「おう、姫川、今度東京ブレイドの舞台をすることになった」
劇団ララライに金田一さんに呼び出されたと思ったらそんなことを言われる。
正直、ああ、ついに来たか、という感じである。
「東京ブレイドの舞台ですか。大きい話が来ましたね」
まさか前世から知ってましたとは言えない。
だが、ついにこのときが来た、という気持ちだ。
アクアたちの高校入学、JIF、そして恋愛リアリティショーが始まった。
俺は20歳を迎え、東京ブレイドの舞台が動き出したのだ。
舞台化ということで企画が通り、メインの劇団として劇団ララライが選ばれ、話を通された、というところのようだ。
うちのメンツからは俺、かなちゃん、あかねと大きい役柄が決まっている。
それ以外にもおそらく三田のりおさんなど、原作で登場したメンバーは同じように選出されるだろう。
それに、いずれアクアにも話が行くことになるはずだ。
メルトは……どうかわからないが、恋愛リアリティショーに出演したことで鏑木組となっている。
劇団ララライに声がかかった以上、原作と同じようなメンツがある程度集まってくるはずである。
「2.5次元はファンの目も肥えているし、原作愛を求められる。知ってたうえでの動き好まれるのはいうまでもないだろ。原作読んでなかったら読んでおけよ」
「……問題ないですよ。ファンですからね。コミックスも全部持ってます」
「なら下調べは不要か。まあ、そのうち台本がおりてくる。それに合わせて顔合わせと稽古が始まるからスケジュール調整しておけよ」
「了解です」
演技力において原作の姫川大輝を上回っているかはわからない。
それでも役への理解や入り込める深さについてはこの東京ブレイドについては原作以上だと自信を持っている。
それにかなちゃんは原作以上に成長しており、それに引っ張られる形で今では黒川あかねも実力を上げている。
アクアもまた歴が長くなっており、感情表現ができないような背景もない。
逆に原作アクアにあった苦みが薄いとも言えるが、そつなく上手い役者ではある。
作中で問題のあったメルトもそれなりに早い段階で役者にのめり込んでいることもあり、平均値は原作以上だと言えるだろう。
まあ、メルトのような『侮られているところからの目を引く輝き』はないのかもしれないが、それでもうまくやってみせるだろう。
演技は問題ない。
となれば、問題となるのは……
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「しんっじられませんっ!! こいつ才能ありませんよ!! 感性が終わってますっ!! エンタメが何もわかってないっ!!」
内弁慶の黒猫が大爆発していたのである。
相手はそう、東京ブレイドの原作作家である、アビ子先生である。
色々忙しくてとしばらく会えないと言われていたが、急に呼び出され、家に訪ねてみれば大激怒だった。
どうやら今は訂正を依頼した脚本が修正されて返ってきたところである。
今彼女は漫画机に印刷された脚本をバシンバシンと叩きつけている。
荒ぶることはあれど、漫画道具を粗末に扱うことのない彼女がこれほど荒ぶっていることからその怒りの強さが伝わってくる。
原作では担当編集が彼女にとっての窓口で不満を彼にバシバシ言っていた。
今回も色々と変更依頼を編集に伝えたのだろう事がわかる。
そのうえで原作と同じように良くならない台本が返ってきたようだ。
何もわからないなりに不満を必死に伝えたのかもしれない。
ただ、この業界……でなくとも、作家の声は直接脚本には届かない。
作家、編集、ライツ(権利、版権窓口)、制作、プロデューサー、演出家、脚本……といろいろな箇所を経由する伝言ゲームになるのだ。
もちろん、だれもかれもがわざと悪くなるように伝えているわけではない。
だが、それぞれに立場があり、伝え方があり、それを複数経由することで直接の意図と違った言葉になって届いてしまうだけだ。
良い舞台にすることより問題なく進行をすることを最優先にしたり、必要な手配できる機材の範囲で実現できるように抑えたり。
でもそれは悪いことでは決してないのだ。
わかりやすく例にするなら料理だ。
美味しい料理を作るために最高級の食材を集めるべきだとする人もいれば、毎日作るものなのだから短い時間でそれなりに美味しいものを作るべきだとする人もいる。それらの人々の意思を経由することで最高の食材、最高の職人、最高のキッチンを揃える計画がいつのまにかスーパーの食材、一般家庭レベルのキッチン、中華料理を作るはずなのに連れてこられたフランス料理のシェフ、ということが起こってしまうのだ。
そういう意味では、現状でも最高の食材、最高のキッチン、最高の職人が揃っている東京ブレイドは十分成功が見込める舞台になりそうではある。
問題は味の好みが合わないところか。
薄味の繊細な料理が好きなのに味の濃くわかりやすい料理のレシピが提示されている感じである。
となれば作家であるアビ子先生としては最終地点である脚本家の出した結果に文句が出るのはしょうがないことだと言えるだろう。
『脚本、全部直してください』
原作の脚本に対する先生のちゃぶ台返しである。
修正したいことをいくら言っても通じない。
すべての言葉は脚本に伝えたはずなのに脚本は言葉に答えてくれないから不満が大爆発したのである。
「大輝さん!! もっといい脚本家に変えるようにあなたからも言ってくださいっ!!」
だから、個人のツテとしてその業界に明るい人間が身近にいればそりゃ、こうなるに決まっているのだ。
やれやれである。
姫川大輝といえば東京ブレイド。
ついに東京ブレイドが始まりますね(投稿から3年……)