「大輝っ!! 角度を考えろ! 観てる人間全員に通る声を出せ! カナっ!! てめえはいま主役じゃねえだろうが! 客の目を寄せるな! 散漫になる! 魅せるべきとき、魅せる相手を間違うな!」
劇団ララライで訓練を始めたがこれがまた大変である。劇場で見ているすべての人間に同じように聞こえる声を届ける、というのがまず困難でそのうえ、どの角度から見ても物語が正しく進むように魅せるのも難しい。
アイならPV感覚だね楽勝と言うだろうか?
ドラマもCMも映画もカメラがあった。
カメラに向かって最高の角度と演技を見せればよかった。
声はマイクが拾ってくれた。
もちろん程度はある。だが、体の動きと合わせて声を出そうとするとやはり崩れやすい。
さらに言えば劇は止まらず動き続けるというのも難しい。
ミスを消せないのだ。
だから自分のミスだけではなく、他人のミスも飲み込んでアドリブとして演じる必要がある。
ミスは演出に昇華されるのだ。
小さい頃からやっていたからある程度のコツは掴んでいるが、劇が初めてのカナは指摘されっぱなしである。
「ぐっううううっ! 何あのおじさん不親切! いじめじゃないの!」
「金田一さんは一番わかってる人だよ。カナちゃんもわかってるでしょ?」
「……まあ、あの人の指摘が一番正確だと思うけど」
ぷりぷりしながらも指摘のすべてがカナちゃんの中に吸い込まれていくようだ。
新しく天才役者と呼ばれるのもそう遠くなさそうだ。
「でも大声出すのって大変なんだけど」
「筋トレは必須だね」
響く声は体を使う。
カナちゃんは繊細でシリアスな演出が多い傾向があるので、静かで響く演出が多めである。
子役として活発なものもあったが“10秒で泣ける天才子役”を活用するといえば家族問題に関係するドラマが多い。
小声で、しかし訴えかける言葉を出すところから大声でけれど感情の乗った声に切り替わるのだから最初はパワーがいるだろう。
「いやあ、大輝くんがカナさんを連れてくるとは思わなかったな」
「のりおさん」
七三分けに眼鏡をかけたサラリーマン風の男性、みたのりおさんから声をかけられる。
一見地味で無個性に見える彼はだからこそ役柄の色に完全に染まる。
同じ人が演じているはずなのに全くの別人になりきれてしまう。ララライの忍者である。
なりきれるだけではない。
劇団ララライでも名脇役といえば彼で他とは完全にレベルが違う。
彼がいる劇といない劇では回し方のスムーズさが一段変わるのだ。
とはいえ、彼自身脇役で終わる気がないらしくアレヤコレヤと努力を行っている。
……妙に地味なところがあるので主役級にはなかなか手が届かないらしいが。
「でも彼女いいよね。負けん気強いしさ。動きがなんていうか目を惹かれるよね~。天才子役っていわれるだけあるよ」
「天才役者って言われるようになれそうですか?」
「君みたいに? どうかな? これから次第じゃない? 自分をちゃんと変えられるか。自分の才能をうまく使えなきゃ大人のプロにはなれない。子供なら周りが才能に合わせてくれただろうけどね」
「……ま、カナなら大丈夫ですよ」
「彼がそう言ってくれるならそうかもね」
「んぐっ」
「有馬カナと姫川大輝は兄妹みたいに仲良しって噂では聞いてたけど噂以上だよね。まじで」
その話にワイワイガヤガヤと何にも人が集まってくる。
子供の頃から知られている先輩役者達に『大輝は最近女遊び覚えちゃったもんな―』とか言われると恥ずかしい。
正月の親戚集まりに参加するとこんな感じなのだろうか。
みんなの弟みたいなところもあるので、からかわれるときは本当に数が多い。
「でもこうやって見るとカナちゃんもかわいいよな」
「え~、子供すぎるだろ」
「いや、その中にある艶っぽさがさあ……」
「ロリコンかよ」
自分が好き勝手言われる分にはいいが、カナちゃんが言われるのはどうも腹が立ってしまうようだ。
特に男性の役者達がカナちゃんに目を向け上から下へと全身を見つめているのが気になる。
ほとんどは役者として筋肉や体つきを見ているようだが。
我慢できず確かに主張する強い声が出た。
「カナは俺のですよ」
おやという顔でびっくりする先輩たちときゃー♡と声を上げる女の先輩たち。
「大輝も男になったねー」
「最近背もぎゅっと伸びたよね」
「学校でもモテるでしょ」
「まだ手ーだすんじゃねーぞ」
周りの声は数倍になっていた。
その声は練習中のカナにも聞こえていたみたいで赤くなって体が固まったのかミスをしては怒られていた。
こちらをキッと睨みつけてくるがそれもまた可愛いと思ってしまうのだからカナちゃんはずるいな。
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