ、一つとはいえ年下の少年相手というのは正直意外だった。

 なにせ、芸能界でアイドルの相手だ。

 

 アイなら相手は年上のいわゆる包容力がある男かな、脂ぎったおっさんは勘弁してくれ、なんて思ってた。

 俺達の見た目からしても多分見目はいい男だったんだろうとは思っていたが。

 というか、15歳のときの子かよ……。

 アイじゃなかったら犯罪だ。

 

 そして、アイの願いと裏腹に彼はもう亡くなっているということも聞いた。

 

「正直驚きだったけど」

 

 俺は顔もよくわからないカミキヒカルを想う。

 DVDに向けて手を合わせて小さく頭を下げた。

 

「あんたがいてくれたおかげでお母さんのもとに生まれてこれて、ルビーにも出会えて俺はいまが幸せだよ。ありがとう、お父さん」

「う~~、私はめっちゃ複雑! でもま、たしかにねー。ママと出会えたんだから感謝かな! ヒカルさん!」

 

 ルビーは俺ほど冷静ではいられないようだが、生きている相手ならともかく死んだ相手となるとそもそも実感がわかないようでふわっと受け入れたようである。

 死んだ相手に恨み言なんて似合わない。

 俺ができるのは感謝を伝えることくらいだろう。

 

「そっか。ヒカルくんもお空で喜んでるかもね」

 

 私と同じく親に恵まれなかったからさ。

 そう呟く表情がさみしげだったから俺はアイを抱きしめる。

 

「アイは……お母さんは違うだろ? 俺達がいる。愛してるよ、アイ」

「うんうん。ママ大好き! 私も超愛してるよ!」

 

 抱きしめるととても小さく感じる。

 こんなに華奢なのに(赤ちゃんの頃)は自分たちを抱えられていたんだなあと妙な気持ちになる。

 ああ、アイも一人の女性(母親)なのだなあ……。

 当たり前の事実がなんだかようやく深く実感できたような不思議な気持ちだ。

 

「ありがとう! 私も二人のこと【愛してる】……これは絶対嘘じゃない」

 

 その一言を口にした瞬間、アイは嬉しそうに笑顔で笑った。

 ステージで笑うアイを何度も見てきたはずなのに、新鮮で胸を焼く笑顔だった。

 

 俺の母親は世界一かわいいなあ!! 

 

 そんなアイに感じ入ったのかルビーもまたワンワンと幼児みたいな泣き方をしながらアイに抱きついている。

 見えてる顔が汚い。

 

「ママ、わ゛た゛しもあいじてるう……!」

「うん、うん。ルビー、愛してるよ。これからは何十回でも、何百回でも言っちゃうからね……!」

「胸がパンクしちゃううう」

 

 アイがルビーの耳にキスするようにして、愛しているとささやき続けているが、それはやめてあげてほしい。

 生ASMRは薬が効きすぎて毒になってもおかしくない。

 ルビーが推し過ぎで死んでしまうぞ、お母さん。

 

 ……妙だな。

 

 今日はなんだか自然にアイをお母さんって思ってる。

 

 変だな。変だ。

 いつもならアイなのに。

 

 でも、それもいいかも知れない、なんだか胸が軽い。

 自然に笑顔になってしまう。

 なんだかこの日のために生まれたような気さえする。

 

「はあ~~ないちゃった! あ、二人にはね、サプライズがもう一つあるんだよ!」

「ええ~? まだあるの? もう心が動きすぎて疲れちゃったかも!」

「ルビーじゃないけど、もう驚きすぎたくらいだから何が出てきても驚かないかもな」

 

 そろそろ穏やかなパーティに戻りたいぐらいだ。

 とはいえ、アイがせっかく用意してくれたサプライズだからありがたく味わおう。

 

「え? そう? でも、ジャジャーン! 姫川大輝くんが今日は来てくれてます!」

「え、大くん?」

「ひ、ひめかわさん?」

 

 合図に合わせてアイの部屋からでてきたのは姫川大輝であった。

 まさかのサプライズである。

 

 ……サプライズで隠れていたんだろうが、母親の部屋から男が出てくるってなんかめちゃくちゃ複雑だな。

 なんだろう、なんか嫌だ。

 

 しかし……。

 

 確かに彼はルビーの想い人であり、俺の前世の甥である。

 俺達にとっては驚きの人物だが……。

 

 いや、待て? なんでサプライズなんだ!? 

 

 確かに驚きはしたが、アイからすればただのルビーが好きな人、俺の先輩くらいだぞ? 

 

 胸の中にめちゃくちゃ嫌な予感がうずまき始める。

 冷や汗が流れ出した。

 

 眼の前に立つ姫川さんもアイにすべてを聞いてここにきたわけではないのか、微妙に気まずそうだ。

 嫌な予感が膨らんでくる。

 

 やばい。

 俺はアイとの初対面のあの日を思い出す。

 

 のうが、はかいされそうなよかんがする……! 

 

「姫川大輝くんはヒカルくんの子どもなんだよー! だからね、実は二人と大輝くんは異母兄なんだ! お兄ちゃんなんだよ? びっくりしたー? 拍手ー! わーぱちぱち」

 

 アイはめっちゃあれれ? 驚かなかった? という顔をしているが、もちろん驚いている。

 

 はあ!? 推しの異母兄だと!? 

 

 というか、驚きすぎて思考が止まりそうだ。

 え、こいつ俺の兄なの?? 異母兄ってまじ? 

 

 眼の前にはこちらを見ている姫川大輝。

 居心地は非常に悪そうだ。

 それはそうだろうな。

 

 知ってたのか? その疑問は俺やルビーへの最初から親しい態度である程度わかる。

 ……いや、そもそも、驚いてないな!! 

 

 こいつ知ってたな。

 

 お前知ってたのかよ!! いえよ!! 言えるかっ!! 

 でも言えよ!! 少なくてもやることやる前に言えよ!! 

 いやまあ、アイが言ってないことを言えるわけ無いか……いや、言えよ!! 

 

「や、やあ。ふたりとも。誕生日おめでとう」

「あ、ハイ」

「大くん?」

 

 ルビーが両目にギラギラと鋭く暗い光を宿しながら、姫川大輝の胸元を掴んでクラグラ揺らしている。

 いいぞもっとやれ。

 お前はルビーにふさわしくない! そのまま破局しろ。

 

 何がお兄ちゃんだ、ルビーの真の兄がお前にふさわしい男を紹介してやる。

 ……紹介できる相手がいないな。

 ルビーに勧められる年の近い男の顔が一人も浮かばないが!! 

 

 高校で探そう。

 

「ありゃー? サプライズ失敗? でもでも、こっちは驚くかも?」

「い、いや、驚いてる。驚いているから段階を踏んでだなあ……」

 

 驚きはジェットコースターだ。

 それも回転とかするやつ。

 驚きすぎて吐きそう。

 

 加減してくれ、容赦してくれよ、アイ! 

 

 これにずっと付き合っていた斎藤社長の苦労が忍ばれる。

 

 しかし、制止の言葉はアイに届かなかった。

 

 この場を破壊する決定的な一言が彼女から飛び出したからだ。

 

「私のお腹の中には子どもがいまーす! 二人の弟か妹だよ! じゃーん!! どう? こっちはびっくりした!?」

 

 ぐわあああああああ゛ぁ゛!? (脳が破壊される音がした)

 

「ええ~~!? こ、子どもができたの!? え、すごい! 聞いたお兄ちゃん!?」

「あ、ああ、きいた……きいてしまった……え、きゃ、キャベツ畑で拾ってきたのか……」

「まさか~……知らないわけじゃないよね? 本持ってるもんね?」

 

 推しのアイドルに子どもがいる衝撃は二度目であるが、母親に子どもができるというのもなんかすごい複雑だな。

 ルビーは頭が追いついていないようで新しい弟妹に反射的に喜んだようだが、ここが普通の家庭で父親がいれば、喜び一色で受け入れられたのだろうか。

 

 ……。

 

 おや? おややややや? 

 ん? 今なんかすごい嫌な感じがしたぞ? 

 

「やっぱりアイは処女懐胎だったんだよ! 証明されちゃったねー!」

 

 あっはっはーと愉快そうに笑うが、そんなわけあるか。

 お前まだそんなこと考えていたのかよ。

 

 いや? じゃあ相手誰だよ。

 カミキヒカルは……もう死んでるというのに。

 

 ──嫌な予感が最大限にまで高まる。

 ジェットコースターの上まで上がりきったあとのいつ落ちてもおかしくない僅かな停止の時間だ。

 

「んもールビーは昔からそうなんだから! ちゃんと相手はいますー」

「ええ~? だれだれ?」

 

 や、やめろ、ルビー!! 俺は事実を確定したくない。

 いいじゃないか、処女懐妊で。

 俺はいいと思う。アイならする。処女懐妊するわ。

 

 そっと、ある男の顔を見れば役者らしくある程度感情を抑えていた今までと異なり、『え? まさか?』と探偵に指摘される前の犯人といった感じの顔をしている。

 

 お前もサプライズ食らってるのか……。

 

 

 

 ここは地獄か? 

 

 




ここは地獄の三丁目!

産まれてくる子供は?

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