「ほれほれのめのめ」
「はっ、はい!」
初めての飲酒は彼にとって不思議なものだった。
今まであれほど硬かった心と身体が柔らかくほぐれていくのを感じた。
今ならきっとどんな演技だってできる。
だってこんなに体が軽い。
「どうだ酒は」
「はい、美味しいです」
「カミキは飲める方か~。良かったな。社長なんてなったら仕事で酒を浴びるほど飲まないといけないかもしれない」
「そいつまだ未成年ですけどね」
「いや~、でもみんなもこいつくらいの頃には酒のんだろ」
「缶一本くらいはこっそり飲みましたねー」
彼らの会話も世界中の全てが怖いような気持ちも今は忘れている。
カミキヒカルはポワポワと緩やかに心地よくなっていく自分に浸りながら彼らの会話に耳を傾ける。
「大輝にはあんまり酒を教えたくないなー」
「はは。でもカミキが覚えちゃいましたからね。こっそり教えちゃうかもですよ」
「おいおい。カミキも勘弁してくれよ」
「あ、ハイ!」
ぼうっと相手の顔を見る。誠十郎。大輝の法的な父親。
そこから始まるのは子供の自慢話。
あれができるようになったこれがうまくなった。
何度も何度も似たような話をしているのが一部の先輩の顔を見ればわかる。
彼は大輝を愛してるんだ。
本当の父親じゃないくせに。
姫川大輝はカミキヒカルの血を引いていた。
母親によったのかあるいはカミキの父に似たのか真っ黒な髪。
容姿も今は可愛らしいところも見えるが、いずれ男らしくなるだろう。自分とは違って。
あまり見た目は似ていない。
でも芸の癖だけは似ていた。
初めての彼の演技に何故か似たところを見つけて嘘の瞳を伝授してみたりした。
いろんな芸について教えたけれど。
(あれが父親なら僕は違うな……)
誕生日のケーキを欲張って食べたせいでほっぺたにもクリームが付いていたと幸せそうに語る彼を見て思う。
自分は興味からほしいかも聞かずに与えただけだ。
ララライで会わないときは彼がどうしているか興味すら持たなかった。
「今日の現場は結構動きも多いみたいなんだよな。怪我してねえかなー。子供ってほら、頭が体の割に大きいだろ? だからかよく転んでさあ」
自分は父と同じような父親にしかなれないのだろうな。
清十郎が大輝じゃなくて自分の親だったら真っ当になれただろうか。
アイに本当の愛を教えてあげられて一緒にいられただろうか。
最初に感じたのは羨ましいだ。
「あ、でも清十郎さん、今は結構ブイブイやってるけど、大輝くんが生まれる前は結構くすぶってたんだぜー」
「え、そうなんですか?」
劇に関してはうまく行かないということが今までなかった。
大輝もまたそうだろう。
でも彼は違うらしい。
血が繋がってないとそうなんだろうか。
カミキヒカルが教えた相手はアイと大輝だけだったから、教えてもうまくいかないという感覚がまだよくわからない。金田一さんがいくら指導してもうまくならない役者がいて不思議に思ったものだ。
(言われた通り、望まれたとおりに嘘をつけばいいだけなのに……)
って。
でも、ある意味今の自分はそんなうまく行かない状態だ。
ここから解放されたい。
自分と似ている大輝に愛を教えられる、幸せにできる父親に期待を向けていた。
新しい芸を身につけるつもりで彼を”視る”
「女は芸の肥やしって感じでしたよねー」
「女を食うのがやっぱ秘訣なんですか?」
「口が悪いな、おい! いやまあ、昔はそう思ってたよ。”価値ある女を喰らうと自分の価値が上がる”ってな」
「それで姫川愛梨喰っちゃうんだからなー。いい女は奪うもの! 奪っただけ価値が上がる!」
「いやまあ、でも今はあいつ一人だけだよ。最高の妻と最高の息子に出会えたからな」
「ヒュー! さすがですね~。だってよ、カミキ! お前もいい恋愛しろよ!」
「カミキくらいの歳なら恋はすればするだけいいかもな」
それから好きに笑いだし話し出す彼ら。
がははと笑う声が不快だった。眼の前にいる男が不愉快だった。
光り輝くダイアモンドを目の前で砕かれてガラスだったと証明されたような、美味しそうな家庭料理に雑巾の搾り汁を落とされたような。
反転する感覚。
奪った。
価値ある女。
自分の価値が上がる。
妙に頭に残った。
コイツも、同じなんだ。
あの医者と同じ。
僕に与えてくれる人じゃなかった。奪う人だった。
その女は僕を抱いた女じゃないか。僕を捨てていった女じゃないか。
その子供は僕の子供じゃないか。僕の子供にならなかった子じゃないか。
お前の最高はどちらも僕のものだったものじゃないか。
彼は成功して人生を輝かせていた。
僕を導いてくれる親じゃなかった。女を幸せを価値を奪う敵だった。
偽りだらけなはずなのに、彼は愛の答えを知っているような気がした。
僕じゃなくて彼だったらアイは別れを告げたりしないんじゃないだろうか。
僕から奪ったものをもって人生を輝かせている上原清十郎。
そうか。お前が奪ったから。
僕の幸せは、僕の愛は、今この手にないのか。
たくさんの女から価値を奪ったと笑う上原清十郎。
汚らしくて醜悪なモノに変わってしまった。
「真実を教えてやるよ」
お前を支える最高が全部最低になるくらいの衝撃的な真実を。
「ん? いまなにか言ったか?」
「いいえ! なにも!」
酔っ払う彼を迎えに来た上原愛梨は僕に気づきもせずに彼を心配しながら送っていった。もう僕は彼女にとって炉端の石になってしまったのだろう。今の僕には価値がない。
僕が家族を愛している。
上原清十郎は僕のものを自分のものだって言い張って幸せづらして生きている。
僕から奪って幸せに生きている。僕はこんなにすべてを失って苦しいのに。
じゃあ、そろそろ返してもらわないと。
人は簡単に死んでしまうと雨宮吾郎でカミキヒカルは知っている。
人は簡単に狂ってしまうと自分でカミキヒカルは知っている。
お前はどっちになるかな。
ジェンガのようなものが。支える大切な支柱を引き抜けば簡単に人は崩れる。
人を
カミキ、おぼえた