その後の一週間は忙しくて仕方がなかった。
いや、ほとんどのことはマネージャーの人がやってくれたからそうでもなかったかもしれない。
広い家でコンビニの食事を買い込み、ゴミを部屋に広げていく生き物になってしまった俺を見てマネージャーはこらあかんと生活改善のために動き出してくれたのだ。とてもいい大人である。
最初の壁は父にも母にも親しくしている親戚を聞いたことがなかったことだ。
もう少し大きければ学校に通って夏休みは田舎に行かないのと親戚について話していたかも知れないが、生活が家と職場で完結しておりそういった話は何もなかった。
両親の部屋を慌てて探して連絡をつけようとして……
親族の中で連絡がついた先はおじいちゃん……父方の祖父だった。
息子の死因は当然彼にも知らされていた。
そうでなくてもニュースになっていたのだから知れたかも知れない。また、そうした原因もどこ経由なのか伝わってしまっているらしく、
『可愛そうだとは思うが、息子が死ぬ原因となった血の繋がっていない子供を家族として引き取ることは出来ない。私は君を恨んでしまうだろうから、関係を持たないことほうがお互いのためだ』
と断られてしまった。
血が繋がっていないことはニュースになっていなかったがどこで聞いたのだろうか。もしかすると父自身かもしれない。
真面目そうで、けれど痩せこけた表情と悲しみ。その奥に静かに熱を持つ怒りを宿した目を見て何も言えなくなった。人に恨まれたのは初めてだった。
じゃあ母方はと思えばこちらはろくな相手がいない。
両親は幼少期になくなっており、親戚も今は繋がりがないらしい。
思えば正月も里帰りもなかったなと思い出す。両親のことをろくに知らなかったことを知った。
親権問題は棚上げのまま葬儀をこなす。
ドラマでは大金持ちなら金銭を目当てに知りもしない親戚がわらわらとよってくるところだが、『かわいそうに』『がんばるんだよ』といった一銭にもならない慰めはもらったが、保護者になってやろうと言い出す人はいなかった。
遺産ならともかく、子役で有名と言っても親がいなくなって芸能界なんてわからん状態で子供に稼がせることができるといえばどうだろうとなるし、そもそも子供に稼がせるという時点でまあ、あまり真っ当な大人のすることではないだろう。
両親の資産もそれなりにあるが、それでも子供を育てるとしたら2500~3000万かかると考えれば報酬として多いとは消して言えない。
子供はペットではない。安易に面倒見れると言い出さないのはむしろ真っ当な人たちだったのかも知れない。
葬儀後、一番親身に対応してくれたララライの金田一さんを頼ることにした。
結婚はしているが子供がいないらしい彼はいいぞと簡単に答えてくれた。
「いいんですか?」
「ああ。でも俺に親を期待するな。保護者はしてやる。紙にも印を押してやる。けど俺にとってお前はアイツラの子供だ。息子とは思えない」
「はい、むしろ助かります」
「はは。生意気だな」
わっしわっしと頭を撫でられた。
寄る辺のない身のせいかそれだけで泣きそうになる。
なるほど。失恋後口説きやすいと言われるのもわかるというものだ。
「ま、売れっ子役者に孤児院で過ごせっていうのもな。今更お前にそこらのガキと同じ真似は無理だろ」
家はどうするか? と自分の家に誘われたが金田一さんは優しい。一緒にいれば家族になってしまいそうだった。
今の家に住みたいといえば許可もしてくれた。母が契約してくれていたマネージャーも同じように俺についてくれることになった。
今までと同じように俺は働けるだろう。
家に帰る。
静かな家だ。
この前までとは全く違う。
音のない空間はいつもより寒々しい。
なんでこうなったんだろう……。
幸せだったつい先日までの生活が嘘みたいだ。
なんで何もしなかったんだろう……。
落ち着くにつれ頭に浮かびだす考えだ。
作中で心中をすること、自分が母の不倫による托卵……父と血の繋がっていない子供であることを知っていた。
知っていたのになぜ何もしなかったのだろうか。
一緒に仲良く笑顔でいれば血が繋がってないくらいなんでもない。
そんな風に決めつけていた。
でもその理屈は血が繋がっていないと知った上でなら築けていた関係だったのだ。
きっと。
血の繋がった子供だと思っていた上でそうじゃなかったと知れたときとは全く違う。
いいじゃん、嘘でも。嬉しかったでしょ?
そんな訳ない。嘘は嘘なのだ。
リョースケだってアイを刺したじゃないか。
そんな世界で何食わぬ顔で生きてきたのだ。
なんて馬鹿だったんだろう……俺だけがなんとかできたはずなのに。
両親の部屋を片付ける。
親戚を探すために色んなところを荒らしたせいで部屋は書類が散らかされていたりするのだ。
マネージャーさんが手伝いますよと言ってくれたが見せられないものもあるかもしれない。
いやまあ、マネージャーよりも子供に見せてはいけないもののほうが多かったが。
行為の写真とか。
お盛んですねー。乾いた笑いが響く。
そんな中、父の部屋で本の間に隠すように込まれている書類を見つけた。
「親子関係証明書?」
だれの?
「神木ヒカルは上原大輝の生物的父親と判定できる」
日付は旅行のほんの数日前だった。
「そんなの……おかしい……」
母は確かに過去カミキと関係があった。
俺がいるのだからそれは間違いない。
けど父と家庭を持ってからはそんなことなかったはずだ。
父のいない、子供しか見ていない場所でもそれにつながる独り言も、匂いも、時間もなかった。
そして、第一……神木ヒカルはララライをやめ、姿を消しているのだ。
そこで会いに来た? それでバレたとか?
だが、会ったのを目撃したとして、髪や血などの判定に必要なものを手に入れられるだろうか。
「そもそもおかしいじゃないか」
浮気を疑うのは百歩譲ってしょうがない。
けど、今の浮気の相手を5年前の浮気の相手と同一視するだろうか。なにせカミキヒカルは当時小学生である。相手だとそうそう思えないだろう。
でも、父は相手だと信じて診断を行ったことになる。
部屋には他には親子関係証明書は存在しなかった。
つまりアクアのように当たるまで打ったのではなく決め打たれた一回だった。
……。
普通はまず上原大輝と上原清十郎の親子関係否定の証明ではないだろうか。
自分の子供ではない。じゃあ誰の子供なのか。アイツなのか。こいつなのか。
調べ方ってそういうものじゃないだろうか。
つまり、カミキヒカルと上原大輝の診断は【上原大輝がカミキヒカルの子供である】と知っていて行うものだ。
事件性なしと返ってきた旅行時の両親の手荷物を漁るが、そこには上原大輝と上原清十郎の親子関係否定の証明書はなかった。
浮気を咎めるための証拠として持って行ったわけではないようだった。
であれば……この診断は【カミキヒカルによって行われた】ものであるとわかる。
上原清十郎がカミキヒカルを直接浮気相手と危ぶむには
①上原清十郎と上原大輝の親子関係否定の証明が必要(自分の子ではないという証明)
②カミキヒカルと姫川愛梨が今も関係を持っていること(原作では関係が続いているが今作ではなし)
③彼らの関係が昔からのものであること
④カミキヒカルと直接会う機会(ララライをやめてしまい激減。DNA検査のための唾液や毛髪の接種機会)
これらを果たす必要がありますが、今作の場合は①で十分パパはグロッキーです。