波乱の誕生日パーティーは終わった。
片付けは二人でやらせてほしいと告げ、大輝さんは家へと帰り、アイは寝室に戻った。
誕生日ケーキの箱を片づけ、料理皿を流し終える。
リビングには静寂だけが落ちていた。
「……頭、痛い」
先に口を開いたのはアクアだった。
ソファに倒れ込んだまま、天井をにらんでいる。
「今日ずっと言ってない? 薬飲む?」
双子の妹は受けただろう衝撃の割にはアクアよりは元気そうだった。
さっきまで“恋成就?? した? ”とか“複雑すぎる……”とか言っていた顔ではなく、完全に現実モードだ。
「お母さんの妊娠は……まあ、おめでたいよ。そこはいい。でもさ」
アクアは手で髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
「なんで【あのタイミング】なんだよ……!」
「知らないよー……。ママって空気読まないところあるし」
「いや、読んでないなんてもんじゃないだろ……!? 誕生日会だぞ!? そこで”パパは大輝くんでーす! ”って……」
声がしぼんでいく。
個々では多分いいことなのだ。
アイの好きな人ができた。
アイの子どもができた。
俺の兄弟が増えた。
家族が増えた。
だが、関係が複雑すぎる。
義理の兄で前世の甥が母親の相手ってどういうことだよ。
ワケガワカラナイヨ。
怒っているというより、自分の脳が状況を処理しきれていない。
ていうか、アイ親子二代で子ども作ってんの!? 闇が深い! こっちもやばくねえ!?
どっちも未成年だし、咎められるのは一般的にはアイの方だぞ!?
アイだからで許せて良い範囲なのだろうか!?
いや、アイを許さないことなんてないけど!
いや、母親としてはめちゃくちゃ複雑だわ!?
なんで娘の想い人とやってるんだよできてるんだよ。
ルビーはソファーに倒れ込んだ俺の隣と座り込み、膝を抱えた。
「アクアは……どう思ってるの?」
「何が?」
「……大くんのこと」
アクアは一瞬、言葉を探すように沈黙した。
「……嫌いじゃないし、いやでも、義兄だし、でも、色々助けてくれた相手だし。信頼はしてる。でも……でもなあ?」
言葉は続かない。
ルビーはそんな兄の横顔を見て、小さく苦笑した。
「“でも”が多いんだね、アクアって」
「ドラマなら面白い関係かもしれないけど、現実だとなあ。お父さんとは絶対呼びたくない」
「……うん」
「そもそも、俺よりルビーだろ。殴ってもいいぞ」
ルビーは軽く袖をつまみ、ぽつりと呟いた。
「私……大くんがママのこと好きでも、別にイヤじゃないよ」
「……まじかよ」
「だって……ママ、あんなに嬉しそうだったから。大くんがママも私も好きって言ったとき、ちょっと安心したし。相手の数って意味ならロリ先輩がいるの知ってたし、誰か一人選ぶような人なら絶対負けてたし」
俺は倒れ込むように寝ていた体を起こし、横目で妹を見る。
ルビーはぽつりぽつりと話すその言葉は、ホントの本音だと感じた。
「大くん、ごめんとか謝らなかった。幸せにするって言った」
「普通に男としてはカスだな」
「でも、さりなのときもそうだったよ。せんせが他の人を好きでも良かった。”私を愛してくれている”のであればいいんだって思ってた」
ああ。
歪んでいるのは君もそうだった。
ルビーは愛に溢れて明るく元気ではあったけれど、君はそういうところがあったね。
さりなちゃんの両親の中で顔を合わせたのは母親だけだった。
東京から通うとなったら負担はすごい。
働き詰めにならないといけない中で、両方が来るなんて負担が倍になる。
けれども彼女の会いたい相手は母親だけで、男との家族の形が普通じゃないのはアイだけじゃなくてルビーもなのかもしれない。
「本気なんだな……アイツのこと」
「うん。本気で好きだよ」
「……異母兄妹は結婚できない。結婚は戸籍じゃなくて血縁で見るからだ。だから逆に連れ子は血の繋がりはないから兄妹になってもできる。それに近親交配は遺伝的なリスクがある。まあ、一代でそこまでリスクがあるかと言われればそうでもないようだ。小さな村だとみんな親戚だったりするからな。世界の広がったいま、何代も連続しなければそうでもないかもしれない。繰り返すことでリスクが顕在化するといえばいいのかな。ただ、もしかしたら運悪くそうならないかもしれない。……もし生まれた子どもが”そう”だったときに自分の選択を後悔することになる」
「うん」
「するなとも生むなとも言わない。リスクって意味だと病弱な相手や高齢になってからの出産だってそうだからな。けど、リスクがあって、子どもに与えることになる。子どもは親を選べない。でも、君は相手を選べる」
「そうだね……」
「だから、相手を変えれないならせめて時期くらいはちゃんと選んでほしい」
「時期?」
「いまはアイのときとは時代が違う。世界中の誰もが発信者になる。山奥の病院でだってB小町がいればSNSに発信される。隠れるなんて無理だ。だからちゃんと責任を持てるようになってからにしてほしい。……産婦人科には泣き続けながら堕ろしに来る子だって、いっぱいいるんだ」
「まあ、みんな気軽に投稿するもんね」
「だから、ちゃんとアイドル引退して子どもを育てる準備ができてからすればいい」
「……うん。しっかり考える」
息を吐く。
ああ、医者としての顔がでてしまった。
理想の兄ならどんな困難でも応援するんだろうか。
いや、兄としての心は早く殴れと言ってきているぞ? いや、吾郎もだ!
両方の俺がとりあえず殴れ、話はそれからだとうるさい。
殴る。殴るから!
頭の中で二人に約束すると二人は消えていく。
心配事ばかりなのに、ルビーはなんだか嬉しそうだった。
アイと揃って普通じゃないな。さすが俺の推し達である。
「二度目の人生だもん。後悔しないように生きなきゃね!」
「はあ。まあ、応援はするが相談はするんだぞ……?」
「うんうん。大くんとのこと、お兄ちゃんになんでも相談するよ。Hなこととか」
「いや、何でもは困るな……兄妹のそういうの聞きたくない」
……まあ、責任取るだけナンパ男よりはマシか。
それに、アイもだいぶ稼いでいる。二人増えても大丈夫なくらいに。
ルビーもきっとこのままならアイドル卒業までにだいぶ稼ぐだろう。
俺だって役者や、もしかしたら医者になるかもしれないが、なれば稼ぐだろう。
ルビーとその子どもくらい支えられる……か?
彼女の話が落ち着けば今度は直近の……アイとその子どもについてに話が変わる。
「……ママもさ~。もっと相談してくれればいいのに」
「ほんとそれ」
「子どもかー。アクアは気付いてた?」
「いや、全然気づかなかった……病院に来るのはもうちょっとしてからが多いしな……」
わかるような行動は取っていなかった。
体に自覚症状が出てからチェックしたのではなく、アイは頻繁にチェックしていた……?
つまりこれはアイが……いやまあ、これ以上はいいか。
「大くんもサプライズだったみたいだよね。めちゃくちゃ驚いてたもん。大丈夫かなー?」
「じゃあ、今日の被害者は全員か」
「ママ以外ね」
姿勢を正してルビーの隣にちゃんと座ると、もたれかかってくる。
絵面的には甘い光景なのに、大きな犬が飛びついてきたようにしか感じないあたり、双子って異性ではなく家族なんだなと思う。
「ねえ……どうなるのかな、これから」
「知らねえよ。でも──」
天井を見上げたまま、ぽつりと続けた。
「みんなで乗り越えるしかないだろ。もうそういう家族になっちまったんだから」
ルビーは少しだけ微笑んだ。
そうだ。俺達はもう家族で、新しい家族が増えたのだ。
「うん。……じゃあ、頑張ろう」
「そうだな」
兄妹の笑い声が静かな部屋に響いた。
その響きはまだぎこちないけれど、いずれは新しい家族とも家族としてより賑やかで愛の溢れた家庭になるに違いない。
それはそれとして、明日はあいつを殴りに行こう。
顔は困るからボディだな!!
3期楽しみですね! しっかり描いて4期で15年の嘘なのか、今回で巻くのか。
何にせよ楽しみです
産まれてくる子供は?
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男の子
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女の子
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双子