推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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057 あんたの推しの子になってやる

 

 有馬かな()は選ばれた人間だ。

 

 別に比喩ではない。

 赤ちゃんの頃から子役をやってきた。

 10秒で泣ける演技のできる子役。

 

 私はあらゆるシーンで選ばれて(・・・・)きた。

 

 私達子役は大人たちにとっていくつもある選択肢であり、たくさんあるその選択肢の中から私は選ばせてきた。

 

 努力は怠らなかった。

 同じ年の子どもたちが親を恋しくて泣いたりしても演技の勉強をしてきた。

 

 ……でも、悪いことっていつも続くのよね。

 正確には私の子役としての賞味期限が切れたからみんな私を選ばなくなっただけだけど。

 

 まず事務所が私を子役として選ばなくなった。

 次に母親がそんな子役として選ばれない私を選ばなくなった。

 パパは私より仕事を選び続けていた。

 学校の連中もいつも仕事で休んでいた私が学校にいるようになった(テレビに出なくなった)私を選ばなくなった(馬鹿にするようになった)

 

 みんなみんな私を選ばなくなった。

 捨てたんじゃない。見なくなっただけだ。

 選択肢にすら上がらなくなったのだ。

 

 スポットライトの当たらなくなった役者はゴミだ。

 遊ばれなくなった飽きたおもちゃと同じだ。

 私は今まで何人も見てきた選ばれなくなった人間になったんだ。

 

 でも。

 

 私には一人だけずっと私を選び続けている人がいる。

 姫川大輝(おにいちゃん)

 私が赤ちゃんのときに出会った……つまり親と同じく人生でずっと隣にいてくれた人だ。

 

 普通ならなんで他人がこんなに良くしてくれるのかと思うかもしれないけど、生まれたときから一緒にいた彼を私は勝手に家族の枠に置いていたし、実質私のお兄ちゃんだった。

 

 どんなにわがままを言ってもかわいいなって言って笑ってくれる。

 周りのみんながちょっと嫌そうに愛想笑いすることでも受け入れてくれる。

 どれだけ甘えたって変わらずいてくれる。

 

 彼は家族だった。

 

 家族はどんな事があっても一緒にいてくれる人たちのこと。

 家族はどんな事があっても私を見てくれる人たちのこと。

 家族は……

 

 でも、血のつながった家族たちは脆かった。

 そんな家族なんて演技でいくらでもやってきたくせに、自分の家族の絆は超合金でできていて永遠に不滅だと信じていた。

 そんな事あるはずないのに。

 

 最初に崩れたのはママ。

 私のことを誇りに思ってくれていた人。

 

 でも、年齢が上がるにつれ右肩上がりでは人気が上がらなくなってきてからママはいつもイライラするようになった。

 一度私に強く怒鳴った事があった。

 ハッとしたママはそれから苛立つと外に飲みに行くようになった。

 

 スッキリしているみたいだけど、苛立たなくなったわけじゃないみたい。

 そうなればあとは苛立ちが溜まる頻度が上がって、いつの間にか一緒にいる時間が減っていった。

 ママと一緒にお出かけしたのはどのくらい振りだろうか。

 

 仕事の送り迎えをするシーンしかもう思い出せない。

 今となってはそれさえも遠い。

 

 私が子役として仕事がなくなるだろう未来が確定したことでママは家庭を諦めた。

 パパは状況が変わっても家を見なかった。

 子役としてうまくやらせているママをパパは褒めていたけど、そういえばパパに直接褒められたことはあっただろうか。

 

 一人っきりになった家では静かで寂しくて。

 全てに見捨てられて一人だけになってしまったことを感じさせて。

 

 家族にも事務所にも見捨てられた私は最後の砦である大輝の家に行ったの。

 彼はあのあと私に会いに来てくれなくなったから、彼も私を捨てたんじゃないよねとすがるようなつもりで。

 

 その時までは正直兄としか思ってなかった。

 年の差もあったし、変な話家族のつもりだったから。

 

 でも、向こうはそういう意味で私を家族()として見てくれてたんだわ。

 責任取るって言って私は抱かれた。

 

 痛かったし気持ちよかったし、頭はめちゃくちゃ揺さぶられた。

 でもすきすきあいしてるってたくさんの言葉とキスが彼の気持ちを伝えてくれた。

 全部がかけがえのないものだって思った。信じよう。そう思った。

 

 

 ──物語ならここでハッピーエンドだったんだけど。

 

 

 あふれるほど愛を注ぐ行為のあと、彼はアフターピルを差し出したのである。

 

 小学生も高学年だ。

 

 保健で性行為についてもそれなりに知識もあるし、性行為の先にあるものがなにかわからないなんてカマトトぶる気はない。

 芸能界で生きてきたのだから耳年増にだってなる。

 中にはアピールに体を使ってる子役もいたし、そういう女がベラベラと周りに話している声が聞こえてきたこともある。

 

『この間の監督生で出してきて最悪!』

『コンドームはエチケットですって?』

『穴空いてたりするけどね! 孕ませられるかもってだけでアイツら興奮すんのよ。ウチラ孕ませてどうすんの? 責任トンの? って感じ』

『やっぱピル?』

『絶対じゃないけど、ま。お守り代わりにもってるわ』

 

 少し上くらいの共演者たちはそれ以降もエグい話をいくつもしていたし、学校でも大学生の彼氏持ちの女の子が似たようなことを言っていた。

 

 そんな彼女たちを別世界だと思ってたがそうでもなかったわけである。

 動きに迷いのない中学生のはずなのになれた手つき。

 

 お陰で初めてなのに良かったがそれはそれ。

 準備の良さと合わせればどう考えてもである。

 

「絶対4人以上いるわよね……」

 

 問い詰めたが本人曰く四人と付き合っているとのことだった。

 ……正直いえば少女漫画みたいな恋に憧れのあった私としてはいつの間にか彼女を複数作っていた事実にはもやりとするところがある。

 

 雌犬共が群がりやがって……と怒りが沸き、沸いたあとそっちに腹が立つのか―と自分の感情の向き先にショックを受けたりと忙しく過ごした。

 

 

 あれから何度か大くんの家に泊まったり、家に泊まりに来てもらったりしている。

 

 それでわかったのは彼の性欲が半端ないということだ。

 抜かずに三発とか普通なのだ。

 

 そういうものなのかしら。

 

 それも連日でも衰えを感じさせない。

 それどころか私相手は加減をしているように感じる。

 

 つまりその分愛人に発散しているということ。

 

「でも毎日は無理だわ……」

 

 連日相手にしていたら体が持たない。腰が破壊される。

 役者としてこの年齢の割に鍛えてるはずの自分でもそう思うのだ。

 2日連続だって翌日が休みだからできたことだ。

 

「愛人は認めざるを得ないわね……」

 

 ぎりりと指を噛む。私以外に触れさせたくない。嫌だが毎日相手はできない。

 

 むぐぐ。

 

「要は一番。一番になり続ければいいのよ」

 

 劇団ララライでの激しい訓練は再びカナの役者熱を燃やしていた。

 子役という努力ではどうしようもない年齢の壁が取っ払われた。

 実力主義の世界は私に水があっていた。

 

 誰もが役に本気だった。

 私の演技に全力で応えてくれる人たちがいくらでもいた。

 

 皆の全力の演技に応える楽しさも知った。

 自分の価値が見えなくなる中やっていたわがまま(確かめ行為)も必要なくなった。

 

 なにより、子役ができなくてもカナが好きだと言ってくれた。

 

 もし大輝がカナだけを愛していればカナは愛されることに満足してしまっただろう。

 私を見てくれる人がいたと。

 

 だが、自分だけではないと知った。

 一番であっても唯一ではないと。

 

 大輝は事務所も家族も見限った自分を唯一見捨てなかった相手だった。

 愛されている確信を得た。胸には愛おしい気持ちが湧いた。

 

 でも自分には黙って付き合っている相手がいた事へ裏切られたような気持ちも渦巻いていた。

 そしてそれを切ることができないこともわかってしまった。

 

 無理やり飲み込み続けなければいけない甘みと苦みがカナを大人への一歩を歩ませた。

 ──母親がホストに逃げた気持ちが少しわかった気がする。

 お金があればこれを味わえるならまあ、ハマりもするだろうな。

 

 猥談をするような親しい相手(友達)がいない私は劇団の先輩女子に相談してみた。

 

「かなちゃんが大輝なしじゃだめになっちゃうみたいに大輝のやつをかなちゃんなしじゃ駄目になるようにすればいいのよ!」

「メロメロにするしかないわね!」

「メロメロって。ま、今風に言うなら推しかしら。推しになっちゃえば骨抜きになって言いなりよ、言いなり」

 

 自分に言いなりになる大輝を思い描く。

 ……いつもと同じだ。

 でも、その瞳が映すのは私だけになるのだ。

 

 ──いい。

 

 結婚して彼の子供をお腹に宿す自分を思い浮かべる。

 隣に歩くのは優しいほほえみを浮かべる大くん。

 

 子供は男女でほしいな。

 ママには世話を見きれないと断られたけど大きな犬も飼いたい。

 

 ──推し。いいじゃない。

 

 右手を銃の形にしてこちらを見ずに稽古に励んでる大くんに向ける。

 あんたの心、撃ち抜いてやる。

 

「私、大くんの推しの子になるわ!」

 

「それでこそかなちゃん!」

「応援してるぞ―!」

 

 

 有馬かなの愛されたい、自分を見てほしいという飢えは対象を見つけたことでより早くかなの巨星の才能を磨き出した。

 かなの瞳は嘘の瞳ではなく、太陽のような愛する人の視界を輝きで埋め尽くさんとする光を宿し始めたのだ。

 





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