推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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042 リョースケ

 

 推しの子の悲劇を生み出す実行役であるリョースケ。

 彼はなぜ犯行を犯したのだろうか。

 正しくはなぜドーム前に犯行を犯したのだろうか。

 ここにこそ彼の動機が込められている。

 

 貝原亮介。

 

 後にわかった彼の本名である。

 彼は一人のアイドルオタだった。

 

 彼はアイに堕ちて好きになったファンだった。

 彼はいつの間にか世界の中心にアイを据えた。アイを信じる信者だった。

 雨宮吾郎医師がファンに奴隷と言葉を当てていたように彼らはアイを信じる奴隷であり、アイという女神を信奉する信者なのだ。

 

 そんな彼の世界は今日も明日もアイを中心に回って……行けるはずだったが、ある少年に【アイに男がいる】ことをそそのかされてしまう。

 それが産婦人科医でアイは彼に騙されるままに子供を産もうとしている。

 

 考える。子供を生んだアイはどうするだろうか。

 

 アイの【アイドル】も【母親】も両方こなす。

 私はわがままなアイドルだから。

 

 そんな言葉を応援したのは吾郎医師だけだった。

 当然リョースケには【母親(男の恋人)】など応援できるはずがない。

 アイを騙した雨宮吾郎さえいなくなればアイは真実の愛を捧げるファンに振り返ってくれる。

【男の恋人】ではなく【アイドル】を選んでくれる。

 

 リョースケは吾郎医師を襲撃し……最終的に突き落としたのはカミキだったが、殺しに成功した。

 結果、アイは【アイドル】をやめなかった。

 ちゃんと復帰した。自分の愛は届いた。

 

 リョースケが問題にしたのは子供がいることじゃない。

 

 ファンの愛と男性への愛は同質である。

 

 アイドルとは擬似的なファンの恋人だからだ。

 子供への愛はファンの愛を阻害しないが男への愛はぶつかり合う。

 

 アイがアイドルを続けたことでリョースケにとって襲撃は成功になった。

 子供は生まれたはずだ? 

 いいや、子供が生まれようが死んでようが彼にはどうでもよかった。

 

 アイを騙した男はいなくなり、アイは【男の恋人】ではなく【アイドル】を選んだ。

 

 

 それでいいじゃないか。それでいいのだ。

 

 

 だがアイは再びリョースケを裏切る。

 

 なにせ【ドームを最後に双子のために一人の母親に戻る】というのだ。

 

 信憑性は高い。

 なにせ一緒にアイを止めた同士と【同じグループのメンバーが言うのだから】間違いない。

 

 ああ、なぜだ、アイ。

 

 人間には返報性の原理が働く。

 相手から何かを受け取ったときに「こちらも同じようにお返しをしないと申し訳ない」という気持ちになる心理効果のことだ。

 

 アイのためにアイがアイドルを続けられるように人すら殺したのにまたやめようとしている。

 そんなに【あの男の残した双子】が大切なのか。

 

 だからリョースケは問いかけた。

 

 

「双子の子供は元気?」

 

 

 アイは身構えた。ファンを受け入れなかった。

 アイは子供を……【男の子ども達の母親】を選んだ。

 そう判断した。

 

 明らかに裏切りだった。

 男への愛とアイドルは両立できない。

 アイはアイドルに戻らない。

 

「私にとって嘘は愛。私なりのやり方で愛を伝えてたつもりだよ」

「いつかそれが本当になると願って、愛の歌を歌ってたよ」

「今だって君の事、愛したいって思ってる」

 

「嘘吐け……、俺の事、覚えても居ないだろ……」

 

「リョースケ君だよね。よく握手会に来てくれた」

 

 ここでようやくアイは両立させていたのだと気づいた。

 

 ちゃんと自分も愛してくれていた。

【子供か】【アイドルか】じゃなかった。

 愛を歌いたいというアイは辞めるつもりでもなかった。

 

 であれば自分は裏切り者の女ではなく愛おしい女神を刺してしまったということだった。

 

 大罪だった。

 

 一分一秒これ以上生きていてはいけないくらいに。

 

 愛されていたと、愛そうとしていたと知ってしまったからこそ何よりも罪深かった。

 

 

 だからこそ……アイが死ななかったのなら、もうリョースケには何も言うことはなかった。

 

 己がアイドルに交際を迫るようなクズと世間に罵られようとアイがアイドルを続けてくれると言うなら。

 男ができたからと愛を裏切るのではないなら。

 それで良かった。

 リョースケはアイの双子について嘘をついた。

 

 

 **

 

 

 貝原亮介は刑務所では模範囚として過ごした。

 刑期が終わったあともコンサートや握手会など会いに行くことはなかったが応援はし続けた。

 

 B小町が引退して、本格的に女優として活躍する姿も応援した。

 アイは俺達を愛している。

 

 その事実だけで人生を幸せに生きることができた。

 前科者への風当たりは強かったが秘密を共有している事実は何者にも勝った。

 

 彼は一筋だったのでルビーがアイの娘だと気づいていたがそれでもアイが一生の推しだった。

 でも、ルビーのコンサートにはアイもお客として参加するのを知ってこっそり参加しては遠目でアイを眺めたりもした。

 そうしているうちにいつの間にかルビーもアイほどではないが推していた。

 

 





人生楽しんでるやんけ……!

でもまあ、アイを恨んでるままだと秘密がバラされちゃうし、死ななかったからこそアイの知らないところで改心して立派なファンに戻りました。戻りました?
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