推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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021 カミキの脳は焼かれた

 

夜泣きに乳やり、一瞬も目を離せずひたすら手のかかる赤ん坊から、ハイハイや歩きはじめてどこ行くかわからない幼児を経て、ある程度自分で物事を判断できるようになってきた子供を見て親はどう思うか。

七五三のカッコをした我が子かわいいな? 違う。

 

『もう一人くらいいてもいいかもしれない』

 

そうなった。

 

父も母も仲がすごく良く、5才の誕生日会のあとに弟か妹ほしい! と母にこっそりねだってみたのだ。

夫婦の営み……あるいは夜のプロレスごっこは一人部屋が与えられ、母と別に寝るようになってからそれなりに行われる様になったようであるので、まあ、きっと時間の問題だ。

 

アクアもルビーも血の繋がった兄弟だが、やはりあったこともない相手というか、そろそろ生まれたのかな? という感じで兄妹感はどうしても薄い。

会えない弟妹より会える弟妹だ。

 

できれば妹希望である。

めちゃくちゃかわいがる自信がある。

 

そんなキャッキャウフフな我が家であるが、一転、闇に包まれたままのやつもいる。

 

**

 

カミキヒカルはあれからも低調を続けている。

 

身が入っていない格好だけの演技をしていたのだからそれはそうだろうが、それでも段々と元のように気持ちを出すようになった……と思ったらある日、演技から一切の感情を消してしまったのだ。

 

身の入っていなかったカミキヒカルを金田一さんは心配されつづけていたが、カミキヒカルはある時突然長期の休みをもぎ取るとどこかに旅行に行ってしまったのだ。

そして旅行から戻ってから、心の全く通わない真っ白な演技をしだすのだった。

 

休みを取らせて良くなるどころか更に悪くなったのだから金田一さんも泣きたくなっただろう。

ただ渡された宮崎土産のマンゴーラングドシャをもしゃりながら俺は確信した。

 

こいつやりやがったな……。

 

どうもカミキヒカルは雨宮吾郎先生をやってしまったようである。

 

まじかー、やってしまったかー。

 

原作でもそうだが芸能事務所がこっそり手配した病院を知るすべは特別な技能を持たないカミキにはない。

いつからの付き合いかは分からないが、襲撃犯仲間のリョースケもそうだろう。

 

劇団という特殊な空間で生きているが、所詮は役者しかしてこなかった学生でしかないのだ。

であれば彼があの病院に行くことができた情報源があるということになる。

 

そして、順当に考えればそれはアイ自身ということになる。

カミキが急に休みを取り出したことからも彼が見つけたのではなく出産予定が近くなったからと連絡したアイの影響と見て問題ないはずだ。

 

おそらく妊娠仲間から『父親には出産を見る権利やら義務やらがある』とか言われるなりなんなりで連絡したに違いない。

 

だが、父親として権利があるのは出産に参加する権利であって妊婦の自分を支える義務ではないあたり結構アイもカミキの扱いが渋い。元彼だから仕方がないと言えるだろうか。

 

ただ、何にせよそんなタイミングでもなければ出産日ちょうどの襲撃にはならないだろう。出産予定日をわざと狙ったのではなく、立ち会ってもらうための連絡を受けてから急いで行動をし始めたから出産日丁度になってしまったのだ。

 

ともあれ、そんなアイの都合によりカミキヒカルは出産に立ち会うために旅立ったはずだ。

順当に行けば正体を隠しながら【担当医に接触し、バレないように出産に同席させてもらう】という話になるだろう。

 

都合よく斎藤社長は仕事が忙しい。

生まれたとなれば飛んでくるだろうが、忙しい彼は生まれる瞬間をスタンバイする余裕はない。

そして担当医の許可さえあれば【夫として立会が可能】だ。

 

だからアイは【病院名】【病室】の他にもカミキヒカルに【担当医の雨宮吾郎の名前】も伝えていると思われる。

カミキは雨宮五郎医師を知っていた。そう考えてもいいだろう。

 

ただ、そもそもなのだが、なぜカミキヒカルはアイではなく雨宮吾郎を殺したのだろうか。

休みをもらいますと挨拶をしていた旅行に出る前のカミキヒカルには”期待”の色が見えた。

きっと、彼はアイを取り戻せるかもしれない、と思っていたはずだ。

 

なぜそう思ったか。

それは別れてから没交渉だったアイから子供を生む気であることと病院と病室なんかを教えられたのだろう。

 

アイとしては自分の恋人ではなくても子供の親なのだから出産に立ち会う権利がある、と思ったのかもしれない。

 

でもアイの意思とはことなり、当然カミキヒカルは期待したに違いない。

父親としての権利の行使を許すというのだから、父親と認めてくれている。

そう思うカミキは悪くない。

 

またやり直すことができる。

ワクワクした気持ちで病院を訪ねたはずだ。

 

そこで彼は見た。

 

若く顔の良い医師がアイを献身的に支える姿を。

ーーアイにとって雨宮吾郎医師は初めての自分自身を支えてくれるパートナーであったはずだ。

 

社長も(そしておそらくカミキもそうであるし、アイのファンも)出産自体には否定的で、アイのアイドルと母親をすること自体を肯定して支えたのは世界で彼だけだ。

当然医師としてアイドルであり他に支えてくれる人がいないアイのことを彼は全力で支えたに違いない。

なにせ医師でもあるが奴隷(ファン)でもあるので。

 

そしてそんな信じ合い支える二人の姿を影から見たカミキにはどう映るか。

 

NTRクソ野郎である。

 

愛情を持って接し合う二人の二人の姿はカミキヒカルの理想のアイとの関係だったに違いない。

 

間違いなくカミキヒカルの脳を焼いた。

 

アイは自分とやり直す気があった。なのにああなっている。

一体何が彼女を変えた?

怒りの向かう先は誑かした雨宮吾郎先生に向かうに違いない。

 

あいつさえいなければ……

 

雨宮吾郎先生襲撃として、他には『担当医を殺すことで出産できなくする』という線もないわけではないが、田舎と言ってもそれなりに大きな病院である。

別に担当医がいなくても他の医師が対応するだけである。

 

一人で突っ走ってしまったのであればそう考える可能性がなくもないが、カミキヒカルは当時大学生のリョースケを誑かしている。

何も考えられないで突っ走ったバカ二人と考えるよりは計画的犯行であったと考えるべきだ。

 

例えばだが中学生が大学生のリョースケに『アイが出産できないように担当医を一緒に殺そうぜ!!』といって『おっしゃ! やろうやろう!』と言うことを聞いてくれるだろうか?

『いや、そんなの意味ないだろ、それより妊娠していることを言うぞと脅迫して堕胎させようぜ! アイドルのアイを取り戻すんだ!』となるに違いない。あるいは謝罪の要求だろうか。何にせよ、リョースケが出産を止める目的で担当医に殺意を向けることはないだろう。

 

少なくとも、カミキ視点でもリョースケ視点でもアイの担当医を殺すことは出産を止めることに繋がらない。

雨宮吾郎先生ではなくアイを狙うつもりだったのだ、という意見もあるだろう。

 

だが、リョースケは雨宮吾郎先生に『あんた。星野アイの担当医?』と担当であることを確認している。

 

アイを狙うなら担当医であるかはどうでもいい。

病室や今どこにいるかを聞くべきだ。

 

そもそも夜にこっそりと接触する必要はない。

名前を変えているからと油断して彼女は昼間であれば堂々と散歩なり運動していたからだ。

 

リョースケの目的がアイを殺すことならドームの日にやったように外で軽い運動をするアイの前に立ち、問いただしてから刺すだろう。

逆にいえば【担当医であることを確認した以上狙いは雨宮五郎】だったと言えるだろう。

 

狙いが雨宮吾郎先生であるというなら、リョースケに殺意を湧かせるのはそこまで難しくない。

 

『アイは妊娠している。それも女を誑かしては捨てる悪い医師に騙されて。今も内緒で自分の子供を産ませるため、自分が担当して取り上げようとしている。あいつは俺たちからアイを奪ったクソ野郎だ』

 

とか、雨宮吾郎こそを父親に仕立て上げればいい。

カミキヒカルはきっとアイへの思いが強いリョースケであれば己と同じように怒りは自分と同じく雨宮五郎に向かうと確信したはずだ。

 

ここにミスがあったとしたらすべてをリョースケにやらせて雨宮吾郎を始末したら何食わぬ顔で夫として雨宮吾郎の位置に成り代わるつもりだったのに、リョースケは雨宮吾郎から逃げたことと、リョースケを雨宮吾郎医師が追って来ており、自分たちを捕まえようしたことだろう。

 

彼をなんとかするためにカミキヒカル自身が崖から突き落とす羽目になってしまった。リョースケが捕まれば当然自分のことをバラすだろうし、偽名を使ってようが、金髪の中学生などアイが聞けばカミキが浮かぶのは当然だからだ。

 

一緒に死体を隠しリョースケとは共犯の仲になっただろうが、主犯はカミキヒカルになった。

アニメをもう見返せないが、雨宮吾郎はリョースケを追っているのに急に崖に突き落とされた。

 

逃げていたリョースケに回り込まれて殺されたというよりは待機していた別の仲間に突き落とされた、という方が筋が通るだろう。

少なくともリョースケは何かをする前に逃げた。殺意は殺害に至らなかった。

 

人を殺してしまったことにカミキヒカルは罪に向き合わなければ行けない羽目になった。

 

だから彼はアイに会いに行けなかった。

たから人を殺してしまった自分の変化を悟られないように隠すためには心を晒すことを恐れたカミキヒカルは感情演技を封じた。

 

カミキヒカルは雨宮吾郎先生を殺害した。

 

 

 

 

しばらくの後、カミキヒカルは劇団ララライをやめ、役者として二度と名前を聞くことがなくなった。

 

 

**

 

 

俺は、カミキヒカルがいなくなったことで安心していた。

恐ろしい殺人鬼であると知ってはいたが、これからそうするかもしれない人と、すでにそうした人とでは大きく違う。

俺が感づいていることに気づいたりしないかと恐ろしかった。

 

でも一安心だ。

 

罪に怯えるカミキヒカルの姿を見て、何も変わっていないはずなのに自分が知る未来と繋がらない確信を勝手に持っていたのだ。

 





赤き真実!

あくまでこの作品ではそうだ、というだけですが。

五郎先生襲撃での一番の不明点はタイミング。
出産予定日という出産前の最終タイミングで、それも夜であること。

病院には面会時間もあります。患者狙いの場合、医者が病院を出るような夜に来るべき場所じゃないですよね? そこからあの襲撃は誤って五郎先生を狙ったのではなく、五郎先生こそが目的である、というのがわかるわけです。

アイ狙いなら担当医なんてどうでもいいですからね。
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