世界が色づいて見えた、というのは全くを持って陳腐な表現だが本当にそう言うしかないこともある。
大輝が子役として花開いた。
元々賢く育った子だったのでそれだけでどの現場でもよく使われていたがやはり子役である。
主役とは言えず、便利に使われているところがあった。
だが、少年探偵として劇で堂々と活躍する姿を見て、俺が感激で胸がいっぱいになるのを感じた。
大輝には確かに主役が持ちうる人を惹きつける輝きが確かに宿っていた。
だが、全ては裏返った。
「判定結果……神木ヒカルは上原大輝の生物的父親と判定できる……」
だれだ、なんて考えるまでもない。
ララライの若きエースだ。
と言っても今までどうとも思っていなかった。
カミキはどこか心を開ききれていない、閉ざされた気持ちは演技らしさを少し見せていた。
エースにはなれても、長く語り継がれるスターにはなれやしない。
そうなれるのは大輝だ。
そして、大輝を育てるのに研磨石はいくらあっても足りないくらいで、大輝が技を1つ2つと盗んできてもよくやったとしか思わなかった。
でも、けど、あいつが大輝の父親……?
──じゃあ、おれは、おれは大輝のなんなんだ?
世界が真っ暗になった。
俺が俺の愛すべき子供に与えてきた技はあの俺より若くて才能のあるエースの子供に奪われた。
吐き気を感じて洗面所で嘔吐を繰り返す。
そんな馬鹿な。
でも、ああ、馬鹿じゃなきゃわかる。
大輝は愛梨に似たところはいくらでも見つけられたが、俺に似ているところなんてどれだけあるんだ。
役者を目指すその気持だけで、それだって相手があいつだと言うなら……。
大輝は俺の全てだった。
才能のない俺のかわりにどこまでも輝いてくれる大輝。
親の願うように輝いてくれたあの子は……俺の子じゃなかった……?
感じたこともないこの気持ちは紛れもなく絶望。
すべてが失われていく。
ガクガクと体が震え、血の気が引き青ざめていく。
いっそこれが夢であればいいのに。
鏡に映るのはさっきよりも10は老けた俺の姿。
ああ、夢に破れた敗残兵の姿だ。
夢1つ持たず何もなさなかった男の姿だ。
どうしてなんだよ!
俺は、俺は真っ当な人間のように、子供を愛せていたはずじゃないか。
誰にはばかることもなく、一心に思いを込めて、……それをアイツも正しく返してくれていたじゃないか!
愛するだけ愛してくれる。
そんな毎日だったじゃないか。
どうして大輝は俺の子じゃないんだよ……。
俺の子だろ、大輝は……。
おかしいだろ……神様……。
ズルズルと崩れ落ち、床に丸まるようにして、人生で初めて泣いた。
ダラダラと勝手に流れる涙だった。
「愛梨……」
泣き続けると涙が枯れ果て、胸のうちにフツフツと怒りが湧き出した。
「愛梨……裏切り者! なんで大輝の父親を俺にしなかった!!」
アイツが間違わなければ大輝は俺の子供として生まれてきたはずだった。
昨日と変わらない今日を明日も迎えたはずなのに!!
「裏切り者、裏切り者、裏切り者……!」
口に出すたびに悲しみを怒りが塗りつぶしてくれる。
激しい情は体のすべてを燃やし尽くしていく。悲しみもすべて。
──間違いは、正すしかない。
それしか今の心を騙す方法はなかった。
自分より若くて才能があって、そのくせ大輝の父でもあるだと……?