「カナちゃん、誕生日おめでとう」
「……んっ……」
シクシクと静かに泣き続けるカナちゃんの前にココアと誕生日プレゼントをどんっである。
こうなった背景は説明が難しいが……。
俺が中学二年生、かなちゃんは小学五年生になっていた。
赤ん坊の頃から一緒だった彼女がいつの間にかこんなに大きくなって、と父性が湧き出てしまう。
今日は彼女の誕生日。
いつ来てくれても構わないのよとカナちゃんママには言われていたし、ちょいちょい家に遊びに行っていた。
ただ、誕生日は家族で過ごしてほしい。
だから、毎年プレゼントは送っていたが当日お邪魔したことはなかった。
それに最近はお互いに忙しくロケ先や出先で遊ぶことが多く、家に遊びに行くことは思い起こせばだいぶ昔だったかもしれない。
ただ、今年ねだられたプレゼントは色々あって入手が直前になってしまい、ちょっと遅くなったが当日のうちにあげたいと直接お家に伺ったのだ。
したらこれである。
あれれ?
誕生日のはずなのに部屋はリビング以外明かりが消えていて寒々しく、リビングも料理でいっぱい、なんてことはまったくなくちょこんと椅子に座るカナちゃんだけで何もなかった。
カナちゃんにママはと聞けば出かけているとのことである。
誕生日パーティーはと聞けば机を指さされ『これで好きなものを食べてください』と1000円札が置いてあった。
夕食がこうなのは最近割といつもらしい。
……カナちゃんママが誕生日すら認識していないほど放置していることがわかった。
よく見れば家自体どうにも汚い。
アマゾンの段ボールがいくつも積まれているし、入れっぱなしになっているゴミの袋がいたるところに鎮座している。
空気も淀んでおり、生ゴミっぽい匂いもする。
どうにも居心地が悪い。
「最近仕事減ってきたの」
「あ、ああ~……」
子役は一般的には、幼児期〜小学校を卒業する12歳前後までだ。
大手だと3〜8歳前後が主力だったりする。
その頃から明確な自我があり、子供から大人になり始める時期であり、簡単に言えば子供らしい可愛さが失われていく時期である。
子どもとペットはいつだって人気を取れるコンテンツであるが、その子供には年齢制限がある。
11歳になったカナちゃんはいわば『五年生ってのはなァ……ババァなンだよ』てなものである。
つまりはそろそろ将来を見据えて次のステップに進む時期なのであるが、カナちゃんママは別に業界人ではなく、言うなれば習い事レベルの気持ちで子役やらせたら大ヒットしたというエンジョイ勢である。
売れて嬉しいわ―というスタンスで事務所で任せっきりなのはわかっていた。おそらくカナちゃんの将来まで設計していない。
おかげさまで事務所から仕事をもらえなくなってきた=カナちゃんを落ち目と判断してしまったのだろう。
考えても見てほしい。
おもちゃ売り場で買って買ってと床に寝そべってねだる小学校1年の女の子。
おもちゃ売り場で買って買ってと床に寝そべってねだる高校1年の女の子。
前者は可愛らしく映ったとしても後者にはみっともない・恥知らずなど強いマイナスの印象を受けるだろう。
子供じゃない人間が子供をやるのはだいぶみっともなく、それを見た人間はやらされていると判断するだろう。
そんな仕事をしなきゃいけない人間を”落ち目”と判断するのは容易い。
……カナちゃんの実力なら問題なく次のステップに進めるはずだが、このまま子役にしがみつけば出れば出るほど評価を下げる可能性がある。
原作の”元”天才子役というやつである。
カナちゃんママはカナちゃんが認められる=自分の承認欲求が満たされる世界ではなく、自分自身を認めてくれる世界(お金があれば)へ行っているようである。
部屋中に転がっている衣服の趣味がけばいし、ホストのものらしき名刺がいくつも放られている。
あちゃー。である。
急ぎピザやケーキを宅配させながらカナちゃんを慰め、窓を開け、部屋を片付ける。
少しだけ笑顔になるカナちゃん。
でも食事が終わるとまた塞ぎ込んでしまった。
「私どうすればいいのかな……? どうすればよかったのかな……」
「うーん」
お腹が満たされ少し気分が上向いたのか、ソファーに座る俺の上に座ったカナちゃんは誕生日プレゼントのブランド限定のバッグを弄りながら聞いてくる。
原作ではカナちゃんはここから不遇の時代を迎える。
その中で今までわがままだった、周りを顧みない自分に反省するのだ。
自分が輝けばよかった時代から他人を輝かせる時代へと変化する。
その努力は無駄ではない。アイドルとしていかさ……ん?
──そもそも、カナちゃんはアイドルになれるんだろうか。
原作ではイチゴプロにアイドル部門がなくなったことでルビーのデビューを渋っていたが、アイ生存の今、部門はいまでもある。
B小町ほどヒットしているグループはないようだが、中小のアイドルグループを手掛けているようである。
となれば原作の高校で再会、今日あまでカナの実力確認、妹のためのアイドルと言う流れはなくなる……?
あれ、カナちゃんはどうなるんだ……?
「アイドル……」
「え?」
「いやなんでもない」
カナちゃんはルビーいわくこってりしたオタクに好かれるロリである。
ロリであるのだが、実際のところ小学生以下に見える本当の幼女体型ではない。
ここまでちゃんと成長しており、おそらく中学生くらいで成長が止まるのだろう。
原作では確か身長150cmで中学生相当である。まあ、中学生でも低い方だが。
つまりは、子役を続けられない子供ということだ。
なのに、過去の名声を追い求めて(あるいは追い求めることを求められて)執着した結果落ちこぼれる。
カナちゃんの演技力には力がある。
だから適切なプランさえあればそう落ちこぼれることもなかったはずだ。
そもそも、カナちゃんはアイドルにならないといけないのだろうか。
確かにB小町になってファンはついた。
カナちゃんはセンターを務めるし、PVを撮るプロやアイドルグッズ屋の店長にも認められる。
辞めるときにはがっかりした女の子達やオタクたち、グッズ屋の店長がいた。
ただ、カナちゃんの気持ちは結局『役者がやりたい』だ。
ファンには惜しまれていたが、本人は惜しんでもいなかった。
あくまでアクアを推しにしたかっただけだ。
落ち目の元天才子役カナから人気アイドルカナにロンダリングする以上の意味はなかった。
むしろアイドルはカナちゃんの役者としての将来にだいぶ足踏みをさせていた。
正直目立った仕事はブレイドだけで、ライバルのあかねは賞を総なめし、不知火フリルを追いすがっていたがカナちゃんを役者として一般が評価する演出はなかった。
卒業後も役者として頑張るらしいが元天才子役が元人気アイドルに変わった程度ではないだろうか。
それも才能を開花させたルビーに押されて旧B小町と同じくバックダンサーになりがちの人気を取られてやめた元アイドルである。
「アクアに譲る意味はないか」
アクアがカナちゃんを一心に愛しているならともかく、都合よく妹を手助けさせての釣ったはいいが餌やりは思い出したらだ。
その上、妹ヒロインまでいるのだからカナちゃんに勝ち目はないだろう。
なんだか腹が立ってきたな。
カナちゃんを愛さない弟に譲る必要はない。
アイドルなんて寄り道をする必要もない。
「カナちゃん、カナちゃんは役者やっていきたい?」
「う、うん。やっぱり演じるって好きだから……」
「じゃ、
大人の問題に介入するしかない。
俺はカナちゃんの未来を変えることを決断した。