「ねえねえ社長! 私アイドルになれますかっ!」
ずびずび鼻汁まで流してギャンなきしたところから、眼の前のヤクザがB小町の事務所の社長だと知るやおぉと驚くとハンカチで涙を拭ってニコリと笑顔を浮かべてこれである。
「うーん、かわいいっちゃかわいいし、愛嬌も感じるが、トップアイドル向きじゃないかもなあ」
「がーん!」
「地方向けっつーか、会えるアイドル、みたいな距離近めのアイドルならいいかもな。まあ、そもそもB小町は今メンバー募集してねえ」
「ガーン!」
目をまんまると見開いている今はあまりかわいくない。
再び泣きそうになるが、そこに現れる一人の女声。
「本当にアイドルになりたかったらいろんな事務所を調べてみるといいわ。彼の見る目は確かだと思うけど、未来のあなたがどうかは流石にわからないもの」
斎藤社長の妻の斎藤ミヤコさんである。
元港区女子で整形レベルアップ系女子で、アイの生んだアクアとルビーの世話を一身に行っており、当初は育児ノイローゼに秘密を売ってやるなんてこともあったがその後は献身的に世話を行い、アイ死亡後は二人を本当の子どもとして養育。
あの美貌を芸能界で消費せずに希望に合わせて高校生までまっすぐ育てており、作中一番聖母力が高いというか最もまともな母親である。
「直接会うのは初めてですよね。はじめまして。姫川大輝です。こっちは最上メグ」
「メグです」
「斎藤ミヤコです」
お互いペコリと挨拶をし合う。
しかしそこで彼女からの強い視線を感じた。
伺うように彼女を見ると笑顔を浮かべて
「大きくなったら一緒に仕事をしましょうね!」
「え、あ、はい」
いまお宅のアイドルと仕事してるんだが……と思ったが、そう言えば彼女は若いイケメンと仕事したい系女子でもあった。
母親になってからの彼女からはそんな雰囲気がなくなっていたので忘れていた。
小学生以下の幼児レベルの場合将来期待にカテゴリされるらしい。
11歳に手を出してしまう母と比べるととても健全である。
とは言え、斎藤社長とはなんだかんだで夢を共有する強い絆があるので、うまく行ってアイが死の運命をまぬがれれば大きくなっても関わることはなさそうである。
いや、待てよ?
アイは新居に引っ越すことになった。
だが、それはいつだ? ドームほんのすぐ前だ。
それはだれの手で行われた? ドーム準備で日々忙しいアイの手によるものか? できれば時間をアクアやルビーに向けたいと思っている彼女が?
そもそも、アイの希望や都合によって新居への引っ越しが決まったのであれば引っ越したのは手の空くドーム後だったはずだ。
アクアルビーの赤ちゃんヲタ芸にて真の笑顔を得たアイは人気がぐんぐん上がり、アクアと一緒に出演した映画を元にガツンと個人の仕事を始めるようになり、人気は上がりに上がっていった。
つまり、前の低賃金で住んでいたような家ではセキュリティ上よろしくない、という判断を事務所が、というか斎藤社長がして、ドーム開催のできるアイドルとなれば記者の目を引くようになるから彼らに目をつけられるドーム後ではなくその前に移ろう、という流れになったに違いない。
であれば家や家具など中身の用意をしたのは誰だろうか。
忙しいアイ? それとも社長か? 女性の色々があることも考えればミヤコさんだろう。
実際家のセンスも良い気がする。
アイは物欲が低めというか、高いアイスに文句を言われるシーンがあるがそれ以外は特にそういうこともなければ、服装だっては高級感はない。
それに比べて家の質が良さそうなのは揃えている人が違うから、というのはありそうだ。
というか、赤ちゃん用の商品をアイドルが買い漁ればそれだけでスクープになり得ることを考えれば赤ん坊が生まれたときからずっと家具や家の色々を用意したのはミヤコさんに違いない。
他の人間はそれを知らないが、俺はそれを知っている。
ドームの1~2週間前からミヤコさんがどこの家で何をしているかを調査すれば……そしてそれが斎藤さんとミヤコさんの自宅以外であれば、アイの新居を突き止めることができるということだ。
アイドルのアイを調べるのは難しいが、事務所の社長の奥さんであってもあくまで奥さんであり、一般人である。
そしてなにより港区女子であったという過去を知っている。
当時のトラブルの結果会いたいと願っている。
そんな理由をつければいくらでもうまくやることができるんじゃないだろうか。
アイドルの住所を特定したくてしょうがない系男子。