俺は遠くから一つの命の炎が消えていくところを見ていた。
深くフードを被った男に一突き、二突きと突き刺され、カミキヒカルはその度に生命を大きく吹き出していく。
これは死んだな。素人が見ても助かる余地はなかった。
これでいい。
己がやったことは殺人教唆。
法律に照らせば実行犯以上に罪の重い立場である。
だが、カミキヒカルがやったことの真似でもあった。
「お前さえいなければ! お前さえいなければあの人はまだ俺に笑いかけてくれてたんだよおおおおお!! 死ねっ。シネっ!」
殺意のこもった最後の一突きがあいつを貫いた。
ついに立ってもいられなかったあいつはずるりと体の芯を失ったかのように地面にこぼれ落ちる。
「はっ、はは、はっ! いい気味だ! 天罰だ!! みんなが望んだことなんだ! 俺は! 悪く! ない!!」
そうして一見ストーカーにしか見えない不気味な笑いを浮かべた男は涙を流しながら笑顔でステージから去っていく。
あいつの命もあとはほんの僅かだろう。
さて、顔を出すか、出さないか。
理屈で考えれば出すべきではないが、この世に産んでくれた感謝はある。
冥土の土産に満たしてやってもいいだろう。
最後に一つ頭の中で気をつけるべきことを考える。
「よお。死にそうか?」
「君は……そうか。僕の……」
「わかるもんなんだな。まあ、最後の最後に自己紹介が不要のようで嬉しいぜ」
「ふ、復讐かな? ……ああ、君もいい。とても才能に満ち溢れている。僕の、子供らしい……」
眼の前で死のうとしているカミキヒカルがこちらを見ている。
眩しい光に目を細めるようにして。
「別に親の復讐じゃない。才能ある女に手を出し続ける上原清十郎も11歳のガキに手を出す姫川愛梨も復讐される理由はあった」
「てっきり……両親の復讐、かと……おもってた」
「でもアンタは星野アイに……生まれてきた俺の異母兄妹に手を出そうとしただろ? なら殺すしかないな」
「いっしょにくらしてもいない きょうだいの……ために……? それは それは……」
一分一秒と残りの命の抜けていくカミキヒカル。
血は地面を広がっていく。
懸念は一つ、こいつが生まれ変わる可能性だ。
原作でアイは死んで記憶を持って生まれはしないと疫病神の確約をもらっている。
だが、こいつはどうだろうか。
復讐の復讐に走らないだろうか。
こいつを満足させてしまう必要があった。
「きみも……ゆがんでるね……」
血を踏んであとを残してしまわないよう一歩二歩と下がる。
まあ、現場に子どもの足跡があろうとカミキヒカルを刺した犯人にされることはないだろうが。
「ララライの金田一さんは俺を見るとアンタを思い出すそうだ。普通の暮らしだったらアンタに懐いたかもな。じゃあな、クソオヤジ」
「ああ、さよなら、おやこうこうのだいき……」
命を狙われるということ自体がこいつにとって喜びで、それが己の認める価値ある相手からであればより高まる。
難儀な性癖だというしかない。
……心の奥底では人を殺したことに苦しみ続けていたカミキヒカル。
親にも恋人にも愛されなかったカミキヒカル。
よりを戻す気はないと言われて殺すことにしたカミキヒカル。
でも、
今すぐ彼を罵倒して顔を歪めさせてやりたかった。
ぎゅっと我慢する。それで満たされるならそうやって逝くがいい。
「きみは……おんなでしっぱいしちゃ……おやからの……」
ぼんやりと焦点が合わなくなったカミキヒカルを置いてその場を去った。
ぼそぼそと小さく溢れる最後の言葉は風に紛れて最後まで聞き取ることができなかった。
ようやく復讐は終わった。
一話に戻る。