推しの子の異母兄   作:もこもこ@

2 / 124
002 姫川大輝の転生

 

俺は気がつけばこの世界に転生していた。

 

前世がどんな生き方をしていたかは想像一つつかない。

というのも自分の前世の名前すら思い出せなかったからだ。

 

ないものは仕方がない、と思うのだが……まったくないわけでもない、というのが問題である。

俺にある記憶は【推しの子】の記憶である。

アニメの記憶と漫画の記憶。

最後の記憶は……アクアがルビーに前世を明かし、ゴロー、さりなバレして妹→兄の心がラブラブマックスになったところまでだ。

だんだんクライマックスに近づいてくるところだったので惜しいところで死んでしまった。

 

推しの子……か……。

 

歌番組をテレビが美しく奏でる。その歌手は推しの子と言えばのアイである。

全身嘘でできているアイドルだが完璧で究極のアイドルだ。

一番星の生まれ変わりというのは正直伊達ではない。

 

前世のアイドルとははっきり言ってレベルが違う。

その出で立ちや美貌が素晴らしいのはもちろん、やはりその目に、見えないオーラに。

 

ーー遥かに心が揺さぶられるのだ。

 

例えるなら料理漫画で料理を食べたときに、服が脱げるほどの衝撃を受けるのに近いといえばいいだろうか。

あそこまで大仰ではないが、劇や作品などの芸術周りの心を動かす力が前世より遥かに大きいように思える。

 

例を出すなら世界を共有している『かぐや様は告らせたい』では作中作である『今日あま』こと『今日は甘口で』を読んで生徒会メンバー含め白銀会長の妹の圭ちゃんなど様々な人間が号泣したり恋したくなったりしていたが、ああいう感じである。

そういう意味では娯楽を楽しむには前世より遥かに楽しめる世界であると言えるだろう。

 

「ばぶー」

 

問題はそのアイがアニメ一話……一時間半もある一話であるが、一話でさされて死ぬということである。

アニメの表現がそれはもう神がかっており、命のない抜け殻を恐ろしくうまく表現している。

おかげさまで脳を破壊された人間も多かったはずだ。

それもありアイを歌った「アイドル」も大人気である。

 

彼女自体は自分と直接のつながりはないが……なにせ彼女は俺の異母兄妹のアクアとルビーの母である。

親ほど近くはないが、無関係というほどには関係ない訳では無い。

何より死ぬと知ってしまっている、というのがきつい。

 

「あら、ダイキ。起きたの。おっぱい飲む?」

「あいー」

「お腹ぺこぺこさんなのね」

 

彼女は姫川愛梨。

誰それという人には輝くオーラとホクロのない不知火フリルといえばいいだろうか。作中ではモブ補正がかかっているが美人で朝ドラにもでている。

世代の人間ならそれなりに知っている人気な女優である。

胸は特別大きい訳では無いが小さいわけでもない。

 

ただ、赤ちゃん補正だろうか。己の体と比較しての乳房はとても大きい。

男がみんな巨乳好きになるのは巨乳が好きだからじゃなくて、母親のおっぱいが好きだから何じゃないだろうか。

 

そっと抱き寄せられると母親の体温は暖かく、刻み続ける鼓動は安心感を与えてくれる。

母乳は特に美味しいわけではないのだが、飢えを解消してくれるこの感覚が愛おしい。

 

言うならば部活で汗だくになったあとのポカリのように体に染み渡っていくのだ。

 

「ダイキはおっぱい飲めてえらいわねー」

 

そしてこのどうでもいいなんでもない動作で褒められる感覚。

世の中の疲れたおっさんがおぎゃばぶりたいという気持ちがわからないでもなくなってしまう。

 

きゃっきゃ笑っても偉いし、よちよちしても偉いし、母のことをまーと声に出しただけで素晴らしいのだ。

ルビーをおぎゃバブランドの住民にしてしまっただけはある。

母の愛とはまことにとろけるような甘い蜜だ。

 

俺は真っ当に大人になれるのだろうか。とても不安である。

 

 

共働きで、売れっ子女優であるせいか、家ではお手伝いを雇っている。

ただ、先程のように母は仕事以外の時間は俺の世話をしっかりしてくれており、人様のお家事情と比べるのはあれだが事務所ぐるみで育てたというか斎藤ミヤコに大きく依存しているアイに比べると普通の子育てをしていると言えるだろう。

関係を隠す必要がないのがやはり大きい。なにせ気軽に外へも散歩に連れて行ってくれる。

 

ところで、犬ってこわくね? やっぱり猫だな。だって急に襲ってこねえもん。

ベロンレロンすると意思で抑え込めない大波のような感情に飲まれてびえんびえんと泣いてしまうのだ。

お前まじで転生してんの?

そう聞かれたとして黙ってしまうなう。

 

とはいえ、アクアルビーを見ればわかるように、転生者INの子供は無垢な赤ん坊と比べて遥かに聞き分けが良い。

感情の奴隷なので、おしっこしても驚いても悲しんでも寒くても熱くてもお腹空いてもなくが、よしよしどうしたのご飯?と聞かれば『ソレソレー!』と反応を返してくれるのである。

 

 

 

ただ、そんな転生赤ん坊には天敵がいる。

 

それはアイ……ではなくAIである。

そう、世の中には泣き声診断機能をもった機械があるのだ。

いわゆるワンちゃんのバウリンガルみたいなものである。

犬の気持ちさえ赤裸々にしてしまう機械。

 

なんと、赤ちゃんが泣いている理由を、「お腹が空いた」「眠たい」「不快」「怒っている」「遊んでほしい」の五つに分類しその心を赤裸々に暴き立ててしまうのである。

 

その精度驚きの8割以上である

 

やばい。まじでやばい。

心暴かれちゃう。

 

「ぴえんぴえん!」

「ええっと、おむつ……? 濡れてない。お腹……ちがう。もうっ、どうして泣いて……ああ、窓開けっ放しだったわね。ごめんね、ダイキ」

 

このやり取りをすること数度。

8割を自慢する機械はその度に母からの信頼を失い、無事捨てられることとあいなった。AIだけに。

★1をいただくことになったメーカーには平謝りしたいところである。

すまない、偽の泣き声ですまない。

 

機械に頼れなくなり、一対一で続けられるコミュニケーション。

その時間は流れるごとに密であり、優しいものだった。

いずれにせよ俺にとって母といえば彼女というぐらいに心が母をうけいれていっているのがわかる。

 

まあ、それでもこの母には100点をあげられない問題もあるのだが。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。