ルビーも人の気配に気がついたのかパッと泣き止むと視線をこちらに向けたので俺は口を――
「ここはプロの現場なんだけど!遊びに来てるなら帰りなさい!」
出遅れてしまった。
控室のドアを開けたまま彼らを見ているうちにかなちゃんのボルテージは上がりきってしまったらしい。
かなちゃんは特別であると言われるうちに、プロフェッショナルとしての責務まで身に着けてしまったらしい。
この辺の甘やかされるだけじゃないあたりがカナちゃんである。
役者ならば全力で努力し最高のシーンを演じるべきであるという気持ちが宿っていた。
自然とこうなのだからカナちゃんは確かに役者の天才であると言えよう。
「えと……」
「私は有馬かな、今日の共演者よ」
「俺は姫川大輝。彼女の付き添い。よろしくね」
怒鳴られたことに不満ですとほっぺを膨らませて不満を全身で示していたルビーだったが、こちらに気がつくと右手を口にそわせて驚く。
「わっ! お兄ちゃん姫川大輝くんだよ! 今一番来てる子役の! ほらほら、名探偵の! うわー、こんなに小さいのにあんなに動けるなんて信じらんない!」
「あー、朝ドラの姫川愛梨の……。俺は星野アクアで、こっちはルビー。双子です」
「よろしくね! 大輝くん!」
パンダ見ちゃった! とばかりのギュンと素早い動きでルビーは立ち上がり、俺の周りをくるくる変わりながらワーワー言っている。
俺のファンと言うよりは有名人にあってテンションが上った子供という感じか。まあ彼らの中身が中身である。
ちょい年上の子役なんてただの子供だ。
ホントのファンになんてなるまい。
しかしここで問題は俺の衝撃に誰かさんが置いてかれたことである。
「オイ!」
「あ、……あ~、この子あれじゃない? えっとなんだっけ……。重曹を舐める天才子役…?」
すごい覚え違いである。
正直この年齢で重曹が出てくるだけでもすごい気がするが。
「10秒で泣ける天才子役よっ!! ドラマでの泣きっぷりが凄いって、皆言ってるの! 凄いんだから!」
「うんうん、カナちゃんはちゃんとすごいよ」
なんとかなだめようとするが、さらなるルビーの追撃が刺さる。
コイツ……兄の共演者に対する態度じゃないな……。
芸能人には何言ってもいいと思っているタイプかも知れない。
有名になってくるとこういう距離感がわかっていないやつがいるんだ。
いきなり肩組んできて役名で呼んできて友だち登録ねだってきたりとか。
まあ、病床の子で有り余る不満をアンチとのレスバに費やす人間だからな……。
「私、この子あんま好きじゃないのよねー…なんか作り物っぽくて生理的に無理」
「たまに子役に対して異様にキビシー奴っているよな、お前みたいな」
フォローになっていないぞアクア。
しかし、かなちゃんもかなりの跳ね返り力を持つ女児である。
かなちゃんの中でルビーはうるさいやつから敵に変わっている。
「知ってるわよ、あなたコネの子達でしょ! 本読みの段階じゃ、貴方達もアイドルの子の出番も無かったのに……監督のごり押しってママも言ってた! そういうのいけない事なんだから!」
そう言って、怒ったように台本を突き出してくるかなちゃん。
業界的にはむしろ監督のお気に入りということを意味するので仲良くしたほうがいいかもしれないが。
まあ、嫌った相手とはぶつかるか、一日明かして怒りを忘れて貰う必要がある。
園児以下の年齢に怒りを継続しろというのは困難だからだ。
「一緒にあんたんところのアイとか言うアイドルも一緒に出るんでしょ? こないだ監督が撮ったドラマ見たけど、全然出番なかったじゃん。どうせカットしなきゃいけないほど、へったくそな演技してたんでしょ。媚び売るのだけは上手みたいだけど! アイドルが役者畑に来るもんじゃないわよ! みんな真剣なんだから!」
出演を確認できない二人ではなく、一緒にコネで出たアイの方を窓口に指してくるあたり流石である。
アイドルに限らず他業種からの出向組は平均レベルがその業界の人間に比べれば落ちることが多いし、実際現場でも緊張なりなんなりで棒になったりすることも多い。
更にかまされる当て逃げ作戦。
言いっぱなしでふんと鼻で笑うとスタッフさ~ん、かなのカバン持って!と別に重くもないのに立場の演出をしに行った。
残された双子は憤慨するばかりである。さもありなん。
彼らにとっては万人が臓器を捧げるべき偶像をバカにされたのだから。
このままでは宗教戦争勃発である。
「やれやれ。同年代の友達もライバルもいないから調子乗っちゃってるんだよね。とはいえ、演技が上手ければ態度を改めるだろうから斎藤社長さんの子供なら期待しておこうかな。わざわざ君のために子役部門なんて作ったんだろ?」
「え? あ、うん。社長と知り合いなんだ?」
「うん。仕事でね。B小町とも何回か一緒に仕事してるよ」
「え、マっ……アイとも!?」
「まあ、アイは人の名前覚えるの苦手そうだったから覚えられてるかわからないけど、他のみんなは覚えてくれてると思う」
「おお、アイのこともわかってるんだ……さすが名探偵……」
「それは役柄だけどね。そんなわけで、ふたりともよろしく」
なるべく印象を良くしたかったがうまく行っただろうか。
カナちゃんといっしょに初対面をするのはまずかったか。
とはいえ、子役部門まで作った割にアクアの仕事はこれ一本。
次は原作だと高校生の今日あまになってしまう。
しかし、あれだな。
アクアめっちゃかわいいな。
幼児の完璧キラキラ金髪に輝くサファイアの瞳。
片目ではあるが人を引き付ける目をしており、抱きしめて高い高いしたくなった。
逆にルビーはなんというか上から目線の遠慮のない悪いオタって感じでなんか……不思議と可愛くないな……。
中身がさりなちゃんと知っているからまだあれだが。
俺が大人だったら距離感の近い甘えてくるルビーのほうが可愛くうつったりするんだろうか。
一緒の現場や母に頼まれたときに一緒に現場に行ってくれる大輝がなぜか今日の現場だけ自分から一緒に行きたがったのでなにかおかしいなと思ったカナちゃん